46話「猫っかぶりの座談会」
――「パティスリー・ウラオモテ」店内
楽たちが入店する直前。
店内の飲食スペースにて、2人の少女が話をしていた。
「それでさー、今日も今日とて、
会議の進行役としてこき使われるわけですよ。」
「あちゃ〜。話奏ちゃんは大変だね。」
天馬正和の妹・玉子と、彼の部下・伝能話奏だ。
「あ゛ーーーー、もうっ!!!!!
そのせいで先輩の誕生日パーティー行けなかったし、
玉子ちゃんの手作りケーキ食べ損ねたし、
本当に最悪………。めっちゃ行きたかったのに………。」
「仕方ないよ、仕事なんだもん。
兄様には後日ちゃんとプレゼント渡せたんでしょ?」
「渡せたよ。渡せたさ。でもね、
やっぱりその日のうちに渡してあげたいと思っちゃうの。
これはアタシという生き物の当然の性なのよ!!」
「あっはは……(今日は一段と荒れてるなぁ……)」
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ところで
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「あの後、彼とはどうなったのよ。」
「…………彼って?」
「蝶野楽とかいう男。」
伝能話奏の急な話題の方向転換に、
思わず天馬玉子は飲んでたジュースを吹き出してしまう。
「ゲホッゲホッガハッ……。え、話奏ちゃん。
どうして急にそんな話をするの?」
「そりゃあ、ねぇ。恋の波動を感じるから。」
「変なこと言わないでよ!!!」
天馬玉子は立ち上がり、声を荒げた。
思わず大声を上げたせいで店内の注目を集めてしまい、
天馬玉子は赤面しながら着席し、顔面を手で覆う。
「恥ずかしい……。」
「ごめん。今のは茶化したアタシが悪かった。
ほれ、モンブラン一口あげるから許してちょ。」
「許しません! パクっ」
「って食っとるやないかーい。」
店内のほぼ全員がホッとした。
「結局、どうなのよ。彼とは。」
「………別に、何ともないけど。」
「またまた〜。だってさ、言ってたじゃん。
“食欲”と遭遇した時に庇ってくれて嬉しかったって。」
「……それはそれ、これはこれです。」
「ちぇー。つれないなぁ。」
話奏はジュースをズゾゾゾと飲み切る。
「そんなんだと婚期逃すよ。」
「お互いまだそんなこと考える歳じゃないでしょ。」
「『女性とクリスマスケーキは同じ』って言うじゃない。」
「そんなの100年以上前の悪しき陋習じゃない。
私はそんな価値観には捉われず自由に生きたい。」
「あんた………、こんなに立派に育って……。
お母ちゃん嬉しくて泣いちゃうわぁ〜。」
「あんまふざけてるとその目ん玉ほじくるよ。」
「清楚な顔で急に怖いこと言うのやめてくれる!?」
そんなこんなで話をしていた時、
『カランカラン』と入店を知らせるベルが鳴る。
「あれ、こんな混雑した時間帯に入れるなんて。
さてはアタシと同じ有料会員かな?」
「そうだ、まだちゃんと言ってなかった。
誘ってくれてありがとう、話奏ちゃん。
おかげで、来たかったこの店に来れたよ。」
「親友のためなら、このくらい朝飯前よ。」
「わぁ〜〜!」
天馬玉子が満面の笑みで拍手している横を、
3人の男女が通り過ぎていく。
「わ、話奏? 今のって………。」
「え、なになに? ………………!?」
蝶野楽と男、そしてピンク髪の女が一緒に歩いていた。
そのまま彼らは、黒服の店員の案内に従い、
『VIPルーム』と書かれた扉の奥へと消えていった…。
「なんだあれ………アタシの目の錯覚か?
