承りましたクソ=ギリアム様。……不敬?神命なので悪しからず♪
断罪です。クソ◯ィリアム様で思いつきましたが。不敬なのでチャッピーに聞いてギリアム様にしました。万一ファーストネームがギリアム様の人がいたらゴメンなさい。
「いいえクソ=ギリアム様。破棄は受け入れられません。婚約解消と言う事で了承致します。」
私がそう告げるとザワついていた周囲が静まり返る。そしてクソギリアム様は額に青筋を立てダンと足を踏み鳴らした。
「今……なんと言った?」
「ですから婚約破棄は……。」
「違う!その前だ。お前は私の事を……なんと……呼んだ?」
私は一礼して返答した。
「はい。クソギリアム様とお呼び致しました。クソギリアム様。」
(……おぉ、なんと言う事。)
(……では聞き間違いではない?)
「な〜んたる。……なん!……たる!事!だ。」
再びザワ付き始めた会場を他所にコメカミを抑えて洗い息をしていたクソギリアム様。
やおら私を指さして声を上げた。
「聞いたな皆の者!このユーフェミアは事もあろうに次期神聖ゼルファイア国王である私ギリアム=ラーラ=キノス=ゼルファイアを“クソ”呼ばわりしおった!」
満場の視線を集めた私にクソギリアム様は更に言葉を継ぐ。
「王族に対する明白な不敬である!万死に値する!……申開きはあるか!!」
この機会を待っていた私は一礼して口を開いた。
「はい。王国法神命第7条に基づき、王国に在籍する者は貴方様のファーストネームに“クソ”を付けて呼ばねばなりません。」
「なんだと!? 」
((((……ザザザワ、ザワワ。))))
それを聞いた貴顕達の間に押し殺し切れぬザワめきが広がる。
「王国法……神命の部?」
しかし勉強が死ぬほど嫌いなクソギリアム様はよく分かっておられないようだ。なので私が補足する。
「はい。我が神聖ゼルファイア王国は女神ゼルフィア様の加護の元建国されました。王都や各領地の首都主城を包む結界が存在しますので、これはお伽話では有りません。」
「バカにするな!結界によりモンスター達から護られているのだ。そんな事我が国では赤子でも知っておるぞ。」
……まぁその通りなんですけど。
女神様の力が実在する事を言っておかないと、次に続く神命の意味が理解出来ないでしょうから。敢えて言ったのです。
私はやや興奮の収まったクソギリアム様に向かって続ける。
「女神ゼルフィア様は王国民を非常に愛しておられ、建国後に幾つかの神託を下しました。それが王国法に繰り入れられ神命となっています。」
「……だからと言ってなぜそれが不敬に繋がる?」
(……7条と言うとアレか。)
(……あぁ。まさか王族がやってしまうとは。)
察しの良い貴顕達は気付き出した。しかし勉強嫌いのクソギリアム様はまだ分かっていない。
「神命は王命の上をいくものです。ですから私は貴方様をクソギリアム様と呼ばねばならないのです。いえ、以後は王陛下以下全ゼルファイア国人が。」
「…………んはぁ!? 」
”全く分からない“と言った顔でクソギリアム様は立ち尽くされました。
「逆らえば恐ろしい天罰が降るのです。その者だけではありません。周囲の者も不幸に巻き込まれる。……そう書かれております。」
「いや……だからなぜ?この私がそんな目に遭わねばならんのだ!」
……こんだけ言っても分かりません?
