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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第2楽章「幸災楽禍」
52/58

48話「眼前デッド・ライン」

『正義実行委員会』。略してJEC。

今や全世界の約9割の国・地域を統治する組織。


国際政治にもずかずかと介入し、中には日本国のように、

既存の政治制度を形骸化させてしまった例もある。


そのため、反乱が起こることもしばしばある。

だがそれは大抵1日と経たずして収まる。

そして人々は口々に言うのだ。「正義は必ず勝つ」と。


そんなJECの前身となる組織は、

元々は(かみ)輝也(てるや)により独自運営されていた慈善団体だった。


しかし、世界各地での救護活動やパレスチナ問題の解決、

「クリスマスの惨劇未遂事件」、第三次世界大戦終結など、

さまざまな功績を残し、その実力を知らしめたことが、

今の絶対的な「正義」のイメージに繋がっている。



…そんなJECが“超危険犯罪者”と組むとなれば、

世界はこの前代未聞の事態をどう見るだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『……………は?』

「聞こえませんでしたか? 私が“睡眠欲”。

 “睡眠欲の権化”で有名な、三月幻魔(みつきげんま)です。」

『…………なんやと。』


モニター内に突如として現れた三月幻魔(みつきげんま)に、

(かみ)輝也(てるや)を除くすべての参加者が動揺を隠しきれずにいた。


それはヘイアンシティ支部支部長・(すめらぎ)扇風(せんぷう)にとっとも、

同様に確からしいことであった。


「驚かせてしまってすまない、JECの皆さん。

 急にどうしても一度挨拶してみたくなってしまって。」

『一体どういう風の吹き回しや。

 “性欲”はあなたの味方やないんか。』

「・・・・・仲間だったよ。大切な。」

『ほんなら――』

「あの日!!」

『?』


三月幻魔(みつきげんま)の顔が一瞬だけ崩れた。が、すぐ元に戻った。


「…10年ちょっと前のあの日、

 聖川(ひじりかわ)千尋(ちひろ)という男は()()()

 もう私の友人としての彼は、この世に存在しない。」

『………嘘吐くなや。』

「吐いてない。」

『ここはJECやぞ。』

「承知の上だ。嘘は吐かない。」


(すめらぎ)はさらに声を荒げる。


『やったら……!! ここ数年で連発しとる事件は何や!!

 大勢の人が亡くなっとる。居なくなっとる。

 私の支部にも家族を亡くした人がいるんやぞ!!

 しらばっくれんな すっとこどっこい!!!

 中には聖川(ひじりかわ)千尋(ちひろ)の姿見たっちゅー人までおる。

 現場に落ちてた血痕からも本人のものだと分かっとる。

 クリソツやないで!? どう考えても本人や!!!』

『ちょっと……!! (すめらぎ)支部長、抑えて……!!!』

紙重(かみしげ)は黙っとれ!! はっとばすぞ!!!』

『ホントにこの人 京都人のクセに本音隠さない!!!』


(すめらぎ)が感情を爆発させる中、

三月(みつき)は重く生気のこもっていない声で言う。


聖川(ひじりかわ)千尋(ちひろ)は『月群邸(つきむらてい)襲撃事件』で死亡した。

 すべては『アイ』によって仕組まれた罠だった。

 もし彼が私たちを逃がしてくれなかったら、

 私も、削盛(さくもり)も、彼と共に手駒にされていた。」


『待て待て待て。何をバカなこと言うとる。

 「月群邸(つきむらてい)襲撃事件」っちゅーんは、

 そこの天馬(てんま)の父親・義勝(よしかつ)が、一夜にして、

 “悪徳王”月群統一(つきむらとういち)を討伐した事件やないんか?

