42話「もう戻らない、もう戻れない。」
――現実世界
「一体何がどうなってるんだこれは!?」
天馬正和は地に伏したまま驚嘆する。
天馬正和は見ていた。あの瞬間。
蝶野楽が爪弾並人に触れた瞬間、
2人は融合し、黒い化け物に成り果てた。
やがてそれは人の形をとった。
黒髪黒目、肉体は黒い炎に包まれ、
彼の周囲には『Error』という文字が浮いている。
それは楽でも並人でもないナニカだと直感で理解した。
「貴様は何者だ!? 蝶野楽と爪弾並人をどこへやった!?」
天馬正和が怪物に問いかける。
すると、怪物は静かに答えた。
「俺はカシ。彼らは俺の中で眠っている。」
「楽と並人を返してはもらえないだろうか。」
「断る。」
「…貴様の目的は何だ。何がしたくてこんなことを…。」
その時、カシを中心として、空間に亀裂が走る。
ガラスのように崩壊し、出現した『穴』の奥には、
“世界のどこか”の風景が広がっていた。
「俺の目的はただ1つ。カミサマを葬り去りたい。」
「神……!? 神輝也会長のことか!?」
「違う。もっと上だ。“世界の創造主”としての神だ。」
「……は? そんなの……いるわけが…」
空間の連続性の崩壊が加速的に進む。
「居るんだよ。俺はそいつに全てを奪われた。
俺はそれらを取り返すためならどんな犠牲も厭わない。」
「自分勝手な言い分だな。
そんなことのために人を犠牲にしていいとでも?」
「無論だ。むしろ、そうするつもりだ。」
突然、周囲に四角いメッセージボックスが現れる。
そこには、『世界初期化……40.4%』と書かれている。
「これから行われるのは、持久戦だ。
人類の存亡を賭けた、一世一代の戦い。」
カシの肉体がノイズを立てて消え始める。
「お互い、悔いが残らないようにやろう。」
「ま、待て貴様!!!」
カシが消失する。
「一体何が………。」
✆) ) )
『もしもし!? 聞こえますか天馬さん!?』
「話奏! 今何が起こっているか分かるか?」
『分かりません。世界が崩壊していってます。
いったい何なんですかこれ!? めっちゃ怖い……。』
「同意見だ。」
『ウィーン』
「誰だ!?」
“超次元エレベーター”で男女4人がやって来た。
そのリーダーらしき男は、落胆の声を漏らした。
「一足遅かったか…。」
「君たちは……!! …いや、本当に誰だ。」
「私たちは、『秘密結社Ⅹ』だ。」
「(なるほど、話奏が言っていた侵入者か。
何故こんなところに……。
……、いや、今はそんなことどうでもいい。)」
「………もう少し組織名はどうにかならなかったのか。」
「分かる。」「同意ッス。」「分かるのじゃ。」
天馬が微妙そうな反応をすると、
世変桜紗・井寺伴助・御門移が同調する。
天馬正和は苦笑いする。
「…さて、どこに行ったことやら。あれを使うか。」
「ロガ、また何かコピーしたの? 容量大丈夫?」
「無問題無問題。安心安全純日本国製!」
「……ボケる余裕あるなら大丈夫そうね。」
「【追跡たんぽぽ】ッ!」
「どっから拾ってきたのよ、その能力。」
ロガの手に仄かに光る綿毛のたんぽぽが出現。
ふーっと息を吹きかけると、種子がフワリフワリと飛び、
空間の裂け目の1つに入っていった。
「あっちだな。」
「(ほぇ〜。そんな能力あるのか。)」
天馬正和は感心したようにメモを取る。
「タッハァーーー! 興奮してきた!!!
