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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第2楽章「幸災楽禍」
50/58

46話「猫っかぶりの座談会」

――「パティスリー・ウラオモテ」店内



(らく)たちが入店する直前。

店内の飲食スペースにて、2人の少女が話をしていた。


「それでさー、今日も今日とて、

 会議の進行役としてこき使われるわけですよ。」

「あちゃ〜。話奏(わかな)ちゃんは大変だね。」


天馬(てんま)正和(まさかず)の妹・玉子(たまこ)と、彼の部下・伝能(でんのう)話奏(わかな)だ。


「あ゛ーーーー、もうっ!!!!!

 そのせいで先輩の誕生日パーティー行けなかったし、

 玉子(たまこ)ちゃんの手作りケーキ食べ損ねたし、

 本当に最悪………。めっちゃ行きたかったのに………。」

「仕方ないよ、仕事なんだもん。

 兄様(あにさま)には後日ちゃんとプレゼント渡せたんでしょ?」

「渡せたよ。渡せたさ。でもね、

 やっぱりその日のうちに渡してあげたいと思っちゃうの。

 これはアタシという生き物の当然の(さが)なのよ!!」

「あっはは……(今日は一段と荒れてるなぁ……)」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ところで

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あの後、彼とはどうなったのよ。」

「…………彼って?」

蝶野楽(ちょうのらく)とかいう男。」


伝能(でんのう)話奏(わかな)の急な話題の方向転換に、

思わず天馬玉子(てんまたまこ)は飲んでたジュースを吹き出してしまう。


「ゲホッゲホッガハッ……。え、話奏(わかな)ちゃん。

 どうして急にそんな話をするの?」

「そりゃあ、ねぇ。恋の波動を感じるから。」

「変なこと言わないでよ!!!」


天馬玉子(てんまたまこ)は立ち上がり、声を荒げた。


思わず大声を上げたせいで店内の注目を集めてしまい、

天馬玉子(てんまたまこ)は赤面しながら着席し、顔面を手で覆う。


「恥ずかしい……。」

「ごめん。今のは茶化したアタシが悪かった。

 ほれ、モンブラン一口あげるから許してちょ。」

「許しません! パクっ」

「って食っとるやないかーい。」


店内のほぼ全員がホッとした。


「結局、どうなのよ。彼とは。」

「………別に、何ともないけど。」

「またまた〜。だってさ、言ってたじゃん。

 “食欲”と遭遇した時に(かば)ってくれて嬉しかったって。」

「……それはそれ、これはこれです。」

「ちぇー。つれないなぁ。」


話奏(わかな)はジュースをズゾゾゾと飲み切る。


「そんなんだと婚期逃すよ。」

「お互いまだそんなこと考える歳じゃないでしょ。」

「『女性とクリスマスケーキは同じ』って言うじゃない。」

「そんなの100年以上前の()しき陋習(ろうしゅう)じゃない。

 私はそんな価値観には(とら)われず自由に生きたい。」

「あんた………、こんなに立派に育って……。

 お母ちゃん嬉しくて泣いちゃうわぁ〜。」

「あんまふざけてるとその目ん玉ほじくるよ。」

清楚(せいそ)な顔で急に怖いこと言うのやめてくれる!?」


そんなこんなで話をしていた時、

『カランカラン』と入店を知らせるベルが鳴る。


「あれ、こんな混雑した時間帯に入れるなんて。

 さてはアタシと同じ有料会員かな?」

「そうだ、まだちゃんと言ってなかった。

 誘ってくれてありがとう、話奏(わかな)ちゃん。

 おかげで、来たかったこの店に来れたよ。」

「親友のためなら、このくらい朝飯前よ。」

「わぁ〜〜!」


天馬(てんま)玉子(たまこ)が満面の笑みで拍手している横を、

3人の男女が通り過ぎていく。


「わ、話奏(わかな)? 今のって………。」

「え、なになに? ………………!?」


蝶野楽(ちょうのらく)と男、そしてピンク髪の女が一緒に歩いていた。

そのまま彼らは、黒服の店員の案内に従い、

『VIPルーム』と書かれた扉の奥へと消えていった…。


「なんだあれ………アタシの目の錯覚か?

 ねぇ、玉子(たまこ)ちゃんはどう思う? ねぇ。 もしもーし。」

(・◇・)(ポカーン)

