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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第1楽章「黎明爆破」
5/54

4話「2人目の刺客」

『ごめんな、楽。退院祝いに行けなくて。』

「ああ、いいよいいよ。気にしなくて。

 急用ができちまったんだろ?仕方ないよ。」


(みなと)が申し訳なさそうに電話をかけて来た。


『…何? この、水気のあるものを叩くような音。』

「ああ、ラーメンを切る音だな。」

『ラーメン?』

「そう。ラーメン。」


拝啓、お父さん、お母さん。

俺は今、図書館ではなくラーメン屋に通っています。

……遊ぶ金もないのに。


『お前なあ……。そんな金、一体どこに……。

 まさか、俺に隠れて違法な仕事やってんじゃ……』

「違うよ!? 生活費削って食べてるんだよ。」

『お前、どんだけラーメン好きなんだよ!?』

「とりあえず、そんなわけだから。切るぞー。」

『あ、ちょ、待』

✆[通話終了]



「ふう………てか、どうして

 こんなにラーメン屋通わなきゃいけないんだ。」

『そろそろ椅子が1つ空くな。

 秋とはいえ、少々寒い。早く中に入ろう。』

「それもそうだな……。」


ここ最近は忙しすぎて、

早々四季を感じる暇が無かったから、余計に寒く感じる。

席が空く。俺は“ラーメン家康”に入店し、

券売機で最も安いラーメンを購入し、席に着いた。


「…………。」


ラーメン屋の大将は、何とも言えない俺の注文に

最早、一言も文句を言わなくなった。


「やっぱり、ラーメン屋 週1で通うのキツイよ。」

『やはりか。』

「『やはりか。』じゃあねぇんだよ。

 もうこれで貯金が尽きちゃうよ。やばいよ。」

『まあ、強く生きろよ。』

「て、てめー、他人事だと思って………!」


他人には見えない友達と駄弁(だべ)りながら、

ただひたすらラーメンが出来上がるのを待っていると、

右隣の席に見覚えのある人物が来店する。


「…………司書さん?」

「え。楽さん?」


愛らしい白髪ポニーテールこと、司書さん(仮)だ。


「奇遇ですねー。

 最近は図書館に来ませんでしたが、何かありましたか?」

「ああ、入院してて。」

「入院!? 身体がどこか悪いんですか!?」

「まあ、色々あったんですよ。死にかけたりとか。」

「は、はあ………。」


あまりの衝撃に目を丸くしたまま固まってしまった。


「…お、お待ち遠さま。」

「………。」


ここで1番安いラーメン。

『子供用醤油ラーメン without 具材』だ。

何ということでしょう。

司書さんは口に手を当て、声なき叫びを上げています。

周囲のお客様も「嘘だろ!?」と言わんばかりにこちらを見ています。


「いただきます。」


何度見てもそのお(わん)には、

醤油ベースのスープと、黄色い麺しかない。

見れば、大抵の人がドン引きする。

当初、これはエイプリルフールでメニューに追加されたそうだが、誰も注文せず、メニューから消すのも面倒になったので、放置されていたそうだ。


ズルズルと音を立て、温かい麺を啜る。

冷えきった身体が芯から温まるのを感じる。


これが、幸せの味。


勿論、スープも全て飲み干す。

というか、飲まないと腹が膨れない。


『……楽。』

「どうした?」

『餃子も食べたい。』

「殺すぞ。」

『(´・ω・`)』


食べ物の恨みは恐ろしいだなんだと言うように、

この話題に関しては宿主である俺の方が立場が上だ。


食物の恵みに感謝し、手を合わせて涙していると、

右隣の司書さんのラーメンが届く。


「……お待ち遠さま。」


…そこにそびえ立つは、

ネギ、もやし、叉焼(チャーシュー)で形作られたチョモランマ。

俺含め、新顔は皆「嘘だろ!?」と二度見する。


「…なあ、図書館の姉ちゃん。

 その華奢(きゃしゃ)な身体のどこにその量が入るんだ?」


大将が思わず口から漏らす。


「うふふふ。それ乙女に聞くことじゃないと思います。

 ぶっ殺されたいんですか?」


普段からは想像できないほど物騒な言葉が聞こえた気がするが、まあ気のせいだろう。うん。


「……ジロジロ見てどうしたんですか?」


やばい見てたのバレた。


「あ、なるほど。」

そう言って彼女は、俺の皿にラーメンを取り分ける。

哀れまれたみたいです。死にたい。

…てかこのパターン、前にもあったような?


