表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第3楽章「清濁戦争」
55/58

49話「不純異性交遊」

――田中(たなか)鋼一(こういち) 自宅



「おはようございます。」

「おはよー。」


眠たげに(まぶた)(こす)りながら起きてきたのは、

田中(たなか)鋼一(こういち)の妹・鋼音(はがね)だ。


そしてそれをダイニングで明るく迎えたのは、半端中途(なかばたなかみち)

天馬(てんま)正和(まさかず)の提案で、少し前から兄と同棲(どうせい)しているそうだ。


「……あれ? お兄様(にいさま)は?」

「モグモグ。もうトレーニングに行ったよ。」

「嘘でしょ!?」

「ホントホント。病み上がりなのに無茶するよねー。

 昼前には帰ってくるからゆっくりしててだって。」

「そうですか…。」


やがて田中鋼音(たなかはがね)は洗面所から戻ってきて、

トースターのパンをもさもさと食べ始めた。


『ピンポーン』


「呼び鈴鳴ったよー。」

「プイッ。」

「……しょうがないなぁ」


鋼音(はがね)渋々(しぶしぶ)立ち上がり、

インターホンのモニターを確認する。

そこには、白髪(はくはつ)の美少女が立っていた。


「おはようございます。何か御用でしょうか。」


鋼音(はがね)が扉を開けると、しばし女は絶句した。


「か、かわいい女の子が居る!!!?」

「かっ…かわ!?」


女は鋼音(はがね)と両手を(つな)ぐ。


「!?!?」

「えーー!! めっちゃかわいい!!

 いつからここに居るの!? メイク何使ってる!?」

「に、2週間前から居ます。すっぴんです……。」

「すっぴん!?!?」


玄関口で騒いでいると、奥から半端中途(なかばたなかみち)が出てくる。


「あ、天馬(てんま)妹じゃん。」

「あ、半端(なかばた)さん。……玉子(たまこ)って名前で呼んでください。

 …まあいいです! 貴方(あて)に手紙を渡しに来ました。

 兄様(あにさま)が直接渡してほしいとのことでしたので。」

「えー、なんだろう。」


半端(なかばた)が封筒を開封する横で、2名の美少女は会話を続ける。


「2人は同棲(どうせい)なさっているんですか?」

「はい! ……というのも、

 私がお兄様(にいさま)に無理言って頼んだのですが。」

「お兄様(にいさま)?」

「私は田中(たなか)鋼一(こういち)の妹、田中鋼音(たなかはがね)です!」

「ええええええ!?!?!?」


天馬玉子(てんまたまこ)は目をぱちくりさせる。


「せ、生命の神秘〜。」

(けな)してますか?」

「褒めてます。」


そんなこんなで会話している間に、

半端中途(なかばたなかみち)は大慌てで外出の準備を進める。


「ちょっと、どうしたの?」

「急用ができたの! 昼ごはんは要らない!

 今すぐ出なきゃだから、じゃあね!!!」

「う……うん。じゃあ、また……。」


半端中途(なかばたなかみち)は破竹の勢いで駆け抜けて行った。


「何だったんだろう……。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


―― 一方、同時刻 別の場所では。



(らく)さん、この服どうですかね!?」

「は、はい。」


俺、蝶野楽(ちょうのらく)は、何がどうしてこうなったのか、

ピンク髪の自称“俺のファン”染井好乃(そめいよしの)と、

ショッピングモールにやって来ていた。


そうだ、そういえば数日前……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――数日前、一元(いちもと)(みなと)の事務所にて。



「高額の依頼が来ている。」

「それってヤバいやつ?」

「ああ。」


(みなと)が依頼内容の書かれた紙を渡す。


「……1日買い物に付き合うだけ?