「し、死んでる!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――『VIPルーム』内



「うわ何これ。個室!?」

「ひろ〜い。」

「フッフッフ。すごいでしょう。これが金の力よ。」

「「(悪役みたいなこと言ってる……。)」」


そこは、カラオケと同等の広さの個室だった。

壁は全面金ピカで、テーブルも金ピカ。

L字ソファーはワインのように赤く、フカフカだ。


「やばい…………もう立てなくなりそう………。」

(らく)!? いつの間にそこに!?」


(らく)はもう既に着席していた。


「じゃあ、私は(らく)さんの隣で♪」

「!?」

「(距離感バグってんのかこの女は!?)」


おそろしく速い着席――俺じゃなかったら見逃していた。


その女は、勝利を確信したかのように笑った。

これにより、一元(いちもと)(みなと)の心に火がついた。


「じゃあ俺も(らく)の隣で。」

「!?」「!」


またもや険悪なムードが蔓延する。


「改めまして、私は染井好乃(そめいよしの)と言います。

 今後とも、末永くお見知り置きを。」

「ど、どうも…。」

「俺は、(らく)友達(ダチ)一元(いちもと)(みなと)だ。どうぞよろしく頼む。」


どうしよう……。なんか分かんないけど、

俺のせいで2人がギスギスしてるような気がする。

え〜っと、こんな時どうしたら…………


「ケーキ食べたい。」

「「!」」


『話は振られるのを待つものじゃない。

 自ら発して場を動かすものである。』

……とかなんとか、昔(みなと)が言っていた。


「そういえば、注文がまだだったか。」

「すっかり忘れていたわ。」


好乃(よしの)が手を叩いて店員を呼び出す。


「失礼します。こちら、メニューでございます。」

「私はこれで。あなたたちはどうする?」

「俺はミルクレープで。(らく)はなんにする?」

「???」


(らく)は驚いた。

そのケーキのあまりの種類の多さに驚愕(きょうがく)した。


「お、オススメとか……ありませんか?」

「うむ……そうだ。週末限定メニューで、

 『ウィークエンドシトロン』なんていかがでしょう。」

「じゃ、じゃあそれで。」

「かしこまりました。ごゆっくりおくつろぎください。」


よく分からない名前のケーキを食べることになった。

まあ(みなと)があれだけ推すケーキ屋だから、

そう不味いものは出ないだろうけど、やや不安だ。


「・・・・・。」

「「・・・・・。」」


無言。びっくりするほど無言。

やばい。めっちゃ気まずいんだけどどうしよう。


「お、俺、ちょっとお手洗いに行ってきます。」

「分かった。」「出て左に曲がった突き当たりねー。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「(逃げてきちゃった………。)」


(らく)はVIP用トイレの個室内で顔を手で覆っていた。

(らく)はあの空気に耐えられなかったのだ。


「どうしよう……今絶対やばい空気になってるよな…。

 戻ったほうがいいかな……いいよなぁ……はぁ………。」


手を洗い、アルコール消毒し、手を拭き、

なるべく遅めのスピードで部屋まで戻ろうとする。


すると、部屋から何やら話し声が聞こえてきた。


「「わかる。」」


「…………ん?」


不審に思い、(らく)は耳を澄ましてみることにした。



「てっきりガワだけで判断する人種かと思ってた。」

「そんな下等人種と一緒にしないでください。」


(みなと)好乃(よしの)が落ち着いた様子で話している。


「まあ確かに、私は彼の顔も好みどストライクですけど、

 どちらかというと内面ですかねぇ…。彼の魅力は。」

「分かっていただけますか。」

「ええもちろん。」


「(なんかさらっと「好き」って言われた?)」


「なにかと気が合いますね、お互いに。」

「でも(らく)は譲らん。」

「ケチ」

「わからず屋」


「(やっぱり仲が悪いな………。

 てかここまで聞いちゃうと戻りづらいな……。)」


なんてことを考えていたところで。


「お、お客様。困ります。」

「アッ。スイマセン。」


扉に耳擦り付けるという変態的行為を店員に見られた。

控えめに言って死にたい。いっそミジンコになりたい。



ケーキと俺が店員によって同時に届けられた。

店員は深くは追及してこなかった。優しい。


「(え? 聞かれてた?)」

「(俺には分からん。)」

「(絶対聞かれてたでしょ。え、どこから?)」

「(………さあ?)」


「(アイコンタクトで会話すんなよ………。)」


どうすんだこの空気………。


「……ケーキ食べようか。」

(みなと)は考えるのを止め、素晴らしい提案をした。

(らく)好乃(よしの)はその誘いに乗った。



「(さて、何だこれは。)」


目の前に置かれた皿には茶色い直方体が乗っている。

その表面には乳白色の液体が満遍なく塗りたくられ、

なんか上面部には黄色い何かと緑色の何かが乗っている。


この直方体は一定間隔でカットされている。

断面は見るからに美味しそうな卵色のスポンジだ。


俺はその内の1枚にフォークを刺し、口の中へ放り込んだ。


「!」


スポンジには程よく弾力があり、

糖衣はシャリッとした食感がクセになる。


うまい。それ以上の言葉は必要ないだろう。


(らく)、美味いか?」

「うまい!!!」

「よかった。」


(らく)はもうニッコニコである。

それを見た2人は思わず笑顔になってしまった。


「ほら、こっちも一口あげる。美味しいよ?」

「え、ありがとう。」

「(待て(らく)!! それはその女の(わな)だ!!!)」


『ぱく』


「うめぇ。」

「「・・・・・。」」


直接、人の(くちびる)(くちびる)が触れ合うことを“キス”というように、

食べ物等を介して人と(くちびる)が触れ合うことを“間接キス”という。


「何だろ……普通のチョコケーキよりも……、

 こう……しっとりしてる? 感じがなんかいいね。」


だが、このピュアピュア男はそんなこと微塵(みじん)も気にしない。

何故なら、“間接キス”の概念すら知らないのだから!