私が次になんと言おうか困惑していたところ。
「では私から説明させて頂きますクソギリアム様。」
「またクソ呼ばわり!?……い、いやお前はプロトコス!」
穏やかな笑顔で進み出てきたのは法務長官のプロトコス様でした。
「な、なるほど!歩く王国法辞典と呼ばれるお前ならば。」
「ハハハそのようなものではございませんが。」
そう言って一礼したプロトコス様は少し声を上げて周囲にも聴こえるように話し始めた。
ーーーーー
ーーー
ー
「先のクソギリアム様による婚約破棄宣言が王国法神命の部第7条“断罪と目される一方的な婚約破棄を行なった者”に相当します。」
「……そ、それは。」
「……えぇ〜ん?」
……そう。
物語の始まり前。
私はクソギリアム様とその横に並ぶピンク頭。チンジュウ(珍獣)パープリア嬢とに婚約破棄を言い渡されたのです。
もちろん“チンジュウ”も神命によるものですね。
「当然、神命に相当するか否かの判断には幾つかのハードルが有ります。……そうでなければ誰も婚約破棄を出来なくなってしまいますからな。」
プロトコス様の良く響く声が穏やかに聞こえる。
「先ず、”公衆の面前で婚約破棄が宣言された“です。これには具体的な人数が示されており、それは“親族を除く100名以上の前”とされています。」
ここは王城にして王立学園の卒業パーティー会場。
他国からの客人も含め、公衆は100人どころか1,000人は超えています。
「次に“予告や了解無く”です。破棄を告げられる者が予めそれを知っていた、また公衆の面前告知に対してそれを認めていたか?です。明らかにユーフェミア王太子妃殿下はそれを知らなかった。」
プロトコス様がこちらに目を向けるのに、私は少し腰を曲げて同意を態度で示しました。
「王太子妃殿下と呼ばせて頂いたのには次の項目が関連します。今回は“婚約破棄に際し各家の話し合いと契約解除が行われていない場合”にも相当します。」
ここで一旦プロトコス様は言葉を切って皮肉な目をクソギリアム様にチラッと向けます。
「次代の王妃様の婚約破棄。そのような大事を法務長官たる私が知らない?いえ、そんな事がある筈も無い。つまり契約上ユーフェミア様は未なお王太子妃殿下の地位に在ります。」
「……ぐ!……むぅ。」
これを聞いてクソギリアム様は口惜しげに私を睨みました。
「そしてこれが重い。“断罪=婚約破棄宣告に際し証明出来ない罪で相手を悪と決め付ける”法的証拠無く、相手に反証の機会を与えず一方的に責め立てる事。間違いなく今回はこれに相当するでしょう。」
そうなんです。
噂は聞いていたが会った事も無かったチンジュウパープリア嬢。これの文房具を壊したとか靴に画鋲を入れたとか階段から突き落としたとか。私は全く記憶に無い事をやったとされ断罪されました。
「……わ、私?」
そこでプロトコス様はチンジュウの方へ目を向けました。
「あのですな。万一これらが事実としても、王太子妃殿下がやったのなら罪に問われませんぞ?」
……やってませんよ。
「……へ?」
チンジュウは驚いたパグ犬みたいな顔付きになりました。確かに可愛くて犬好きの私は心に触れるものがあります。
「チンジュウパープリア令嬢でしたな?」
「はぁ!?私はそんな名前じゃ……!」
「クソギリアム様同様あなたには“チンジュウ”を付けて呼ぶのが神命7条です。」
「………ぐぅ。」
チンジュウの目に理解を認めたプロトコス様は続けました。
「身分が違い過ぎます。剣で斬りかかられたとかならともかく、その程度なら罪に問われません。王太子妃=王族ですぞ?もし嫌がらせをされたら、赦しを乞うのが普通なんです!」
「あギャン!知らなかった〜。」
……そ、そう言う考え方もありましたのね!
目からウロコですわ。
(……まー、そうだわな。)
(……そう言えば俺ふざけて殿下に殴られた事あるわ。)
(……罪にはなんねーわな。それが王国ってもんだ。)
「という事で今回クソギリアム様の告発は無効になります。これを罪とするのは王権の否定になりますので王国法務長官としてそう裁決致します。」
なんとも言えない顔で聞いていたクソギリアム様にプロトコス様は更に幾つかの条項について説明を続けました。
(これも重いですぞ。“まだ成立していないにも拘らず別の異性を伴って婚約破棄を宣告した者。“次の婚約なりお付き合いなりは最初の婚約関係が終了した後にしろ、と言う事ですな。)
(……それは!)