ねぇ、玉子ちゃんはどう思う? ねぇ。 もしもーし。」
「(・◇・)」
「し、死んでる!?」
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――『VIPルーム』内
「うわ何これ。個室!?」
「ひろ〜い。」
「フッフッフ。すごいでしょう。これが金の力よ。」
「「(悪役みたいなこと言ってる……。)」」
そこは、カラオケと同等の広さの個室だった。
壁は全面金ピカで、テーブルも金ピカ。
L字ソファーはワインのように赤く、フカフカだ。
「やばい…………もう立てなくなりそう………。」
「楽!? いつの間にそこに!?」
楽はもう既に着席していた。
「じゃあ、私は楽さんの隣で♪」
「!?」
「(距離感バグってんのかこの女は!?)」
おそろしく速い着席――俺じゃなかったら見逃していた。
その女は、勝利を確信したかのように笑った。
これにより、一元湊の心に火がついた。
「じゃあ俺も楽の隣で。」
「!?」「!」
またもや険悪なムードが蔓延する。
「改めまして、私は染井好乃と言います。
今後とも、末永くお見知り置きを。」
「ど、どうも…。」
「俺は、楽の友達の一元湊だ。どうぞよろしく頼む。」
どうしよう……。なんか分かんないけど、
俺のせいで2人がギスギスしてるような気がする。
え〜っと、こんな時どうしたら…………
「ケーキ食べたい。」
「「!」」
『話は振られるのを待つものじゃない。
自ら発して場を動かすものである。』
……とかなんとか、昔湊が言っていた。
「そういえば、注文がまだだったか。」
「すっかり忘れていたわ。」
好乃が手を叩いて店員を呼び出す。
「失礼します。こちら、メニューでございます。」
「私はこれで。あなたたちはどうする?」
「俺はミルクレープで。楽はなんにする?」
「???」
楽は驚いた。
そのケーキのあまりの種類の多さに驚愕した。
「お、オススメとか……ありませんか?」
「うむ……そうだ。週末限定メニューで、
『ウィークエンドシトロン』なんていかがでしょう。」
「じゃ、じゃあそれで。」
「かしこまりました。ごゆっくりおくつろぎください。」
よく分からない名前のケーキを食べることになった。
まあ湊があれだけ推すケーキ屋だから、
そう不味いものは出ないだろうけど、やや不安だ。
「・・・・・。」
「「・・・・・。」」
無言。びっくりするほど無言。
やばい。めっちゃ気まずいんだけどどうしよう。
「お、俺、ちょっとお手洗いに行ってきます。」
「分かった。」「出て左に曲がった突き当たりねー。」
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「(逃げてきちゃった………。)」
楽はVIP用トイレの個室内で顔を手で覆っていた。
楽はあの空気に耐えられなかったのだ。
「どうしよう……今絶対やばい空気になってるよな…。
戻ったほうがいいかな……いいよなぁ……はぁ………。」
手を洗い、アルコール消毒し、手を拭き、
なるべく遅めのスピードで部屋まで戻ろうとする。
すると、部屋から何やら話し声が聞こえてきた。
「「わかる。」」
「…………ん?」
不審に思い、楽は耳を澄ましてみることにした。
「てっきりガワだけで判断する人種かと思ってた。」
「そんな下等人種と一緒にしないでください。」
湊と好乃が落ち着いた様子で話している。
「まあ確かに、私は彼の顔も好みどストライクですけど、
どちらかというと内面ですかねぇ…。彼の魅力は。」
「分かっていただけますか。」
「ええもちろん。」
「(なんかさらっと「好き」って言われた?)」
「なにかと気が合いますね、お互いに。」
「でも楽は譲らん。」
「ケチ」
「わからず屋」
「(やっぱり仲が悪いな………。
てかここまで聞いちゃうと戻りづらいな……。)」
なんてことを考えていたところで。
「お、お客様。困ります。」
「アッ。スイマセン。」
扉に耳擦り付けるという変態的行為を店員に見られた。
控えめに言って死にたい。いっそミジンコになりたい。
ケーキと俺が店員によって同時に届けられた。
店員は深くは追及してこなかった。優しい。
「(え? 聞かれてた?)」
「(俺には分からん。)」
「(絶対聞かれてたでしょ。え、どこから?)」
「(………さあ?)」
「(アイコンタクトで会話すんなよ………。)」
どうすんだこの空気………。
「……ケーキ食べようか。」
湊は考えるのを止め、素晴らしい提案をした。
楽と好乃はその誘いに乗った。
「(さて、何だこれは。)」
目の前に置かれた皿には茶色い直方体が乗っている。
その表面には乳白色の液体が満遍なく塗りたくられ、
なんか上面部には黄色い何かと緑色の何かが乗っている。
この直方体は一定間隔でカットされている。
断面は見るからに美味しそうな卵色のスポンジだ。
俺はその内の1枚にフォークを刺し、口の中へ放り込んだ。
「!」
スポンジには程よく弾力があり、
糖衣はシャリッとした食感がクセになる。
うまい。それ以上の言葉は必要ないだろう。
「楽、美味いか?」
「うまい!!!」
「よかった。」
楽はもうニッコニコである。
それを見た2人は思わず笑顔になってしまった。
「ほら、こっちも一口あげる。美味しいよ?」
「え、ありがとう。」
「(待て楽!! それはその女の罠だ!!!)」
『ぱく』
「うめぇ。」
「「・・・・・。」」
直接、人の唇と唇が触れ合うことを“キス”というように、
食べ物等を介して人と唇が触れ合うことを“間接キス”という。
「何だろ……普通のチョコケーキよりも……、
こう……しっとりしてる? 感じがなんかいいね。」
だが、このピュアピュア男はそんなこと微塵も気にしない。
何故なら、“間接キス”の概念すら知らないのだから!
