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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第1楽章「黎明爆破」
13/58

12話「日没」

天井から晴天が覗くバトル・ドーム。

陽光に照らし出されたのは、2人の男。


JEC四天王が1人、無敵浩作(むてきこうさく)

超危険犯罪者の1人、円谷大(つむらやだい)


「最初に言っておきましょう。

 JEC四天王の義務の1つとして、こう定められています。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

超危険犯罪者に遭遇したら、直ちに殺すべし、と。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「!」

円谷大(つむらやだい)の周りには、2機のドローンが漂っていた。


「いつの間に!?」

「超危険犯罪者というものは、

 誰も彼も恐ろしい能力を持っている。」

「ああそうだな!こんな風に…………あれ?」


その憎たらしい頭を吹き飛ばそうとするも、

能力は一向に発動する気配が無い。


「君は、私の前では能力を使えない。

 私の13番目の発明【反能力(アンチ=パワー=)空間(プレース)】によってね。」

「ひ、卑怯な……!」

「卑怯? はて、何のことやら。

 戦場にそんな大層なものは存在しない。」


「第一、私からすれば、君たちの方が卑怯というものだ。

 君の能力の強さは筋金入りだ。

 私のちんけな能力とは比べ物にならないほどにな。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(アンチ=)思考(シンキング)光線(=ビーム)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ドローンに取り付けられた不格好な砲台から、

黄金(こがね)色の光線が交差し飛び交った。

それは真っ直ぐと、円谷大(つむらやだい)の肉体を貫いた。


「…………痛くない?」

「それは攻撃用の兵器では無いからね。」


あれ………なんだか…………眠い?


「君を殺したいほど憎む人は沢山いる。だが私は違う。

 たとえ()が殺せと言おうが殺さない。

 なぜなら、それは資源の無駄遣いというものだからだ。」


空気の振動を感じる。

だが、それが何を意味するのか分からない。

今まで当たり前に使っていた言葉が、

だんだんと未知の言語に塗り替えられていく。


「ゆっくりと眠るといい。安心して。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

君の血肉は余すこと無く、人類の為に使うから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(あしへん)



「ん…………?」


俺・蝶野楽(ちょうのらく)が目覚めて最初に見たのは、

メディカルトーンの見知らぬ白い天井だった。


「ここは…………」

「無敵さーん。目覚めましたよー。」


俺は、病室によくあるベッドに寝かされていた。

側に居た白衣の女性が、俺が目覚めたのを見るなり、

大声で「無敵」という人物を呼ぶ。


「・・・・・。」

『カチ』『カチ』『カチ』『カチ』『カチ』


「分かった!分かっているから、

 ナースコールの連打は止めてくれ!」

「はーい。」


白衣の女性は去る。


「…オホン。ご機嫌いかがかな?蝶野楽(ちょうのらく)くん。」


呼ばれてやって来たのは、白衣の男。

瞳は冬の海のように濃く暗い青色で、

珍妙な《スマートグラス》と機械的なスーツが

やや近未来的、無機的な印象を際立てる。

髪色は黒色と白色のミックスで、表情は硬い。


「ここはどこですか?」

「ここは、日本の首都・アズマシティにある

 JEC本部 南棟 20階。私の治験用の病床さ。」

「本部?病床?」


何だろう。何か聞かなきゃいけないことがある気がする。

でも、思考に靄がかかったみたいに思い出せない。


あ、そうだ。


「あ、あの!(みなと)は無事ですか!?」

「……はて?」

一元湊(いちもとみなと)です!黒髪で、

 目がエメラルドみたいな緑色で…………。」

「ああ、彼のことか。無事だよ。

 いやー。彼を診た時はびっくりしたよ。

 持ち帰るや否や、不可思議な形態から

 元の姿と思われる容姿に切り替わっちゃって。」

「今はどこに?」

「彼はもうとっくにここを出たよ。1日前だったかな?」

「そうですか………。あ、あともう1つ。

 円谷大(つむらやだい)半端中途(なかばたなかみち)はどうなりましたか!?」

「ああ、彼らか。君たちも不運だったね。

 超危険犯罪者と出くわすなんて……。

 今は私以外の四天王が手一杯な上、

 会長が米国を訪問してて、余裕が無いから。」

「米国に……?」

「おっと失敬。今のは忘れてくれたまえ。」

「は、はあ。で、彼らは一体……?」

「そうだ!これも何かの縁だ!

