41話「ツマハジキモノ」
過去1なが〜い話になっちゃいました。
すみません(*ノω・*)テヘ
山中仁には、「信」という、年が3つ離れた兄が居た。
「名は体を表す」とは本当によく言ったものだ。
信は誠実で、
たった一度でも約束を破ったことが無かった。
太陽が燦々と照る中、
仁と信は今日も今日とて畑仕事に勤しんでいた。
「兄ちゃーん。ここのトマト熟してるー。」
「おっ、仁。でかした!」
信がバチッと鋏でトマトの軸を断つ。
へたの周りまでお天道様のように真っ赤に染まり、
如何にも食べごろといった感じのトマトだった。
仁は、涎を垂らしながらそのトマトを見ていた。
「だーめ。これは売るもんだ。」
「えー。ケチー。兄ちゃんのケチンボ!!!」
仁の抗議に、信は籠を下ろして頭を撫でる。
「気持ちは分かるが、生きていくためだ。仕方ないんだ。
父ちゃんは熊に襲われて死んじまったから、
オレ達が働いて母ちゃんを楽させてやんねぇと、だろ?」
「………うん!」
毎日毎日 畑仕事に励むぼくたちを、
村の人たちは温かく見守っていてくれた。
「あら〜。信ちゃん、仁ちゃん。偉いわねぇ〜。」
「芋畑さん! 恐縮です!」
「いいのよぉ〜、敬語なんて使わなくって。
ご近所付き合いなんだからさ。
ほれ、干し芋食べるかい? 作りすぎちゃって。」
「「いただきます!」」
芋の凝縮された甘みと、
もっちりねっとりした感触がクセになる。
芋畑さんの作る干し芋はやはりとても美味しい。
「お母ちゃんは今どこにいるの?」
「村長に呼ばれて、今は家に居ません。」
「そう………………。大変ねぇ。」
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「清美。分かるよな?」
「またですか!?」
「いいじゃねぇか。何度も愛し合った仲じゃないか。」
「それは貴方が脅してきたからでしょう!?
こうしている間にも、信と仁は畑仕事を―」
「……はぁぁぁぁ。これだから頭の悪い女は。
一体誰のおかげで家賃が安く済んでると思ってる?
代々農家の山中家風情が調子乗ってんじゃねぇぞ。
…それとも、愛しい愛しい子どもたちが、
偶然熊に襲われても痛くも痒くもないってことか?」
「―――――ッ!!!」
「…安心しろよ。お前が従順でいる限り、
あのガキどもには一切手出しをしないから。」
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「「ありがとうございました!」」
「いいのよぉ〜。美味しく食べてくれて、
きっと、ウチのさつまいもも喜んでいるわぁ〜。」
深く深くお辞儀して、芋畑さんと別れた。
「ねぇ兄ちゃん。」
「ん?」
「兄ちゃんが前に言ってたことだけどさ、
『ありがとう』って、何で『ありがとう』なのかな。」
「語源ってことか? うーーーん………。
兄ちゃん、学校行ったことないから分かんないけど、
『ありがとう』って『有り難い』と書くだろ?」
「そうなの。」
「そう。文爺から聞いた。
これは兄ちゃんなりの解釈でしかないけど、
きっと昔の人は、貧しかったんだ。」
「……ぼくたちみたいに?」
「うん。だからずっと苦しかったんだと思う。
そこに『良いこと』が訪れるってのは、
それこそ『有り難い』ことなんだと思うんだ。」
「なるほど。」
「でも『有り難い』ことに慣れてしまうと、
いつしかそれが当たり前になって、
『自分は幸福だったんだ』と気づけなくなる。
仁も、毎日3食ケーキだったらさすがに飽きるだろう?」
「?」
「…だから、人から与えられた施しや、
これまでの人生の巡り合わせなんかを、
『特別』に思って、それが『感謝』になったと思うんだ。」
「……うん。」
「…………まだ9歳の仁には早かったか。」
「うん!」
「…ヨシ! 元気に返事できて偉い!」
信がわしゃわしゃと仁の頭を撫で回す。
「……きっと仁にも、分かるときが来るよ。」
信の表情はとても優しかった。
「仁ちゃーーん。」
「みんな! どうしたの?」
「えっちゃんがバナナで昆虫トラップ作ったんだって。
森ん中にあるから、一緒に見に行こう! ねっ!」
仁が信の方を見る。
すると信は屈託のない笑顔で言った。
「いいじゃないか! 行っておいで!」
「………! うん!」
「お土産たくさん持って帰るからねー!!!」
「ハハハ! …虫苦手だからやめてくれ。」
それからもぼくたちの人生は特に変化もなく、
ただ他愛もない時間が過ぎていくだけだった。
――だが、ぼくが12歳になった時、事件は起こった。
「うっ…………。」
母が、身籠った。
いや、「身籠っていた」と発覚したという方が正しい。
ぼくは状況がよく分かっておらず、
母が病気を患ったのだと思い、ひどく混乱していた。
「ど、どうしよう!? 兄ちゃん!!!」
「………フゥゥゥゥゥゥ。フゥゥゥゥゥゥ。」
こんなに取り乱した兄の姿は見たことが無かった。
