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妖魔討伐ゲーム時代のストーリー;第二王子は、王宮魔術師でした

 この話を、どこに挟むか迷ったのですが、一話と二話の間に入れようと思います。


三羽みつば四羽よつばが、シルスに捕まった!?」


 ユトンは、知らせを受けて愕然とした。


 これは、乙女ゲーム《胸キュン大恋愛》が妖魔討伐ゲームだった頃、第二王子ユトンが、まだ王宮魔術師であり討伐隊を指揮していた時分の話である。


 「やけに帰りが遅い。日は、とうに暮れた。こんな事は初めてだ。あいつらは、全員、魔術が使える。手こずるわけがない。しかし……」


 ユトンは、胸騒ぎが止まらず、中に隊服を着込むと、黒いマントを羽織って外へ出た。


「フルーヴ王国に出没する妖魔など、たかが知れている。なのに、おかしい……」


 王宮から出て門前で待っていた所へ、部下が一人、足がもつれるようにして駆けついたのだ。


 「おまえは、サガードだな?一体、何があった!?なぜ、こんなにも遅かった!?」


 目の前でこうべを垂れる部下を穴のあくほど見つめて、ユトンは、食い付くように問いただした。

 

「三羽と四羽が、シルスに捕まりました」


三羽みつば四羽よつばが、シルスに捕まった!?」


 若い魔術師は、泣きはらした目で、切り傷だらけの顔を上げ、悲しそうにユトンを見つめると、蚊の鳴くような声で答えた。


「並の妖魔ではありませんでした。妖術師シルスは、もとは魔女の頭です。シルスによって魔法をかけられた妖魔は、我々では太刀打ちできないレベルでした」


 ユトンが闇に目を凝らせば、紺色の隊服には、どす黒い多量の血が飛び散って、上下あちこち切れていた。


 「あいつらは、俺の部下である前に、浮雲九十九番地に英才の名を馳せる双子だ。いくら妖魔が強いといっても、なぜ捕まるヘマをした!?」


 嗚咽を呑み込む為に、サガードは、奥歯をギリっと噛みしめた。


「大嵐を起こせる南の魔女レントが加わり、何十人もの魔術師が、上空へ吹き飛ばされました。おそらく、二度と戻っては来られません。三羽と四羽は、我々を庇って、シルスに連れて行かれました。三羽と四羽が、シルスに従わなければ、全滅していました」


「……生き残ったのは何人だ」


 ユトンが唇を噛みしめて問うと、サガードは、先ほどより小さな声で答えた。


「十五人です。もとは、五十でした……」


 「そうか、生き残った者は、ゆっくり休め」


 刀を握り締めたユトンを見て、サガードが、慌てて両腕を伸ばした。


「どこに行かれるおつもりですか!?」


 ユトンのルビーアイは、怒りで血走っていた。


「どうか、お待ちください!今、お一人で行かれても歯が立ちません!」


 ユトンが振り切ろうとした時、凛とした声音が闇に響いた。


「部下の言う通りだわ。今のあなたでは、犬死によ」


「リーシャ!」


「リーシャさま!」


 ユトンの幼馴染は、今やルイーベ王国の、魔王の妻だ。  

 その顔立ちは、のちの乙女ゲーム《胸キュン大恋愛》のヒロイン、ルイネと瓜二つだった。

 もともとは、リーシャが、ルイネのモデルなのだ。

 光沢のあるドレスは、エメラルドの瞳と同じ色で、青い髪は銀色がかり波うっていた。


 「リベール殿下にも劣るあなたが、単独で乗り込んだところで、勝てる相手ではないのよ。それくらい分かるでしょ?それともなに、三羽と四羽を助け出せれば、それで良しと思ってる?双子を逃して、自分は残るというの?ふざけないでよ、あなたが死んで喜ぶと思う?」


 リーシャは赤い唇を歪めて、整った眉を吊り上げた。  

 

「絶対に行かせないわ。好機を待つの。あの三羽と四羽が、そう簡単に死ぬわけないもの。そうでしょ?私、十羽とわ九羽くわに頭を下げてみる。たぶん、無理だと思うけど。でも、リベール殿下と同等の力を持つ者は、あの最強兄弟の他にいないもの」


 「……あの兄弟は、絶対に動かない。情がないだけでなく、三羽と四羽を嫌っている。頼むだけ無駄だ」


 ユトンが、力なく呟いた時、バタバタという足音と共に、生き残った全員が駆けて来た。

 そのうちの一人が、息せき切って口を開いた。


「報告致します!追跡ウサギが戻って来ました!」


 ユトンは、飛ぶように駆け寄って、部下の両肩を握り締めるように掴んだ。


 「それで!?二人は、どうなった!?」


  返された言葉は、絶望をもたらした。


 「三羽と四羽は、妖魔にされました」


 絶句したユトンの後ろで、リーシャも言葉を呑み込んだ。


「シルスの手下にされました。それから、シルスが、この妖魔討伐ゲームのシナリオを、乙女ゲームに変えようとしているという情報も入手しました」

 

  伝え終わった魔術師の後ろでは、他の魔術師たちも項垂れて、なかには涙をこぼす者たちもいた。


「分かった、報告ご苦労。皆、もう休め」


 ユトンは、それだけ言うと、マントを翻して王宮に戻って行った。


「あの、リーシャさま。大丈夫ですか?」


 サガードに声を掛けられて、リーシャは、はっと我に返った。


「ええ、ありがとう。皆、ゆっくり休んでね」


それだけ言うと、風のように消えてしまった。


取り残された魔術師たちは、顔を見合わせて、各々家路へ急いだ。


ただ一人門前に残ったサガードは、崩れるように座り込んで夜空を見上げた。


「君たちを、妖魔にさせてしまうくらいなら、一緒に捕まった方が、ずっと良かった。皆、命の一つや二つ、差し出せたのに……」


 フルーヴ王国の暗黒期は、こうして始まったのである。


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