表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

エピソード1

「もう朝か……そろそろ寝るか」


 ここ数年、俺は昼夜逆転生活をしている。

学校にも仕事にも行かず、一日中、部屋にいる。

部屋では、もっぱらネットゲームをしている。その時間は、何も考えなくて良いからだ。


 パソコンの電源を落とし、布団に入る。布団に入ると、考えたくないことが、悶々と頭を巡る。

 25歳にもなって働かず、実家に寄生し、年金も生活費も払っていない。こんな毎日で良いのか。

一緒に入ってきた猫を撫で、なんとか心を落ち着かせる。


 初めて就職した会社がブラックだった。そこで体と心を壊し、今に至る。

更に、中学から男子校だったので、女性経験はない。ない、どころか、話した事さえない。


そもそも俺は、生まれもってのコミュ障だ。


 何年か引きこもりをしていると、人との話し方を全く忘れてしまう。

昨日も、ゴミを捨てに久々に外に出た時、


「おはようございます」


 ご近所さんらしき人に声をかけられた。

 俺の咄嗟に出た言葉は


「あっ、えっ、あっ、お、おつ、お疲れ様です」


だった。 

 仕事かよっ!


 心の中では爽快に話せるのに、外に発する事ができない。こんな事では、社会復帰はいつになるのやら。


 13時頃起きると、家にはもう誰もいない。当たり前だが、みんな働いているのだ。

かーちゃんが作ってくれたおにぎりを、遅い昼飯に食べる。

 こんな俺を、家族はなにも言わず、優しく接してくれている。本当に涙が出る。今日のおにぎりはしょっぱいぜ。



 今日は少し調子が良いので、ReLIFEに行ってみようか。

 先月から、社会復帰支援の活動をしている施設に通っている。そこは、俺の様な心のを壊してしまった者達の希望の砦だ。


 施設のドアを開けると、暖かく優しい笑顔の阿部さんが出迎えてくれた。


「こんにちは。今日も来てもらえて嬉しいです」


「あ、えと、ど、ど、ど、どうも」


 俺は反射的に目を反らした。上手く話せない自分が恥ずかしかった。

 阿部さんは、そんなイケテない俺にも優しく接してくれる。

 ……もちろん俺にだけではないが、な。


 ここでは社会復帰の為に、様々な勉強ができる。パソコンの扱い方や職業別擬似作業、面接の受け方まで、教えてくれる。でも最も大事な事は、ここに『通う』という事だ。

 俺は阿部さんに会いたい一心で、ここに通っている。阿部さんのお陰で、俺はここまで来れる様になった。


 ここに来ている他の奴らも、俺と似たり寄ったりで、皆、纏まりもなく好きなように活動している。それはまるで、人を避けて生きているモンスターの様だ。暗い虚ろな目でモソモソと蠢いている。そう思う俺も、ただのその中の一人なんだ。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