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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第1楽章「黎明爆破」
4/38

3話「無茶苦茶」

「心配かけて、ごめんな。」


俺、蝶野楽(ちょうのらく)は、【硬化】の男との戦闘を経て、気絶。

それを通報を受けたJECが回収。

発見時は()()()()がグジュグジュになってたそうだが、

病院に運び込まれた頃には完治していたとか。

その後は念の為、数日入院するよう言い渡された。


「全く、本当にな。

 お前が奇襲を受けて意識不明って聞いた時は、

 生きた心地がしなかったよ。」


(みなと)は、病室のベットの横で

りんごを剥きながら、やや不機嫌にそう答えた。


「入院費、バカにならないだろ。

 退院したらなんとか働いて返すから。」

「あ、その心配は()ぇ。

 JECが全額払っていったからな。」


「その通り。」


タイミング良く病室に2人の男が入ってくる。

1人は天馬正和(てんままさかず)。もう1人は……知らない顔だ。


「君を襲った男は繁芸獏(しげきばく)が仕向けた何でも屋だった。

 また事件に巻き込んでしまったようで、申し訳ない。

 聞いた通り、君の治療費はすべて

 JECが負担するので、そこはお気になさらず。」

「……………。」

「おっと、説明が遅れてしまった。

 彼は役洲虎(えきすとら)

 君に何かあった時のために、

 監視役としてこっそり付けさせていた。

 ま、そのお陰で私はすぐに駆けつけられたんだよ。」

(俺、監視されてたんだ………。)


「……ん? 繁芸獏(しげきばく)って言ったか?」


さらっと流されそうになったが、

要するに、俺は刺客を送り込まれ、

危うく殺されかけた。ということだろう。

それが意味するのは………。


「…ああ。繁芸獏(しげきばく)とワタルの2人は、

 今も着々と何かの準備を進めている。

 君はその計画の邪魔になると判断されたのだろう。」

「…今後も刺客は襲ってくると思う?」

「……否定はできない。」


その時、ガララッと床に何かが音を立てて落ちる。

それはナイフだった。


「……おっとすまねぇ。うっかり落としちまった。」


(みなと)だ。一見ヘラヘラと薄っぺらい笑みを浮かべているが、

目が全く笑っていない。


「あのよ、今後も刺客が送られてくるとしたら、

 その度に(らく)がこんな目に遭わなきゃなんないのか?」

「……それは」

(らく)はただの被害者だ。俺は

 JECが『(らく)の安全は保証する』と約束してくれたから、

 例の爆破予告事件への参加を許諾したんだ。



 ……何が『保証する』だよ。

 1人の人間も満足に守れねぇような組織が、

 世界中の人々を守りきれんのかよ。」


これには、天馬(てんま)も何も言えない。

俺は、そんな約束が両者に結ばれてるとは知らなかったし、

ここまで自分が大切に思われてるとも知らなかった。

……代わりはいくらでもいると思っていたから。


「……(みなと)。俺のために怒ってくれてありがとう。」

「……………当然だろ。友達(ダチ)なんだから。」


「でもさ」

一拍おいて、俺は切り出す。


「俺、やっぱ許せないよ。

 “芸術家”だかなんだか知らないけど、

 大勢の人々を苦しめ、傷つけるようなヤツらを、

 到底許す気にはなれない。」

「………………。」


「だから、ごめん。(みなと)

 俺、あいつらをとっ捕まえる手伝いがしたい。

 心配してくれんのは嬉しいけど、

 この気持ちは、変えたくない。諦めたくない。」


(みなと)は「そうか」とだけ口にし、

少し寂しげな表情を見せた。


天馬(てんま)

