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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第1楽章「黎明爆破」
9/54

8話「因縁の相手」

時刻は11:11。


「コーヒーカップ、楽しかったな!」

「そうだね。」


俺、蝶野楽(ちょうのらく)は、友達(ダチ)一元湊(いちもとみなと)と共に、

某遊園地へ遊びに来ていた。


(みなと)は他に乗りたいアトラクション無いの?」

(らく)の乗りたいやつかな。」

「何だよそれー。

 譲ってばっかの人生はつまんねぇぞー。」

「……そうだね。」

「どしたん?」

「ああ、いや。何でもないよ。」

「……変な(みなと)。」


一瞬、(みなと)の目つきが獣のようになった気がした。

俺、なんか悪いこと言ったかな?


さて、次なるアトラクションはどれか。

そんな想像を膨らませながら歩いていると、

前方から奇抜なファッションの2人が歩いて来る。


1人は………なんとも形容し難いファッション。

微妙な長さの髪型、黄色がかった青髪に、中性的な顔立ち、

さらに長袖とも半袖とも、

ピッタリともブカブカとも言えない絶妙なTシャツ。

目立つほど変では無いものの、違和感が残る。


そして、もう1人は…………


「………(らく)? どうした? 顔色が……」


両手に何かを隠すように黒い手袋を身に着け、

波のような模様が施された坊主ヘア、

豹柄(ひょうがら)フレームの茶色いサングラスをかけていて、

黒くて威圧的なジャケットを羽織った男。


その男を見た途端、忘れていた記憶を思い出す。

……いや、思い出さないようにしていた、の方が正しい。


その男は、見た目こそ変わったが、かつての面影がある。

憎たらしい。ああ、憎たらしい。

(はらわた)が煮えくり返ってしまいそうだ!