涙を流しながらお(こぼ)れを頂いていると、

また(みなと)から電話がかかってくる。


✆) ) )

「もしもし? 今ラーメン食べてるから切るよ。」

✆[通話終了]


「………………。」


✆) ) ) ) ) ) )

「ああもう、うるさいな!どした!?」

『大変だ楽。刺客がそっちに向かってるらしい。』

「…………マ?」

『JECが田中鋼一……あー。そう!

 最初の刺客から吐かせたんだ。』

「ふむ」

『刺客は彼含めて8人。互いに面識は無いが、

 繁芸獏(しげきばく)のアジトに向かう途中すれ違ったらしい。

 そいつが2人目の刺客なんだとよ。』

「そいつの特徴は?」


『全身を黒いローブに包んでいて』「うん」

『白い肌』           「うん」

『白髪で』           「うん」

『髪は後ろで束ねていて』    「うん?」

『身長は157cmくらい』     「…うん」

『獏 (いわ)く、大食いだとか。』   「うん?」


俺は恐る恐る右隣を見る。

そこには、ラーメンをおいしそうに食べる彼女がいる。

というか、もう3分の2は食べ終わっている。早い。

……………まさかな。


「名前とか分かんないの?」

『名前か……たしかこの文書に……。

 田辺食(たべたべる)? 男? …だそうだ。』

「ほなちゃうかー。」


頭をよぎったかすかな不安は晴れた。


『どうかしたのか?』

「いや、何でもない。教えてくれてありがとう。」

『おう。用心しろよ。一応JEC向かわせたから。』

✆[通話終了]


