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第18話 南瓜の馬車で、お化け屋敷に戻りました



「本当に解読する気か?それが、三つ目の願い事になるんだぞ?往復券ならある。おまえの場合、一つ目の願い事も、二つ目も、金は全く掛かってない。往復券の額くらい、気にするな」


 ユトンが、いくら言い聞かせても、今度は、ルイネが譲らなかった。


 「虹の呪文を、絶対に読みたいです!三つ目の願い事は、それがいいです。四つ目で、トパーズスタジアムに連れて行って下さい!」


  今回は、ユトンが根負けした。


 「分かった。それじゃあ、王宮に行くか」


 「えっ?魔法で出せないんですか?」


「『真珠の言葉』は、持ち出しも、貸し出しも禁止。義兄あに上は、平気で決まりを破っているが。王太子だから、父上も暗黙の了解で何も言わない。義兄あに上が持ち出さない限り、王宮の宝物庫に、厳重に仕舞われている。気が乗らないが、取りに行くしかない」


「どうして、気が乗らないんですか?」


 「隠しシナリオを破って、一つ目の願いで終わらせなかった事は、既に王宮中に知れ渡っている」


 「あの、王子が罰を受けるんですか?」


 ルイネは、青ざめて答えを待った。


「まあ、そうだな。だが、今は、元王宮魔術師たちは出払ってる筈だ。そう簡単に邪魔は入らない。さっさと行くぞ」


  「はい!!」


  元気な返事の後に、ルイネは付け加えた。


「罰なら、私が受けます!」


     ☆ ☆ ☆



  「なぜ取り壊し予定の階段に」


   王宮には、無事着いた。しかし、邪魔が入ったようだ。

   時空が歪んで、直接、王宮に入れなかった。


   こんな事が出来るのは、時の破壊者ドナルだけだ。


   それが証拠に、グレーのジーンズと青シャツは消えて、王妃お気に入りの、ユトンに言わせれば、堅苦しいプリンスの正装に替わっている。


   この状況には面食らった。そんなユトンの隣で、歓声が上がった。


   「見て下さいっ!シンデレラの階段ですっ!」


   ルイネは、長々と続く、大きな階段を見下ろして歓喜した。


   真ん中に敷かれた赤いカーペットは、ルイネの理想そのものだった。


   「私、大好きなアニメのワンシーンに、ずっと憧れていたんです。白いドレスを着て、こんな長い長い階段を駆け下りるのが、ずっと夢でした!ああっ、嬉しい!願いが叶って、アニメと何もかも同じ!!」


   二人は、王宮のダンスホールから、遠く離れた階段の一番上に到着していた。


    この階段は、一番下に、馬車を直接止められる。

    降り終えたら、そのまま馬車に乗り込む事が出来る。

    すぐに走り出せるので、大変便利だが、ここに止める貴族は皆無だ。


   ダンスホールから離れ過ぎているだけではなく、とにかく階段が長い。

   降り終えるだけでも、三十分以上かかる。

   そして、どうしても警備が手薄になる場所だった。


   数十年前、一人の侯爵令嬢が攫われる事件が起きた。

   暗闇に紛れて見知らぬ馬車が止まっていたが、誰一人異変に気付かなかった。

   令嬢は、侯爵家の馬車だと勘違いして乗り込んでしまった。


   ダンスホールから遠い上に長い階段----踊り過ぎて疲労していたことも災いした。

   一命は取り留めたが、もう少しで殺される所だった。

   侯爵への逆恨みが原因だったが、罪のない娘を殺めようとしたのだから、犯人は当然捕まった、と言えないのが残念だ。取り逃がしてしまった。


   それで、誰もこの階段を使わなくなったのだ。別称、

   魔の階段と呼ばれて、恐れられている。

   しかし、外観が美しいので、国王は取り壊しを渋り続けていた。

   けれど、来月やっと取り壊しが決まったのだ。

  

