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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第2楽章「幸災楽禍」
48/58

44話「トモダチ」

「お、お待たせ。」

「あ、ああ。」


8時20分、蝶野楽(ちょうのらく)一元(いちもと)(みなと)のデートが始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――大手寿司チェーン店『くり寿司』



「・・・・・。」

「ボスー。スマホなんて覗きこんでどうしたんスか。

 ……ああ、らくっちをメールで誘ったんスね。

 でも来るッスかねぇ〜。ずっと閉じこもってんでしょ?」

「来るさ。」

「……何故そう言い切れるんスか?」

「ここが『くり寿司』だからだ。」

「『くり寿司』への信頼度が限界突破してるッスね。」


鬼無瀬(きなせ)ロガと御門(みかど)(うつる)が他愛もない会話をする中、

世変(よがわり)桜紗(おうさ)井寺(いてら)伴助(はんすけ)と口論を繰り広げていた。


「だから、もっと高い皿を頼めっての!!」

「嫌じゃ!! この(こだわ)りは誰にも譲れんのじゃ!!!」

「たまご!! えび!! いか!! ハンバーグ!!

 こんな注文許されるのは小学2年生までよッ!!!」

「好きなものを好きでいて何が悪いのじゃ!!!

 誰が何と言おうとも、ワシは好きなネタを食べる!!!」


『ム゛ー! ム゛ー!』


「ボス、何か来ましたよ。」

「メールだな。(みなと)からだ。

 …『(らく)と話し合いしてから来る』だそうだ。」

「そうッスかー。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺んちの近所には公園があった。

昔、(みなと)とよく一緒に遊んだ公園だ。


俺たちは大きなイチョウの木の下のベンチに、

2人で、身を寄せ合って座っていた。


「今日はちょっと寒いな………。」

「じゃあなんで外に出たいなんて言ったんだ。」


文句を言いつつ、(みなと)は自分の上着を(らく)に差し出す。

(らく)は「ありがとう」と伝え、ありがたく羽織る。


このベンチからは、所々ペンキの()がれた、

どこか物寂しい雰囲気を(かも)し出すブランコがよく見える。


「………(なつ)かしいな。」

「何が?」

「昔、この公園で(らく)と出会った時のことを思い出すよ。」

「…俺も、丁度その時のことを思い出してた。」

「………奇遇だな。」

「うん。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


9年前の、まだ両親が健在だった頃。

俺と(みなと)が出会ったあの夜は、確か雪が降っていた。

冬真っ只中で、手袋とマフラー、カイロ、

そして耳当てを()けていてもまだ寒かった。


だからこそ、不思議だった。

防寒具1つ()けず、ブランコに1人座る男の子が居ることが。


夜にぶらぶらと出歩いている俺も大概だが、

俺には父さんと大喧嘩したという大義名分があった。


「どうしたの、こんなところで。」


男の子は俺をちらりと見た。

その目にはいっぱいの涙を溜めていた。


「大丈夫? どこか痛いの?」

「大丈夫。」

「ほんとに? そんなふうには見えないよ。

 泣きそうだし、……よく見たら靴履いてないし。

 そうだ、親と別れたのかな。良かったら一緒にJECに…」

「ほんとに、大丈夫だから!!!」


男の子が声を荒げた。俺はびっくりした。


「もう………ほっといてくれよ。」

「・・・・・。」


俺はズボンのポッケからカイロを取り出し、

その男の子のほっぺにむぎゅっと押し付けた。


「ザ……ザラザラする…! 受け取れって?

