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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第1楽章「黎明爆破」
15/58

13話「オール・オーヴァー!」

「何か言い残すことはあるかな?」

黒装束の男は、無敵浩作(むてきこうさく)に問う。


「ははは……やはりこうなるか。」

「貴殿の発明がどれも素晴らしいことは認めよう。

 だがしかし、致命的な欠点がある。

 それ即ち、燃料切れや故障。違うかい?」

「その通りだよ。この子らは模倣品。

 前線に貸し出しているプロトタイプに比べれば、

 劣っているところが多いことだろう。

 まさか【反能力(アンチ=パワー=)空間(プレース)】が無効化されるとは思わなんだ。」

「それは言い訳か?」

「まあそんなところだ。

 ところで1つ…いや2つ聞いてもいいかな?」

「まあ、冥土(めいど)土産(みやげ)にくれてやる。何だ?」


「1つ。ここは現実世界ではないな。」

「……驚いた。戦闘時から分析していたのか。」

「ここは恐らく、現実とは切り離された空間。」

「その通り。吾輩は【暗黒世界】と呼んでいる。」

「そして2つ目。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

君、いや君たちは……人間じゃあないだろう?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「………そこまで分かったのか。」

「私としては、ここまで分析に

 時間を要するとは思ってなかった。恥だ。

 『未知』を『既知』にするというのは、

 1文字変えるだけに見えて、実に難しいものだ。」

「それで、言いたいことは全てか。」

「まだだ。君たちは人間でない。

 おそらく君とは別の協力者がいる。

 さらに君たちには、ある共通点があるんだよ。」

「それは?」

「炎だ。」

「……………?」

「君の連れてきた大量の黒装束。

 彼らは「繁芸獏(しげきばく)討伐作戦」で拉致したJEC会員だろう?

 いや、正確に表すならば、模倣品(コピー)だ。」

「何が言いたい。」

「中には火を扱う能力者が居たはずだ。

 だがこの《スマートグラス》の情報では、

 その火の能力者だけここに呼ばれていない。」

「で?」

「推測される君たちの弱点。それは“火”。」

「・・・・。」

「いいやこれも誤りだ。」


そうして指パッチンを鳴らすと、

一機のドローンが天井スレスレを飛んで現れる。


「!」

「本当はこれが嫌だったんだろう?」

FIRE(ファイア)


ドローンが大爆発を引き起こし、

()()()()()()()()()()()()()()()()


「……始めから(てのひら)の上だったという訳か。」

「君たちは()だ。

 ズタズタにされたり、濡れたら消えるんだろう?」

「ここは一度、敗北を認めよう。

 だが()()()()()()()()()

 貴殿らは破滅の運命から逃れられないだろう。」

「ほざいてろ。」


黒装束の男とその仲間は、

まるで金属が塩酸に溶けるかのように消失した。


「ひとまずはなんとかなった。次は司令部に行くか。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方その頃、蝶野楽(ちょうのらく)田中鋼一(たなかこういち)は…。


「タコ!クラゲ!ウツボ!カニ!

 ここは水族館かよチクショォォォォッ!!!」

「俺ァ (ばく)追ってナニワシティに行く途中に拉致されて、

 それ以来ずぅ〜っとこの暗闇を彷徨(さまよ)ってる。

 天馬(てんま)さんが逃がしてくれなきゃ、

 俺も他の会員と仲良く捕まってたと思う。」

「そっかぁ! 何か情報は掴めた?」

「何も分かんねェ!! 俺ァただ、

 いきなりでけぇビルが現れたから来ただけだ!

