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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第1楽章「黎明爆破」
11/58

10話「主人公補正」

箱根遷太郎(はこねせんたろう)、現着しました。」

「お疲れ様。」


バトル・ドーム。

若き日の無敵浩作(むてきこうさく)によって建設された施設。

中で何が行われようと絶対に壊れない防御力を誇る。

かつては避難所として運用されていたが、

現在は「維持にバカみたいに金がかかる」とのことで、

()()()()に売り払われたという。


そこに訪れたのは、白い箱を持ち、

つば付きのキャップを被った軽装で糸目の男。

(みなと)円谷大(つむらやだい)の拉致のために依頼した人物だ。


円谷大(つむらやだい)はその中か。」

「はい!おっしゃる通りですぜ旦那♪」

「了解。俺がこの笛を鳴らした時に解放してくれ。」

「分かったッス〜。…言っときますけど、

 解放したら即逃げますからね。死にたくないし。」

「分かっている。」

「そりゃ良かった。」


男はその場に胡座(あぐら)をかく。

それはあまりに飄々(ひょうひょう)とした態度であった。

まるで『自分は関係ない』といった感じで。

……まあ、実際そうなんだけど。


その態度に苛つくのを、人は“自分勝手”と罵るだろうか。


(らく)。戦う準備は出来てるか?」

「………まあ。」


「(おい!カシ!起きろ!)」

『うぅ……うるせぇな。俺は疲れてんだぞ。

 昨日は君の右手から全身を再生したから、

 ………うぅ………。すごく眠い。寝かせてくれ。』

「(それはすまなかったと思ってるよ。

 でもあれはお前が考えた脱出作戦だろ。

 昨日は昨日。今日は今日。つまりだ。働け。)」

『やだね。』

「は?」

『安心しろ。俺が休養中でも、

 【力】は使えるようにしておいたから。

 まあ、いつもよりも“腐敗”の速度が早くなるが。』

「嘘だろ!? 超致命的じゃあねぇか!」



(みなと)の腕時計のアラームが鳴る。



(らく)。時間だ。そろそろ解放する。」

「!」

雷電(らいでん)社長。聞こえますか。」

『聞こえている。そろそろか。』

「はい。合図を出します。30秒後を目安に。」

『了解。』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


昨夜、(みなと)宅にて。



「さて、今から作戦を説明する。」

「おう。」


「決戦は明日。このバトル・ドームでだ。」

(みなと)がアズマシティの地図を指す。


「やっぱ明日って早すぎないか?昨日の今日だぞ。」

「だからだよ。ただでさえ俺の能力がバレている。

 情報を集め、万全の状態で来られたら負けるぞ。」

「そっか…。」


(みなと)がチバシティの地図を取り出す。


「まずは円谷大(つむらやだい)半端中途(なかばたなかみち)の引き離しだな。

 彼らは今、アズマ・ディスティニー・ランドから

 約3キロの位置にあるこの病院に入院している。

 そこへ運び屋の箱根遷太郎(はこねせんたろう)を送り込み、拉致させる。」

「そんなこと可能なのか?」

「彼の能力は【箱詰(ハコヅメ)】。

 至近距離にいる対象を【箱】に閉じ込める。

 中からは開けられず、外からは壊せない。

 制限時間は約2時間しかないがな。出来そうだろ?」

「…引き離すってことは、連れてくるのは円谷(つむらや)だけ?