 え? それだけでこんなにもらえるの?」

「ああ。怪しいだろ。嫌だったらやめていいぞ。」


「それにこの依頼者の名前……染井(そめい)好乃(よしの)

 これってもしかして、あの好乃(よしの)さん!?」

「嫌だったらやめていいぞ。」


「でもショッピングモールって

 子どもん頃に行って以来だし気になるから、

 せっかくだし、ちょっと行ってみようかな。」

「嫌だったらやめていいぞ。」

(みなと) お前どんだけ行ってほしくねぇんだよ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


というわけで、今日の俺の仕事は、

染井好乃(そめいよしの)さんの買い物に付き合うことだ。


「でもこっちの服もいいと思うんですよね…。

 (らく)さんはどっちの服がいいと思いますか?」

「!?」


やばい……分からん。

俺はそもそも服に関しては無頓着だから、

どんな服が大衆ウケするのかまったく分からない。


まして、たいして女性と出かける機会など、

(すずめ)の涙ほども無かったから、(つゆ)ほども分からない。



脳内を高速回転させる蝶野楽(ちょうのらく)を、

遠くから静かに見守る男が居た。


そう、蝶野楽(ちょうのらく)友達(ダチ)一元(いちもと)(みなと)だ。


「クソッあんなに楽しそうにしやがって……!!

 (らく)が困ってんのが見えてないのか?

 やっぱり今からでも染井好乃(そめいよしの)に介入して……」

「バカタレ。」

「あ(いた)っ。」


後頭部を軽く殴られる。

振り返るとそこには白髪(はくはつ)の男が立っていた。


「げっ。天馬(てんま)正和(まさかず)。」

「『げっ』とは何だ、『げっ』とは。」

「今忙しいんだ。邪魔しないでくれないか。」

「奇遇だな。私もパトロール中に変質者を見つけて、

 その扱いに困っているところだ。」

「手伝おうか?」

「貴様のことだぞ。」

「俺は変質者では断じて無い。

 (らく)を少々後ろから付け回してるだけだ。」

世間(せけん)はそれを“ストーカー”と呼ぶ。」


天馬(てんま)(みなと)に合わせてしゃがむ。


「それで? なぜそんなことをするんだ?」

(らく)は今、染井好乃(そめいよしの)という女とデートをしている。」

「ンン゛ッ!!!??」


天馬(てんま)が吐血する。


「どうした。」

「いや…()()が女子とデートしているとなると、

 なんか蚊帳(かや)の外みたいな感じがしてダメージが…。」

「ん? お前は(らく)友達(ダチ)なのか?」

「やめろ!!! 私の傷口を嬉々として(えぐ)るなぁ!!!」

()()断言されたぞ。友達(ダチ)だと。」

「い、いやでもほら………。

 私はこの前誕生日プレゼントもらったし……。」

(らく)の押し入れの奥底にあったハンドスピナーが

 そんなに嬉しかったのか? アラサー天馬(てんま)。」

「それは本当にやめろ!!!!!

 もう“ギリギリ20代”が名乗れなくて辛いんだぞ!!」

「知らんがな。」

「貴様もいずれは私のように年老いていくんだ。

 20代、30代、40代………重ねる(とし)に思いを()せるんだ。

 トイレの回数が増えたり、1日を短く感じたり、

 健康診断の結果に一喜一憂したりするんだぞ貴様も。」

「ごめんごめん。からかいすぎた。

 悪かったって。後でパフェ(おご)ってやるから。」

「いや…………いい。」

「どうして? 甘い物好きだろ?」

「……次の健康診断に響く。」

「あ………うん。」


2人は目線を(らく)好乃(よしの)に向ける。



「ねぇ〜、(らく)さんは、どっちがいいと思うの?」



(らく)、まだ悩んでんのか。

 どうせ(らく)のセンスなんて参考にならないんだから

 とっとと(いさぎよ)(らく)の好きな方選べばいいのに。」

「貴様は友達に対して厳しすぎないか!?

 普段の君はここまで辛辣(しんらつ)ではないだろう!?