 なんであんたら“3畜生”が絡んでくんねん。』


(すめらぎ)が指摘したその時、(かみ)輝也(てるや)が立ち上がり、頭を下げた。


『……会長?』

「今日諸君に集まってもらったのは、

 JECが犯した1つの重大な罪について、

 告白したいという思いがあったこともあるんだ。」

『罪……?』


(かみ)輝也(てるや)が面を上げる。


「『月群邸(つきむらてい)襲撃事件』の真の概要は、

 日本国を揺るがす可能性があったことから、

 徹底的に隠蔽(いんぺい)し、今まで明かしていなかった。

 だが彼らと同盟を組む以上、我々は知らねばならない。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

月群邸(つきむらてい)襲撃事件』の真実について。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


―― 一方、アズマシティのある店にて。



「……うむ。やはり美味しいですね。」

「本当に飽きないんですね、男爵(だんしゃく)さん。」


カウンター席に、風変わりな二人組が座っている。


1人はカレーポットみたいな黒い二角帽子を被り、

茶色いコートを(まと)ってカレーを食している男。


もう1人は、フードを深く被り、

全身に包帯を巻いた青髪の男だった。


「飽きる? 冗談がお上手ですね。

 私にとってカレーとは生きがいなのです。

 それに飽きるなど、ありえるでしょうか。

 それは否。絶対にありえません。」

「日本語バリバリに使い慣れてますね。」

「日本語のマスターなど、朝カレー前ですよ。」


男爵(だんしゃく)と呼ばれた男は、

テーブルの上に置かれたペーパーナプキンを使い、

口周りの汚れを拭う。その一挙手一投足が実に上品だ。


「ふぅ。ごちそうさまでした。」

「(この人、もうすっかり日本国の文化に慣れてんな。)」


男爵(だんしゃく)は手と手を合わせ、深く頭を下げた。


「店長さん。貴方は素晴らしいコックのようですね。

 このカレーライス、大変美味にございました。


 まずにんじん。

 鮮やかなオレンジ色が食欲を(そそ)ります。

 ですが見た目だけでなく、味も良い。

 この絶妙な甘さが、ルーの辛さを引き立てている。


 続いて玉ねぎ。

 飴色になるまで炒めてあるところがとても良い。

 シャキシャキとした食感がクセになる。


 加えてじゃがいも。品種はメークインでしょうか?

 煮崩れしにくく、カレー本来の魅力を引き出す。

 実に素晴らしい。強い(こだわ)りを感じます。


 肉も良い。牛バラ肉を使っている。

 濃厚な旨味がルーに溶け出していて、

 スパイスとの相互作用がこれまたなんとも――」

男爵(だんしゃく)さん、そろそろ。」


青髪の青年が男爵(だんしゃく)の肩を叩く。


「おや、もう時間ですか。

 まだまだ語り足りないというのに……。」

「お前が全国のカレー制覇したいっつったんだろーが!!!」

「残念です。名残惜しいですが、お(いとま)するとしましょう。」


男爵(だんしゃく)が席を立ち上がる。


「店長さん。美味しいカレーをありがとうございました。

 カレー愛……そう、『ナマステ』の心を感じられる、

 私の琴線(きんせん)に響く実に素晴らしいカレーでした。」

「そんなっ……滅相もねぇっ。」

「……泣いておられるのですか。」

「違う。これは……目から出た汗だっ。」


店長は涙を(そで)で拭う。


「本当は、今日、この店を(たた)むつもりだったんだ。

 ほら、『失われた1週間事件』で物流が悪くなっちまって、

 それで、食材が高くなっちまってよっ……。」


店長の泣く姿を見て、男爵(だんしゃく)も涙を流す。


「そうだったんですね。

 それはさぞお辛かったことでしょう。」


「……でもな、最後にこんなに良いお客さんに出会えて、

 オラはとっても幸せだ。


 今日までカレー屋を営んでいたのはきっと、

 あんたみてーなヤツにカレーを振る舞うためだったんだ。


 オラ、もう少し頑張ってみるよ。

 この逆境にも抗って、最高のカレーを提供してやる。

 だから、またいつかここに来ることがあったら、

 是非ともウチの店に寄ってってくれねぇか?」


「……もちろんです。」



2人の男が出口の前に立ったところで、

店長が彼らに問いかけた。


「あんたら、カレーを全国制覇するんだろ?