「こいつだ。」

「……。」

「こいつだよ。(みなと)。」

「!」


目が血走り、唇を血が出るほど噛み、

真っ直ぐ前を向く俺を見て、(みなと)が察する。


「お、はっけーん。」

「でかした、中途(なかみち)!」


「俺の! 両親を! 殺したのは!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

某年12月25日 0:00


その日は、酷く激しく真っ白な雪が降っていた。

「サンタさんを捕らえてやるんだ」と宣って、

ガキの俺は、ただ寝たふりをに徹していた。


時計の針がてっぺんを指す頃。

母さんの断末魔が聞こえた。

俺は事の異常さに気づき、すぐに階段を駆け下りた。


居間の前には、母親の上半身が

虚ろな目をして横たわっていた。


居間の方に目をやると、

赤みがかった白い髪の毛を逆立て、

特徴的な大きいコブの付いた右腕で

俺の父親の顔面を掴む筋骨隆々の大男がいた。


父さんはまだ生きていた。

でも、次の瞬間には頭を卵のように握り潰され死んだ。

子供とは、無知で、非力で、未熟で、不孝で、

なによりとても弱い存在だ。

俺は目の前に広がる状況をなかなか受け入れることが出来ず、ただ廊下に立ち尽くしていた。


「あちゃー。見られちゃったかー。

 ガキを殺す趣味は無いけど…仕方がないよな。」


男がゆっくり、ゆっくりと、

まるで俺の恐怖で歪んだ顔を楽しむかのように、

大きな足音を立てながら近づいてくる。


丁度その時だった。


「【ラックアンラック】」


俺は死に際に立って、ようやく能力に目覚めた。

…もっと早ければ、父さんや母さんを救えただろうか。


あとはもう、記憶に(もや)がかかったように思い出せない。

鮮明に覚えているのは、

両親の決して安らかとは言えない死に顔と、

豪雪の中へ走り去っていく彼、

赤い炎に包まれ崩壊する我が家、

そして、絶え間なく続く全身の痛みだけだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


…どんな運命の巡り合わせなのだろう。

憎き憎き恨み募る相手が、わざわざ会いに来たのだ。

刺し違えても殺す。何度でも殺す。


「【ラックアンラック】!」

『「待て(らく)! 早まるな!」』


「………相手、なんか怒ってない?」

「うーん…昔のオレが何かやったのかもなぁ。

 やんちゃだったからなぁ。覚えてないわ〜。」


【ロケットパンチを撃つ能力】。

この際もう、どんな能力でもいい。殺せるなら。

照準を男に合わせ、心臓目掛けて放つ。


中途(なかみち)。下がれ。」


男はそう言い、右手の黒い手袋を外し、

大きなコブの付いた手を(あらわ)にする。


「ここだ。」


手を空中にかざすと衝撃波が起こり、

【ロケットパンチ】の軌道が大きく変わって、

見当違いの方向に飛んで行ってしまった。


数秒の時間をおいて、

飛ばして無くなったはずの右手が生え替わる。


「いきなり攻撃するのはマナー違反って、

 親から教えてもらわなかったのか?非常識人。」


男が煽る。俺はもう自我を失いかけていた。


「落ち着け(らく)!」

「落ち着いていられるかよ!」

「聞け! あいつの能力は得体が知れない。」


それを聞いた男は嘲笑うように言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

嘘つけ兄ちゃん。いや、一元。

お前は、俺のすべてを知っているはずだぜ?

お前の持つ、【情報を知り、記憶する能力】でな。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それを聞いた俺たちはさすがに動揺した。


「なんで……お前がそんなこと知って………」

(みなと)はぽつりと疑問を零す。

当然だ。(みなと)の能力の詳細は、俺しか知らない。

蝶野楽(ちょうのらく)以外が知り得るはずがない。


………いや、待て。


(みなと)の能力は、普段俺がカシにそうされているように、

セーフティロックがかけられている。

情報の強制的な記憶は、脳に多大な負担を与えるからだ。

要するに、今の(みなと)は彼らのことを何も知らない。

にも関わらず、彼は()()()()()()()と豪語した。


そこから導き出される結論。

こいつらの持つ情報は()()()

大丈夫。落ち着いて冷静に考えれば、勝機はある。


(みなと)。」

「分かっているよ、(らく)

 つまり、()()()()()()()()()?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【情報掌握】制限(リミッター)解除

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(みなと)の瞳が緑色から赤色に変わる。


円谷大(つむらやだい)半端中途(なかばたなかみち)

 円谷は【丸いものを一瞬巨大化する能力】。

 弱点は対象の座標が正確に分からないと使えないこと。

 半端は【何事も中途半端に遂行する能力】。

 弱点は、本人に能力の自覚が無く、

 自分一人では能力が足枷にしかならな……おえ!」


(みなと)が鼻血を垂らし、嘔吐する。

能力を使用した代償だろう。

無理をさせてしまって申し訳ない。

だが、今ので相手の名前、能力、弱点が分かった。


「さっすが、情報の掌握はお手の物って感じだなぁ。」

「なあ、僕ら、大丈夫なのかな?」

「なぁに、オレたちゃ、日本で一番のバディだろ?」

「そうだね!」


(みなと)………大丈……ガハッ」


不味い。能力の代償を考えてなかった。

我に返った途端に、全身の神経が焼き切れたように痛み、

ぴくりとも動けなくなる。

心臓の鼓動はみるみる弱まり、視界がぼやける。


『……馬鹿が。』

「すまん カシ。 助けてくれ。」

()()()()()()()だろ。このボケナス。』

「……助けてください」

『よろしい。では、こうしよう。まずは……』



(みみへん)



(らく)は【ロケットパンチ】をうずくまる(みなと)に向かって放ち、

()()()()遥か彼方にぶっ飛ばす。


「なんだぁ? 仲間割れか?」

「これは何のつもりだ! (らく)!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これで、しばらくお別れだ。(みなと)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(らく)は死別を連想させる台詞を吐く。


「「!」」

(らく)! 俺はそんなの認めない!