「お返しに一切れ差し上げます。」
「!?!?」
なんと、ここで楽は“あ〜ん”を仕返した。
この反撃は予想外だったのだろう。
好乃は赤面し、ふにゃふにゃ喋ることしかできなかった。
『ぱく』
「あ、かなり美味しい。」
「でしょ?」
「(クソッ!!! 羨ま………けしからん女だ!!!!!)」
湊が心の中で叫ぶ中、楽は好乃のケーキを指さした。
「そのケーキって、名前なんていうの?」
「ん? ああ。これは『デビルズフードケーキ』。」
「でびるずふーどけーき?」
「そう。『悪魔的に美味しい』って意味なの。」
好乃は興に乗ったように語り始める。
「私、『悪魔』ってつくものが魅力的に感じるのよね。」
「ふーん。」「(本人が小悪魔的だしな……。)」
「たとえば、タコっているじゃない?
あれって、美味しいけど見た目がアレでしょ?
だから昔、食習慣の無い一部の地域では、
『デビルフィッシュ』って呼ばれていたらしいのよ。」
「ふむ。」
「ゲテモノほど美味しいともいうし、
そういう蠱惑的なトコロに惹かれちゃうのよね〜。」
「そうなんだー。」
耳!
なんだかんだで話を楽しんだ後、
昼過ぎになってようやく解散となった。
「それじゃあ、またね。」
染井好乃は小さく手を振る。
「今日はありがとうございました!」
「……今日はありがとうございました。」
2人と別れた染井好乃はというと、
大袈裟にスキップを踏みながら鼻歌交じりでご機嫌な様子。
「もしもし。すみません。」
そんな最中、後ろから男の声で話しかけられた。
「何? 今忙しいからナンパは後に………」
「こんにちは。」
それは人というには異形すぎた。
黒い肌に赤い瞳。マントのような毛布を1つ。
その恐ろしい姿は、周囲の人々を戦慄させた。
「忙しいところ悪いんだけどさぁ、
下手に騒ぎにもしたくないからさぁ、
大人しく一緒に来てもらってもいいかな?」
「・・・・・!」
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―― 一方その頃、『秘密結社Ⅹ』アジトにて。
「井寺。おつかいを頼みたい。」
「何じゃ、藪から棒に。」
鬼無瀬ロガが井寺にバスケットと紙を突き出す。
「こっちは地図。この赤く印を付けたところのビルの、
地下1階に『一夜の怪街』というバーがある。
そこの中央の席に座っている男にこれを届けてほしい。」
「嫌じゃ。面倒くさい。
占卜の順位も良くなかったし、
今日はここから一歩も動きたくない心持ちなんじゃ!」
「・・・・・。」
ロガが懐から何かを取り出し、井寺に渡す。
「何じゃこれは。」
「おこめ券。」
「……渡されても困るのじゃ。」
「受け取った=了承と見なす。行け。」
「新手の詐欺か!!!」
井寺がぷんすかぷんぷんしていると、ロガが一言。
「仕方ない。じゃあ移に代わりにやってもらおう。
井寺は移の代わりに畑仕事を手伝ってもらう。」
「待ってくれ。すまなかった。行くから!
行くから止めてほしいのじゃぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
足!
「ここなのじゃ? 不気味な雰囲気じゃのう。」
『カランカラン』と怪しく鐘の音が鳴り響く。
ロガの言った通り、中央の席には男が座っていた。
その男は着物を着ていた。所々ボロボロで。
加えて、月代に髻というオールドファッション。
現代からすれば異様に映ることだろう。
だが、井寺伴助は違う。
独り寂しく酒を嗜む後ろ姿は、大層懐かしく感じられた。
「師匠!!!」
夢かと思った。否、そこには確かに“師匠”は居た。
「その後ろ姿……見間違えるだろうか?
いや、見間違えるはずがない。師匠でござろう!?
ずっと……ずっと会いとうございました!!!」
師匠は酒を一口含み、嗄れた声で言った。
「……本当に、いつも騒がしい奴よのう。お主は。」
⇐ to be continued




