前日譚「望月」
「番外」と違い、本編を読み進める上でとても大切なエピソードです。是非ご覧ください!
舞台は『全世界同時爆破予告事件』よりも前。
10年ばかし前、ある望月の夜に大敗した、
とある男たちの物語である。
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――日本 都内某所 路地裏
「お願い……っ。やめて………っ。」
「ぎゃははははーっ!
やけにいい身体つきしてるチャンネーじゃねぇか。」
「ゲースゲスゲスゲスゲス!
兄ちゃんらとイイことしようや……。」
まだJECがまだただの慈善団体で、
政府が能力者に対し有効打を持っていなかった時代。
それは、自分の力を私利私欲に利用する、
下卑た欲と犯罪で満ちた、まさに地獄であった。
「お願い……っ。誰か…………、助けて…………!」
だがこんな時代でも、僅かながらに存在するのだ。
「お前ら、何してんだァ?」
――歪んだ正義を持った偽善者という者が。
「だ、誰だお前は!?」「いつの間に!?」
「呼ばれて!飛び出て、ババババーン!
“性欲の権化”聖川千尋様のご登場だァ!」
「「お呼びじゃねーよ!!!」」
「そりゃあ良かった!!!」
千尋の右腕がタコの触手に変化し、男どもを弾き飛ばす。
「呼ぶ暇が省けたっつーワケだからな!」
千尋は右腕をもとに戻し、手を差し伸べる。
「立てるかい? お嬢さん。」
足!
「2時間遅刻だぞバカ!」
「すいません!!!」
このスーツの男は、“睡眠欲の権化”三月幻魔。
オレの大切な友達だ。
「チヒロ、また怒られてるー。あはは!」
「クソガキィ…!あんま舐め腐ってると後悔するぞ!」
「やってみろよおじさん。」
「お・に・い・さ・ん・だ!」
このクソガキは“米塚削盛”。
《義賊ごっこ》中に拾って、そのままオレ達で育てている。
「まったく…。私が現実に居られるのはMAX6時間。
その三分の一を無駄にしたんだからな、お前は!」
「悪かったって。反省してるよ。」
「じゃあ何で遅刻したのか言ってみろよ。」
「…………人助け。」
「その後は?」
「お礼にって家に呼ばれてそのまま……」
「死ね!!!」
三月幻魔が血涙を流しながらキレる。
聖川千尋が苦笑いしながら謝る。
「だって仕方ないだろ!
涙を流して助けを求める女がいたら、
手を差し伸べるのが男っつーもんだろうが!」
「そのまま流れでヤるのは男なのか!?」
「『据え膳食わぬは男の恥』っていうだろ!」
「…はぁぁぁ。もういい。本題に入ろう。」
三月はもう諦めたように話を転換する。
どこからかプロジェクターを取り出し、説明する。
「今回の《義賊ごっこ》開催場所はここ。
日本一の大金持ち・月群統一の豪邸だ。」
「ついに来たか!」
「すごーい!おっき〜い!」
《義賊ごっこ》はオレと三月、
そして後から加わった米塚の3人の間で流行ってる遊び。
金持ちの家に入り込み、奴隷を解放し、財産を奪い、
貧しい人たちに寄付をする、The 偽善活動。
《義賊ごっこ》を繰り返し経験することで、
オレ達は仲をより一層深めていった。
「……でも月群統一ってどんな人?」
「ああ、削盛は知らなくても無理はない。
普段ニュースとか見てないからな。まあいい。
子どもでも分かるように解説しよう。」
「ありがとう!」
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月群統一は、一言で言えば、
ぽっと出のすごい強くて意地悪なお金持ちだ。
性別は男。だが容姿も出身地も何もかも不明。
麻薬を売り捌いたり、政治界に介入したり…。
奴隷を飼っているなんていうウワサもあるくらいだ。
じゃあどうして、警察はともかく、
あのJECが組織解体のために動かないのか。
それは簡単だ。
彼が率いる『月群財団』には、
めっちゃ強い能力者で構成される部下が大勢いる。
要するにすご〜〜〜く強いんだ。
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「なんだか聞いてて怖くなってきちゃった……。」
米塚削盛が恐怖で震える。
「………お前は全然怖がらないな、千尋。」
「あ? お前は無策で月群邸にカチコミ掛けよう
なんて言い出すようなタマじゃねぇだろ。
お前の頭脳はオレたちの中で1番だ。頼りにしてるぜ?」
「………調子狂うな。」
三月が頭をポリポリと掻く。
「こういう時に限ってこいつは頭いいからな…。」