そんな感じで後築つかの条項が読み示され、クソギリアム様とチンジュウパープリア嬢はその度に顔色を悪くしていきました。
「待て待て待てぇ〜い!」
「その通りですお待ちなさい!」
……そこへ別け入って来られたのは。
(……陛下。)
(……王妃様。)
声の主に向かって人々が胸に手を当て、まるで将棋倒しのように、お二人が進めば人々が次々に跪きます。
クソギリアム様に激甘な王陛下夫妻です。
断罪劇を聞きつけて慌てて控室からいらっしゃったらしい。いつもはクールな周囲の近習達が疲れた表情を浮かべていますね。
「む?……楽にして良し。」
周囲を立たせると王陛下は座をなすように私達と向かい合われました。
ーーーーー
ーーー
ー
「これはどう言う事だ?プロトコス!例え法律にあろうとも我々は王族ぞ?王族とは法を作り法の外側に立つ者だ。」
「そうです!」
……あ、まずいですわ。
「へ、陛下!その辺で。それ以上申されると……。」
プロトコス様は顔色を変えて王陛下に口を閉じるように進言します。しかし当然王陛下は言葉を止める事はありません。
私はさりげなく一歩退がり、見ればプロトコス様もジリジリと退がっておられます。
「うるさい!私の可愛いギリアムに対して…………ウッ!?」
突如王陛下は雷に撃たれたようにビクッと言葉を止める。腹を押さえて顔色を悪くなさいました。
「い、如何なさったのナイジェル!? 」
その様子に王妃は思わず王陛下の名を呼ばれます。そうして取り縋ろうとされるのを陛下は片手を挙げて押し留められました。
「だ、大事無い。グムゥ……ただ……。」
「……ただなに?」
もちろん只事ではありません。
今や脂汗を浮かべた陛下。息を大きくし何かを堪えるように目を閉じて歯を食い縛っておられます。
「……アブラソコ……ムゥ!」
……んですが。
「……アンギャあaAaaaaxwh!?エブッ、ブ、んがァアアアアアアアアアアアアアアアア!? 」
……ンブリブリブリブリ!ミチミチブシャア〜!
王陛下は派手な音と共に立ったまま排便なさった。
周囲に異様な悪臭が拡がります。
陛下のズボンの隙間から美しい赤絨毯に。何か茶色いものがボタボタ落ち流れています。
「……ヒィッ!? 」
「……ち、父上!? 」
王妃は舞うように一回転しつつ退がられ、クソギリアム様は鼻を押さえて目を丸く見開かれました。
(……に、臭いなど嗅げば。)
(……不敬よね?だから……。)
(……退がるのだ。)
貴顕達は不敬を口にしながら一斉に10歩以上退がりました。ザザザザッ!と磯辺のフナ虫みたいな素速さです。
私もプロトコス様もその音に紛れもう数歩後退りました。
(……あぁアアアアアアアアアアア!?止まらん!嫌だぁアアアアアアアアアアア!?)
王陛下は悲痛な面持ちで叫び声を上げられる。動けば撒き散らしてしまうのはお分かりのようで、パニックも手伝ってなす術が無いようであらせられました。
「なにをしているのです近習!早く陛下をお救いなさい!」
いち早く立ち直った王妃様がフリーズしていた近習達に声をかけます。
「ギリアム!」
続いてなんと、王妃様はクソギリアム様に“クソ”無しで呼びかけてしまわれました。
………あ!?
その言葉を聞いた私とプロトコス様とは、どちらともなくアイコンタクトを交わしました。
「……こう言う時王太子の貴方が動かなくて…………ウッ!? 」
王妃様は矢に撃たれたようにビクッと言葉を止める。次に腹を押さえて目線を前方上に向けられます。
きっと空の彼方でも見えているのでございましょう。
「どうされましたか母上!?」
「……ヒッ、ヒッ、ッフ〜〜。……ヒッ、ヒッ、ッフ〜〜。」
もはやクソギリアム様の言葉がお耳に入らないご様子の王妃様。化粧で顔色こそ変わられないものの額に脂汗を浮かべておられるのが分かります。
「あ、アブラ…ソコム!」
……そして一瞬呼吸をピタッと止め目を見開かれると。
「……イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!? 」
……ンミチミチブリブリブリブリ!ミチミチブシャア〜!
王妃様も立ち尽くしつつ派手に排便奉りました。
「……アァア〜。アァアアッアッア〜♪アッ、アアアアア♪アア、アッアッアア〜ァアアアアアアアアアアア〜♪」
「母上〜〜〜!!!」
さすが元オペラ歌手の王妃様。
悲鳴を歌に変えて凄い声量で歌い出されました。
……す、凄い。6オクターブ以上!?