「…あの、司書さん。」

「モゴ?(何?)」

「えっと、食事中に聞くのもアレなんですけど、」

「モゴモゴモゴモゴ。(いいよ、別に。)」

「名前って、教えてもらえたり…?」

「モゴ、モゴモゴモゴモゴモゴ。

 (ああ、そういえば名前を教えてなかったね。)」


「ゴクン」


「…ふぅ。 えっとね。私の名前は、た」

『ガラガラガラ!』

タイミング悪く、大きな音を立てて戸を開ける男がいた。


「ちょっとお客さん。

 そんな乱暴に開けてもらっちゃあ困る……よ…。」

「……ああ! ごめんごめん。つい。」


背丈、およそ2m50cm以上。

血濡れた黒いローブは全身を隠すには心もとない。

頭はまんまるに肥大化しており、死者のように青白く、

耳・髪・鼻といった人らしいパーツが見当たらない。

白黒反転した目、ギザギザで歪な歯、

頭部から生えた一対の黒いツノは異質さを際立たせ、

それらと対照的に、体中から()()()()を漂わせる。


―「人間」と形容するには、無理があった。


「恐怖」。その一言に尽きる。

ラーメン屋に居た客は全員 食欲を喪失した。

先程まで笑顔を絶やさなかった彼女も、

今はぽろぽろと涙を流し、ただ震えている。


「大将、ラーメン、1杯。」

「……先に食券を買っていただけると……」

「ショッケン?」

「後ろにあるだろ。」


男は振り返る。

そこには申し訳なさそうに券売機が立っていた。


「ああ、これね。」


男は券売機の前に立ち、沈黙する。


「大将。」

「何だ。金がないのか?」

「ある、だが、どこに、いれれば、」

「…ここ。“投入口”って書いてあるだろ。」

「難しい漢字、読めない、ごめん。

 …昔は、チヒロがやってくれてたんだけどな。」


なんとか食券を購入した男は、

大将に食券を渡し、座る席を探す。


「隣、いいかな?」

「ッ!?」


男は司書さんの隣に座ろうとする。

この男が纏っているボロボロの黒いローブは、

…おそらく(みなと)が言っていた田辺食(たべたべる)のものだ。

この男が何者なのかは分からないが、

田辺と何らかの関わりを持っていること、

そして、彼女に近づけるのは危険だということ、

それだけは確実に分かる。ならば…


「俺の左隣の席! 座りませんか!?」


勇気を振り絞って呼びかける。恐怖で漏らしそうだ。

冷や汗が止まらないし、足もガクブル震えてる。

でも、ここで行動しなきゃ後悔する。


「………………。」


男は呆然として佇み、そして口角を上げて言った。


「ありがとう!」


男はさぞ嬉しそうに俺の左隣に座った。

椅子は体重に耐えきれず小刻みに震えている。


男は、ラーメンを待ち続ける。


最初は目を輝かせ、左右に身体を揺らしながら。

だんだんと揺れは小さくなり、目は光を失い。

最後は眉が吊り上がり、貧乏揺すりを始めた。


「まだ?まだ?」と不機嫌な様子で大将に問いかけるその様は、まるで10歳くらいの子供のようだ。


「……………………もう待ちきれない。」

(嘘だろ!?)


男はすっくと立ち、呟いた。


「なんで僕がこんな邪魔されなきゃいけないんだ。

 僕はただ、おなかいっぱいになりたいだけなのに。」


端から見ても分かるほど、怒りはヒートアップしている。


「あいつもそうだ。()()()()()()だ。

 あっちからぶつかって来たくせに。

 ごめんなさいもせず、しかも、

 僕にお金を渡すように言った。失礼だ!」


「なあ! お前もそう思うだろ!?」

「え?」

矛先がラーメン屋の大将に向く。


このままでは危ない。

今の話が正しければ、彼は田辺と敵対………

最悪の場合、殺害してしまっているかもしれない。

さらに、傷1つ負っていない様子から察するに、

この男は 刺客を圧倒する程の力を持っている。

そんなやつに癇癪を起こされては、たまったもんじゃない。


『楽。』

「何だよカシ、この忙しい時に。」

『ズボンのポケットを見てみろ。』

「一体何を……………   !」


なるほど。そういうことだな?

