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第6話 まるで、恋愛系ゲームの改悪版だ 



   ユトンは、今回のヒロインを《世話が焼ける子供》と思うことにした。

   そう思えば、腹も立たない。


  「大まかな設定を教える」


   ユトンは、気を取り直して口を開いた。

 

  「ゲーム名は、《胸キュン大恋愛》。国の名は、さっき言ったが、フルーヴ王国。妖魔国と隣接している。おまえの名前は、ルイネ。フルーヴ王国の田舎町に生まれた平民で、歳は十六。六十三回目のヒロインだ」


  「過去に六十二人も来たんですか!?」


   びっくりして目をぱちくりさせると、ユトンは一言「ああ」と答えて、話し続けた。


  「魔王が治める国、ルイーベ王国の第一王女ラーシャは、元のゲームで、俺と同じフルーヴ国の王宮魔術師。気心の知れた同僚だった。リーシャは、今はラーシャの義姉あねで第二王女。寵姫の子だ。この国とフルーヴ国の中間に、妖魔国が位置する」


   シナリオの説明を聞くうちに、花音は複雑な気持ちになった。


  (リーシャさん、かわいそう。もとは魔王の奥さんで、今は娘さんでしょ?自分の夫だった人の娘になるなんて、私だったらすっごく辛いし、耐えられそうにないけど、割り切ってるのかな?)

  

   現在の花音の願いは、家に帰りたい唯それだけなので、この乙女ゲーム自体に興味は失せていたが、激しく同情した。


  (ラーシャさんも。元は王宮魔術師だったのに、今は魔王の娘だなんて。残酷なシナリオ)


   気の毒な設定に胸が痛んできた所で、自分の話が出た。


  「俺の義兄あに上、王太子リベールと王女ラーシャを両想いにする為に、おまえの願いを五つ叶える。正式なヒロインは、ラーシャ。二人は、元のゲームでは、婚姻も秒読みだった」


  「ええっ!酷い!恋人同士だったのに、結婚を邪魔されたんですか!?一言くらい、シルスさんに物申すべきです!」


   熱くなって口を挟むと、王子が、むっとした表情になった。


  「逆らえるわけないだろ。俺たちを創ったのは、あいつだ。だから、引き離された王太子と王女を恋人同士に戻すのは、影のヒロイン、おまえの役目。言うなれば、最初からキューピッド役。影のヒロインの攻略対象は、俺一人。俺に嫌われたら、大恋愛できないまま三日後にはゲームセット。元の世界に戻れる」 


   花音は、茫然となった。

   なんと夢の無い設定か。まるで恋愛系ゲームの改悪版だ。


  (キューピッド役なら、むしろ買って出たいよ?そういうの凄く好きだから、わくわくする。問題は、攻略対象!私は、六十三人目の彼女って事だよね?こんな意地悪な人が、初彼になるなんて!根は良い人だと思うけど。もっと、こう、王子さまっぽい王子さまが良かった)


   花音が絶句して考え倦んでいると、ユトンが呆れ返った。


  「顔に出やすいな。考えてる事が、まる分かりだ。不敬過ぎるだろ。もう一度言うが、俺は王族だからな」


    ユトンは、さっさとシナリオを進める事にした。


  「詳しい説明は後でする。とりあえず、好みのドレスに着替えて来い。ドレスルームのクローゼットに、嫌という程ドレスがある。靴もある。どれを選んでもいい。ドレッサー横の衣裳棚には、宝石つきのブレスレット、リング、ネックレス、ティアラ、イヤリング、ピアスが、ぎっしり詰まってる。全部、ヒロインに用意されたものだから、自由に使っていい」


   さり気無く気前がいい事を言われたが、花音は勢いよく右手を上げた。


  「はいっ!!お願いがあります!!」


  「シナリオは、まだ始まってない」


   ユトンが、美顔を思いきりしかめた。


   ルビーのように赤い目は、花音を見る度、猫の目のように変わる。

   不機嫌だったり、人を小馬鹿にしたり、瞳に感情が表れて、とても分かり易い。

  

  「始まったら、聞いてくれますか?」


   花音は、前のめりになって尋ねた。


   「私、ドレスより、ジーンズが好きです。そのグレーと交換して貰えませんか?」


   王子の背は、おそらく二メートルある。

   裾は相当長くなるが、何回か折れば、問題ない筈だ。

   ウエストが、ぶかぶかなのは仕方ない。

  

  「ヒロインのドレス着用は、義務付けられている」


  「なっ!どうしてですか?理由は?」

 