もう我慢できん! ロガ殿!!! 行って参るぞォ!!!」
「あっ、ちょ………」
ロガの静止も虚しく、井寺が我先にと飛び込む。
「まったく………後先考えないわね……」
世変桜紗も続いて飛び込む。
「ボス、どんまいッス。」
「はぁぁぁぁ。」
移がロガの肩をぽんぽんと叩く。
「ほら、ボス。おれっちたちも行くッスよ。」
「ま、待て。」
天馬がロガを引き止める。
「何だ。お前は連れて行かないぞ。休んでおけ。」
「違う。そこの私の部下を治療していってはくれないか。」
天馬が指差す先には、音鳴飛太が居る。
たしかに、呼吸が浅く、命が危ない。
「……【広範囲治癒】」
ロガの掛け声とともに、床一面に緑一色の光が広がる。
触れているだけで、みるみる傷が癒えていく。
「……何故私まで?」
「対価だ。君も働きたまえ。頼んだよ。」
「………承知した!」
「先に行け。移、君もだ。」
「うーッス。」
この部屋には、鬼無瀬ロガと、
疲れて眠った音鳴飛太・開口蛇良々・明空王羅、
そして、既に息を引き取った繁芸獏のみが在った。
ロガは繁芸獏の元に歩み寄り、がっしりと抱き締めた。
そしてしばらく経った後、彼をワープホールに収納した。
足!
「どうなっている?」
「遅いッスよ、ボス〜。」
空間の裂け目の先は、アズマ展望塔の前であった。
まだ渡との激戦の傷跡が残るこの地の上空で、
黒い怪物が宙に浮き、天を見上げていた。
直後、怪物は頭を抱えた。
「さっきからあんな調子なんスよ。」
「・・・・・。」
――彼は一体、何者なんだ?
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「██。」
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「はぁ………はぁ…………はぁ……………。」
俺は存在が確定した。
が、故にそのギャップにより苦しんでいる。
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「█哉!」
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今までところどころ欠落していた思い出が、
だんだんと鮮明に思い出されてくる。頭が痛い。
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「十哉!!!」
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「――ハッ!?」
「鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して。」
「お、俺は………。」
「俺は、誰だ?」
「おいちょっとしっかりしてくれよ副リーダー!?」
赤髪の男は太陽のように明るい笑みをこぼす。
「(ああ…眩しいなぁ……。)」
きっと俺は、彼と巡り合うために産まれてきたんだ。
「大丈夫。こんな時に体調を崩したりはしない。
イスケのヘマをカバーする準備は整っているよ。」
「ひ、ひどいこと言うね………。」
イスケがやや苦笑いする。
「……とうとうここまで来たんだな。」
「………十哉でも干渉に浸ることがあるんだな。」
「イスケは俺のことを何だと思ってんだよ。」
「堅物。」
「お前は18年間、俺の何を見てきたんだよ。」
「顔?」
「面食いじゃーん。」
懐かしい。ずっとこうしていたい。
「……ねぇ、十哉。」
「ん?」
「絶対、勝とうね。」
「……ああ、勿論だとも。」
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誰一人だって死なせないさ。
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「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
カシの咆哮が、大地を強く揺らす。
その場に居た全員に、膨大な重力が襲い掛かる。
その中で、唯一動けた人間が居た。
「鬼無瀬ロガ!!!」
「おや、名前を知っているのか。」
カシの巨腕とロガの拳がぶつかり、衝撃波を生む。
「君、楽の身体の中に居ただろう。」
「そこまで分かっていて何故止めなかった。
君なら容易く防げたことだろう。」
「耳が痛いよ、本当に。」
「【存在しない例外】」「【牙】」
カシのエネルギー弾を、ロガの手刀が一刀両断する。
「俺とお前の目的は一致している。手を組まないか?」
「残念だが、それはもう試した。」
「どういう意味だ!?」
カシにロガの重たい一撃が決まる。
「未来は確定している。君の計画は100%失敗する。」
「………そんなッ………そんなの………ッ」
カシが【神風】を身に纏う。
「急に言われても納得できるかぁぁぁぁぁ!!!!!」
「(まずい………!)」
その台風が一気に弾け、四方八方に飛び散る。
「…………ちょっとは……落ち着いてよ…………ロガ。」
「桜紗!!!!!」
世変桜紗はロガへの攻撃を全て引き受け、
全身に深い深い切り傷を負ってしまった。
「す、すまない………」
「大丈夫。…知ってるでしょう?