「今のオレは『賢者』にジョブチェンジしてるからな。」
「そのままの勢いで『性犯罪者』に
ジョブチェンジしないように気をつけてくれよ?」
「安心しろ。オレは同意なき███に興味ねぇから。」
「米塚削盛が見てるだろうが!! 謹め!!!」
「███………?」
「今のは忘れろ削盛!!!」
(閑話休題)
「話を戻すが、この月群邸には、
一生遊んで暮らせるほどの金銀財宝があると聞く。
先日【情報屋】から仕入れた情報によれば、
3日後の満月の夜、月群は屋敷を開ける。
なんでも元貴族の息子が奴隷市に堕ちたらしい。
日本全国の金持ちがオークションに集うんだと。」
「じゃあ盗み放題じゃねーか!」
「いや千尋。そう簡単にはいかない。
留守の間、月群邸は《三本の懐刀》に守られている。」
「……なんだそりゃ。」
「【情報屋】がオマケにって教えてくれたんだ。
月群統一を守る3人のボディーガードらしい。
それも、一人一人が相当の猛者だとかなんとか…。」
「じゃあもし忍び込むなら、最悪の場合、
オレ達が一対一でヤり合う可能性もあるなァ。」
「そう。だからなるべくそうならないよう、
今まで以上に気を引き締めて事に臨もう。」
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――3日後、月群邸・ある一室にて。
鉄格子の窓の外で、月が楽しそうに照っている。
私はそれに向かって手を伸ばしてみるけれど、
やはりそこには手が届かない。
『月』と『自由』はよく似ている。
簡単には手に入らないところが、特に。
「(でも、私は諦めない。)」
それを手に入れるまで、私は決して諦めない。
きっといつか、誰かが私を連れ出してくれる。
『白馬の王子様』…。そう。きっと素敵な殿方が。
人!
「タイム! オレに力を貸してくれ!」
『パッチーン』
千尋が指を鳴らすとともに、世界は静止する。
これはオレに憑依させた【時間停止】の性獣の力だ。
「オラッ! お前ら起きろ!」
「「!」」
【時間停止】中は、オレが触れている物体だけが、
この世界で唯一『動く』ことを許されている。
それ以外の分子は、まるでかくれんぼのように静止し、
あたかも時が止まったようになってしまう。
しかし、実際には時間は経過している。
空の雲や星々が動いているのが良い証拠だ。
「じゃあ行くか! 毎度の恒例!」
「「押忍!」」
オレが触れていないと2人は動けないため、
肩を組んで横一列に並んだまま移動する。
その滑稽な姿は、小学校の運動会を彷彿とさせる。
足!
入口を抜け、長い廊下を進む。
この無駄に広い豪邸のどこに宝があるのやら。
そんなことを考えている最中、背後から殺気を感じた。
「お前らしゃがめ!」「「!?」」
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【転移弾】!
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紫色の霧の塊が、オレ達の頭上を過ぎて行った。
「ありゃ? 外しちゃったッス。」
「な、なんで……?」
「なんで、静止した世界で動けるんだァ!?」なんて、 ごく当然の疑問を零しかけるが、慌てて口を噤む。
長期間ヤッてきて分かってきた必勝法。
一つ、自分の能力を敵に悟られないこと。
ゲームだってそうだろ。どんなに強いボスでも、
攻略法が確立されてしまったらほぼ確実に負ける。
一つ、相手の能力をいち早く解明すること。
今言った通りだ。相手の「できること」が分かれば、
「できないこと」も分かる。そこが隙となる。
…だがコイツは何だ? まだガキに見えるぞ。
「まあいいッス。次は確実に殺るッス。」
目の前には紫色の霧のポータルのようなものがあり、
そこから紫パーカーの少年が上半身だけを出現させ、
壁尻の尻じゃない部分みてーになっていた。
「リベンジッス〜。」
男は再びポータルに戻り、そのポータルも消失した。
オレは指を鳴らして【時間停止】を解除し、
他2人に注意を促した。
「さて、こっからどうするよ、三月。“強制脱出”使うか?」
「いや、まだだ。あれはコストも高いし何より疲れる。
今警戒すべきは3人が分断されることだ。だから…」
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【ユメワタリ】
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「助かったぜ、三月!」「ありがとう、ミツキ!」