「なんでしょうか。」

(らく)を、頼めるか?」

「善処しましょう。」

「………。ま、君からそれが聞けたら十分だよ。」


(みなと)はきまりが悪そうに頬を掻いた。


〜閑話休題〜


「では、(らく)さんの様子も確認できましたし、

 私は本部に戻ることとします。

 また、何か動きがあれば連絡いたします。」

「見舞いに来てくれてありがとう。」

「……いえいえ。 それでは失礼します。」


2人の男は病室を後にする。


「はあ……。」

役洲(えきす)。ため息をつくと幸せが逃げるぞ。」

「す、すいません。」

「………。」


今のJECは、はっきり言って余裕がない。

()()()()()()の備えのため、あまり戦力を割けないからだ。

……あの日から、天馬(てんま)さんの背負う物は増えるばかり。


(いつき)さんがいてくれたらな…」ボソッ

「!」


つい口走ってしまった禁句。

天馬が鋭く役洲を睨む。


「あ…………。も、申し訳ありません。」

「……いや、いいよ。私もそう思っていたから。」

「え…………?」


天馬はそれから、一言も発さなかった。



(みみへん)



「……………………。」

「……………………。」


(みなと)は深刻な表情で黙り込んでしまった。

今は、一体何を想い、何を考えているのか。


さっきはああ言っていたが、やっぱり、

心の奥底では納得できていないのかもしれない。


(俺は、なんて声をかければいいんだろう。)


「………なあ、(みなと)。」

「………ん。どうかしたか?」

「やっぱり………俺が戦うのはいやか?」

「ーーそりゃ、友達(ダチ)が危険な目に会うのを、

 「はいそうですか」って容認できるワケねぇだろ。」

「………だよな。」

「でも、俺は、それ以上に。

 友達(ダチ)のやりたいことを全力で応援したい。

 ただそれだけだよ。」

「…………じゃあなんで、

 そんなに深刻な顔でずっと下向いているんだ?」


恐る恐る聞いてみると、

(みなと)は一瞬、鳩が豆鉄砲くらったような顔をして、

その後、俺の質問の意図に気づき、笑い出した。


「おっ……お前っ。アハハハハハッ

 俺がずっとふてくされてると思ってたのか!?」

「ッんだよ(ちげ)えのかよ!

 せっかく心配してやってたのに!」

「………お前も心配してくれてんなら、お互いさまだな。」

「…ちなみに何で悩んでたの?」

「今日の晩飯の献立。」

「アハハハハハハハハハハハハッ!!!」

「笑うんじゃねえ!」



〜 一方その頃、ある一室にて。 〜


『 トン トン 』

難波(なにわ)。」

「……太陽。」


重厚そうな扉が、ゆったりと、開く。


「やあ。」

「「やあ。」じゃねぇ。この変な合言葉やめろよ。」

「…いいじゃないかあ。好きなんだよお、太陽。」

「へいへい。好きだからって()()すんなよ。」

「分かってるとも。アレは生命の源。

 太陽無くしては、生き物は生まれない。そうだよね?」

「……ああ。その通りだな。」


以前にも増して不健康な、痩せぎすの身体。

充血した目。どす黒いくま。ボサボサの青緑の髪。

人の精神を逆撫でする、気味の悪い笑み。

そのすべてが、ボクに一抹の()()()を感じさせる。


「…入らないのかあ?」

「おっと!すまない。すぐに入るよ。」


ボクは昨日乗っ取ったばかりのアパートに入り、

居間の真ん中に置かれたボロい椅子に座り、

そわそわと落ち着かない様子の彼に質問した。


「さて、改めて聞こうか。繁芸獏(しげきばく)。君の目的を。」

「…私は、ただ伝えたいだけだよお。

 世界は、美しいもので満ち溢れている。

 それは、破壊の最中でも同じ事。」

「………本当にそれだけなのかい?」

「そうだあ。……そうさ!そうだとも!

 私は、壊されて尚美しいモノ………いやあ、違う。

 いずれ壊れるからこそ美しい!!!

 それを! 大勢に!! 気づかせたいんだ!!!

 この胸の高鳴りを!溢れ出んばかりの感動を!