 わか……っ、分かったから、押しつけんのやめて!」


男の子はカイロを受け取り、(まゆ)(しか)めた。


「お前……これ…………………まあ、いいや。ありがとう。」

「どういたしまして!」


俺は満面の笑みで応えた。

男の子はその笑顔に調子が狂ったようだった。


「……お前はここで何してんの?」

「え、俺?」

「そうだよ、鼻垂れ小僧。」

「ハナタレ!? ああ、えと、家出?」

「・・・・・お前が?」


男の子が俺の身なりを見るなり、鼻で笑った。


「お前みたいなやつが家出なんて、笑わせる。

 その首巻きに、もふもふ、あと手袋。

 それだけ買い(そろ)えてもらえているのは、

 一重にお前が親に愛されているからだろうが。」

「……そんなことないもん。」

「いーや、愛されてるね。すっごく。」

「そんなことないもん!!!」

「うわっビックリした。」

「うえ〜〜〜ん!!!」

「な、泣いちゃった。え、どうしよう。」


ダムが決壊したように大声で泣き出した俺を、

男の子はブランコから慌てて飛び降りて背中を(さす)る。


「なにがあったんだよ。言ってみろ。気が楽になるぞ。」

「・・・・・(らく)。」

「ん?」

「俺、蝶野楽(ちょうのらく)。」

「ん、ああ。名前か。」

「君の名前は?」

「え? あ〜……えっと……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

万が一人に会うことがあったら、

必ずこの名前を名乗りなさい。いいね?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……俺は、一元(いちもと)(みなと)。」

「……いい名前!!」

「そ、そうかい……。」



俺と(みなと)はブランコに座った。


「そんでね、父さんがね、ひどいんだよ。

 いつも口うるさいし、絶対俺のこと嫌いだよ。」

「ふーん。」


俺はずっとキーコキーコとブランコを()いでいた。

(みなと)はずっと足をぶらんぶらんさせていた。


「そっちは、何があったの?」

「俺?」


一通り話し終わったので、(みなと)に話を振る。


「俺は、父親がひでーやつなんだ。」

「どんな?」

「……といっても、本当の父親じゃない。

 親がいないから、預かっているんだって。」

「そうなんだー。」

「でもさ、そいついつも酷いことすんの。」

「どんなことすんの。」

「なんか変な機械につないでビリビリってしたり、

 穴を開けて、中にへんなの入れたりするの。」

「怖いね。」

「ね。」


静かだ。雪が降っているからかもしれない。

まるで、世界に俺と(みなと)、2人しか存在しないようだった。


(らく)、そろそろ帰ったら? 親が心配するよ。」

「心配しないよ、俺の親なんて。」

「そんなことないよ。大丈夫。(らく)。お前は愛されてる。」


(みなと)がブランコから立つ。


「ほら、家どこ? 送ってってあげる。」

「……………もん。」

「え?」

「家、分かんないもん!!」

「ええええええええええええ!?」

「うえ〜〜〜ん!!!」

「あー、もう!!」


(みなと)の目が一瞬だけ赤色に光る。

そして(みなと)は、俺に背中を差し出す。


「お前の家分かった。乗ってけよ。おぶってってやる。」

「でも………。」

「大丈夫。俺、力持ちだから。」



不思議なことに、(みなと)は俺の家を一発で当てた。

途中(みなと)が鼻血を吹き出したりして大変だったけど、

無事に家までたどり着けた。


インターホンを鳴らすと、

血相を変えた父さんが飛び出してきた。


「どこに行ってたんだ!! こんな夜中に!!」

「・・・・・!!」


鬼の形相。すごい動揺した。

俺の肩をつかむ父さんの手が、震えていたから。


父さんは俺をぎゅって力強く抱き締めた。


「もう!!! 心配したんだからな!! 本当に!!

 (らく)がなかなか帰ってこないから、

 じいちゃんにも、JECにも探すの手伝ってもらって。」

「心配………してくれたの?」

「―――ッ!!! 当たり前だろ!!