 残った半端(なかばた)は誰が倒すんだ?」

「彼の相手は、囮役の目立益世(めだちますよ)が務める。

 独りの時の彼なら、目立1人で事足りる。

 JEC一般会員の到着までの時間稼ぎを任せた。」

「何で、貴重な囮役をそこで使うんだ?」

「当初は円谷(つむらや)に使うつもりだったが、

 半端(なかばた)の足止めとして使ったほうが、

 一度きりの身代わりよりもお得だからな。」

「倫理観ェ………。」


「その後はアズマ電力会社の協力により、

 電波障害で半端(なかばた)との連絡手段を断つ。

 あとはとりあえず気合でバシッと!」

「途中まではいいが、雑すぎない?」

「正直、これ以上の応援は望み薄でな……。

 今割ける戦力は今述べた通りだ。

 俺は戦闘向きの能力じゃねぇから、

 (らく)のサポートしか出来ないし。」

「サポートって?」


「……これだ。」

「なにこれ。キモい。」


(みなと)(ふところ)から取り出したのは、

黒い金属の殻に覆われたピンク色の肉片だった。


「うちのボスが作った【能力玉】。

 一定以上のダメージを与えると発動する。」

「・・・・・。」


ここで1つ違和感を生じた。


(みなと)の職業は『仕事の斡旋(あっせん)』。

《株式会社からげんき》という会社を経営していて、

複数人の従業員で依頼を整理し、俺みたいな、

仕事に困っている何でも屋に紹介する立派な仕事。


…… 上司なんていないはずだ。


彼の時々語る“ボス”とは誰なのか。俺は知らない。

俺は何故か、その言葉を口に出すのが怖かった。

何らかの破滅を生むような気がした。

だから、今回も胸の中にしまい込んだ。


「これ、使って大丈夫なやつ?」

「JECに見られていない時は大丈夫。」

「要するにイリーガルじゃあねぇか!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ピィィィィィィィィ!』