目は鋭く、眉は吊り上がり、血管が浮き出ていた。
「……兄ちゃん?」
「――あ。仁か。どうかしたか?」
「ど、どうしたらいい!? ぼくどうしたらいい!?」
「と、とりあえず布団に寝かせよう!」
「う、うん。」
後から分かったことだったが、
腹の子の父親は十中八九「村長」とのことだった。
その日を境に、周囲の人間の態度が急変した。
『村長を誘惑し勝手に孕んだアバズレ女とその息子』。
そんなデマがどこからともなく流れたのだ。
ぼくたち山中一家は白眼視されるようになった。
母は日に日に弱っていった。
次第に心に余裕も亡くなって、
やり場のない怒りをぼくたちにぶつけることもあった。
村人はどこまでいっても村長の犬だ。
いくら助けを求めたところで無意味に等しい。
こんなの不当だ。不条理。理不尽極まりない。
どうしてぼくたち家族がこんな目にあわなきゃならない。
ぼくが前世で何か重大な罪を犯したとでも言うのか!?
ぼくはこの世に神も仏もあったもんじゃないと知った。
万が一居たとしても、そいつの性格はすこぶる悪いだろう。
『有り難い』ことが無くなって数ヶ月。
頼れる人間が居なくなったぼくたちにとって、
それは大きなターニングポイントとなった。
母が産気づいたのだ。
信は真っ先に村一番の産婆に連絡をした。
藁にも縋る思いで、受話器越しにも関わらず土下座した。
だが現実は非情であった。
『いくら頼み込まれても御免だよ。
村長に言われてるんだ。「産ませるな」って。
「堕ろすなら手を貸しても構わない」とのことだけど。』
老女の吐き気を催すような枯れた声を聞き、
信は熊をも殺すような勢いで電話を切った。
「この人間の悪いところ全部煮詰めたようなクズどもが!!!」
信は感情を爆発させた後、しばらく泣いていた。
ぼくもわけがわからず泣いていた。
年端もいかないガキ2人にできることなんて高が知れていた。
結局、赤子は死んだ。死産だった。
たとえあの男の血を引いていると言っても、
ぼくたちにとっては家族だった。
家族だったはずなのに、守れなかった。
ぼくたちは己の未熟さを恥じた。
同時に、この世のすべてを恨んだ。
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――その日の夜のこと。
あの後、食べ物が喉を通らなかった。
口に入れても、罪悪感で味を感じられなかった。
母は冷たくなったその亡骸を抱いて泣いていた。
兄ちゃんも泣いたし、ぼくも泣いた。
布団の中で無意味な思考を何度も何度も繰り返した。
「(ぼくが殺したんだ。)」
あの逼迫した状況で、ぼくだけが何もしなかった。
今振り返ってみれば、それは至極当然のことだが、
当時のぼくはそんなこと知る由もなかったのだった。
「(皆があんなに悲しい思いをするくらいなら、
ぼくがあの子の代わりに死ねば良かったのに。)」
ぼくが死んだところで、きっと誰も困らない。
ぼく抜きでもこの村は上手く回っていく。
「(ぼくには何の価値もない。)」
畑仕事は父ちゃんにも兄ちゃんにも劣る。
家事はできないし、大切な家族も救えない。
「(……なら、いっそう――)」
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ぼくだけが嫌われれば良かったのに。
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父ちゃんも、母ちゃんも、兄ちゃんも良い人だ。
こんな扱い方されるなんて、間違ってるに決まってる。
もし嫌われる人が必要なのだというのなら、
それはきっと、ぼくだけで十分なはずだ。
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――翌朝
「おはよう、クズ。そのまま目覚めなきゃ良かったのに。」
この言葉が信の口から、ぼくに向けて発せられたと理解するまで、かなりの時間を要した。
「ど、どうしたの、お兄ちゃ――」
そこまで言いかけたところで一発ビンタを受ける。
「……え?」
鼻からだばーと血液が流れる。
信はそれを汚物を見るような目で見ていた。
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ害虫。
役立たずで人殺しの穀潰しが。
もう畑仕事には来なくていいから。野菜が腐る。」
「・・・・・?」
急変した信の態度に、ぼくは終始目を白黒させていた。
「ん…………んん…。」
「あ、母ちゃん。おはよう。」
「………おはよう、信。」
起きてきた母とばっちり目が合う。
目の下に黒いクマができていて、げっそりしていた。
「………誰、あんた。」
「……え?」
元気のかけらも無い声で、はっきりと言った。
「ぼ、ぼくは山中仁だよ。母ちゃんの子だよ。」
「嫌ッ!! 知らない知らない知らない!!!