 お前は俺のたった1人の大切な息子なんだぞ!!!」

「!」


その日3度目のダム決壊だった。


「父さぁぁぁん!!! ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

「……こちらこそ、ごめん。ごめんなぁ、(らく)

 お前にはつらい思いをさせてしまった。ごめんなぁ。

 もう、『舞』の練習なんてしなくてもいいから。

 じいちゃんには、俺からきちんと伝えておくから。」

「ありがとう………………大好き。」

「ああ!! 俺も、大好きだよ、(らく)。」



「それで、どこに行ってたんだ。」

「あのね、たくさん歩いてね、公園行ってね、

 それでね、家が、分かんなくなっちゃってね、

 で、でもね、(みなと)が送ってってくれたの。」

(みなと)(らく)のお友達かい?」

「うん!!! 今そこに…………………あれぇ?」


もうそこには、(みなと)の姿は無かった。




サク、サクと、積雪の上を踏みしめて歩く。

やがて、目の前に人影が見えた。


(みなと)!!」

桜紗(おうさ)姉ちゃん!!!」


(みなと)が彼女の胸の中に飛び込む。


「さあ、帰ろうか。」

「いや。帰りたくない。痛いことするもん。」

「弱ったなぁ………。ん? あれ、持ってるそれ。」

「ん、はい。」


(みなと)から手渡されたのは、白い包み。

中にはサラサラとした細かい粒子が入っている。

それに()()()()()()()()。間違いない。


「麦茶のパックじゃん。どうしたの、これ。」

「もらったの。カイロだって。」

「まぁ……小さい子なら勘違いもするか……。」

「それはカイロだよ。」

「いや、どうみても……。」

「だって――」


(みなと)桜紗(おうさ)から『カイロ』を返してもらう。


「こうして持っているだけで、心がぽかぽかするんだ。」

「…………そっか。」


桜紗(おうさ)(みなと)を背負う。


「温かい。」

「フッフッフ……。何故なら姉ちゃんは冬毛なのです!

 そのままぬっくぬくもっふもふしてるがいいのよ。」

「うん……。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あれからどんどん仲良くなったんだよな。」

「ああ。今でもまるで昨日のことのように思い出すよ。」


(みなと)(ふところ)から何かを取り出す。


「ほら、今もこのように持ち歩いている。」

「何で持ってるんだよ!? 捨てろよ!?」

「断る。これは俺の、宝物だからな。」


(みなと)がさぞ大切そうに「麦茶のパック」を抱き締める。

対象が対象なだけあって、絵面がひどい。


「………(みなと)、あのね。」

「………………なんだい?」


ようやく話そうと覚悟できた俺は、

あの日から今日までのことを話し始めた。


あの日、俺は確かに命を落としたこと。

そしてカシと契約し、命を(つな)いだこと。

爪弾(つまはじき)並人(へいと)、もとい山中仁(やまなかじん)と初めて会った時のこと。

周囲の人に裏切られ、たくさん悲しかったこと。

(みなと)が俺の味方をしてくれて、嬉しかったこと。

目立益世(めだちますよ)と一度友達になったこと。

三月幻魔(みつきげんま)という男に会ったこと。

繁芸(しげき)(ばく)や《闇に潜む赫灼の瞳(シャドー・アイ)》が味方してくれたこと。

繁芸(しげき)(ばく)が俺を庇って死んだこと。

カシに突然裏切られたこと。


途中途中、ぐだぐだになりながら、

足りない語彙力で、精一杯話し続けた。

そうしている内に、太陽はてっぺんまで昇った。


その間、(みなと)は話を(さえぎ)ることもなく、

かと言ってカシのことを黙っていた俺を怒るでもなく、

ただ俺の背中を(さす)りながら話を聞いてくれた。


一通り話し終わった時、(みなと)はドン引きするほど泣いてた。

それを見て俺も泣いた。2人でわんわん泣いてた。


そして互いに目が合い、

涙と鼻水でぐっちゃぐちゃになった顔を見て、

2人して思わず吹き出し、ゲラゲラと笑った。



(らく)。」

「どうした、(みなと)。」

「俺、もっと強くなるよ。」

「どうしたの、急に。」


一元(いちもと)(みなと)は落ち着きなく指をしきりに動かす。


「もし俺がもっと強かったら、

 きっとより良い未来を(つか)み取れたと思うんだ。

 (らく)がここまで苦しむこともなかったし、

 (ばく)が死ぬなんてことも無かったと思う。」

「そんなことないって!

