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4話「メノウ様」

供珀くはくさんは箸置きから取り出した半円の櫛で髪を梳かして、ツインテールを結び直す。

私はただ、その様子をじっと見ていた。

やっと両の尻尾が整えられて、彼女はこちらを見据えた。


「え......どれがですか?」


「どれとは?」


「いや、その、どれが?」


「わたしと生贄以外」


眉間にシワを寄せ、首を傾げて頭上にはてなを浮かべる。

どれが?ただそれだけが最大の疑問だった。

しかし供珀さんもそれは一緒だったようで、首を傾げた。

話が噛み合っていないのか、それとも私の理解が追いつかないのか、その答えはすぐに分かった。


「メノウ様」


「はい?」


「メノウ様。追いかけてた神様」


あ、あれが神様だったんだ。

確かに腕捧げてたし。一番人っぽい形だったし。他のお化けよりもそれっぽい気がする。

そう変に納得してしまった。


「いや、そんなわけないでしょ!?」


「は?なんで」


私はたまった鬱憤を晴らすように声を上げた。


「神様ってこう...!もっと、なんかあるじゃん!?神聖さ!?わっかんないけどさ!ヒラヒラした白い服着てそうじゃん!?」


「白い服着てたろ」


「んんん洋風!ワンピース着ないでしょ神様」


「場合によるわ」


「じゃあ!じゃあ神様ってほら、笑顔で!」


「わらってた」


「それになんか植物とか持ってそうじゃん!?」


「乾びた植物みたいになった腕を持って行った」


「全部合ってる!でも私の想像とは全部違う!なにこれ!?」


息切れする私とは正反対に、供珀くはくさんは表情も変えない。傾げた首は角度を増していた。


「百歩譲って白ワンピースは神様だとして!他のは何なの!?花束にデカい目は!あれはお化けでしょ!?」


「神様」


供珀さんは、まるで天気でも答えるように言った。


「あれも!?」


「ん。全部」


全くそれっぽくない全部が神様。

私の認識的には神様はもっと神様らしい、それにふさわしい見た目だった。

本当に本当に変なところに迷い込んでしまったらしい。

いや、そもそも...。


「...そもそも、どうして神様が現実にいるですかね......」


供珀さん何も言わなかった。

代わりに、よくある電気ポットから急須にお湯を注いだ。

何度か軽く急須を揺らして丸みを帯びた湯呑みへとお茶を淹れる。

それを持って隅にあった踏み台をのぼった。

台所と居間の境の天井近く、そこには綺麗にされた神棚があった。


前日に置いたものか、湯呑みを交換する。

古い湯呑みには何も入っていないようで軽そうだった。

そして手を合わせる。


数十秒だったかもしれない、それでもとても長く感じる時間。

信心深くも、決まりをなぞるようにも見えた。


彼女は湯呑みを流しに置いて私を見た、いや後方を見つめた。

つられて振り返る。掃き出し窓の向こう側、そこには白いワンピースが見えた。


「ひっ...」


私は供珀さんに身を寄せる。

彼女は私を落ち着かせるためというよりは、ただ事務的に告げた。


「入ってくるまではない。ここは別の神様の場所だから」


「ほんとに?大丈夫ですか?」


「ああ」


彼女がそう言うと同時に、白ワンピースのお化け、いや神様は律儀にも掃き出し窓をカラカラと開けて足を踏み入れた。


「入ってきてる!入ってきてるけど!?」


「あら」


冷静沈着で何事にも驚くことのなかった彼女が、素っ頓狂な声を上げた。

でも、そんな人らしさに浸る余裕なんて今はない。


想定外の行動にも供珀さんは慌てる様子はなく、ゆっくりとその神様?に近づきながら私に教えるように語る。


「生贄。神様はそこにいるから神様というわけじゃない」


散乱した物を避けるわけでもなく、ただ真っ直ぐに進む。


「信仰があるから存在する」


白ワンピースの目の前に立って、振り向くことはない。


「ただそれだけが必要。わたしも生贄もそのために存在する。よく見ておけ」


そうして彼女は静かに手を合わせた。


「メノウ様。先ほどの供物ではまだ足りませんか。畏れ多くも一言。ここは、」


不意に、供珀さんを細かな葉っぱの塊が貫いた。


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