あんたみたいな気持ち悪い子産んだ覚えが無い!!!」
「気っ!?」
母がパニックを引き起こし、ガリガリと髪を掻き毟る。
「どこの子か知らないけど、出てってよ!!!」
「ちょっ!? 母ちゃんどうしたの!?
こいつは一応オレの弟だよ!? 忘れちゃったのか!?」
「知らない知らない知らない知らない知らない!!!!!」
「―――――ッ!!!」
「あっ!? おい!!! 仁!!!」
ぼくはわけがわからず走り出した。
1秒でも長くあの場所に居たくなかった。
今まで積み上げてきたものが全部崩れていく気がした。
「どうして…………!?」
昨日までは何ともなかったのに。
今日になっていきなり態度が変わるなんて、おかしい。
「うわっ。あれ見て。」
子どもたちの声がする。
母の件までは仲良くしていた元友達だ。
「あんな子ウチの村に居たー?」
「覚えてなーい」
「なんかこっち見てるよ。気持ち悪い。」
その内の1人がぼくに向かって石を投げた。
当たりどころが悪く、右目が潰れて何も見えなくなった。
「命中!!!」
「すげーや えっちゃん!」
「きっと将来はJECのヒーローだね!」
「モチのロンよ。悪いやつは全員、俺がやっつける!!!」
「「かっこいいー!」」
ふざけんなクソ!
痛い痛い痛い痛い。右目から血と涙が止まらない。
「あっ逃げた。」
「やーい負け犬。」「この村から出てけ!」
後ろから飛んでくる石を死に物狂いで躱しながら、
ぼくはこの歪な村を脱出した。
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――3日経った。
今のぼくは、昔じゃ想像できないほど、
哀れで惨めな生活を送っている。
水分は偶然降った雨から摂った。
夏は雨が多いから、本当に助かった。
水たまりを覗くと、右目が赤紫色に腫れていた。
栄養はそこらへんに居た虫やら何やらを食べた。
味覚がほとんど無いことをこれほど喜んだことは無い。
天を仰ぐと、どんより雲がぼくを見ていた。
まるでぼくの行く末を表しているかのようだった。
死にたいけど死にたくなかった。
死んだらこの理不尽な世の中に負けを認める気がした。
でも身体は早くも限界を迎えかけていた。
地面に転がって、ただ何も考えずに過ごしていた。
「あれぇ〜? クシュンッ。
何でこんなところにガキが居るの? クシュンッ。」
男の声がする。身体が動かせないので、
体勢はそのままに、男の方に目をやる。
…それは、人間では無かった。悪魔だった。
肌は真っ黒。立派な角を生やし、目は赤く、
毛布のようなマント1枚だけを身に着けていた。
「だ……れ……………?」
「んん? あぁ、私? 私はイル。
君は、あの村の生き残りかい? クシュンッ。」
何故だろう。とても嫌な予感がする。
ぼくは首を横に振ってウソをついた。
「あらぁ〜? 違うの。残念。
まだ殺したりなかったから丁度いいと思ったのに。」
何を言っているんだ、コイツは。
「まあ、いいや。これで用は済んだし。
……もしもしママ? お仕事終わったよー。 クシュンッ。
村長はきちんと処分したよ。
確かに強力な能力だったけど、相手が悪かったね。
次はどこ行けばいいの? クシュンッ。
……は? シコク?? ちょっと遠くない? …まあいいけど。
その前にちょっとカントー寄りたい。
素敵な出会いがありそうなんだよ。いい? よっしゃー。
じゃあまた追って連絡するから。はい。はーい。」
その怪物は電話も無いのに誰かと会話していた。
村長を処分? 何いってんだこいつは。
「……君のことはどうしようかなぁ〜。
男のガキは、発病させても映えないんだよなぁ〜。」
