表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞6短編集

紙飛行機のように

作者: ミント

「お前さ、学校行かなくていいの?」

「は? アンタこそ」


 言い返せばケンは黙って紙飛行機を作り始める。




 寒空の下、放り出されたランドセル。本当なら学校に行くべき時間、公園にいる私たちを咎める人間など誰一人いない。クラスメートに陰口を叩かれようが、持ち物を破壊され階段から突き落とされそうになろうが――ペーパーテストで結果を出せば、大人は何も言わないのだ。


 ここで出会ったケンも、きっと私と同じような境遇だろう。クラスや学年はわからない、名前だって偶然見かけたノートに「健」という一文字が見えたからそう呼んでいるだけだ。とはいえケンも私のことを「おい」とか「お前」としか呼ばないので、お互い様だと思うが……


「つかケン、紙飛行機作りすぎじゃない。後で回収すんの大変でしょ」

「いや、俺よく飛ぶ紙飛行機の研究中だから……」


 その言葉と共に、ケンの手元から紙飛行機が放たれる。風に乗るままフラフラと、不安定に飛ぶそれはなんだか今の私たちを見ているかのようだった。それが力なく地面に落ち、転がるように着陸するのを見届けるとケンがぽつりと口を開く。


「知ってるか? 紙って四十二回折れば、月に届くらしいぞ」

「いや、そんなに折れないでしょ」


「理論上、そうなるって話だよ」

 ふーん、と適当に相槌を打っていればケンは再びノートを引きちぎる。


「俺さ、年明けたら引っ越すんだよ。だからもうこの公園には来れない」

「……嘘、マジ?」


「マジ。で、そうなるとお前は一人ぼっちになるからさ……」

「……心配してくれてんの?」


 聞いてみれば、ケンは恥ずかしそうにはにかんでみせる。


「まぁ、な。要は俺たちも紙みたいに強く生きようって話だよ。何を書かれても、破かれても意外となんとかなるしこうやって空を飛ぶことだってできるから、さ……お前も紙飛行機作れよ」


 言われた私はケンの差し出したノートの切れ端を受け取り、折り目をつける。


「……言わなくてもなんとかするよ。ってか、私の方がよく飛ぶし」

 そう言いながら私は思い切り紙飛行機を飛ばす。その反応が気に入ったのか、ケンもまた新しく飛行機を作り始めた。


「いや、毎日折ってる俺の方が上手いだろ」

「いーや、私の方が絶対によく飛ぶんだから!」


 そんなやり取りをしながら、紙飛行機を飛ばしまくる私たちは――冷たい風に吹かれながら、それでも真っすぐ前へと進む紙飛行機のようになれた気でいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最後まで普段通りに過ごそうとする二人が健気です。
切ない感じが良いですね。 明日というか未来に向かって紙飛行機を飛ばすように。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