「お返しに一切れ差し上げます。」

「!?!?」


なんと、ここで(らく)は“あ〜ん”を仕返した。

この反撃は予想外だったのだろう。

好乃(よしの)は赤面し、ふにゃふにゃ喋ることしかできなかった。


『ぱく』


「あ、かなり美味しい。」

「でしょ?」

「(クソッ!!! (うらや)ま………けしからん女だ!!!!!)」


(みなと)が心の中で叫ぶ中、(らく)好乃(よしの)のケーキを指さした。


「そのケーキって、名前なんていうの?」

「ん? ああ。これは『デビルズフードケーキ』。」

「でびるずふーどけーき?」

「そう。『悪魔的に美味しい』って意味なの。」


好乃(よしの)は興に乗ったように語り始める。


「私、『悪魔』ってつくものが魅力的に感じるのよね。」

「ふーん。」「(本人が小悪魔的だしな……。)」


「たとえば、タコっているじゃない?

 あれって、美味しいけど見た目がアレでしょ?

 だから昔、食習慣の無い一部の地域では、

 『デビルフィッシュ』って呼ばれていたらしいのよ。」

「ふむ。」

「ゲテモノほど美味しいともいうし、

 そういう蠱惑(こわく)的なトコロに()かれちゃうのよね〜。」

「そうなんだー。」



みみへん



なんだかんだで話を楽しんだ後、

昼過ぎになってようやく解散となった。


「それじゃあ、またね。」

染井好乃(そめいよしの)は小さく手を振る。


「今日はありがとうございました!」

「……今日はありがとうございました。」



2人と別れた染井好乃(そめいよしの)はというと、

(おお)袈裟(げさ)にスキップを踏みながら鼻歌交じりでご機嫌な様子。


「もしもし。すみません。」


そんな最中、後ろから男の声で話しかけられた。


「何? 今忙しいからナンパは後に………」

「こんにちは。」


それは人というには異形すぎた。

黒い肌に赤い瞳。マントのような毛布を1つ。

その恐ろしい姿は、周囲の人々を戦慄(せんりつ)させた。


「忙しいところ悪いんだけどさぁ、

 下手に騒ぎにもしたくないからさぁ、

 大人しく一緒に来てもらってもいいかな?」

「・・・・・!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


―― 一方その頃、『秘密結社Ⅹ』アジトにて。



井寺(いてら)。おつかいを頼みたい。」

「何じゃ、(やぶ)から棒に。」


鬼無瀬(きなせ)ロガが井寺(いてら)にバスケットと紙を突き出す。


「こっちは地図。この赤く印を付けたところのビルの、

 地下1階に『一夜(ひとよ)怪街(あやまち)』というバーがある。

 そこの中央の席に座っている男にこれを届けてほしい。」

「嫌じゃ。面倒くさい。

 占卜(せんぼく)の順位も良くなかったし、

 今日はここから一歩も動きたくない心持ちなんじゃ!」

「・・・・・。」


ロガが(ふところ)から何かを取り出し、井寺(いてら)に渡す。


「何じゃこれは。」

「おこめ券。」

「……渡されても困るのじゃ。」

「受け取った(イコール)了承と見なす。行け。」

「新手の詐欺か!!!」


井寺(いてら)がぷんすかぷんぷんしていると、ロガが一言。


「仕方ない。じゃあ(うつる)に代わりにやってもらおう。

 井寺(いてら)(うつる)の代わりに畑仕事を手伝ってもらう。」

「待ってくれ。すまなかった。行くから!

 行くから止めてほしいのじゃぁぁぁぁぁぁッ!!!!」



あしへん



「ここなのじゃ? 不気味な雰囲気じゃのう。」


『カランカラン』と怪しく鐘の音が鳴り響く。

ロガの言った通り、中央の席には男が座っていた。


その男は着物を着ていた。所々ボロボロで。

加えて、月代(さかやき)(もとどり)というオールドファッション。

現代からすれば異様に映ることだろう。


だが、井寺伴助(かれ)は違う。

独り寂しく酒を(たしな)む後ろ姿は、大層懐かしく感じられた。


「師匠!!!」


夢かと思った。否、そこには確かに“師匠”は居た。


「その後ろ姿……見間違えるだろうか?

 いや、見間違えるはずがない。師匠でござろう!?

 ずっと……ずっと会いとうございました!!!」


師匠は酒を一口含み、(しわが)れた声で言った。


「……本当に、いつも騒がしい奴よのう。お主は。」



⇐ to be continued

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