 次はどのあたりに行くんだ? カイシティか?」


男爵(だんしゃく)が上を指差す。


北へ(North)。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――話は戻って、JEC本部。



『…………アカンな。』

「この通り、今 日本国は最大の危機に(おちい)っている。

 厳しい現状を打破するためには、

 時には敵対勢力と手を結ぶことも重要だ。

 これでも異論のある者は、今ここで言ってほしい。」


(かみ)輝也(てるや)の問いかけに、

(すめらぎ)扇風(せんぷう)がまたもや疑問を発する。


『どうしても組まなければいけへんのどすか?

 海外支部と手を組むというのでは駄目なんどすか?』

「不可能だ。今 海外支部はボロボロだ。

 『失われた1週間事件』の間に半壊状態になっている。

 恐らく、近頃になってまた活動が活発になってきた、

 特定危険思想団体『北狼(フェンリル)』によるものだろう。」

『……ほな、助太刀は求められへんなぁ。

 ……仕方ない。分かった。それで納得します。』

「ありがとう。他に異論がある者は?…いないな?

 これにて、『臨時JEC情報共有会議』を終了とする。」

「ちょっ………勝手に終わらせないでくださいっ!

 ………まぁいいや、はい、解散解散ーーーーっ!!!」


(かみ)輝也(てるや)伝能(でんのう)話奏(わかな)により、

会議が半ば強引に打ち切られてしまった。


天馬(てんま)正和(まさかず)の肉体には、

会議が終わると同時にどっと疲れが溜まっていた。


その時、天馬(てんま)の元に電話が掛かる。

会議室を抜け、電話に出ると、発信主は(すめらぎ)扇風(せんぷう)だった。



『おおきにー。元気にしとるかー?』

「あ、ああ。元気だ。」

『………あなたのそれはただの空元気やろ。』

「・・・・・。」

『今のは笑うところやろ。』

「(気まずい………。)」


(すめらぎ)扇風(せんぷう)の声色は、温かいように見えて冷たい。


天馬(てんま)にとってこの通話時間は、

一刻一刻が引き延ばされたかのように長く感じられた。


『……本題に入るけど、天馬(てんま)

 あなた、知っとったやろ。“性欲”討つっちゅー話。』

「・・・・・。」

『あー、言わなくてええよ。分かるから。

 会長が話した時、天馬(てんま)だけ驚いとらんかった。

 事前に会長から聞かされとったんやろ?

 信頼されとるんやなぁ。嫉妬してまうわぁ。』


(すめらぎ)扇風(せんぷう)の声にはあからさまに「不満」が乗っている。

まあそれも当然だろう。


…だって私は、()()()()支部長なんだから。

本来支部長としてはまだまだ未熟な青二才なんだから。


そんな者が会長に贔屓(ひいき)(まが)いなことをされているのを見て、

嫌な気分になるなと言う方が傲慢(ごうまん)だろう。


『……ちょっと、聞いとる?』

「あぁ、うん。聞いてる。聞いてるよ。」

『それは嘘や。分かるで〜。なんせ私らは……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

()()」さかい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……………え?」

『「え?」ではおまへんのよ。

 あなた、え、もしかして私だけどすか!?

 天馬(てんま)と友達や思っとったんは!!!』

「・・・・・!?!?」

『はぁぁぁぁぁぁぁ(クソデカため息)

 まぁええけど。こそばゆいけどもっかい言うで!

 もっかいだけ言うから、よう聞きぃや!!!』

「あ、ああ。」


電話越しでも深い呼吸が聞こえる。

どんな言葉が飛び出すのか。落ち着かない。


『私が電話したんはなぁ、心配だったから!!!