(みなと)が首に提げたホイッスルを吹く。


「開けゴマダレ!」

同時に箱根遷太郎(はこねせんたろう)が【箱】を解放。

白い煙と共に、円谷大(つむらやだい)が出現する。


「①拳に集める。②ぶっ放す。

 ③大量の巨大な拳のようなイメージ。」


『ズドドドドドドドドドドド』


蝶野楽(ちょうのらく)の攻撃。

砂煙が舞い、激しい閃光と殴打音、衝撃波の発生。

立ち昇った砂埃が散った時、

そこには片手で携帯をイジる円谷大(つむらやだい)が立っていた。


「チッ。 圏外か。」

やはり連絡手段を断っておいて正解だった。

円谷(つむらや)のこのしぶとさを考えると、

2人相手なんてする余裕は無かった。


「衝撃波で防いだか…………。

 やっぱり一筋縄じゃあいかないか。」

「…これさ、大事なことだから何度でも言うが、

 いきなり攻撃するのはマナー違反って、

 親から教えてもらわなかったのか?」


目を大きく開き、その瞳に(らく)の姿をはっきりと映す。

まるで、「次はこちらの番だよな?」と言わんばかりに。


「この、非常識人がァ!」

「隙あり。」


(みなと)が背後から【能力玉】を投げつけ、

円谷大(つむらやだい)を氷漬けにする。


「ふぅ。間に合って良かった。」

(みなと)が安堵する。

危なかった。(みなと)の援護が遅れていたら、

俺はまともに衝撃波を受けて死んでいただろう。


「「――――ッ!?」」


だが、円谷大(つむらやだい)は2秒ほどで爆風と共に復活。

俺たちは風に捲き上げられ、軽くふっ飛ばされた。


「お前らにハンデをくれてやる。

 オレの能力で大きくできるものは“丸いもの”。

 つまり、この氷みたいに、

 原子で構成される物質は全て対象だ!」

「(やはり(みなと)の推理通り。)」


円谷(つむらや)は得意気に語るが、

それは既に(みなと)の考察で分かっていた。

おかげで動揺はしないで済んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

流星(ながれぼし)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

だが(らく)は気づいていなかった。

そうこう考えてる間も、まだ空中にいるということ。

つまり、致命的な隙があるということ。



円谷大(つむらやだい)は地面に落ちていた屑や塵を捲き上げて、

(らく)に衝撃波による強烈な一撃を与える。


「ガハァッ」

(らく)!」


(みなと)の悲痛な叫びが響く。


そのまま身体中に傷を負った(らく)は、

グチャっと汚い音を立て、床に転がる。

その際、腐った左腕や左足が地面に散らばる。


「(カシの力の代償…! 早すぎる!)」


円谷(つむらや)は、まるで俺の復讐心で歪んだ顔を弄ぶかのように、

軽快な足音を立てながら近づいてくる。


「あーあぁ。不細工で奇妙な身体になっちまって。

 こんだけ奇天烈で、人間離れしてりゃあ、

 サーカスとかが引き取ってくれんじゃねぇか?」


円谷大(つむらやだい)が悪趣味な皮肉を披露する。


「……お前は、何年経っても、()()()()()()な。」

「あ゛?」

「お前のその腐った性根は、

 何年経っても()()()のままだなっつってんだよ!」

「減らず口をォッ!」


円谷(つむらや)(らく)の顔を思いっきり蹴飛ばす。

右足の爪先が左目にめり込み、

(らく)はふっ飛ばされ、大きく2 - 3 回転。


「はぁ………はぁ…………」

「虫の息でカワイソ〜。雑魚でカワイソ〜。

 そんなんでよくオレに挑もうと思ったな。」


どんな時も煽りのセンスだけはピカイチだ。


「オレはあの後さ、ホントに死んだと思ってた。

 でもお前は生きていた。再び俺に挑みに来た。

 『いつ殺されるのか』とドブネズミみたいに

 びくびく怯えながら、惨めな生活送ってたら、

 ここで死なずに済んだかもしれなかったのによォ!!」


『ベキッ』

「―――ッ!」


円谷(つむらや)がぐりぐりと(かかと)(らく)の右手を踏み付ける。


「なぁ、今どんな気分だ?」

「なにがだよ。」

「奇襲しかけたのにあっさりと負けて、

 協力してくれあお友達も傷つけられて、

 両親の復讐すら果たすことができず、

 一体お前は、どんな気持ちなんだよ?」

「・・・・・・。」

「助けを呼んでもいいぞ? 誰も来ないだろうが。

 ほら、呼べばいいだろ?

 パパーン、ママーン、助けてくれーってさ。」


「(この外道が!)」

(みなと)は静かに激怒する。

だが、落下時に足を挫いたせいで立てない。

しかも、(らく)の助けに入るには遠すぎる。

【能力玉】の射程距離外だ。


「さぁ、聞かせてくれよ。何か言い残すことはあるか?」


勝利を確信し、下卑た笑みを浮かべる。

それは最早、人ではない、悪魔の笑いだ。

だが、(わら)ったのは円谷(つむらや)だけではない。


「―――――――。――――――。」

「え? 何だよ? ビビって声も出ないか?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

LESSON③ 果てしなく脆いガラスのイメージ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お前…………何を『パキッ――。』