私はソットやチョットじゃ死なないんだから。」
そうこう話をしている間にも、
桜紗の傷口はたちまち塞がっていく。
「私、ロガが側に居てくれるんだったら、
どんなに辛い困難だって乗り越えられる気がするの。
……たとえ、ビッグバンだって朝飯前よ。」
「さすがッスね、桜紗の姐御。」
「ほ、本当に……すまない。」
「あの厚顔無恥のボスが謝ったッス!?」
「今日は空から槍でも降るのじゃ!?」
桜紗に終始タジタジなロガに対し、
移と井寺は反応せずにはいられなかった。
「(一体何者なんだ、彼らは……!?)」
天馬正和は猛攻撃を防ぐのに精一杯だ。
だから尚更、『秘密結社Ⅹ』メンバーの異質さが際立つ。
「(何故これ程の実力者が世に知れ渡っていない!?
個々がJEC四天王と同等………、いや、
もしくはそれ以上の実力を持っている……!!)」
ひとまず今すべきことは、足を引っ張らないこと、
あの怪物を止めること、彼らの強さを分析することだ。
もし彼らの力を模倣できれば、私はもっと強くなれる。
――そうすれば、神輝也の強さにまた一歩近づく!!
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――精神世界
「これが外の様子……!?」
そこでは巨大なモニターがあるかのように、
外界でカシが見ている景色が映し出されていた。
「蝶野楽。正直、まだ立ち上がるのは想定外だった。」
「カシはちょっと俺を侮りすぎだぜ?
今 こんな酷いことはやめさせてやるから覚悟しろ。」
「吠えるようになったじゃないか、楽。」
カシと楽が言い合っている中、爪弾並人は思った。
「(ぼく、もしかしなくても場違いすぎるよな…。)」
蝶野楽に連れ出されたから今ここにいるけど、
マジレスすればぼくってこのカシってのと因縁無いし、
正直、いまさら自分の身体がどうなったってどうでもいい。
「さて楽。お前はどう俺に抗うつもりだ?」
「は……? そんなの、能力で……。」
楽が手に力を込めるが、何も起こらない。
「今お前たちの肉体は俺の支配下にある。
当然、【ラックアンラック】も【神風】も使えない。
まして、俺の能力は尚更使わせるわけがない。」
「ふーーーん。」
蝶野楽がカシの頬を殴りとばす。
「なら抵抗するぞ、拳で!!!」
「脳筋バカが……!!!」
……でも。
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お前が!!! 今 必要だッつってんのッッッ!!!!!
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あの時、自分が必要とされて、
不覚にも、すっごい嬉しかったんだよなぁ…。クソ。
「(ぼくも、やらなきゃだよなぁ、兄ちゃん。)」
爪弾並人は覚悟を決めた。
それは掌中に光り輝く『石』となって現れた。
「これでも食らえやクソダラぁぁぁぁぁ!!!!」
爪弾の渾身の投擲が、カシにヒットする。
「(石……!? いったいどこから………そうか!!)」
蝶野楽は心の中で強く、強く念じる。
それは眼前に光り輝く『剣』となって現れた。
「ここは、俺たちの頭の中。つまり………」
蝶野楽の気づきに、カシの目つきはさらに鋭くなる。
「『想像力=強さ』ってわけだ。」
「だったらどうする。」
カシの周囲を取り囲むように、巨大な城が現れる。
「自分が負けることを想定して戦うバカがどこにいる。」
「俺だったら負けると分かってても戦うぞ?」
「随分生意気言うようになったな、楽。
仲間が1人増えたのがそんなに頼もしいか!!」
「ああ、『鬼に金棒』だよ。」
カシはガトリング砲を想像する。
「じゃあこっちはこれでいく。」
「「手加減しろやクソ野郎ォォォォォォ!!!」」
激しい連射音を立てながら無数の弾が飛んでくる。
「身を守れ仁!!!」「言われなくても!!!」
蝶野楽は田中鋼一の【防御】を想像し、
爪弾並人はJEC特製防弾盾を想像した。
「お返しだ食らえや!!!」
蝶野楽が剣を振り斬撃を飛ばす。
爪弾並人も投石で追撃する。
…だがカシは不気味に光るバリアを想像した。
バリアによってすべての攻撃は防がれてしまった。
「想像力が足りない。」
カシはさらに大きな火球を想像する。
「【火炎呪文・天地焦がす灼熱の太陽】」
放たれた火球は楽たちの目の前で爆ぜ、
解放された激しい熱と光が2人の血肉を焼き焦がした。
「……まだ生きているのか。見上げた根性だ。」
幸い死なずには済んだが、全身が痛い。
負けるビジョンしか思い浮かばす、心が折れそうになる。
そこで蝶野楽は勘付いた。
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楽。知ってるか?
