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第4話 お化けに爵位があるの!?

 


   

  「私、初恋は、最悪だったんです。だから、いつか大好きな人ができて、その人のヒロインになれたら、大恋愛がしたいって、そう思って願掛けしたんです」


  「……そうか。叶うといいな」


 ユトンは、ぽつりと呟いた。

 その呟きを前向きにとった花音が、勢いよく喋り始めた。


「私のことを好きになってくれる人が、ちゃんと現れると思いますか?本当に、出会えると思いますか?私、漫画や小説の中には、好きなキャラが沢山いるんです。でも、大人になってから、現実の男性を好きになれた事がなくて。だから、ゲームの中に入れられたのかな。どう思います!?」

    

「急に元気になったな。これなら、食べられそうだな。二度寝は認めない。好きな物を食べていい。どれか口に入れてみろ。おまえみたいな単純娘は、うまいもん食べたら元気も出る」


「単純じゃありません!混乱してます!それに、おなかすいてません!」


 花音は、むっとして頬を膨らませたが、効き目はなかった。


「腹が減ってないように思うだけだ」


「あの、はっきり言って、現実を直視できないというか、したくないので、少し冷静になりたいな~と思うんです。だって、普通びっくりするでしょ?私、繊細なんです。休んだら、ちゃんと食べます。だから、休む方を先に所望します」


 花音は、一応お伺いを立てたが、即却下された。


 「冷めるだろ。現実を直視できるようになるから、とにかく食べろ。繊細かどうかは、腹の虫に聞け。一口食べたら食欲は出る」


 「食べたくない時に、胃に無理やり入れる方が、体に悪いです」


  花音は、口をへの字に結んで黙り込んだ。

  是が非でも食べさせようとする王子を納得させるべく、必死に言い訳を考えたが、途轍もなく重要な問題を思い出した。


  「私の服は、どこにあるんですか?」


   花音が、辺りをきょろきょろ見回すと、信じられない答えが返ってきた。


  「暖炉で乾かしてたら、燃えた」


   花音は、仰天して前のめりになった。


  「もしかして、下着も燃えたんですか?」


   戸惑いがちに尋ねたが、ユトンは、けろりと白状した。


  「灰になった」


  悪びれた様子は全くなかった。

  燃やした犯人は至って平静で、気の毒な者を見るような目つきで言った。


  「気絶したおまえが悪い。今回のケースは、前代未聞だ。通常は、お化け屋敷の前に到着した後、普通にシナリオが始まる」


  「お化け屋敷!?」


   花音は、真っ青になって、ダブルベッドから離れた。


  「だから、枕も掛布団もないんですか?幽霊専用ですか!?」


  安心して座っていたベッドが棺桶に見え始め、花音は恐怖で固まった。


  「枕と掛布団は、節約だろ。窓枠サイズも縮小してある。お化けといっても、普通に触れる。ぞんびメイドは清掃で入るが、ゴーストファミリーは、使ってない」


   使ってないと聞いて、花音は、ひとまず胸を撫で下した。


  (良かった~幽霊ベッドじゃなくて)


  「ゴースト子爵は、守銭奴で有名だが、この客室は人間用だ。壁炉へきろも、でかいだろ?見栄を張って、高級品ばかり揃えてる。王家からせしめた品もあるからな。値が張ってる」


   もろもろ合点はいったが、花音は、声も出せずに立ち尽くした。


 (お化けに爵位があるの!?この世界、お化けが多いの??五爵位そろってたら、どうしよう。仕組みがイマイチ分からないけど、ゴースト公爵がいたら、どうしよう。響きからして手強そう。聞きたいけど、聞くのも怖い)


  「本当は、ぞんびメイドに、おまえの事を任せたかったが、骸骨執事たちとメイドは全員休みを貰って、墓地ン中に里帰りしている。ゴーストファミリーは、休暇で留守。ミイラ警備員たちも休暇をとって、棺桶で安眠中。ペットの吸血コウモリたちは連れて行ったから、屋敷には俺とおまえの二人だけだ」