 これを止めるんだ! クソッ! 離せ!」


(みなと)は受け入れ難い状況に足掻くも、

俺の放った【ロケットパンチ】を引き剥がせない。


「さて、円谷大(つむらやだい)だったか。

 お前はまさか、尻尾を巻いて逃げるなんて、

 弱者みたいな真似はしないよな。」

「あ゛あん!?」


(らく)は、まるで()()()()()()ように、

的確に相手の逆鱗に触れ、挑発する。


「だ、(だい)くん? 挑発に乗っちゃ駄目だよ!」

「黙ってろ中途(なかみち)。男はな、

 喧嘩を売られたら買うのが常識なんだよ。」

「へー。そうなんだ。」

「おう……ん?」


円谷大(つむらやだい)は会話に夢中になっている隙に、

蝶野楽(ちょうのらく)によって近づかれ、ぎゅっと抱きつかれる。


「…何のつもりだ、お前は。」

「タイワンアリタケって知ってるか?」

「……知らん。タイワンも、アリタケも知らん。」

「蟻に寄生するキノコだ。

 そのキノコは、宿主の蟻を木の枝なんかに

 噛みつかせて、そのまま死なせるんだと。」

「オレは、つまんねー長話は嫌いなんだけど?」

「その行動…『デス・グリップ』って言うんだが、

 筋肉が異常収縮することで引き起こされてさ、」


(らく)の身体がギシッと音を立てて、より強く抱きつき、

さらに、円谷大(つむらやだい)の首筋に噛みつく。


「ぎゃああああああああああ!!!」

(だい)くん!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

()()()()()()()()んだって。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「痛ェ!お前!離れろよ! ……力強ッ!?」

「ね、ねぇ、様子変じゃない?」

「あ゛?」


蝶野楽(ちょうのらく)らしき器は、ぴくりとも動かなくなる。


「……………死んでる。」

「え? ウソ!?」


何ということだろうか。

標的が戦いが本格的に始まる前に死んでしまった。

これを、雇い主にどう報告したら良いだろうか。


そんなことを、呑気に考えているらしい。

こちらの策略にハマっているとも知らずに。


瞬間、(らく)の身体に亀裂が入り、

青白く発光し始める。まるで、()()みたいに。


「………冗談じゃねえ。 冗談じゃねぇよ!」

「!?!?!?」


刺客2人は目に見えて焦り始める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『これから君の身体を乗っ取って、

 現状可能な最善の方法を用いて戦略的撤退を試みる。』

「逃げんのか? 仇が目の前にいるのに。」

『準備が足りない。復讐するなら、念入りに。

 今戦ったところで、あまりにこっちが不利だ。』

「……分かったよ。」

『理解してもらえて嬉しいよ。

 では初めに説明しておきたいんだが。』

「ん?」

『この作戦でミスを犯すと、君は死ぬ。』

「ハイリスクじゃん。」

『そう。ハイリスク。君は覚えているかな?

 俺が以前君に話した、君の能力のデメリットを。』

「“爆発四散”?」

『そう。君はついさっき、

 【ラックアンラック】と唱えてしまった。

 なので、君はあと数十秒で爆死する。』

「そういえばそうだったわ。

 ん? でも、最近2回唱えたけど、

 その2回とも痛みはあれど、爆死しなかったぞ。」

『今までの能力発動は恐らく、

 (みなと)がくれたお守りのおかげで助かったのだろう。

 あれには《祈り》と呼ばれる、

 【運】に近しいエネルギーが込められていたからな。』

「なるほど。」

『だが、今はそれを持っていない。

 君は恐らく気づいていないだろうが、

 3人目の刺客・向田(むこうだ)ミルとの戦いで、

 呪文を唱えた時に焼失したからな。』

「あー。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(らく)の身体はどんどん崩れるが、

その瞳に宿る【殺意】は決して衰えなかった。


自己犠牲による究極の一撃。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

死ね

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(らく)の身体が激しく音を立てて破裂する。

周囲には腐乱臭が散らばり、

肉片や内臓の一部があたりに散らばった。

一般客の皆さんごめんなさい。


「ああああああああああああ!」


円谷大(つむらやだい)を死に至らしめるまでは行かなかったが、

体表を黒く焼け焦がし、顔の1/3を大火傷にできた。


「クソッ! なんて日だ!

 世界一嫌なだいしゅきほーるどだったぜ!」

「……なにそれ?」

「純粋なお前は知らなくていい!

