死にたがりの彼女
せっかく調べた致死量を飲み込めないのは、甘えでしょうか。
私は、怖がっているのでしょうか。
まだ、生きていたいと思っている証拠でしょうか。
返す言葉が見つからないまま、穂高誠一は彼女の手をとり、あやすように軽やかに振った。
それは側から見ると、手遊び歌のはじまりの合図のようだ。
せめてもう少し感情を見せてくれたら、と思う。
声を荒げたり、涙を流したり。
そうしたら、迷わずに抱き締められるのに。
怖いことは何もないと、声を掛けてあげられる気がするのに。
処置室のドアが開き、当直の精神科の医師が入ってくる。
所属と名前を述べ、虚な目をした彼女に聞く。
「どうして、薬をたくさん飲もうと思った?」
目を合わせないまま彼女が答える。
「何も考えたくなかったんです」
この話は終わりとばかりに目を閉じた彼女からは、明らかな拒絶が感じられた。
お願いだから放っておいて。
「今日はこのまま帰っていただいて大丈夫です。通院しているクリニックに紹介状を書きます」という言葉を残して医師が出て行く。
下げていた頭を上げ彼女の方に向き直ると、自分の腕に爪を立てているのが目に入った。
そっと手を引き剥がし、両手で包み込む。
彼女はこうして、静かに絶望する。
差し伸べられた手を掴まずに拒絶し、そのくせ独りで苦しむ。
いくらでも味方でいるのに。
頼ってくれればいいのに。
苦しみながら助けを拒む彼女が、誠一にはわからない。




