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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第2楽章「幸災楽禍」
35/38

31話「信頼と猜疑の寄せ集め」

響きわたる轟音。

目立益世(めだちますよ)天馬正和(てんままさかず)との戦いを経て、

健闘虚しく(やぶ)れてしまった。


「私の勝ちだ。目立益世(めだちますよ)。」


天馬正和(てんままさかず)は再び剣を構える。


「どうしてその剣を使わなかった?

 オレ様相手じゃ『この剣を使うまでもない』って?」

「…生憎(あいにく)、相手を無意味にいたぶるような

 下賎(げせん)で邪悪な趣味は持ち合わせていないのでな。

 相手が拳で来るなら、私も拳で応じる。

 まあ、犯罪者相手なら例外だが。」

「そっちから攻撃仕掛けて来たんだろうが。

 それともあれか?未来視でもできんのか?」

「・・・・・。」

「……ケッ。」


こっちが全力で挑んだというのに、

相手は情で加減した上で圧勝した。屈辱(くつじょく)の極みだ。

これ以上に残酷な優しさを、オレ様は知らない。


「大人しく、役州虎(えきすとら)の居場所を吐け。」

「嫌だ、断る。」


目立(めだち)がよろけながら立ち上がる。


「オレ様は……“囮屋”! 目立益世(めだちますよ)……だ!

 “囮屋”の仕事は相手の注意を引き付けること。

 それを放棄したら、オレ様は誇りの一切を失う。

 どうせオメー、この件が追いついたら(らく)を追うだろ?

 だったらここで通すわけにはいかない。」

「・・・厄介極まりない。」


暗い暗い空の下、天馬正和(てんままさかず)の大剣が(まばゆ)い光を放ち始める。

オレ様は深呼吸をし、死ぬ覚悟を決めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その勝負、待ったを掛けよう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いつからだろう。まったく気が付かなかった。

大きな木の枝の上に、黒装束の男が立っていた。

男の(かたわ)らには、役州虎(えきすとら)が抱えられていた。


「どうしてオメーが役州虎(えきすとら)を!?」

「…………貴様。」


男が流れるように気絶した役州虎(えきすとら)を放り投げる。

天馬正和(てんままさかず)はなんとかギリギリで受け止めることに成功する。


「貴様! 一体どういう了見で……!」

天馬(てんま)は木の上を(にら)みつけるが、

そこにはもう男の姿は無かった。

振り返ると、目立益世(めだちますよ)も消え失せていた。


「やられた……。」



(つきへん)



「(オレ様はどこへ連れて来られた!?)」

気づけばそこは、西洋風の一室だった。

窓の外にはさきの比じゃないほどの暗闇が広がっていた。


「ご機嫌よう。目立益世(めだちますよ)。」

目の前の黒装束の男が、話しかけてきた。


「…オメーは、いったい……?」

「先程の根性。覚悟。人を想う気持ち。見事であった。」

「は……はぁ………。ど、どうも?」

「今 日本で何が起きているのか、教えてくれたまえ。」


男の赫灼(かくしゃく)の瞳は、かつてない戦いの気配に、

興奮を隠しきれないさまを切実に表していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――フードチェーン『McRonald's(マクロナルド)』店内。



レモネード髪の男が、

『ビッグ・(マクロ)・バーガー』を食べていた。


そこへ黒いコートを(まと)った男が、

(マクロ)・シェイク』をお盆に載せて現れる。


「相席、よろしいだろうか?」

「構わないよ。」


レモネード男は一切動じない。

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


黒い男はレモネード男の向かいに座った。

そしてそのまま話を始めた。


「こんなところで奇遇ですね、()()。」

「そういう君こそ、随分と暇なようだね、()()。」


単なるフードチェーン店では普通起こらないであろう、

超実力派組織のトップ同士の秘密の会合。

この2人のピリピリした空気とは対照的に、

店内は一般大衆によってガヤガヤと(にぎ)わっていた。


「最近の調子はどうだ?」

「仮に私が健康じゃあなかったら、

 こんなに油っこいものを食べてはいないよ。」

「まあそれはそうだ。」

「……そういえば、ちょうど今、

 君の部下が大変なことになっているだろう?」

「ああ、まったく。()()()()()()()()()。」

「悪かったって。申し訳ないと思っているさ。」

「……はぁぁぁぁぁぁ。それで?

 今回はいったいどんな未来を潰したんだ?」

「米国史上最大規模の爆破テロと

 中華国での新型ウイルスの自然発生。」

「なるほど、まあ君なら聞くまでもない選択だったか。」

「そういうことさ。」

「…だからといって納得はしないよ?