 あれはなるようになってああなったんだよ。」

「それでも。」


(みなと)が俺の手を両手で包み込む。


「俺は、(らく)のために今できることを全力でしたい。」

「お、お前………。俺のこと好きすぎかよ。」

「ったりめーだろ。子どもん時からの仲なんだ。

 お前の良いところは、俺が一番よく知ってるよ。」

「ちょっ………()でんな! 髪型が乱れる!」

「おっとすまん。」


(みなと)が慌てて手を離す。

その後、(らく)は声のトーンを下げて言った。


「気持ちはすっげー嬉しいけどさ、

 そういうのは、もっと大切な人のために使ってよ。

 たとえば、妻子もった時………とかさ。

 (みなと)には、自分の幸せのために力を使ってほしいんだ。」

「…………そっか。」


(みなと)はやや苦しそうに笑った。


「さて、と。(らく)の話は聞けたし。行こうか。」

「は? どこに?」

「え? ボスからメール来てるだろ。寿司食いに行くぞ。」

「まじで!?!?!?!?!?」

「うわっ声デカッ。」


蝶野楽(ちょうのらく)は目をキラキラと輝かせていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――大手寿司チェーン店『くり寿司』



「寿司食わせていただきます! よろしくお願いします!!」


蝶野楽(ちょうのらく)が90゜の綺麗な礼をする。


「控えい控えい。今宵は勝戦祝いじゃ。

 無礼講。お腹いっぱいたらふく食べりゃんせ。」

井寺(いてら)。あんたの金じゃないのよ。

 調子乗って適当言ってるとまた折檻(せっかん)されるわよ。」

「はんすけっちは()りないッスね〜。」

「はぅわッ!!」


ふざけ過ぎたと言わんばかりに、

井寺(いてら)伴助(はんすけ)は恐る恐るロガの顔を覗き込む。


「別にいいぞ。好きなだけ食って。」

「「!」」


井寺(いてら)(らく)は喜びすぎて踊り始める。


「こら、め! また部下を甘やかして!」

「許せ桜紗(おうさ)。 これも上の者としての義務…」

「そうやってうだうだ言ったところで、結局は

 部下を巻き込んだ罪悪感を消したいだけでしょうが…!」

「ごめん!ごめんって!ギブギブ!!!」


ロガが桜紗(おうさ)に逆エビ固めされている。


「俺、マグロ食ってみたい!マグロ!」

「ワシは次はあれを! マヨコーンを所望するのじゃ!!」

「あ゛〜〜〜!! もう!!!! 子どもが増えちゃった!!!」


だがバカ2人はそんなこと知ったこっちゃない。

目先の上司の死に際よりも、寿司の方が関心度が高い。

世の中とは非情なものである。


「お主もやりよるのぉ。初手からマグロとは。」

「え? いや………ハハハ………。

 俺、スシなんて食ったことなくて。嬉しくて。」


しばしの沈黙。


「なんか…チョット今頃になって山葵(わさび)がツーンと…」

「痛い痛い痛い痛い痛い!! 桜紗(おうさ)!! 力強めないで!!

 折れる!! なんか私の大事な何かが折れてしまう!!!」

「泣かせる話ッスねぇ…………。」

「ワシのことは気にするな! た〜んと食べ! たんと!」


「(なんか同情されてる………。

 でも……、なんか、悪くないな、ここ。)」



その日、(らく)は久しぶりによく眠れたとさ。

めでたし、めでたし。



⇐ to be continued

☆オマケ:皆の好きな寿司ネタ

蝶野楽  →マグロ

一元湊  →赤貝

鬼無瀬ロガ→特になし

世変桜紗 →アボカドサーモン

御門移  →アジ

井寺伴助 →ハンバーグ


ちなみに、ビッくりポンは1回も当たらなかった。

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