 たくさんの人々に共感してもらいたい!!!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

イカれてる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……いや、そんなことは出会った時から分かってたけど。

でも、【正常】か【異常】かなんて、今はどうでもいい。

大事なのは目的。目標。指針。信念。

叶えるために使うだけだ。

実現するために利用するだけなんだ。


御門渡(みかどわたる)。このボクの目的を完遂するための。



「……聞いているのかあ? 君が聞いたんだよお。」

「! ああ、もちろん。聞いていたとも。」

「そうかあ。」


『ピロリン』


「何の音だい?」

「ボクが開発した《スマートグラス》の通知音さ。

 ………田中鋼一(たなかこういち)が負けたらしい。」

「Awesome!!!」

「何が「素晴らしい」だバカ!

 計画で最も邪魔な蝶野楽(ちょうのらく)がまだ生きているんだぞ!」

「この程度の困難では立ち止まらない!

 むしろ成長! 経験を糧にし立ち向かう!!

 なんと素晴らしい!!!そして…………」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

()()()

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ハックション!!!……ズズッ」

「なんだ? 楽、お前、風邪でもひいたか?」

「さあ? 誰かが俺のウワサでもしてんのかなあ?」




「……やったのか?」

「否。こんな決着の付け方は興冷めするだろう?」

「はぁぁぁぁぁぁ(クソデカため息)

 その下らねぇプライドを捨てないと、

 いつか、ソイツに足元を(すく)われるぞ。」

「………………。」


コイツのことだ。どうせ、

『壊れない……不滅ッ! それもまた芸術!』

とか考えているんだろう。


「想像して興奮してんじゃねぇよ変態が。

 で?? どうすんだよ。刺客やられちゃったぞ。

 お前が『任せたまえ』って言ったんだぞ。」

「安心したまえ。まだあと7人ほど用意している。」

「……どこからそんな人材を。」

「何でも屋だよ。蝶野楽(ちょうのらく)と同じ。

 彼らは、お金さえやれば文字通り()()()やる。

 それ以上に価値のあるものを知らないからだ。

 ………それは、私がよく知っているよ。」

「……依頼料はどうした。」

「1人あたり前金50万、達成報酬50万、計100万。

 全額、君のヘソクリから出させてもらった。」

「殺すぞ。」

「君にそれが出来るわけないだろう?

 私はこの計画のキーパーソンなんだから。」

(諸々済んだら絶対に殺す。)



(にんべん)



夜になると、あんなに騒がしかった病室も、

お通夜みたいに静かになってしまう。

楽は少しセンチメンタルな気分になっていた。


『寂しいのか?』

「感覚共有うぜーーーー。

 …てか、今日どうして出てこなかったんだよ。」

『話の邪魔になるし、君の身体の修復で

 また力を使い果たしてしまったからな。寝てた。』

「…………。」

『……あの時は悪かったって。本当に。

 何度も謝ってるじゃないか。機嫌直してくれよ。

 次のアクションを起こせないじゃないか。』

「………結局、どこまで行っても私利私欲なんだな。」

『………………。』

「いいよ。許すよ。」

『!』

「ただし、お前のことを根掘り葉掘り聞かせてもらう。」

『…………困ったな。こちらの詮索はやめてほしいんだが。』

「じゃあ、もう勝手にしろ。」

『はぁぁぁぁぁぁ(クソデカため息)

 ふてくされて……子供じゃないんだからよ。

 …分かったよ。何でも喋ってやる。()()以外はな。』


(禁忌………?)


「…じゃあまず、カミサマについて…」

『却下』

「早いなおい!」


「蝶野さん。他の患者さんたちの迷惑になるので、

 静かに眠っててもらえますか?」

「すみません…」


見回りに来た看護師さんに怒られた。

看護師さんが出てったのを見計らい、問いただす。


「(何で駄目なんだよ!)」

『カミサマ関連の話はタブーなんだ。申し訳ない。

 喋ったら存在ごと消されてしまう。』

「怖すぎんだろ!!」

『なぜ“禁忌”なのか理解できただろ?