 それよりも、中途(なかみち)に頼みたいことがある。

 2秒以内に最寄りの医療機関に俺を運べ。」

「やってみる。」



(あしへん)



「ぐぇっ!」


【ロケットパンチ】に吹き飛ばされた(みなと)は、

遊園地の入場口前に着地した。


「クソッ! (らく)のやつ、何のつもりだ!」


一元湊(いちもとみなと)はある1つの可能性を危惧していた。


――(らく)は相手を道連れに死ぬ気だ。

勿論、それが気の所為だったなら、ただの笑い話で済む。

だが、あの覚悟のこもった目は、

ある種の【死相】のようなものを感じさせた。

もしこの仮定が正しいなら、

なんとしても彼を止めなければならない。


「――――ッッッッッ!」


視界がぐにゃっと歪み、

頭をトンカチで殴られたような痛みを覚える。

たった数秒間に受信した情報量が、

人間の処理できるそれをはるかに凌駕したのだ。


四肢が震え、最早まともに立つことすら叶わない。

そんな時、元居た方角から爆発音が聞こえた。

大勢の人々の悲鳴と共に、

拒んでも拒んでも、情報が、流れてくる。


《セーフティロック》が再びかかるまで時間を要する。

だから、嫌ってほどに流れてくるのだ。

通行人が目撃した親友の最期や断末魔、

飛び散る肉片、生き延びた刺客が走る様。


「馬鹿……………野郎。」


友達(ダチ)は俺を安全な場所に避難させた後、

相手と相討ちになることを承知で自爆した。

この世から、たった一人の友人が、消えた。


「俺………お前がいないと………」


心にぽっかり穴があいたような、

痛みが、後悔が、寂しさが、棘のように突き刺さる。


守れなかった。守れなかった。守れなかった。

俺は、肝心な時にいつも側に居ない。

側に居てあげられなかった。助けられなかった。


『グゴゴッ  ベキッ バキバキッ メキッ』


異音。振り返ると、(らく)の右手が、

痛々しい音を立てながら肥大化していた。


「なん………だ……これ。」


俺はその瞬間得た情報を、生まれて初めて疑った。

それの持つ情報は絶えず変化する。

やがて《何者かの肉片》から《見知った友人》の

情報に切り替わった時、それは人型の形をとった。


「…………(らく)………………………なのか?」

「お゛…………お゛…うぅぅぅう。」


まだ声帯が完全に作られていないのだろう。

黒い肉汁を垂らしながら、それは唸った。


やがてそれは、蝶野楽(ちょうのらく)になった。


「本当に、(らく)なのか?」

「…! お、おう。俺は(らく)だ。

 (みなと)、お前、すげー酷い顔してる。

 もしかして、俺が死んだと思って泣いてた?」

「…そうだよ。」

「……あっさり認めるんだな。」

「当然だ!!!」


(みなと)が大粒の涙を流しながら叫ぶ。


「俺が…!どれだけ心配したと思ってやがる!

 俺、俺さ、お前が、し、死んだかもって、

 ふ、不安で、不安でさあっ………!俺ェ……………!」

「分かった!分かったよ!ごめんって!

 一旦深呼吸!一緒に深呼吸して!落ち着け!」


「「すぅ〜………   はぁぁぁぁぁぁ………」」


「落ち着いた?」

「少しな………うぅっ……。」

「泣くなよ。罪悪感すげぇから。」

「…じゃあ謝って。」

「へ?」

「謝って!」


(みなと)が子供のように頬を膨らませて言う。


「ほら!謝って!」

「ご…ごめんなさい。」

「抱きしめて!」

「お、おう? よしよし……」

「パフェ奢って!」

「図々しいな!?」

「あと………もう、二度とこんなことしないで。」

「……………。」

(らく)はいつも、そうじゃないか。

 自ら危ないことに向かって行って、

 ボロボロになって帰って来る。」

「否定できん……。」

「だから、二度とこんな無茶しないで。」

「…約束するよ。」


俺は、その場しのぎの嘘をついた。


⇐to be continued

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