「ヒトを乗っ取るためには、精神を破壊するのが一番」
なんだってさ。
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「(やっぱり、カシの狙いはこれだ!!!)」
あんな突然豹変したように罵ってきたのも、
わざわざ爪弾並人の過去を体験させたのも、
ここで一息で殺さずにじわじわと攻撃してくるのも、
恐らく俺たちの精神を理解して乗っ取りたいから。
そのために悪役を演じているだけなんだ。
うん。きっとそうだ。そう信じることにしよう。
俺はまだ、カシのことを諦めたくない。
カシには「たった1ヶ月あまり」と言われてしまったが、
俺にとってその1ヶ月間は濃厚で、
長い人生で見ても明らかに充実していたと思う。
爆破予告やら刺客やらで超忙しかったけれど、
お陰で色んな人に知り合えたし、仲を深められた。
それは、あの日カシと出会い、
命を救ってもらえたお陰で成り立った幸せだ。
カシがここまでするほどの計画を、
「諦めろ」なんて無神経に言いたいわけじゃないが、
それでも、カシに譲れない事情があるのと同様に、
俺にだって譲れない事情がある。
せめて、互いに納得できる妥協点を見つけたい。
あわよくば、今回の件を水に流してでも、
これからも一緒に居たい。
「聞こえているぞ、バカめ。」
「!」
「ここは俺が支配している空間だ。
お前の考えていることは筒抜けだ。
俺に裏切られても尚まだ甘いとは、
ここまでくると尊敬の域に達するよ。」
カシが光輝くエネルギーで構成された弓矢を想像する。
「【閃光呪文・流るる光の天日矢雨】」
カシが光の弓を射ると、一筋の太い光が分裂し、
無数の光の雨となって降り注いだ。
……あれ? 当たってない。
不思議に思い前を向くと、俺たちの目の前に、
スーツ姿の男が白い霧とともに立っていた。
「三月幻魔!?」
「危機一髪だったね、蝶野楽。
もう安心していいよ。もうすぐこの戦いも終わる。」
カシは一瞬呆けた顔をして、
すぐに三月の意図に気づくと激昂した。
「謀ったな三月幻魔!!!」
「はて、何のことやら。」
三月幻魔がすっとぼけた顔をする。
「私はただ、蝶野楽を守りに来ただけだよ。」
「減らず口を!!!」
カシが蒼白く発光する巨大な雷雲を想像する。
三月幻魔は霧を媒介として巨大な怪物を呼び出す。
「【雷電呪文・天から降り注ぐ怒りの鉄槌】」
雷雲から、暗い精神世界を切り裂くように、
激しく枚挙の暇もないほどの雷が降り注いでくる。
「さあ! 愛憎渦巻く大怪獣バトルといこうか!!!」
「ぬかせ!!!」
激しい閃光の往来の中、
三月幻魔は蝶野楽に優しく語りかける。
「君のボス、鬼無瀬ロガが、何か策を思いついたらしい。」
「え!?」
「あと少しの辛抱だ。絶対に希望を捨てるな。」
「………はい。」
この人は何を考えているんだろう。
カシと仲悪そうだし、ひょっとして悪い人なんじゃ…。
「大丈夫。君なら出来る。」
「……はい。」
ここが、この一連の出来事の最後の転換点だったと思う。
俺のこのときの選択が正しかったのかは今もわからないが、
少なくとも、どちらも選ばないよりも良かったと信じている。
⇐ to be continued