カシ、お前の言うことを信じるからな。


「おい、大男!」

「もちろん、僕はおっきい男だ!」

「これを食らえ。」

「!」


俺は、たまたまポケットに入れていた飴を差し出す。


「飴だ!!!」


大男は目の輝きを取り戻し、よだれを垂らす。


「よこせ!!」


瞬き一つの間に飴玉を奪い取り、口に含む。

今までとは対照的に、とても幸せそうで可愛らしい。


「ッッッッッうまい!しあわせ!」


その様子に、周囲は安堵したように見える。

だが、そう思ったのも束の間。


「舐めきっちゃった。」

「「「「「!」」」」」


直径2.6cmの飴玉ごときでは、

到底時間稼ぎにすらならないらしい。

大将が作っている『スペシャルジャンボラーメン』は

完成まで、少なく見積もっても10分かかる。


「もう駄目だ」


誰かがそう呟いた。

その場にいる全員がそう思っていた。

それほどに、男は恐ろしかった。


――だが、いつまでも絶望が続くわけではない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

待たせてすまない。楽。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「「!」」

そこに居たのは、陽光に照らされ、

白髪を優美にたなびかせる白髪の男。


「JECアズマシティ支部長 天馬正和(てんままさかず) 現着した!」

「天馬さん!」「兄様(あにさま)!?」「天馬ァ………!」

救世主の登場に、各々が三者三様の声を上げる。


「!?」

大男を見るなり、天馬正和(てんままさかず)は目を見開き、

どこからともなく剣を取り出し、身構えた。


「何故、貴様がここにいる!?」

「それは、こっちの、セリフだ。天馬。」


そう問い返す天馬に、普段見られるような余裕は無い。

平然を装っているが、首元には冷や汗が垂れている。


「安心しろ。天馬。僕はただ、

 おいしいラーメンを、食べに来ただけだ。」

「それを、鵜呑みにして信じろとでも!?」

「…邪魔しなければ、何もしない。

 でも邪魔するなら、一人残らず殺す。」

「…そうかい。」


天馬はそれ以上何も言わず、

インカムで誰かと交信した後、司書さんの隣に座る。

そして過呼吸になっている司書さんの背中をさする。

二人を眺め、楽はある確信を得た。


「もしかしてお二人は…」

「兄妹だ。妹の玉子(たまこ)が世話になってるそうだな。」

「いえいえ。」


…なるほど。

司書さんの白髪が誰かに似ていると思っていた。

ようやく腑に落ちた。


「ところで、あいつってなんなんですか?」


ここぞとばかりに、小声で質問する。


「彼は、“食欲の権化”と謳われている

 米塚削盛(よねづかさくもり)という超危険犯罪者だ。

 能力であらゆるものを食物として扱う。

 菓子になって食べられたくないなら、

 一切の刺激行為を行わないことをオススメする。」

「何でそんなのが野放しになってんですか!」

「まともに挑んだらJEC日本支部の1/3が崩壊するからな。」

「………まじかぁ。」


確かに、JECが機能しなくなってしまったら、

日本は、すぐさま他国の植民地にされるだろう。

だから、何があってもそれは防がねばならない。

…JECが実質的に日本の政治を操作しているのだから。


「…………………。」

「米塚、黙っちゃいましたよ。大丈夫ですか?」

「空腹に耐えているんだろう。

 性格は凶暴だが、約束は絶対に守るから大丈夫だ。」

「…そうですか。」


米塚は天井を見上げ、ただ呆然としていた。

このまま餓死するのではないかと思うほど、

今までが嘘のように、静かに上を向いていた。


「お待ち遠!『スペシャルジャンボラーメン』だよ!」

「わぁーい!いただきまぁーす!!」


念願のラーメンが届き、米塚は上機嫌に戻った。

その後は特に問題は起こらず、

米塚は満面の笑顔で退店した。


「「「はぁぁぁぁぁぁ(クソデカため息)」」」

「やっと行ったかあいつ……」

「疲れたー」「お腹すいたー」「大将!ラーメン1つ!」

「こっちビールね」「お前昼間から飲む気かよ。」


店内は賑やかな雰囲気に戻り、

各々がその抑えていた気持ちを吐き出した。


「楽。玉子。遅くなってすまなかった。怖かっただろう。」

「いや、大丈夫。来てくれて嬉しかったよ。」

「私も。兄様を信じてましたから。」


それを聞いた天馬は目を丸くし、

「へへっ」と恥ずかしそうに頬を掻いた。


『Hey Hey 楽。』

「何だよカシ。」

『これで、俺がここに呼んだ意味も分かっただろう?』

「!」


なるほど。カシが俺に

『ラーメンを食いに行け』と言ったのは……


天馬正和(てんままさかず)との仲を深めるため。」

『That's right!』


抜け目のないやつめ。


もし天馬の到着が遅れて、

俺が殺害されたらどうするつもりだったのか、

小一時間くらいかけて問い詰めたい。


「なぁカシ。」

『苦情は一切受け付けないぞ。』

「次はどうすればいい?」

『! …随分と乗り気じゃないか。』

「…交流を深めるのは、悪くねぇ。

 勿論、お前のことだから、

 こういう任務はあまり出さないだろうけどよ。」

『………いいだろう。

 では、次のミッション発表といこうか。』

「ゴクリ……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この写真の場所に向かえ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……どっからどう見ても、

 何の変哲もないクレープ屋さんだよな。これ。」

『そうだが?』

「『そうだが?』じゃあねえよ!

 完全にお前がクレープ食べたいだけだろ!」

『それもある。』

「認めてんじゃねえ!ちっとは否定しろ!」

『だが、このクレープはあくまでオマケ。ご褒美だ。』

「……オマケ?」

『そう。君はこのクレープ屋に行く途中で、』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

刺客に襲われ、最悪 死ぬだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


⇐to be continued

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