  「ゲーム終了後に、持ち帰ってもいい。どれも高級ブランド品だ。部屋を出て、廊下を真っすぐ行けば、ドレスルームに着く。俺は、ここで待ってる」

   

  「今のドレスで十分です。ネックレスとかも要りません、私は」


   断り終える前に、ふと疑念を抱き、思い至って質問した。


  「もしかして、ヒロインの服を燃やすのは、そういうシナリオだから??」


  ある程度の確信を持って聞いたが、即否定された。

  

 「そんなわけないだろ!そもそも、こんな嵐は、シナリオにない」


  ユトンが、美しい顔を曇らせて言った。


 「十中八九、おまえが、隠れ重要キャラの怒りを買ったせいだ」 

  

 「怒り?私、あなた以外と喋ってませんよ?どうして、私のせいになるんですか?」


  目が点になって訴えたが、ずばりと指摘された。


 「俺と会う前に、おまえに忠告を寄越した人物が、そのキャラだ」


 「あなたと会う前に、私に忠告を寄越した人物?」


  思わず復唱して、はっと思い出した。


 「まさか、あの占い師?」


  蒼白になった花音を見て、ユトンは、大きく溜息を吐いた。


 「乙女ゲーム内で大恋愛をしたいかどうか、直接確認してくれる。忠告に耳を傾ければ幸運を授かり、乙女ゲームに入るのが嫌だと言えば、その場で助けて貰える。氏神様は、ヒロインを選び直す事になる。無視をすれば、今回の嵐のように、アンラッキーな何かを受け取る。シナリオに横槍りを入れられるキャラだ。自業自得だから反省しろ」


  自業自得と言われても、反論できなかった。非は、自分にある。

  助けて貰えるチャンスを逃したのは、花音自身だ。


  (あの人の話を聞けば良かった。そうしたら、乙女ゲームに入らず済んだのに)


   冷静に振り返れば、占い師の厳しい声音には、誠実さが窺えた。

   花音は、暗い顔をして俯いた。

   おそらくは、逃げた時点で、乙女ゲームに入ったのだ。


 「あの男に脅されたのが、始まりね」


   ぽつりと呟きを漏らした。


  すると、ユトンが、疑わしい者を探るような目つきで花音を見た。


   「脅された?何の話だ。そんなシナリオも無い。横槍りを入れられるといっても、そう何度も出来るわけじゃない。一回限りだ」


   「えっ!?」


    花音は、がばっと顔を上げて、穴のあくほど、ユトンを見つめた。


  「だって!占い師さんから逃げた後、リーシャさんと間違われて、殺されそうになったんですよ!?あの男の人、リーシャさんを殺したら、貴族から御金を貰えるって喜んでました!その時点で、もう現実世界じゃないですよね!?話を聞かなかったのは、私が悪いけど、でも、脅しから始まるなんて無情です!その点に関しては、私は悪くないと思います!そちらの改善すべき点です!」


   焦燥に駆られて言い張るのを、ユトンは黙って聞いていたが、一人納得して頷いた。


 「虹の魔女様にしては、ずさんな手口だと思っていた。だが、今の話で全部理解した。レニール様は、ここまで非情な事はなさらない。この嵐は、最初から奇妙だった」


  新たに判明した事実、明らかになっていく真相を前に、花音は沈黙した。


  「最初に邪魔をしたのは、別の横やりキャラ、北の魔女マガールだ。貴族連中と手を組んで、リーシャの命を狙ってる。狙う理由は後で話すが、おまえは、この国を影で牛耳る魔女たちに、目を付けられたんだ。大嵐を起こせるのは、南の魔女レントだが、この屋敷には王家の結界を貼ってある。おまえが、運よく門前に到着できたから、殺し損ねたんだ。強運で良かったな」


   強運と言われて、花音は、はっとした。


  「氏神様が助けてくれたんですか?脅されて気絶するまでは、現実世界ですよね?私、心の中でお願いしたんです。助けてって。その結果、突然真っ暗になって、それから急に明るくなって、手の甲におみくじが乗っかってて……」


   必死に説明する花音を、ユトンは無言で見つめていたが、穏やかな声で答えた。


  「氏神様に感謝するんだな。氏神様は、ゲームの中に入れない。だが、現実世界からゲーム内への干渉は、一度だけ出来る。魔女を凌駕する唯一の存在がいるとすれば、それは神だ。おまえを門前へ到着させたのは、氏神様で間違いない。魔女たちは、さぞや悔しがっただろう。戻ったら御礼参りしろよ」


   ユトンの口元には微笑が浮かび、赤い瞳はルビーのようにきらりと光って、楽し気に笑っていた。

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