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第9話 長い廊下と、肖像画の住人たち 3

 

 



  「六十回目のヒロインは、良かったわね。ユトン様より三つ下。物静かな子で、職業は、看護師だった。三日間、王宮の図書室で、推理小説を読み耽って、満ち足りた顔で帰ったわ。恋愛には、興味なし」


  「そんな願い事で、いいんですか!?」


   しょっぱなから、つい口を挟んでしまったが、彼女たちは親切に答えてくれた。


  「どんな願いでも良いの。昆虫図鑑を欲しがったヒロインもいたわ。弟くんへプレゼント」


  「物を欲しがらない子も、結構いたわ。三十回目のヒロインも、その一人。でも、帰りに、もの凄ーくシンプルなドレスを一着だけ持ち帰った」


  「ご友人の結婚式が、近々あると言ってたわ。その出席用。頭がよくて、聡い子だった。二十万円浮いたと喜んでね。浮いたお金で、ブランド品の結婚プレゼントが買えると言ったの。性根の良い子だった」 


  「私ね、ずっと、不思議に思ってたの。氏神様のヒロイン選別基準は、恋愛に関する願い事をした娘の筈なのに、どうして選ばれたのかしら?」


  「神のみぞ知るよ。ともかく、ブランド品に興味なしのヒロインたちは、大抵そうだったわね。誰かの為に、貰って帰る。親友のウェディグドレスを選んだ子には、驚かされた」


  「あたしも覚えてる!三十六回目のヒロインよ。貧しくて結婚式が挙げられないから、せめてドレスだけでも着せて、写真を撮ってあげたい。そんなこと言ったヒロインは、あの子だけ」


  「優しいヒロインも、多かったわね。半々かしら。誰かに使う御金の意義を知ってたわ。自分の分を買う時は、ワンランク落とした物を選ぶのが、賢い生き方と。そういったのは、五十二回目のヒロインよ」


  「天国へ逝ける確率が上がる、そう言ったわ。安く浮いた分を少しずつ貯めて、募金してると話してた」


  「ああ、あの子ね。バッグも服も、御財布も、死後には使えない。生前に積んだ真心こめた善行だけを、神様は評価して下さる。理由は、神は愛で、愛が神だから。キリスト教徒だったでしょう?」


  「ええ、そうよ。愛である神は、物ではなく人を見る。内面の輝く愛を見て下さる。だから、物を買うより、海より深い真実の愛を増やす方が大切だと。それが、彼女の考え方だった、若いのに、しっかりしていたわね」


  「そうは言っても、私たちには、想像も付かない世界でしょ?結婚式が挙げられないなんて!どういった方に嫁ぐのかしら?男爵あたり?」


  「貴族のいない国だって、言ってたじゃない!」


  「王族は、いるんでしょう?」


  「王族がいたって、平民は平民よ。御金には苦労するわ。だから、ブランド品を欲しがって、買って貰って喜ぶの」  


  「そうでもないわよ。五十二回目のヒロインと似て、人にプレゼントはするけど、自分は高価なものを使わない、そう言ったのは、二十四回目のヒロインだったでしょ。ブランド品は、芸術品。心の美しさが、最高の芸術。だから、買わなくても心に秘めてる。そう自負していたわ」


  「理解できない。ブランド品を買うのは、当たり前のことだから。お金に不自由したことがないもの。分からない」


  「当然の話よ。好きなものを好きなだけ買って何が悪いの?貴族社会に身を置くんですもの。高級品を選ぶのは当然よ。毎回同じドレスを着ていたら、社交界で恥をかくわ。選び放題の世界で、どうして疑問が生まれるの?そもそも安物なんか見た事もない」 


  「百均?だったかしら。百円玉で買えるTシャツ?に、最高の笑顔を添えれば、百万円のTシャツになる。そう言った子がいたわ。輝く笑顔の持ち主だった」


 「ええと……三十二回目のヒロインよ。この世界での、一ピーロよね。たとえ百均?のTシャツ?だとしても、心からリスペクトすれば、着る人の為に、百万円分の輝きを見せると言った子よ」


 「本当かしら?普通ありえない話よね。品物が人の心に寄り添うなんて!そんな事があると思う?」


 「さあ、どうかしら。人それぞれ意見は違うもの。ヒロインたちの価値観は、毎回新鮮で、面白かった」


  「百円玉で輝ける女性は、何を身につけても輝ける。高価な物は、品質が良いから誰でも似合う。安物は、着こなすのが難しい。良い意味でも悪い意味でも、服より内面の輝きが際立つから。そう言ったわ。あの子の話を聞いて、私も安物を着てみたくなったのよ。私の輝きは、いかほどかしら」