  二人だけと聞いた途端、花音は、安堵で崩れかかったが、何とか両足で踏ん張った。 

 ゾンビのメイドに着替えをして貰う恐ろしさを思えば、燃やされた服など、些細な損失だ。


(王子が救世主に思える)


 花音は、感謝の眼差しをユトンに向けた。


 「ゴーストシップで、リゾート地へ遊びに行ったから、三ヵ月は戻らない。だから、ゴースト夫人にも頼めなかった。娘のカトレア嬢は、骸骨伯爵のもとへ嫁に行ったばかりだ。こんな大嵐の中を呼び出せない」


 ひぃっと喉の奥から僅かな悲鳴が漏れた。

 花音は、慌てて両手で口を塞いだが、不親切な話し手には聞こえなかったようだ。


(前言撤回!ゾンビとゴーストに触れられて喜ぶ人間なんて、滅多にいないから!それに、骸骨にも爵位があるの!?伯爵って、三番目でしょ?これ、絶対、他もあるパターン!涙でそう)


「緊急とは言え、本人の承諾なく衣を脱がしていいものか、騎士道に反する行為にならないか迷ったが、脱がすしかなかった。服は、暖炉で乾かした経験がないから、ヘマして燃やした。悪かったよ」


 謝って貰えたのは、素直に嬉しい。けれど、他は要らぬ気遣いだ。

 もしも着替え途中に目が覚めて、目が合ったりしていたら、生きた心地はしなかった。息が止まっていたかもしれない。


(前向きに考えよう!ベッドは、人間用だった。部屋に、お化けは入ってない。ゾンビは、ゴーストじゃない。うん、全然怖くない!)


 花音は自分を励まして、何とか最後の疑問を口にした。


 「今着けてる下着は、誰のですか?」


 「買い物の残りだ。前回のヒロインは、金遣いが荒かった。何でもかんでも買い漁って。あいつは、元の世界に戻るのを渋って、7日間もゲームの中で散財し続けた。新品だから、安心しろ」


 さらりと答えて貰えたが、あまり喜べない話だ。

 言いたいことも聞きたいことも山程あるが、突っ込む気力は失せていた。

 だけど、感謝の気持ちは湧いたので、花音は、頭を下げて御礼を言った。


 「助けてくれて、ありがとうございました」


  食欲は全く湧かないが、出された物は、有り難く頂くのが筋だと思い始めた。


 (だって、助けて貰ったんだから。恩人からの厚意を無下にするのは、人の道に背くよね。感謝の意を示さないも同じでしょ?だったら、食べるしかない)


 花音は、気の進まない心情を押し殺してテーブルに近付き、ヒロインらしく出来るだけ優雅に椅子を引いて座った。

 ドレスがクッション代わりになって、座り心地は悪くない。 


 銀の器を引き寄せると、卵サンドを選んだ。


 「いただきます」


 顔を引きつらせて、ぱっくり口に入れた。


 そして、器に目を向けたまま、黙々と食べ続けた。


 上目遣いに、ちらっとユトンを見ると、優しい眼差しが視野に入って、どきりとした。


 (根は親切だよね。単純娘って言われたけど!)


 一生懸命もぐもぐ食べていたら、ユトンが反対側の椅子を引いたので驚いた。


(えっ??一緒に食べるの??)


  マグカップに右手を伸ばして、コーヒーの香りを味わっている。

  それだけ見れば、うっとり見惚れるかっこよさだ。


  (体格だけは、本当に素敵)


   つい見入っていたら、ユトンが、花音を見て口を開いた。


  「うまいか?」


  「………王子は食べないんですか?食べたら分かりますよ」


   急いで呑み込んで、聞き返した。


  「俺は腹が減ってない」


  「!?私も減ってなかったです!」


   花音は唇を尖らせたが、チョコクロワッサンに手を伸ばした。


  「王子が食べないなら、食べますけどね!食べ物を粗末には出来ませんから!お腹が減っていなくて、残念ですね!とぉーっても美味しいのに!」


   嫌味を込めて言ったのに、くすっと笑われて、花音は、顔が赤くなった。


  

     

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