 そういえば、今って何月何日だ?」

「10月28日だけど?」

「3日も経ってるじゃねェかァァァッ!!!」


今ので1つ新たな疑問が生まれた。

俺はこの真っ暗闇の世界は、

向田(むこうだ)ミルの精神世界へ閉じ込める能力や、

結界のように、空間と空間を切り離す類のものではない。

あまりに広範囲で、長時間維持するとなれば、

これらのような能力では到底不可能だからだ。


と、すればここは完全なる別世界。

能力者本人の力によってのみ出入りできる空間。


「やってみる価値はあるか。」

「何をだァ?」

「【ラックアンラック】。」

「なにそれ?」


あ、そうか。こいつの前ではカシの力しか使ってないから知らないのか。まあ、そんなことどうでもいい。


「大成功だ………ガハァッ!」

(らく)!?」


吐血するも、いつもより負担が軽い。

彼の渡してくれた機械を見ると、「4/5(ごぶんのよん)」と書かれている。


「なるほど……こりゃ使える。」

『だがあまり頼りすぎても駄目だ。

 もしそれが故障した時、何も出来なくては本末転倒。』

「分かってるよ。」

「何 独り言 言ってンだ?」

「ちょっと黙ってて。」

「(´・ω・`)」


蝶野楽(ちょうのらく)の能力【ラックアンラック】。

この世のランダムな対象から、能力を借りるというもの。

その強みは、その可能性の幅だけではない。


「……よし。()()()()

 これでこの世界から脱出できる!」


その真の強みは、借りた能力を理解すること。

どういう原理で、どういうことが出来るのか。

鳥が「はばたく」という感覚を知っているように。

魚が「エラで呼吸する」ことを当たり前とするように。

能力を当然のように使用する。それが(らく)の強み。


鋼一(こういち)。しっかりと手を握っててくれ。()()。」

「?? お、おう。」

「準備はいいな? いくぞ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【召喚】!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


途端、2人はまばゆい光に包まれて、

気付いた時には、満天の星空の下に居た。


「…………!?」


側に居たのは、黒装束の男。

突然現れた俺たちに動揺を隠しきれないでいる。


「ど、どーゆーことだァ!?いきなり戻ったぞ!?」

「俺は()()()()()()()()()()

 コイツの能力は【影収納】。

 触れている影から物を出し入れする能力だ!」

「なァッ!? なるほどォ〜!?」


「・・・ただ者ではないな。名を名乗れ。」

「アズマシティの何でも屋・蝶野楽(ちょうのらく)!」

「JEC会員志望・田中鋼一(たなかこういち)ィ!」

「吾輩は、《闇に潜む赫灼の瞳(シャドー・アイ)》。」


「「・・・・・。」」「・・・・・。」


「な、なんて?」

「《闇に潜む赫灼の瞳(シャドー・アイ)》。」キリッ

「本名?」

「………うむ。」

「外国人かァ?」

「いや、れっきとした純日本国民だ。」


「「「・・・・・」」」


「フッ」

「ちょっと待てどこに笑う要素あった!?」

「マジで掴みどころねぇなお前ェ!?」


黒装束のナントカさんは、

ルビーのように赤い瞳を輝かせ、不気味に笑う。


「いいや。愉悦に浸っているのだ。

 吾輩の影から脱出できたのは、君らが初めてだ。

 これ程の強敵を相手に出来るとは………。」


黒装束の男が指でピストルの形をつくる。

薄衣衒(うすきげん)との戦いを思い出し、(らく)はすぐに反応する。


鋼一(こういち)!防御ッ!」

「もうやっとるわいッ!!!」

『ダン』『ダン』『ダン』『ダン』『ダン』『ダン』


男の袖口から硝煙が立ち昇る。


「そうか。触れていればいいなら、

 服の内部に生じる影だって【影収納】の対象!」

「如何にも。」


続いて男は直立したまま左手を床に向けてかざし、

血液のように赤黒い大剣を召喚した。


「我が影より(いで)し至高の大剣・マヴロス。

 鉄をも穿(うが)ち、貴様を捻じ伏せる。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


小生(しょうせい)は昔日よりずっと考えていた。

 武器や戦術、そして“人”。それらが何故魅力的なのか。」


こいつは、ずっと自分語りを続けている。

左手の鉛筆さばきはよりテクニカルになり、

手元を一切見ずに、

“コンティニュアスパームスピン”を連続して繰り出す。


「答えは簡単だった。人は獣なのだ。」

「何が言いたい?」

「人間は獣を野蛮とし、

 自らはまるでそうではないかのように振る舞っている。

 だが果たして本当にそうなのか?