 あ!分かった。友達が好乃(よしの)に盗られて嫉妬を――」

「それ以上(しゃべ)ったら2度と戯言(たわごと)を言わないよう、

 この携帯用裁縫(さいほう)セットでその口を()うぞ。」

「図星か。」

「・・・・・。」

「うぉぉ!? 本当に()おうとするな!!!」



みみへん



「というか、ここまで黙り込まれては、

 相手の女の子も流石(さすが)(あき)れるんじゃないか?」

「そうなってくれた方がこちらとしてはありがたいが、

 残念ながら彼女はそういう次元ではない。」

「ハッ!?」


染井好乃(そめいよしの)は飽き飽きとするどころか、

むしろ自分のことを一生懸命に考える(らく)を見て、

自然と口角が上がっているようだった。


愉悦(ゆえつ)ってる!!!」

愉悦(ゆえつ)ってやがります。」


天馬(てんま)は顔を曇らせた。


「そういえば、私も似たようなことあったなぁ…。」

「どんな?」

「あれは妹が服買うのに付き合った時のことなんだが…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


兄様(あにさま)! こちらの服とこちらの服、

 どちらがより私に似合うでしょうか?」

「…どっちも似合ってると思うよ。」

「0点! 退学! 市中引き回しの刑!」

「えぇ!? そんなに酷いこと言った!?」


妹・玉子(たまこ)は兄・正和(まさかず)をビシッと指差す。


「いいですか、兄様(あにさま)

 こういう時の女の子というものは、

 既に自分の中で1つの解を持っています。」

「じゃあもうそれで良くない!?」

「いいえ。それは賢い選択ではない。

 根拠(エビデンス)なき主観による選択は愚か者のすることです。

 世の女性が求めているのは、“同調”。

 『こっち買いたいけど、一応聞いとくか』感覚です。

 好きな人に“同調”してもらった上で買いたい。

 少なくとも私はそう思っていますよ。」

「いや理不尽がすぎない!?

 クイズ番組のラスト問題が1億点あるくらい理不尽!!