どことなく映画なんとかエレメンツのディーバみたいで、軽く人間の可聴域を超えている感じです。
……そして。
「ねぇギリアム様ぁ♪なんだか変な臭いするぅ〜…………!?」
「大丈夫だよパープリア。こんなの近習達がすぐ…………!? 」
クソギリアム様とチンジュウパープリア嬢はガシッと互いを抱き締めました。
「ぴギィ♪?は、放して……ギリ……ウグググ……。」
「ウグぅ!? な、なんだこの……ウグゥ……き、君こそォオ、おッ……。」
愛の彫像のように固く抱き合った2人。しかしそれぞれ固く歯を食い縛り脂汗を流し、憎み合っているような表情です。
そうして暫くその場でダンスを踊るが如く……相撲?……組み合っておられましたが。
「……ァア、アブラ……。」
「……ソコム……。」
一瞬息を止めた2人は大きく目を開けて見つめ合い。
……そして時は賑~やかに~。
「……オホッ♪ホォオオオオオオオオオオオオオオオオオ〜!? 」
「……だ,誰か止めェエエエエエエエエエエッウェエエエ〜!? 」
音声描写は差し控えますが、堪え性の無いお二人の排泄音ハーモニーは凄まじいものでした。
「汚ぇ花火……失礼、王太子妃殿下。」
「まぁ、王弟殿下。私は既に王太子妃ではありませんですわ。」
誰かがお呼びしたのでしょう。
気付けば、こう言った行事には顔を出さない大公爵様が私の横におられました。
王陛下とは大分歳の離れた王弟殿下は私の5つ上の23歳。まだ美王子と言った素敵な殿方であらせられます。
「衛兵!神罰を食らったこやつらを運び出せ!こんなのに王族をやらせておくのは国の恥になる!」
「「「「はい!直ちに!」」」」
王弟殿下の号令で、王陛下夫妻とクソギリアム様カップルは。赤絨毯ごとどこかへ運び出されていきました。
(……な、なにおす、うぬぅ!?また……!)
(……アーラッハ、ハッハッハ〜♪ヤッハハ……ウッ!?)
(……怖いギリアム様ぁ♪……!?オホォオオオオオオオオオオ!)
(……しっかりしろパープリア!私が!? ……ンゴォオオオオオオオオオオオ!?)
彼らが去った後王弟殿下は私の方に向き直られます。
「こうなっては新たな王として私が立つしか無い状況だ。各国使節にも兄上達の失態は見られてしまったからな。」
「それは良いお考えです!殿下ならきっと素晴らしい治世を実現される事でしょう。」
……神罰食らった方が王ですと他国に攻め入る口実を与えてしまうでしょうから。
私がニッコリ笑えば王弟殿下……いえ新王陛下はやや緊張した面もちになられました。
……珍しいですわね。このお方が緊張されるなんて。
「王妃不在だと王として格好が付かない。なんだが、ここに王妃教育を終えた素敵な独身女性がいるじゃないか。それで……?」
私は新王陛下に皆まで言わせぬよう一本指を口元に当てます。
「そこから先は外のバラ園でお聞かせ下さい。」
私が空気を払う仕草をすれば、新王陛下はハッとされます。
「ハハハ!そうだな。プロポーズをするにはここは空気が悪過ぎる。……お手をユーフェミア様。」
新王陛下に手を引かれた私。
晴れやかな気分で清々しい外の空気とバラの香りを楽しみました。
卒業記念パーティーも場をバラ園に移し、人々は新たな王朝の予感を瑞々しいバラの花々に感じたそうです。
ーーーーー
神聖ゼルファイア王国の迅速な王交代劇は後にこう呼ばれた。
……『茶の日曜事件』と。
なぜ「茶」なのか?
(……茶と言えばティーか?)
(……いや色がヒントだろう。)
(……お前んとこの領主様も喋らない?)
庶民達は様々に論じたが。各国の王侯貴族達は彼らの沽券に関わるとして真実を封じた。ただ“元王陛下夫妻に神罰が降った。”とだけ広く明かされた。
ゼルファイア王国に暮らす人々は旧王夫妻をも許さぬ神罰を恐れ、以後廃嫡された王太子を“クソ=ギリアム”と呼びその相手を“チンジュウ=パープリア”と称したという。