このイルとかいう怪物は、ぼくの頭に手をやった。
「……シッシッシッ。面白いねぇ〜。
君、能力の副作用で皆から嫌われるんだねぇ〜。」
「(能力………?)」
「今までたくさんの人間を見てきたけど、
ここまで酷い能力を見たのは初めてだ!傑作だ!」
イルは大爆笑する。
「でも無自覚タイプなのが残念だ。
ここまで愉快にしてくれたお礼に教えてあげる。
君が他人を指させば、この苦痛からも逃れられるよ。」
「ほ…んとう………に?」
「ああ! 私は人間と違って嘘は吐かないからね!」
イルは左耳から何かを聞き取ったらしく、嫌な顔をする。
「はいはい、分かったよ、すぐに行くから。
じゃあ、さらばだ。世界一不幸なガキ。」
イルは風化するかのように消えて行った。
ぼくは自然と笑みをこぼしていた。
訳が分からないけど、この苦痛から逃れられるんだ。
そうしたらきっと、また兄ちゃんは母ちゃんと一緒に…
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数日掛けて足を引きずりながら村に戻った。
そこは阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた。
死体が死体に積み重なり、
生者は死者の血肉を貪り食っていた。
思わず吐いた。
吐瀉物の臭いのせいか、生者が一斉にこちらを見る。
「肉。」
一斉に追いかけてきた。
ぼくは逃げようと思ったが、足が上手く動かない。
すぐに追いつかれ、組み伏せられた。
「………え!? 芋畑さん!?」
「肉。おなかすいた。肉。」
涎が頬に垂れるのを見て、
ぼくは殺されるのだと直感で分かった。
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君が他人を指させば、この苦痛からも逃れられるよ。
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「――――ッ!!!」
ぼくは一か八か、かつて芋畑だった生き物に指をさす。
すると、ストンと何かが抜け落ちる感覚がする。
次の瞬間、かつての芋畑は他の村人に蹴り飛ばされた。
村人は何かボソボソと言った後、ぼくの頭を撫でた。
確かに『呪い』は解けたようだが、複雑な気分になった。
なにはともあれ、
今村でとんでもないことが起こっていることは理解した。
では兄ちゃんは? 母ちゃんは?
安否を確認すべく、我が家に向かって走った。
途中躓いて転ぶと、村人がおぶっていってくれた。
家が近づいてきた。
……戸の近くには兄の死体が転がっていた。
「兄ちゃん!?」
家の周囲は血が散乱していた。
兄ちゃんには複数箇所に打撲痕があり、
既に息を引き取っていた。
戸が開けっ放しの家の中を覗くと、
ところどころ肉が削ぎ落とされた母の骸があった。
ぼくはまた吐いた。
噎せ返るほどの血の臭いに拒絶反応を示した。
この涙が家族を失った悲しみから来たものか、
はたまた死屍累々を前にした身体の正常な反応の産物か、
最早ぼくには区別がつかなかった。
直後、おぶってもらった村人から土手っ腹を蹴られ、
かすっかすの軽い身体はボールのように飛び跳ねた。
「(どうして!? また元の態度に戻った!?)」
ここでイルの発言を振り返り、仁は勘付いた。
この能力は、ただ嫌われる苦痛から開放されるためのものなとでは断じて無い。
誰かを指さし身代わりにすることで、
一定期間だけ苦痛から逃れる能力なのだと。
「ゲホッゲホッ……………ハハ………………ハハハハハ!」
もう笑うしかなかった。
笑わないと絶望で狂いそうだった。
日!