 「好きだから買う、欲しくないから買わない。その二つしかないと思っていたのに。買う買わないよりも先に、内面の美があって、品物へのリスペクトがあって、品が人を選ぶっていったのは、三十一回目のヒロインだった?あの子も素敵な子だったわ」 


 「選ばれて、人は、より一層輝きを増す。そんな考え方もあるのね。摩訶不思議。インパクトがある子が多かったわ。三十三回目のヒロインを覚えてる?お嬢様大学?の客員教授?だった子」


  「ええ、もちろん覚えてる。その女子大?には、お金持ちの学生が半分以上いる。全身をヴィトンで着飾る娘たち。グッチのバッグも、シャネルの財布も、ブランド品は、ぜーんぶ親に買って貰える。そんな娘が集まる学び舎。そこが勤務先。それで合ってる?」


  「合ってるわ。当たり前のように身に着ける、私たちと同じ部類。私たち皆、公爵令嬢、侯爵令嬢だったもの。そういう娘たちが、私たちと話が合うの。平民とは、噛み合わない。ねえ、そう思うでしょ?」 


  「思うでしょ?って、娘たちの事なんて、どうでもいいわ!ヒロインの話をしているの!受け持ちの学生たちに、毎年言い聞かせるそうね」


  「えーと、何て言ってたかしら……あっ、思い出した!《世界一素敵なブランド品も、光り輝く宝石も、人の内面の美しさには届かない。バッグが、心から喜ぶ人になりなさい。この人こそが、最高の持ち主だと、誇って貰える買い手になりなさい》だったわね?」


  「それ、続きがあったでしょ。《バッグが、あなたを見ている。内面を豊かにしなさい。生き方を輝かせて!人は心で生きるのだから》……独特な思考だったわ」


 「あら、六回目のヒロインも、なかなか印象的だったわよ。子供の頃に、おばあさまに言われた事を実践し続けている子よ」


 「あの子は、全員一致で覚えているでしょう?そう、おばあさまの御言葉を」


 「忘れるものですか。《魂の輝きは、笑顔から生まれるの。素敵な笑顔になる為に、品物が要りようなら、買って使えば良いでしょう。お化粧で元気がでるのなら、紅を引きましょう。だけれど、忘れてはいけませんよ。野に咲く花ですら、めでられる神様の御心を》」


「《人の心は、どんな花よりも美しくなれるのです。優しい笑みを深めなさい。そうすれば、あなたの心は、宝石よりも輝くでしょう》」

「《神様が、微笑みかけて下さる人になりなさい。人生の意義は、そこにあります。人は皆、死んだら、神様のおうちに還るのですから》」


   花音は、気づかぬうちに聞き惚れていた。


 (素敵なおばあさま……私も、おばあちゃん子だったから、心に響く……) 


  「でもねえ、本物の悪役令嬢に相応しい子も多かったわよ。特に酷かったのは、前回の子」


   感動の余韻は、簡単に破られて、酷いヒロインたちの話題に移行した。  

  

  「私、よーく覚えてる。ラーシャ様より十も下なのに、なかなかの策士だったわね~寿命一ヵ月だなんて嘘をついて、ユトン様のお優しい心根に訴えて、散財し放題」


  「ユトン様は、いい人過ぎて詰めが甘いの。正義感が強すぎる。根が真面目だから、騙されるのよ。お可哀そうに」


  「腹黒王子より余程いい。ラーシャ様もお可哀そうに」


  「あら、ラーシャ様も十二分腹黒いわ。遠い遠い昔は、お優しかったけど。腹黒王子の影響ね。随分と、御変わりになられたわ。今では、似合いのお二人よ」


  「それよりリーシャ様。本当に、お優しい。ユトン様の幼馴染で、初恋相手。ねえ、知ってる?ラーシャ様が、リーシャ様に化けて、ユトン様を振ったのよ。あの方は、魔法がお上手だから。だあれも気付かなかったわ」


 「腹黒王子は知ってたわ。でも、教えなかったの。あの失恋から、毎回十一年経つのね~。今でもリーシャ様を想ってるのかしら?」


 「大事な幼馴染、それだけよ。リーシャ様には、想い人がいるでしょう?あの側近の、時の破壊者ド」 


 最後の肖像画が喋り終える前に、金ぴかの扉を見付けた。

  花音は、重い取っ手を両手で引いて、中に滑り込んだ。

  

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