 いつか話さなアカンかったとはいえ、

 父親の偽の功績がバレてもうたから、

 気落ちしとるんやないかと電話したんや!!

 分かったか、この朴念仁(ぼくねんじん)!!!』

「あ、ああ。分かった。」

『よぉーし!!! ほなもう切るで!!!

 恥ずかしゅうて顔から火ぃ噴き出そうや……。ほなな!』


プー、プー、プーと話中音が静寂(しじま)に響く。

天馬(てんま)正和(まさかず)は未だ今の会話を受け止めきれずにいた。

頭を()(むし)り、ボソリと(つぶや)いた。


「もう訳がわからないよ……。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――どこか、星空の見える部屋で。



窓際に、黒くて長いくせっ毛を持った女が座っている。

時折風が入り込み、彼女の白い布地がはためく。


この部屋は、哀愁で満ちている。

思わずため息が漏れてしまうほどに。


まるで恋愛小説を最初から最後まで読み終えた後みたいな、

どうしようもなくセンチメンタルな気持ち。


そんな中、ドアをノックする音がする。


「いいわよ、入って。」と女は許可を出した。


すると、ドアをゆっくりと開けて、

黒い肌に大きな角を持つ男が入室する。


「ママー。来たよー。」

「そのママっていうのやめなさい、イル。」

「じゃあ何て呼べばいいのさ?」

「今の私は『アイ』と名乗っているわ。

 次からは『アイ様』とか『アイちゃん』とか…」

「じゃあ『アイたん』って呼ぶね!」

「………勝手にして。」


部屋は気まずい空気で満たされる。


「………………………………どうしたらいいかな?」

「用が済んだらとっととシコクに戻りなさい。」

「はぁい、わかったよマ………………アイたん。」


『イル』と呼ばれた者は静かに退出した。

部屋は再び静寂を取り戻した。


「………はぁ。おちおち寝てもいられないわね。

 まぁ、元々寝るつもりなんてなかったんだけど。

 だって寝てる時間がもったいないじゃない。

 ね、貴方もそう思うでしょ? 千尋(ちひろ)。」


フカフカのベッドから、褐色(かっしょく)肌の男が起き上がる。

よろよろとして、足をずりずりと引きずりながら、

まっすぐに私の元へ向かってくる。


窓から差し込む月光に照らされて、

金髪がまるで秋の稲穂(いなほ)のように輝いて見える。

光の灯っていない瞳を除けば、私好みの顔だ。


「手、貸して。」


女は小さな手で、千尋(ちひろ)の大きな手をぎゅっと握る。

月光で女の左手薬指にはめられた金の指輪がキラリと光る。


「冷たいねぇ。私が今温めてあげるから。」

「・・・・・。」

「…浮かない顔だね。あぁ、昼間のこと気にしてるの?

 大丈夫だよ。貴方は飽きて捨てたりしないから。

 ほら、いつもみたいに笑ってみせてよ。ほら。」

「・・・・・。」

「笑えよ。」


千尋(ちひろ)の口角が上がる。


「それでいい。それがいいの。

 私はね、今まで出来なかった分だけ、

 たっくさ〜ん贅沢(ぜいたく)したい。ただそれだけなの。

 そしてそれがもうすぐ叶っちゃう!すごいよね!?

 私が世界の女王様になるんだよ! ステキ!」


女は自分で自分に拍手する。


「だから、最期までちゃんと付き合ってよね、千尋(ちひろ)。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今日は満天の星空だ。

だが誰もそれを気に止めない。

何故って? そんなの、忙しいからに決まってる。


もう次の物語は始まっているんだ。

皆が皆、最善のために動いている。


これから見るであろう物語に名前を付けるなら、


――『清濁戦争』。


足掻きに足掻く彼らの物語を、とくとご覧あれ。



⇐ to be continued

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