そのあとのことはよく覚えていない。
走って走って、人に会ったら陥れ、傍若無人に振る舞う。
そうすることで、過去に目を向けないようにしていた。
ぼくは本気で敵意から逃げられると妄信していた。
だが何度も何度も自分の元に戻ってくる【敵意】を見て、
限界を感じ始めていた。
「(疲れたな。)」
暗い路地裏で人生を振り返ってみれば、
理不尽、理不尽、理不尽の連続の愚作だ。
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たとえ世界中が敵に回ったとしても
僕はただ1人君を守るよ
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本当は希望に溢れる歌が大好きだった。
だが、段々とその理想と、かけ離れた自分の人生を
勝手に比較して、勝手に嫌悪していた。
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あの、だ、大丈夫ですか?
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本当はあの時、一瞬。たった一瞬だけ、
「その手を取りたい」と思っていた。
だけど、希望をとって、また絶望するのが嫌で、
罵詈雑言を吐いて追い払ってしまった。
本当に愚かだった。
救われたいと願っているくせに、
救われそうになったら拒絶し逃避する。
このぼくの愚かな本質に気づいた時、
ぼくの人生にどの道救いは無いのだと分かり落胆した。
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――【白い部屋】
「どうせなら……あの時、手を取れば良かった……。」
爪弾並人が地面に突っ伏し泣いていた。
『パァァァァン』
蝶野楽は彼を容赦なくビンタした。
「え………何…………ひど…………」
「お前って本ッッッ当に馬鹿ッッッッッ!!!!」
「え?」
蝶野楽は泣いていた。
だがそれは繁芸獏の時とは違う涙だった。
「あのさぁぁ、なんていうか、こう………。
………んんんんんん!!! こう! 言えよッッッ!!!」
「………はぁ?」
爪弾並人はぽかんとして間抜けな声を出す。
「人間はさぁ、普通表面しか見れねェからさぁ、
こう……言われねェと本心に気づけねェし、
助けることだってできねェんだよ。わかる!?」
「な、なんかごめんなさい……」
蝶野楽が爪弾並人に顔を近づける。
「ヒッ」
「たしかに同情するよ!? あの過去普通にキツイもん。
でもそれで俺が犠牲にされていいわけじゃないんよ。
なんか圧縮された15年ちょっとの人生を
ずぅ〜っと見せられてイライラしてさぁ………!!」
「ご、ごめんなさ………(顔が近いよ、顔が!!!)」
「とにかく!!! この件について俺が言えるのは1つ。
自分で対処しきれないことあったら人に頼れ。
上手くいかなくても自分を責めすぎんな。返事はァ!?」
「はい!!!」
「あと、ここまでの話を踏まえた上で、1つ。」
「ま、まだ何か……?」
蝶野楽が頭を下げる。
「助けてください!!!」
「……………はぁぁぁぁ!?」
「この1週間弱、互いに滅茶苦茶ヤなことしたけど、
今だけ、今だけ停戦して助けて欲しい。てか助けろ。
あーだこーだ言うのは事が済んでからにしようぜ。」
「???」
爪弾並人は急展開した話に混乱する。
「今、俺とお前の肉体は『カシ』ってやつに支配されてる。
カシが何でこんなことすんのか分かんねェけど、
このままだとヤバいことになりそうな気がすんだよ。」
「な、なるほど………??」
「だから、2人でカシを止めたい。手伝ってくれ。」
蝶野楽が右手を差し伸べる。
爪弾並人が手を取ろうとするが、
途中で躊躇して止まる。
「い、いやでも……やっぱり役に立たないかもだし…」
「はぁぁぁぁ!? ここまで言ってまだ分かんねェのか!?」
蝶野楽が退きかける爪弾並人の手を握る。
「お前が!!! 今 必要だッつってんのッッッ!!!!!」
「!!!」
蝶野楽がそのまま爪弾並人を引っ張り立たせる。
その頼りがいのある姿は、信と重なって見える。
「行くぞ爪弾! …いや、仁!!!」
「う、うん!」
蝶野楽が【白い部屋】の壁を蹴破る。
すると前方にカシの姿があった。
「うわッ!!! 思ってたよりも近くに居た!!!」
「………復活するの早いな……。」
⇐ to be continued