 なら、他の質問に変えるんだな。』

「………じゃあ。もう一度聞かせてくれ。

 どうして俺を、『ヒーロー』って呼ぶことがあるんだ?」

『………()()だって言ったのに。』

「…すまん。悪かった。

 どうしても言いたくないならいいんだよ。

 ただ、どうしても気になっちゃって。」


カシは、眉をしかめて悩み込んだ。

そして、たった一言。


『昔、君にとてもよく似ている、

 ヒーローみたいなやつが居たんだよ。』


そう語るカシは、今までの様子とはまるで違う。

憂鬱そうな感じは無く、とても楽しそうで、

………何故か見てて辛くなるほど、寂しげだった。


『……もうこんなに遅い時間だ。

 君の眠気が嫌ってほど伝わってくる。寝よう。』

「お、おう。そうだな。」


俺は枕の下からあるものを取り出した。


『何だそれは。』

「無病息災のお守りだよ。

 (みなと)がわざわざ作ってくれたんだ。」

『…ふむ。これは。』


カシは何かに気づいたかのように、

反射的にぬっと黒い手をお守りに向かって伸ばす。


「な、何だよ。カシにはあげないからな。」

『……別に欲しいとも思わないし、

 お前のものは俺のもの、俺のものも俺のものだ。』

「…それ、昔観たテレビ番組で聞いたことある。

 てか、欲しくないならお守りなんていいだろ。」

『………………まあ、それもそうだな。

 すまなかった。忘れてくれ。』

「お、おう…(いったい何だったんだ?)」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

グッドモーニング!■■!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「!?」


誰だ。カシではない、見知らぬ人物が目の前にいる。

燃え上がるように色鮮やかな赤色の髪は、二本だけ輝かんばかりに華麗な金髪が混じっていて特徴的。一度見かけていたら絶対に忘れないはず。


それに、よく見たら場所もおかしい。

今いるのは、よくあるアパートの一室。

さっきまでいたはずの病室ではない。矛盾している。


要するに、ここは()だ。


「あ、あなたは……?」

「おいおい何だよ? 大親友の俺を忘れちまったのか!?

 俺、めちゃくちゃショックなんだけど!?」

「………………。」

「……まじで忘れちまったのか?」

「…ごめん。分からない。誰だ?」


面識がない。だが、雰囲気が誰かに似ているような…


「…参ったな。こりゃ。えー。どーすりゃいい?」

「あなたの…名前は?」

「■■■■■。イスケって呼んでくれ。」


本名が聞き取れない。

まるで何かに妨害されているみたいだ。


「イスケ……」

「お、おい! どうして泣いてるんだ!?

 大丈夫か!? ま、不味いもんでも食ったか!?」


何故だ。視界がぼやける。

何故、俺は泣いているのだろう。

ああ、そうか。そういうことか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

昔、君にとてもよく似ている、

ヒーローみたいなやつが居たんだよ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これは、俺の夢じゃない。

感覚を共有している()()の夢だ。

きっと今、この夢を見て泣いているのは………


「ああ、大丈夫だよ。イスケ。大丈夫。

 俺はもう大丈夫だから。

 あと少しで、元通りになるからさ。だからーー」




(ひへん)




ーー見慣れた病院の天井だ。

昨夜は大事な夢を見た気がするが、何も覚えていない。


『…調子はどうだ?』

「ああ…、絶好調ってカンジかな?」


今朝のカシの様子は、いつもと異なっている気がした。

…気のせいだろうけど。


『よろしい。では、退院後の行動の話をしよう。』

「!」


【神殺しの計画】の話か?

また図書館での情報収集の日々か…?

はたまた、無理難題を押し付けられるのか…?

想像するだけで胃がキリキリしてきた。


『君には退院後、ある場所に向かって欲しい。』

「…ある場所とは?」


張り詰めた、重い空気の漂う病室。

色なき風が吹き荒れ、墨のように黒い曇が覗く。

窓から見える景色が、俺の行末を現しているようだった。

そしてカシは、真剣な眼差しで口を開く。



『ラーメンを食べに行け。』

「お前は何を言ってるんだ?」



⇐to be continued

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