円谷(つむらや)の右足が、ガラスに強い力が加わったみたいに割れ、

思いっきりバランスを崩して転倒する。

その際にも、強く打った箇所にヒビが入る。

だが不思議なことに、流血する様子は無い。


「な、何じゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

さすがの円谷(つむらや)でもこれには動揺した。

動かねばならない。距離を取らねばならない。

だがまるで身体が硬直したみたいに動かないのだ。


「これは一か八かの賭けだ。」

(らく)は初撃の瞬間より、

右手から“何か”を放出し続けていた。


“何か”とは【変容】に不可欠な存在。

楽以外には見ることが出来ず、

()()()その場にとどまり続ける性質を持つ。


だが、円谷(つむらや)が能力を使うと、

対象は爆発的に大きくなり、それに“何か”が付着する。

それは一瞬で元の大きさに戻り、彼の近くへ留まる。

あとは簡単。汚染された周囲から、“何か”が伝染。

空気であれば、肺から伝染。氷であれば、皮膚から伝染。

砂や塵であれば、足裏からじわじわと伝染する。


しかも、彼は楽の右手を直接踏み付けたことで、

彼自体が直ちに汚染され、既に勝敗は決してしまっていた。


()()()()()()()脆くなっちまったな。

 さて、さっきの問い、まるまる返すぜ。

 ()()()()()()()()()()()()?」

「お、おのれェ………。お前が。

 お前ごときがこのオレを騙すなんて!」

「うるさい。」


(らく)は欠けた部位を再生して補う。


「これで思う存分に殴れるな。」

「……冗談じゃねぇ。

 オレは今動けないんだぞ。この卑怯者が!」

「どの口が。お前は俺の両親を殺した。

 9年前のクリスマスの夜だった。何故殺した?」

「………あ、お前、あん時のガキか。思い出したぜ。」

「さっさと答えろ!」

「依頼だよ。」

「………イライ?」


何でも屋という職業柄、耳にタコが出来るほど聞いたその言葉。だが脳の理解が追いつかず、いや、脳が理解を拒んで硬直してしまった。


「暗殺依頼。お前、何でも屋なら分かるだろ?

 オレは当時、今ほど金に余裕が無かった。

 能力も戦闘にしか活かせないものだったから、

 そうする他なかったんだ。わかったか?」

「『そうする他なかったんだ』

 だから俺の両親殺しました。オレは悪くない。

 今は反省しています。許してください。

 とでも言うつもりか殺すぞ!!」

「チッ 不寛容なガキだぜ。

 別に親の1人や2人犬死にした位で困りゃしねぇだろ。」

「はぁぁぁぁ!?」


…カミサマ。こんなのあんまりだぜ。

人を数十人ほど殺した程度で、

どうして理不尽な目に遭わされなければならない。

悪者にも、救いの1つや2つあっていいだろう。


(らく)! そろそろトドメを!」

「待ってくれ!まだ依頼主の名前が―――」


『ゴォォォォォォォォォォォォォォォ――』

「ん?」「な、何だ!?」


まるで戦闘機が飛行しているかのような、

激しい轟音が耳を貫き、段々と大きくなる。


(らく)! そこから逃げろ!」

「何だ!? 外がうるさくて聞こえない!」

「…………………はは!」



『パリィィィィィィン』



バトル・ドームの天井を()()()()

激しい衝撃と砂埃を立てて、何かが降ってくる。


「嘘だろ…………」


全身は返り血で深紅に染まり、髪は逆立ち、

顔は般若の面のように歪み、上半身は裸で、

一言で言えば、【鬼】のような男が立っていた。


「(俺は、奴を侮りすぎたらしい。)」


「お前なら、助けに来てくれると信じてたぞ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

半端中途(なかばたなかみち)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【何事も中途半端に遂行する能力】。

その強さは、円谷大(つむらやだい)の的確な指示によるもの。

そう、俺たちは考えていた。高をくくっていた。

だから2人を分断すれば問題ないと考えていた。


「状況は、最悪だ………。」


蝶野楽(ちょうのらく)の姿が見えない。

半端(なかばた)着地時の衝撃で吹き飛ばされたか、

はたまた、その衝撃で粉微塵になって死んだのか。

後者でないことを祈るのみだ。


(だい)くん。大丈夫?

 !!! ひどいケガ!しかも身体がカチカチ。」

()()()治せるか?」

「やってみる。」


円谷大(つむらやだい)は緑色の光に包まれる。


「ごめん。もげた右足だけは治らなかった。」

「…ありがとう。完璧ではないが、適切だ。」

「良かった!」


「(こんなムーブ許されんの主人公だけだろ!)」


まるで物語でいう“主人公補正がかかった”みたいに、

だんだんと状況が悪化していく。


「僕ね、思ったんだよ。

 『こんな時、(だい)くんならどうするか』って。

 そしたらね、勝手に身体が動き出したんだ!」

「そうかそうか!よぉーしよし!良くやった!」


「さて」


「次の命令は」

「『全員ぶち殺せ』だよね?」

「そうだ。2人で生きて帰ろう。」


⇐ to be continued

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