 如何なる理由が、背景が、因果があったとしても、

 私の部下が傷つけられた。その事実は揺るがない。」

「……まったく、不思議な人だよ。君は。

 少し前までは、あんなに蝶野楽(ちょうのらく)を殺そうとしてたのに。」

「…事情が変わった。それだけだ。」

「ふーん。」


神輝也(かみてるや)はテーブルナプキンで口元を拭く。

その口角は自然と上がっていた。


「さて、私はもう行くとするか。」

「えっ。もう行くの?」

立ち去ろうとする鬼無瀬(きなせ)ロガを、神輝也(かみてるや)は呼び止める。


「聞きたいことは聞けたからな。」

「……ちぇっ。残念だなー。またお話しようね、ロガ。」


『退店おぉぉぉぉぉぉぉぉんッッッッッ!!!』

退店音と共に、鬼無瀬(きなせ)ロガの瞳が赤から緑に変わる。


「……まいったな。最悪の事態だ。」


もし。あくまで、もしもだ。

彼から得た情報が本当に正しいのだとしたら、

この事件を早く解決しないと、日本が………。

…いや、それだけで済めばまだいい。


「(世界が、滅亡する。)」

それだけは避けねばならない。

…仕方ない。今回は積極的に動かねばなるまい。


そうこう考えながら【ワープホール】をくぐる。

その向こうは、私の自室に繋がっている。


――はずだったのだが。


私の自室は濃霧に包まれていた。

次に(まばた)きした時には、白い霧が消え失せ、

いつの間にか或る特異なスペースの中に居た。


木々によって4畳半くらいの領域が囲まれた、

それらの木の表面にはびっしりと(こけ)が生えていた。

地面の感触は土に等しく、短い草が生えていた。


中央には白い木製のテーブル1台とイス2脚があり、

目の前には、スーツ姿の不審な男が座っていた。


「初めまして。」

「……私に用があるならば、

 事前にアポを取るべきではないだろうか?」

「またまた、これは上手いご冗談を。

 貴方と連絡を取り合う方法を持っている人間など、

 この世にただ1人として居ないではありませんか。」


スーツ男は失笑を禁じ得ない。


「…いったいなんの用だ。冷やかしなら帰れ。」

「まあまあ落ち着いて。

 とりあえずここに座ってください。

 私はある提案をするために来たのです。」

「提案?」


ロガがイスに腰を掛ける。


「この指定の時刻に、JECを襲撃して頂きたい。」

「却下だ。」


ロガがせっかちに席を立つ。


「話は最後まで聞くものだ、ロガ。

 なにも無報酬でやれというわけではない。

 成功した(あかつき)には、いい情報を提供しよう。」

「提供、ねえ。」


ロガがいぶかしげに彼を(にら)む。

男はそっとロガに近づき、耳打ちをする。


「………どこでその情報を?」

「私は()()()()()()()

 本来は知り得ない情報だって、私には分かる。

 …たとえ貴方の【情報掌握】で知り得ないことも。

 例えば…そう。一元湊(いちもとみなと)の生い立ちとかね。」

「・・・・・。」

「とにかく、そういうことだ。よろしく頼むよ。」

「おい、待て!」


男は話を途中で切り上げ消えた。

それと同時に、この超自然的空間も消え、

元の静かな私の自室が帰って来た。


「厄介なことになったな……。」

ロガは気だるげそうに(つぶや)いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――カイシティ 某村 道路にて。



「くっそ……。動けない……!」

蝶野楽(ちょうのらく)田中鋼一(たなかこういち)半端中途(なかばたなかみち)に遭遇。

初手で(らく)は田中の拘束を食らい、動けずにいた。


中途(なかみち)ィ! ()()()()ェ!!!」

「はーい!」


半端中途(なかばたなかみち)があり得ないほどの跳躍を経て、

蝶野楽(ちょうのらく)を右ストレートでぶっ飛ばす。

そのまま(らく)はコンクリの地面に叩きつけられる。


「(どうして殴れるんだ!?)」

『なるほどな。』

「カシ、何か分かったのか!?」

半端中途(なかばたなかみち)の本領は、命令されることで発揮される。

 彼の【中途半端に遂行する能力】の“利点”は、

 “その中途半端さの自由度の高さ”だけではない。

 “目的以外の認知していない点を無視するところ”。

 そこが彼の恐るべき長所だ。』

「難しい言葉を使わずに端的に説明してくれ!」

『…あいつは田中の【空気硬化】を無視して殴れる。』

「あー、そーゆーことね。完全に理解した。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

要するに今の俺は……、

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「【空気の牢】!」

蝶野楽(ちょうのらく)は再び拘束される。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

田中鋼一(たなかこういち)が拘束し、

半端中途(なかばたなかみち)がぶん殴るという、

負の無限ループを食らう他にないわけだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「【落火星(ラッカセイ)】!」