 もしそれで買いたい方とは逆の方を選んじゃったら、

 その時はどうするのさ!」

「『チッッッッッ!!!(クソデカ舌打ち)』て感じですかね。」

「ひどい!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「――というわけだ。」

「……いや『どっちでもいい』は駄目だろ。」

「『どっちも似合ってる』だ!!!」

「いやいや、もうほぼ同義だろ。

 本当に私のこと考えてる?って思っちゃうわ。」

「乙女か!」


この時、天馬(てんま)正和(まさかず)にメールが届く。


「なんか鳴ってるぞ。」

「ん?ああ。……話奏(わかな)からだな。

 『今すぐJEC本部に来い』とのことだ。」

「おう。」

「・・・・・。」

「・・・・・いや、行けよ。」

「『現在重要任務に当たっているため、

 そちらに向かうことはできません。』送信っと。」

「お、お前………。」


そこで、蝶野楽(ちょうのらく)がついに口を開く。


「えっ、えっと、あの、

 あんまり選んだこと無いから……

 というか、選んだこと全く無いし、

 表現する語彙(ごい)力も全然ないから、

 参考になるかは分かんないんだけどね、


 まず右の方、そう、こっちのセーターは、

 肌触りもなんかフワフワで良い感じだし、

 デザインもキュートで素敵だと思うんだけど、


 でも俺は左の方、こっちの白いセーターが好きかな。

 デザインがシンプルながら、どこか大人びてて、

 そこがなんかこう……心にキュンと刺さる……かな。


 ……ごめん。完全に俺の好みなんだけど。」



「あれはどうなんだ、(みなと)。」と天馬(てんま)が問う。

一元(いちもと)(みなと)は一拍おいて答えた。


「結構説明がグダってはいるものの、

 (らく)(らく)なりに精一杯考えて出した答えだ。故に――」



染井好乃(そめいよしの)が一瞬恍惚(こうこつ)とした笑みを見せ、

すぐに取り(つくろ)い、(らく)に礼を言った。


「ありがとう。じゃあこっちの白いセーターにするね!」

「や、役に立てたなら良かったです。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

――満点だな。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後もなんやかんや様々な服屋等を見て、

2、3着ほど追加で購入し、買い物が終了した。


「もう終わっちゃった。想像よりも早く片付いたなぁ。」

「そ、そうですね。」


今は一旦休憩ということで、

ショッピングモール内のカフェに座っていた。


「でも私は()()(らく)さんに付き合ってもらう予定だから、

 今解散するのはもったいないカンジがするのよね。」

「は、はぁ………。」

「そこで! ジャ〜ン!!」


染井好乃(そめいよしの)がチケットのようなものを取り出す。


「実は丁度今、上の階の映画館の株主優待券を、

 ぴったり2枚持ってるんだよね〜。いや〜偶然偶然。」

「(嘘つけ!!!!!!)」「((みなと)、抑えて抑えて!!)」


染井好乃(そめいよしの)のわざとらしすぎる提案に、

すぐ後ろの席に座った(みなと)が激情を(あらわ)にし、

乱入しようとする彼を天馬(てんま)が必死に止める。


「あんなの偶然な訳がない。(はか)ったんだあの女!

 (らく)に色目ばっか使やがって!! 邪魔してやる!!」

「やめ…何で……そんなに嫌なのにOKだしたんだ貴様は!!!」

「え?」

「うわぁ!! 急に落ち着くな!!!」


暴れていた(みなと)の身体から力が抜ける。

そして頭を抱えて悩みだした。


「俺はどうして許可なんて出したんだ!?

 普段の俺なら絶対に許可なんて出さないのに…!!」

「お、おい……大丈夫か?」

「そ、そうだ!! 思い出した! あの女は―――!」


✺ 邪魔をするな ✺


「――今何の話してたっけ?」

「…はぁ?? ど、どうした? 頭大丈夫か?

 ついさっきまで貴様は(らく)のことを………。」

「…頭痛い。もう帰って休むわ。」

「そ、そうですか……。」


一元(いちもと)(みなと)が先に離席する。


「……1人になっちゃいました。

 これからが良いところなのに、もったいない。」


そうして天馬(てんま)(らく)に注意を戻そうとしたその時、

彼に向かって声が投げかけられる。


「こんにちは。」

「!?」


伝能(でんのう)話奏(わかな)だ。張り付けたような笑顔だ。

目が笑っていない。声のトーンが異様に高い。怖い。


「き、奇遇ですね。」

「ええ本当に奇遇ですよ。こんなところで会うなんて。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 JEC本部に来るように連絡があったはずなのに、