 私の研究施設を特別に案内してあげよう。直々に。」

「え、えっと……分かりました。」


これ以上聞いちゃいけない気がする。

この人の口角は上がっているが、目が笑っていない。


「立てるかい?」

「あ、はい。なんとか………あれ、身体が軽い。」

「その件についても話したいんだ。着いておいで。」

「は、……はい!」



(あしへん)



重厚な金属製の扉をくぐると、

生体認証で開く第2の扉がある。さらに進むと、

そこは、一言で表すにはもったいないほど、

革新的で、機械的で、未来的な空間であった。


「すっご~いっ!」


(らく)は思わず感嘆の声を漏らす。



「ククク。科学者冥利(みょうり)に尽きるよ。」


不気味な笑みを浮かべながら、彼は

デスク机の上の珍妙な器械を手に取り、

俺に向かってぽいっと投げた。


「おっとっとっと! びっくりした。

 何ですか、これ。機械の……心臓?」

「ククク。ちと悪趣味な見た目になってしまったが、

 君のために一夜漬けで制作したサポートアイテムだ。」

「あ、ありがとうございます?」

「それは特殊な手法で作られたアイテムだ。

 ボタンが『ON』になっている間、

 生活に支障が出ない程度に【運】を溜め込む。

 【ラックアンラック】5回分まで溜められる。

 きっと君の今後の助けになるだろう。」

「何故俺の能力を知って……?」

「私は思ったのだよ。」

「は?」

「ある学者は、【能力】を防衛反応の延長であるとした。

 私は【運】にも同じことを言えるのでは無いかと考えた。」

「(これ、質問スルーされるやつだな。)」


「そこでだ。この【運】について調べたところ……」

それから無敵浩作(むてきこうさく)は1時間弱喋り続けた。


「……というわけだ。この凄さが分かるかね?」

「アーハイ、スッゴク ヨク ワカリマシター。」

「よろしい。では、そろそろ夕暮れだ。

 元の病床に戻ってもらおうか。」

「え?」

「君の身体は、()()()()()()()()()()だ。

 出来れば、あと数日は留まってほしい。」

「は、はぁ…。分かりました。」


本当はすぐにでもここを出たいが、仕方ないか。


「・・・・・・。」

「あの、まだ何か?」

「Your plot will fail, my black friend.」

「なんて?」

「欧米の幸運を祈る言葉さ。気にしないでくれ。」

「???」


その後、「やる事が出来た」と言われ、

結局1人で病床まで戻るように告げられた。


「一体なんだったんだあいつ……。」

『…………………。』

「どうしたのカシ? 怖い顔して。」

『ああ、別に。気にするな。』

「?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Your plot will fail, my black friend.

(我が黒い友人よ、君の陰謀は失敗に終わるだろう。)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一体なんだったんだ、あいつは。俺のことを知っている。

()は「無敵浩作(むてきこうさく)」なんて男は居なかったはず。

であれば、これも()()の1つということか。


『全く、恐ろしい男だよ。』

「まあ、ちょっと不気味だったよね。」


彼はどこか、人間らしからぬ、

悪魔のような気性がある気がする。

先程もらった発明も、その違和感を引き立てていた。



(にんべん)



