紙飛行機のように
「お前さ、学校行かなくていいの?」
「は? アンタこそ」
言い返せばケンは黙って紙飛行機を作り始める。
寒空の下、放り出されたランドセル。本当なら学校に行くべき時間、公園にいる私たちを咎める人間など誰一人いない。クラスメートに陰口を叩かれようが、持ち物を破壊され階段から突き落とされそうになろうが――ペーパーテストで結果を出せば、大人は何も言わないのだ。
ここで出会ったケンも、きっと私と同じような境遇だろう。クラスや学年はわからない、名前だって偶然見かけたノートに「健」という一文字が見えたからそう呼んでいるだけだ。とはいえケンも私のことを「おい」とか「お前」としか呼ばないので、お互い様だと思うが……
「つかケン、紙飛行機作りすぎじゃない。後で回収すんの大変でしょ」
「いや、俺よく飛ぶ紙飛行機の研究中だから……」
その言葉と共に、ケンの手元から紙飛行機が放たれる。風に乗るままフラフラと、不安定に飛ぶそれはなんだか今の私たちを見ているかのようだった。それが力なく地面に落ち、転がるように着陸するのを見届けるとケンがぽつりと口を開く。
「知ってるか? 紙って四十二回折れば、月に届くらしいぞ」
「いや、そんなに折れないでしょ」
「理論上、そうなるって話だよ」
ふーん、と適当に相槌を打っていればケンは再びノートを引きちぎる。
「俺さ、年明けたら引っ越すんだよ。だからもうこの公園には来れない」
「……嘘、マジ?」
「マジ。で、そうなるとお前は一人ぼっちになるからさ……」
「……心配してくれてんの?」
聞いてみれば、ケンは恥ずかしそうにはにかんでみせる。
「まぁ、な。要は俺たちも紙みたいに強く生きようって話だよ。何を書かれても、破かれても意外となんとかなるしこうやって空を飛ぶことだってできるから、さ……お前も紙飛行機作れよ」
言われた私はケンの差し出したノートの切れ端を受け取り、折り目をつける。
「……言わなくてもなんとかするよ。ってか、私の方がよく飛ぶし」
そう言いながら私は思い切り紙飛行機を飛ばす。その反応が気に入ったのか、ケンもまた新しく飛行機を作り始めた。
「いや、毎日折ってる俺の方が上手いだろ」
「いーや、私の方が絶対によく飛ぶんだから!」
そんなやり取りをしながら、紙飛行機を飛ばしまくる私たちは――冷たい風に吹かれながら、それでも真っすぐ前へと進む紙飛行機のようになれた気でいた。