 否。それは全くの間違いである。

 ミミズだってオケラだって、そして人間だって、

 長い(とき)を遡ってみれば同じ祖先に辿り着く。」

「それとこれとは話が別だ!

 たとえ君の持論が正しかったとしても、

 人間には他の動物とは違って理性がある!」

「浅はか。」

「……は?」

「あ・さ・は・か・だ。って言っているんだ。

 (うぬ)は生物学の授業を取っていないのかな?

 いや何よりもまず、理性があるから

 人間は野蛮では無いというところがナンセンス!」

「な………!」

「オスは狩りをする!メスは家を守る!

 それが太古から続く基本的な役割!

 要するに、そこから導き出される推論は……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

いつの世も男はカッコよくて強い武器をぶん回すのが好き。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「我が究極の一太刀、受けてみよ。」


さっきまでとはガラリと雰囲気が変わった。

大剣なんちゃらを持ったからだろうか。


〚刃よ。(たけ)る光の如く()の喉笛へ飛ぶが良い。〛


意味があるのかすら怪しい詠唱。

嫌な予感を感じているのは、俺だけではない。


刀光剣影(とうこうけんえい)】。


詠唱終了とともに、黒い斬撃が

目で捉えきれないほどのスピードで飛んでくる。


「「あああああああああ!? ッぶねェ!!」」

「・・・・・。」


シャドー・なんちゃらさんは

大剣を振り下ろした体勢で固まっている。


「あの斬撃飛ばすのまじで何!?

 あんなのフィクションじゃねぇと許されねぇだろ!」

「物理法則無視してンだろ あれはよォッ!!」


〚万物 移り変わりて 生まれ変わる〛

「「もう次!?」」


さっきと詠唱が違う。

なんか顔見るとめっちゃくちゃ嬉しそうに笑ってる。


〚それが世の常 けして 抗うこと(なか)れ。〛

繋影捕風(けいえいほふう)】。


「(あれ……? さっきと同じ技?)」

と、思ったのも束の間。

斬撃は途中で弾け、まるで線香花火のように、

四方八方に小型の斬撃が飛び散る。


「もう嫌だァァァァァァァァッ!!」

「①右手に力を溜める ②ぶっ放す

 ③大きな拳のパンチのイメージ!!!」


合間を縫ったカシの力を使った攻撃。

何故か男に命中する前に消え………


「うう゛ん!?」


真反対の方向に居た田中鋼一(たなかこういち)に命中する。


「な、何だと!?」


攻撃が何故か防がれる。

おそらくこれにも何らかの理屈があるんだろう。

あの最初の銃弾のトリックみたいに。


〚真実さえも 闇に紛れて〛


こっちが攻撃出来ないのでは、

いくら耐え忍ぼうといつかは負けてしまう。

何か………何かヒントは…………。


「うぉらああああ!」

「!」


田中鋼一(たなかこういち)が【空気の牢】で男の動きを止める。


「これで詠唱も唱えられまい! かませ(らく)!」

「おっしゃあ!!」

「・・・・・。」


この追い詰められた状況で、

まるで勝利を確信したかのように、

闇に潜む赫灼の瞳(シャドー・アイ)》はほくそ笑む。


…〚揺蕩(たゆた)う人影 白狐(びゃっこ)の瞳〛

「!?」


詠唱が止まらない。

目の前にいる男は口を動かしていない。


〚狙うは一つ 覇者の(くび)


と、いうことは………。


鋼一(こういち) 気をつけろ! もう1人――ッ!?」


気づいたところでもう遅かった。

俺は背後から何者かに大剣で貫かれていた。


「ァ……………がぁ……ふ……」

(らく)!?」


そのまま血管を巻き取るようにし、

桜吹雪のように血液を噴出させた男。


――彼は《闇に潜む赫灼の瞳(シャドー・アイ)》と瓜二つだった。


穿(うが)て 穿(うが)て 雪原を駆け〛

「(どっから現れた!?