「べ、別に。このくらい、なんてことないさ。」
三月の能力で、ひとまずは何を逃れられた。
この霧と雲だらけの世界は【夢世界】といって、
人間が無意識に作り出す精神的な領域だ。
三月はこの【夢世界】に自由にアクセスすることができた。
「さて、ひとまず【夢世界】に逃げられたわけだけど、
あのパーカー男はおそらくワープ系の能力者だ。
千尋はどうやってかいくぐるべきだと思う?」
「オレに聞く!? …ワープ相手にすんのは初めてだ。
でもあーいう強い能力はキツーい代償が付き物だ。
……タイムの【時間停止】みたいにな………。」
千尋が左腕を強く押さえる。彼曰く、
止めた時間の十分の一の時間だけ、痛みが生じるそうだ。
「まあでも、無事にここへ逃げれて良かったなァ。」
「まったくだ。な、米塚。……米塚?」
辺りを見渡すが、さっきまで居たはずの米塚が居ない。
私たち2人の背筋に、悪寒が走る。
「まさか、こんな小細工で逃げられたと思ってるッスか?」
「うおおおおッ!?!?」
千尋の足元に紫色の霧が出現し、少年の腕が彼を掴む。
「千尋!!!」
私は手を伸ばした。だかそれは宙を切っただけだった。
千尋は地面に引き摺り込まれ、消失した。
「あー、なんだったっけ?」
背後に振り向くと、先のパーカー野郎が居た。
「『今警戒すべきは3人が分断されること』だっけ?」
「………君、いくつだ?」
「15。お前は?」
「21歳。私は年上だから、1つアドバイスをあげよう。」
「なんスか?」
「目上の人には、敬語を使うものだよ。」
三月は周囲に浮かぶ『雲』の1つをつかみ、
背後におどろおどろしい怪物を出現させる。
「ふーん。じゃあ必要ないッスね。」
パーカーのガキはフードをより深く被る。
「お前はおれっちよりも下ッス。」
「…親から口の利き方習わなかったのか、クソガキ?」
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――月群邸 大食堂
「イテッ。」
米塚削盛はやたら長いテーブルの上に落ちた。
「うっ……。痛いよ……。ミツキ。チヒロ……!」
「おいおい、こんなガキが侵入者ってマジかよ。」
声の方を見ると、大人が居た。
第一印象は『薄汚い肌のカウボーイ』。
唯一の違和感を挙げるならば、やはり左腕。
肩のあたりが異常に肥大化しており、
巨大な目と口がついている。まるで化け物だ。
そこ男はタバコに火をつけ、アゴに手をやる。
「オレァ、ガキ殺すのはあまり趣味じゃねェんだけどな。」
「僕はガキじゃない!」
「お、そうかい。」
男は米塚に左手を向ける。
「じゃァー、さっくりと殺しちまうかァー。」
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――月群邸 庭園
「いってて…どこだここはァ?」
聖川千尋が辺りを見渡すと、噴水があった。
そのはるか上空。男が立っている。
逆さの状態で浮いた黒い洋傘の柄に男が立っている。
「YOUが、移の言っていた侵入者か。」
「……無茶苦茶だなァ。」
後ろに束ねた黒い髪に、「↓」印の刺青。
きちっとした黒い革ジャンに、顎髭。
この中年男は、今まで戦った誰よりも強い。
そう、千尋は確信した。
「さて、YOUに1つ問おうか。」
「へっ。時刻でも聞く気か? ボケるにはまだ早いぜ?」
「ガキ。威勢だけは良いみてーだなァ。だが、未熟だ。」
男の威圧で、周囲の空気は重々しく変わる。
そして、段々と千尋の身体が浮き始める。
いや、彼だけではない。石も、草も、水も、すべて。
この庭園にあるありとあらゆるものが宙に浮いている。
「最高にイカしてるぜ、クソジジイ。」
「弱い犬ほどよく吠えるモンだなァ!」
男は洋傘を手に取り、オレに向ける。
「REVERSE:POWER Hurricane」
傘が開くと同時に突風が吹き荒れる。
だが千尋は間一髪で回避に成功する。
「無駄撃ちご苦労さんっ!」
「…猪口才な真似を……!」
千尋の触手攻撃を、男は軽々しく止める。
そのまま触手をくいと引き、千尋を地面へ放る。
「無知なYOUに俺様の名を教えてやろう。」
男は動けない千尋に傘を向ける。
「俺様はァ、月群が《三本の懐刀》の1人。
その名も、咲坂逆様だァ! What's your name?」
「オレは、聖川千尋。ド級の変態だァ!!!」
⇐ to be continued