 どうしてこんなところで油を売っているんでしょう。

 『重要任務』とやらはどうしたんですか?」

「お、怒ってる?」

「怒ってません!!!」


いや怒っとるやないかい、と言うのはご法度(はっと)だ。


「ほら、行きますよ。」

「いやでも…」

「あ゛?」

「……ごめんなさい。」


天馬(てんま)正和(まさかず)伝能(でんのう)話奏(わかな)に引きずられていった。

……こうして、()()()は居なくなった。


「それじゃあ、行こっか!」

「う、うん。それで、どの映画を観るの?」

「え? うーんとね、今流行(はや)りの……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


激しい息づかいが聞こえる。

恐怖で呼吸が浅く速くなっているのだろう。


トイレの個室の中で、男が震えている。


外から、足音が聞こえてくる。

ひた、ひた、ひた。それは近づいている。


ひた。それは扉の前で止まる。

同時に、ドアが壊れそうなほどに激しく、

絶叫とともに力強いノックが繰り返される。


男はひたすら謝っている。


やがてノック音が止み、足音が遠ざかっていく。


誰もが「やり過ごした」と思った次の瞬間。

視界内に、黒くて細長い糸の(たば)が、降りてくる。

するり、するりと降りたそれは、床に達する。

男は、恐る恐る上へと顔を向ける。


そこには……


『ヴォアアアアアアアア!!!』

『うわああああああああ!?!?』


女の霊が(のぞ)き込む姿があった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


蝶野楽(ちょうのらく)は涙した。

(らく)はホラー映画を観るのは初めてだったが、

もう既に映画館から抜け出したくなっていた。


(らく)にとって、今の状況は拷問(ごうもん)に等しかった。

だがスクリーンから目を背けることはしなかった。


その時、右手に(ほの)かな温かみが乗った。

横の席の染井好乃(そめいよしの)が、(らく)の手を握っているのだ。

まるで「大丈夫だよ」と言い聞かせるかのように。


(らく)は亡き母のことを思い出した。


じいちゃんの家に泊まる時、

田舎(いなか)の夜さながらのべたつくような恐怖で、

(らく)は母親の手を握らなければ寝られなかった。


染井好乃(そめいよしの)の手には、母に似た安心感があった。


「(これならまだ、耐えられるかも……。)」



✺ ああ 本当に(いと)おしい ✺


たかが服選びと怠慢(たいまん)せずに、

私のために、こんなにも必死になってくれる。


本当はホラー映画が苦手なくせに、

私の好みに合わせて一緒に観てくれる。


なんて愛らしいんだろう。


やっぱり、今すぐにでも手に入れたい。

無理矢理にでも攻め落として、籠絡(ろうらく)させたい。


でも駄目。まだその時期じゃない。


(らく)さん!映画、面白かったですねー!」

「は、はい……。」


(エサ)を与えて、(エサ)を与えて、

その心がぶくぶくと肥えきって、“食べ頃”になったら、

私がこの手で(むさぼ)り、その身果てるまで食べ尽くす。


感度良好、視界はクリア、音質上々、魅力的(チャーミング)

…運が良いなぁ。こんなに良い(うつわ)が手に入るなんて。



にちへん



それからもショッピングモール中を歩き回って、

そしたらいつの間にか、夕暮れ時になっていた。


染井好乃(そめいよしの)は十分に満足したらしく、

ショッピングモール前で解散することになった。


「ねぇ、今度はさ、仕事とか関係なく、

 2人っきりで遊びに出かけてみない?」

「え?」


その際、このような提案をされたことを、

俺は本当に驚いた。


「ぷ、プライベートで、……ってこと?」

「そう。2人きりで。」

「ど、どうして?」

(らく)さんといると、幸せだからです。」


そ、それって……?


「まあでも生憎(あいにく)、これから本業の方が忙しいので、

 残念ながら、当分はお出かけできないんですよね…。」

「そ、そうですか……。」


当分会えないのか。なんか物寂しいような……。


「だから」


染井好乃(そめいよしの)がQRコードを提示する。


「連絡先、交換しよ?」

「は、はい!」


こうして(らく)は、初めて女性の連絡先を手に入れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……本当に哀れだな、蝶野楽(ちょうのらく)。」


閉ざされた精神世界で、三月幻魔(みつきげんま)が茶を(すす)る。

モニターに映る染井好乃(そめいよしの)の笑顔を見ながら。


「偶然の賜物(たまもの)か、あるいは神の気まぐれか。

 奇しくも、(らく)(めぐ)り合ったわけだ。

 ………憎い憎い殺したいほど憎い私の因縁(いんねん)の相手と。」


カップを握る手に力がこもる。


「やっと。やっと好機が訪れた。

 まさか本当に釣れるとは夢にも思わなかったが、

 ずっと雲隠れしていた彼女がついに尻尾(しっぽ)を出した。

 (らく)には悪いが、このまま彼女を(おび)き寄せる(えさ)として、

 これからも丁重に扱わせてもらうとしよう。」


三月(みつき)(ふところ)から1枚の写真を取り出す。

そこには若き日の米塚削盛(よねづかさくもり)と自分、

そして、聖川(ひじりかわ)千尋(ちひろ)の姿が写っていた。


「待ってろ千尋(ちひろ)。もうすぐ助けてやる。

 待ってろ『アイ』。もうすぐその首()ねてやる。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

All for you.(すべては、君のために。)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


⇐ to be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