「あれ、もう外がこんなに暗いんですね。」

或る若い研究員が、窓を眺めてそう呟いた。


「窓見る暇あるんだったらこっち手伝ってよー。」

「アンタがぼぉ〜っとしてたから、

 陽が沈んだことに気づかなかっただけでしょ?」

各々が彼の言動に反応を示す。


「まあまあ。落ち着きたまえ諸君。

 『秋の日はつるべ落とし』と言うだろう。

 複雑なメカニズムが働き、秋の日は短いんだ。

 そこの君。今は何時頃かね?」

「え? えーとですね。」


腕時計を確認し、呟く。

「…あれ? まだ4時です。16時。」


「………ふむ。」


無敵浩作(むてきこうさく)は一瞬の沈黙の後、

「落ち着いて聞いてくれたまえ」と前置きし、発言する。


「指令室に報告したまえ。【()()】だと。」


直後、研究室のガラスが割れ、

全身黒ずくめの男が侵入して来る。


「おや?ここに蝶野楽(ちょうのらく)が居ると聞いたのだがね?」

生憎(あいにく)、先程退室なさったよ。」


この男は恐らく、彼・繁芸獏(しげきばく)の刺客だろう。

狙いはもちろん、蝶野楽(ちょうのらく)の命。


「でもまさか、JECの本部に乗り込むとは。

 私たちに敗北することを想定していなかったようだね。」

「おやおや。敗北した場合を想定する必要があるとでも?

 それが必要なのは、君たちJECの方である。」



『敵襲!敵襲ーーーッ!JEC本部に敵襲アリ!

 敵の数は……数え切れません!

 あらゆる扉や窓から闇に紛れて侵入して来ます!

 総員、戦闘準備………ぐあぁぁぁぁぁぁあ!!』


「まさか、何の準備もせずに乗り込んだとでも?

 それは全く見当違いだ。むしろその逆。

 念入りに準備を重ねた上でここに(おもむ)いた。」


破れた窓から次々と、黒装束の人物が侵入して来る。


「これは少々、分が悪そうだ。全研究員に告ぐ。

 ありったけの発明品を持って北棟へ逃げなさい。」

「え………でも……」

「言い訳は結構。いきなさい。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この場は、私に任せてもらおう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



サイレンが鳴り響き、静閑な通路は騒々しくなる。


「一体何が起こってるんだ!」

『侵入者だろうか。あまり長く立ち止まるのは良くない。』

「どうしてそう冷静でいられるんだ!?」

『慌てたっていいことは無いだろう。

 大事なのは、如何なる事態にも柔軟に対応すること。

 いざという時、何も出来なかった人を知っている。』

「……ふーん。」


『カツ』『カツ』『カツ』

冷たい廊下にブーツの音が響く。


『警戒。』

「分かってる。」


電灯がチカチカと点滅し、その男の容貌が見え隠れする。

彼は白い髪をしていた。右目には傷跡があった。

羽織っている戦闘服は影のように黒く、

背中にはJECのマークに上から✕が付けられていた。


「え…………。」

「直伝・……………」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

天叢雲(あまのむらくも)(のつるぎ)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


どこからとも無く取り出した、1本の錆びた剣。

それは(たちま)ち太陽のような輝きを取り戻し、

その一閃は、辺りの障害物を薙ぎ倒した。


「あっぶな!」

『これは……随分と不味い状況になったな。』

「直伝・………」

「クソッ!どうしてだよ!なんで………」


そう。目の前に居るのは、紛れもなく。


天馬(てんま)……正和(まさかず)…………。」

「・・・・・。」


男は何も発しない。

まるで操られているかのように、ただ黙々と、

激しい閃光と斬撃をなりふり構わず放ち続ける。


「なぁカシ!あれは本当に天馬(てんま)さんなのか!?」

『よく似ている。だが………』

「【天叢雲(あまのむらくも)(のつるぎ)】」


水平方向に大きな一閃。

壁がチーズみたいに割けて砂埃を立てる。


「もうなんなのこの攻撃!?」

『切っ先に触れた物質が蒸発するみたいに瓦解(がかい)する。

 迂闊に近づいたら致命傷だ。どうする?』

「うーん………」


立て続けにいろんな事が起こるせいで、

思考が上手く働かない。


「直伝・……」

(らく)、後ろだ!』

「(いつの間に回り込んだ!?)」


天馬(てんま)が剣を振り下ろそうとしているのが見える。

これをもろに食らったら、身体は真っ二つだろう。

どうする。【ラックアンラック】を使うか?