 いや、今ァそれどころじゃあねェ。)」


恐らくあと数秒で今までの比ではない大技が来る。

俺の【硬化】ァ、腕1本につき1つを固める。

俺と(らく)を両方守るにァ、2本必要。

だが、1本を目の前のコイツに使ってる。


赫灼(かくしゃく)の大地を 今宵 築かん。〛


仕方ねぇ。


「【空気の牢】解除! 【防御】展開!」

【硬化】された空気が(らく)鋼一(こういち)を覆う。


「(俺ァ、生物は【硬化】できねェが、

 非生物なら絶対に壊れなく出来る!

 今 蝶野楽(ちょうのらく)を守れるのは俺だけだ!)」


影迹無端(えいせきむたん)




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……やはり、吾輩の相手にはならんか。」



「(あれ………?)」


今、何をした?


俺の全身は切り刻まれていた。

設置した【防御】に攻撃は加わっていない。

()()()()()()()()()()()()()こんなことはあり得ない。


「お疲れ様〜。随分と楽しんでたみたいだね。」

闇に潜む赫灼の瞳(シャドー・アイ)》の後ろにクリーム色の髪の男が現れ、

彼の顔を見るなり面白がって言う。


「まあね。こうも正々堂々挑まれたら、

 興奮するなと言う方が無理であろう。」

「それもそうだな。」

「……嗚呼。これが暗殺依頼でなく、

 加えて()()で無ければ、もっと楽しめたのだが。」

「そういう星の下に生まれただけのことよ。

 勝負は時の運。これもまた運命なんだよ。」

「……そうだな。」


「(駄目だ……もう……意識がァ………。)」

田中鋼一(たなかこういち)の意識の途絶と共に、彼の【防御】も解ける。


「結界? が解けたみたいだぞ。トドメを刺さんのか?」

「吾輩は不必要な殺生はしない主義だからな。

 目標の蝶野楽(ちょうのらく)は倒したし、

 彼は生かす。その方が面白かろう。」

「今後の成長が楽しみだな。」

「そうだな。」

「!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

くどいッ!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


死角から飛んできた攻撃を華麗に(かわ)す。

それは、虫の息の(らく)の必死の抵抗だった。


「コピーの俺で動きを封じ、【影迹無端(えいせきむたん)】で粉微塵にする。

 田中鋼一(たなかこういち)の分の斬撃もそっちに多く回したというのに、

 ()()()()()()()()()、生きている?」

()の話は半信半疑だったが。

 なるほど、これは彼の脅威と成り得るな。」



究極の太刀、【影迹無端(えいせきむたん)】。

それは、防御不可の連続した斬撃だった。

彼の()に関する発言で理解した。

これまでの不可解な攻撃の恐ろしいトリックを。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

新月で無ければ、もっと楽しめたのだが。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼の【影に物を出し入れする能力】は、

自分の影で無くとも、触れていれば全て対象。


そう、()()()()()()()()


光があれば、影が生まれる。

陽の光が当たらなければ、闇が生まれる。

それは当たり前のことだった。


つまり今の彼は、この夜の間だけ、

ありとあらゆる場所から物を出し入れ出来る。


……分かったところでもう遅いが。


「おい、生きてるじゃないか。トドメを。」

「まあ待て 成美(なるみ)

 これだけ根性のある彼を殺すのは勿体(もったい)ない。」

「………うーむ。」

「それに、()()()()()1()2()()()()

 放っといても、もう計画は止められないよ。」


「・・・何を言ってるんだ?」

「もうとっくに、戦いの火蓋は切られている。

 繁芸獏(しげきばく)は日本国の日の入りと共に、

 この地球を鮮血によって染め上げるつもりだ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして今回の彼は本気だ。

世界のどこかに居る彼を殺害しない限り、

この『芸術的爆発』を止めることは出来ないよ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


⇐ to be continued

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