   「何て素敵な階段でしょう!」


   そんな悲劇など露程も知らないルイネは、大喜びした。


   「あれっ?ハイヒールが、さっきから固いような。わあっ!見て下さい!ガラスの靴です!」


   ドレスを両手で摘まんで、裾を少し持ち上げると、透明に輝く靴が現れた。


  「セットで叶えてくれたんですか?それとも、オプション?どちらにしても嬉し過ぎるっつ!」


   ガラスの靴を、うっとりと見つめて、それから、その場でくるりと回った。   

   ユトンは、運の悪い場所に連れて来てしまったと悔やんだが、ルイネは非常に満足げだ。

    (この場所から一刻も早く離れた方がいい) ユトンの本能が告げていた。


  「階段を駆け下りるのは、諦めてくれ。一番下まで降りるのに、三十分以上かかる。一度の願いで使える時間は、三十分だ。どうしてもオーバーする」


   無難な説得を試みたが、ルイネが、そう簡単に諦める筈はなかった。


  「大丈夫です。私、中学では陸上部だったんです。三十分も掛かりません。往復で三十分ほどです」


  「往復!?」


   不吉な単語が聞こえて、ユトンは聞き返した。


  「降りてまた戻って来ます。階段の半分くらいで、ガラスの靴を脱ぎますから、私が降り終えたら、拾いに行って下さい」


   ユトンは大いに巻き込まれた。


  「叶える夢は、残り二つの筈だが?」


  「はい!これは、スペシャルサービスという事にして下さい」


  そういうと、返事も待たずに駆け出した。


  「おい!そんなサービスはない!」


  あっという間に三分の一を駆け下りていた。


  「なんてヒロインだ!どこまでも斜め上をいく」


   ユトンも駆け出した。と、その時、王家の馬車が停まっている事に気が付いた。


  (あれは、王家の紋章、奇跡のバラだ。なんで、こんなところに、一体だれが)


   胸中に暗雲が垂れこめて膨れ上がった。


  「しまった!ルイネ!今すぐ戻れ!」


  叫んだが遅かった。

  南瓜の馬車から降りたのは、フットマンの姿をしたリーシャの側近、ドナルだった。

  ルイネは、彼が、時の破壊者だとは知らない。


 「どうぞご乗車下さい。ユトン様からのサプライズでございます」


  ルイネは、立派な馬車、しかも南瓜の馬車!に見惚れて、フットマンの言葉を鵜呑みにした。


「この周辺を、少しだけ走らせましょう。スペシャルサービスでございます」


  穏やかな琥珀色の瞳に見つめられて、柔らかな声音で丁寧にお辞儀をされたので、ルイネは、安心しきって乗り込んだ。

   しかし、戸が閉まると、馬車は猛スピードで走り出した。


   「きゃあっ!」


   危うく前に吹っ飛んで、頭をぶつける所だった。


  「なんて荒い運転!こんな速度で走られたら事故する!」


   ぷんぷん怒っていると、突然馬車が停まって戸が開いた。


  「さあ、着きました」


  「えっ!?」


   戸惑いつつも、馬車から降りると、そこは、お化け屋敷の門前だった。


   そして、見知らぬ美女、否、見知った顔が、ルイネを出迎えた。


  「あなたが、リーシャさんですか?」


   エメラルドグリーンのドレスの他は、何もかもが、ルイネと瓜二つだった。


 「ええ。そうよ」


   身長も同じなのに、高圧的な態度のせいか、ルイネより高く思えた。


 「タイムリミットが過ぎても、ユトンが戻らないから、私が、あなたを元の世界に帰してあげようと思ってね」


   にっこり微笑まれたが、思わず後ずさった。


   「私、まだ帰りません。王子と約束したんです」


   「あら、何の約束?」


  傲慢な眼差しに詰問されている気分だった。

  それに怯まず、ルイネは正面から向き合った。


「王家のバラを受け取る約束です。だから、受け取るまでは帰りません」


「そう。あの《胸キュン》は、使わなかったのね。あなた、ユトンに騙されているのよ。王家のバラを贈られた女性は、受け取れば、王子の一生の伴侶になる。二度と、元の世界には戻れない。虹の呪文も、往復券も使えないわ。ゲームの中で、一生を終えるの」 


  「えっ!?どうして、王子がそんな事を?」 


   ルイネが、大きな瞳を更に大きくして尋ねた。

   すると、王女は呆れた顔で言った。


「そんなの決まっているでしょう?あなたが好きだから、元の世界に返したくないのよ。鈍感な子ね」


    「王子が私を好き!?」


   ルイネは、目玉が飛び出るほど驚いた。

  それから、首を横に、ぶんぶん振って否定した。


  「そんなわけないです!単純娘とか子供とか、散々言われたんですよ?何かの間違いです!それに、あの人は意地悪だけど、嘘をつく人じゃありません。真っすぐな人です!」


   憤慨するルイネを見つめて、王女が肩をすくめた。


  「あなたのヒロインは、真っすぐな男性が好みですって」


   「えっ!?」


  王女の視線の先を追って、後ろを振り向いた。


   「王子!?」


   ルイネは、言葉が続かなかった。


   こんなにも早く迎えに来てくれた事に感謝をして素直に喜べばいいのか、王女の言葉を今すぐ否定して欲しいとお願いするのが先か分からずに狼狽して、口を開けたり閉じたりを繰り返した。

  その間に、幼馴染二人は、会話を始めた。


  「《胸キュン》を渡さなかったのね」


  「気付かないふりだったか。妖魔討伐は、どうなった?」


   ユトンが険しい目つきで尋ねると、リーシャは、大きく溜息をついた。


  「それがね。魔王さまが、胸キュン王国を、妖魔ごとルイーベ国の領土にすると仰られて、シルスに喧嘩を売ったの。互角の二人が戦って、被害を被るのは民だから、今は討伐どころじゃないわ」

   

  この途方もない成り行きに、ユトンは仰天して二の句が継げなかった。



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