(らく)!早く決断するんだ!』

「そんなこと分かってんだよ!」

「【(あまの)……………!」


途端、天馬正和(てんままさかず)の動きがぴたりと止まる。


「・・・・・。」

「必殺【疾風迅雷】」


そして、天馬正和(てんままさかず)は一刀両断され、

不思議なことに、黒い煙になって跡形も無く消えた。


向こうから男が走ってくる。

彼は俺の手を掴み、そのまま窓を突き破って外へ出た。

俺には、その男の顔に見覚えがあった。


田中鋼一(たなかこういち)!?」

「説明ァ後回しだァ!今ァ一刻を争う事態!

 申し訳ねェが、黙って着いてきてくれ。」


彼の着ている隊服は、埃まみれ傷まみれで、

肌もガサガサ、目の下には(くま)があった。

彼の身に何があったかは定かではないが、

ただ事では無いことは火を見るよりも明らかであった。


「……それ何?」

彼の手には光る立方体が握られていた。

先程は持っていなかったはずだが……。


「ン?あァ、これは【硬化】した光だ。」

「硬化した光!?」

「光ァ、粒子だ。形があれば硬化出来るんだよ。」

「それどうなってんの??」

「うわッ!触ろうとすんじゃねェ、バカ!」

「どうして?」

「ここは変な空間なんだ!

 一定量の光に触れると重力がかかって落下する。」

「!」


そういえば、当たり前のように宙に浮いている。

普通、20階の高さから飛び出せば、

もれなく極楽浄土に一直線というものである。

なのに今は、周囲が夜闇に覆われて何も見えず、

まるで深海を泳いでいるような心持ちであった。


と、思ったのも束の間。


「「!」」

太陽のような深紅の瞳が、俺たちの真横に在った。

その眼球は俺たちの全長よりも大きく、

瞳孔を鋭くし、俺たちをギョロリと睨みつけた。


「「なんじゃこりゃあああああ!?」」

「ぎゅるるるるるるるるるるッ!!!」


一対の巨大な触手が、俺たち目がけて襲ってくる!


「「あァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」

「何あれ何あれ何あれ!?」

「知らねェよ!? ここはホントに変なんだ!」

「「もう嫌だァァァァァァァァ!!!」」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あー、騒々しいね。」


或る西洋風の一室。

真っ暗な外を(うつ)す窓を見ながら、

右手で頬をつき、左手で鉛筆を回す男。

クリームカラーの髪色と赤いジャージ、

カラフルなボディーペイントが特徴的な彼は、

薄暗い部屋に置かれた異物。黒い檻に収容された、


天馬正和(てんままさかず)の方を向く。


「君たちの目的は何だ?

 今までの刺客とは雰囲気が違うようだが。」

「聞いたところで小生(しょうせい)らの芸術は、

 (うぬ)らのような大人には理解出来まい。」

「……芸術?」

「これでも芸術家を自称しているんだ。

 ()が「爆発」に芸術を見出すように、

 小生(しょうせい)は「命のやり取り」に芸術を感じる。」

「彼…………繁芸獏(しげきばく)の仲間か?」

「いいや違う。生涯を争う好敵手(ライバル)だ。

 彼の芸術には光るものがある。だから手を貸した。」

「………君たちは。」

「第四次世界大戦。」

「!」

小生(しょうせい)らの求める命のやり取り。

 その最高峰こそ、戦争。人と人の戦いである。」

「き、貴様……!」

「そう。なにも小生(しょうせい)は無益な支援はしない。

 彼の芸術は、世界を混沌の渦に飲み込むだろう。

 それは、(すなわ)小生(しょうせい)らの芸術の完成を意味する。」

「や、やめろ………!」

(うぬ)は長年かけて製作した一級品を、

 完成間近で投げ出すような男ではないだろう?

 そこで見ているといい。今日がターニングポイント。

 この暗黒世界から始まる、新時代の幕開けだッ!」


⇐ to be continued

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