隕石の如く、いやそれ以上のスピードで、

半端中途(なかばたなかみち)蝶野楽(ちょうのらく)目掛けて落下してくる。

圧倒的重量感と膨大な熱量によって、

(らく)の背骨が粉々に砕け散り、一部内臓に突き刺さる。


「―――ッ!!!」

『待ってろ!すぐに修復する!』


何故、俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。

なんて、そんな無意味な思考が頭を(よぎ)る。


「行くぞ中途(なかみち)ィ! もう1回!」

「あいよ!」

半端(なかばた)が前よりも低くしゃがみ、

バネのように身軽に、大空へ向かってゆく。


穴の開いた肺を根性で動かし、声の限り叫んだ。


「【ラックアンラック】!」

「「!?」」


――― なるほど。考え得るかぎり最悪の能力だ。


中途(なかみち)ィ! (らく)が何かしたぞォ!!!」

「そう。ならば全力で、ぶっ潰すまで!」


半端中途(なかばたなかみち)が炎を(まと)って落ちてくる。

蝶野楽(ちょうのらく)は目をぎゅっと閉じて、感覚を()()ます。

そして、口を開き、唱える。


「BOMB」

(らく)の周りの空気が膨張し、

鋼一(こういち)半端(なかばた)に衝撃波を与える。


「……お前。その能力は……! その能力は!!!」

「……俺だって欲しくて願ったわけじゃねーよ。」


周囲から小さな小さな沢山の気配を感じる。

はっきり言ってまだ慣れないし、集中できない。


「【邪劾雲(じゃがいも)】!」

「BOMB!」

空気の膨張で半端中途(なかばたなかみち)の打撃を防ぐも、

距離を見誤ったせいで(らく)自身も負傷を負う。


「(くそ! 本当に扱いづらい能力だな。)」


――【丸いものを一瞬巨大化する能力】。

()()()の実力を認めるのは本当に(しゃく)(さわ)るが、

実際、誇張なしで扱いづらいから仕方ない。


あの男。俺の両親を惨殺した因縁の相手、円谷大(つむらやだい)

俺はいったいどういう運命のイタズラなのやら、

彼の能力を借りるに(いた)っていた。



「あれァ……! 円谷大(つむらやだい)のォ!」

俺ァ、前に中途(なかみち)に聞いたことがある。

この能力ァ、上手く扱えれば無類の強さを誇るが、

そのレベルまで熟練させるには相応の時間がかかると。

…つまり倒すなら、能力に慣れきっていない今ッ!!!


中途(なかみち)ィ! 一気に(たた)み掛けるぞォ!!!」

「分かった!」

田中鋼一(たなかこういち)蝶野楽(ちょうのらく)を拘束する。



「大人しくお縄につけ!」

「ここで捕まってたまるかぁぁぁ!!!」

半端中途(なかばたなかみち)の連撃に死に物狂いで対応する。

それでも何発かは命中し、その度骨が砕ける。

やがてそれがこめかみに命中した時、俺は敗北を悟った。


迫りくる半端(なかばた)の右腕ストレート。

それが俺の顔面に衝突する寸前のところで、

なんとまあ不思議なことが起こった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

召喚:【部屋】の性獣(せいじゅう)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


景色が一変した。いつの間にやら、

俺、半端(なかばた)、田中の3人は、四角い部屋の中心に居た。

壁紙は白単色。隅にはダブルベッドあり。

正面にはドアがあり、その前に男が立っている。


金髪ショートヘア。左耳に金色のピアス。

褐色肌。身長は2m程度…? 筋肉はムキムキ。

ピッチピチのタンクトップに味のあるダメージジーンズ。

不敵な笑みを浮かべ、俺たちの前に立ち塞がっている。


男は口を開いてこう言った。

(そろ)いも(そろ)って色男。

 いいねェ! 興奮してきたァッッッ!!!」


男がわざとらしく舌なめずりをし、

半端中途(なかばたなかみち)がそれを見て青ざめる。


「お、お前、何者だァ!? JECじゃァねェよなァ!?」

田中鋼一(たなかこういち)が臆されながらも男に問いかける。


男は高々に名乗った。


「オレの名前は聖川千尋(ひじりかわちひろ)!またの名を“性欲の権化”!

 さぁ野郎どもッ! 4Pと行こうかッ!!!」

「「「生理的に無理ッ!!!」」」


⇐ to be continued

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