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GOOD LUCK  作者: 阿寒湖まりも
第1楽章「黎明爆破」
1/54

1話「蝶野楽、享年18歳」

中央都市「アズマシティ」。

あらゆる人々が行き交う“多忙”の街。


今宵、此処(ここ)を舞台に新たな物語が幕を上げる。



✆) ) )

『至急依頼したいことがあるんだが…』


木々が(うた)い、小鳥がさえずるのどかな昼下がり。

そんな最高の“お昼寝タイム”の真っ最中。

それを遮るかのようにかかって来た一本の電話。


「…んぁぁ。何の用だ(みなと)。今日、俺 非番だぞ?」

『それどころじゃないんだ!えぇい!

 説明は後回しだ!今すぐ“事務所”に来い!いいな!』

✆[通話終了]


「何だってんだ畜生…。」

俺、蝶野楽(ちょうのらく)は何でも屋。“能力”が何より重視される今社会において、所謂(いわゆる)“落ちこぼれ”に残された唯一の職業だったりする…とか。


(あしへん)


事務所のドアを叩くと中には、いつも仕事を斡旋(あっせん)してくれる友達(ダチ)一元湊(いちもとみなと)の他にもう一人、見慣れない人物が立っていた。鋭い目つき。白い髪。右目の傷。如何にも“歴戦の戦士です”って感じの男だった。


「で、非番の俺を呼んだ理由は?」

「すまん。何しろ一刻を争う事態なんだ。紹介しよう。

 彼はJECから派遣されて来たエージェント・

 天馬正和(てんままさかず)くんだよ。」

「よろしく頼むよ、蝶野楽(ちょうのらく)さん。」

「……ウッス。」


JECっていったら、今や全世界の9割の地域の統治と治安維持を行ってるスーパー組織じゃねぇか。どうしてこんなボロっちい中小企業に。


「んじゃ、本題に入るよ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あと3時間もしない内に、この街は沈む。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…………は?」


(みなと)の口から溢れた衝撃の一言は、

稲妻のように俺の身体を貫いた。


「お前、どうしちまったんだよ!?

 この街が沈む!?どういうことだよ!」

「ここからは私が説明するよ、楽さん。」


天馬(てんま)が言うには、

全世界の主要都市に“爆破予告”が届いたらしい。

これを知ってしまっては当然市民はパニック。

要するに、“秘密裏”に処理しなければならない。


「分かってるとは思うが、“誰もが1つ特別な力を持つ世界”において、市民のパニックとは決して無視できる代物ではない。能力が暴走し、さらなる被害を起こし得る可能性さえあるんだからな。」

「おっしゃるとおりです、(みなと)さん。」


「ですから、あなた達の力を貸して頂きたい。いくらJECといえど、全世界に仕掛けられた爆弾を制限時間内に全て探し出し、処理するにはあまりに人員が不足しているのです。」


「協力して、頂けますか?」

勿論(もちろん)だ。」



(みみへん)


「っていっても何処(どこ)を探せば…」


✆) ) )

『楽。聞こえるか?』

「どうしたんだ(みなと)?」


『JECは今、万一の為の“避難システム”の調整、

 並行して住宅街・商店街などを主に捜索してくれている。』

「JECだったら警戒されんしな。」

『楽は“アズマ展望塔”を目指してみてくれ。』

「その理由は?」

『勘だ。』

「……………………。」


(あしへん)


「着いたが、今日はもう閉まってるぞ。」

『構わん入れ。責任はJECに取らせる。』


(あしへん)


「失礼しまァーす…」

中はシンと静まり返っている。

1階を念入りに捜索してからエレベーターに乗り、

展望台がある階へ向かう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

何を探すにも、まずは上からだろ!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

という、(みなと)の謎理論。

だがそれは、妙に説得力があった。


✆) ) )

『どしたん?』

「あった。」

『ウッソだろおい!!?』

「おいィ!?やっぱデタラメだったのか!」


「…てかどう解除しろと…。」

『楽。カバンの中を見てみろ。』

「何か変なもん突っ込んでねぇだろうな。

 ………なんだこれ。手作りのお守りか?」

『そう!楽のために創り出したサポートアイテムだ!

 確か君の能力は“運”に左右されるんだろ?』

「まあな。でも…」

『ずべこべ言うな!即行動!』

「どうなっても知らんからな!」


俺は俺の“能力”が嫌いだ。

なぜなら、今までに前例が無い、

恐らく世界一使い道のない能力だからだ。


使い方は簡単。“呪文”を唱えるだけ。


「【ラックアンラック】」

直後襲い来る全身の苦痛…拒絶反応。

この能力は“ランダム”で能力を借りれるが、

身体がそれに適応するかは全くの別問題。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああァァァ!」

『楽!?』

お守りのおかげか、“あの時”より幾分かはマシだ。

肝心のお守りは何故か焼失してしまったが。

その代わり、今最も欲しかった能力を借りれた。


右手で触れたら、

即座に“爆弾らしきもの”は粉々に散った。


今回は【モノを破壊する能力】だった。

あまりに適切。お守りのお陰か?

「任務完了!あとでパフェ奢ってやるよ、(みなと)

と、言ったのもつかの間…


『バキューンーーーーーーー』


俺の身体を“何か”が貫いた。


「困るんだよなあ。邪魔されちゃあ。」


コツン、コツンとブーツの音が静かにフロアに響き渡り、それは次第に大きくなる。


「君は、JECじゃあないよねえ?

 単独で乗り込んでくるなんて、命知らずだねえ。

 そんなんだから、隙だらけなのさ、君の背後。」


(何者なんだこいつ!?)

先程の発砲で肺をやられた。

心臓ぶち抜かれなかっただけまだマシだが、

もう一言も喋る事が出来ない…。


『楽!今の銃声は何だ!無事なのか!?

 おい、早く返事を『グシャ』


「今は私との会話に集中してくれよ。」


携帯が壊れた。保険適用内か、これ?

てか、もうこれで応援は呼べなくなった。やばい!


カヒュー カヒュー


「ああ、もう声が出せないのか。ごめんねえ。」

(こいつゥ………!!)


「ご機嫌よう。私は繁芸獏(しげきばく)

 類稀なる“芸術家”の一人さ。」

(芸術家…?こいつが爆弾を仕掛けた犯人か?)


「君、たしか“何でも屋”の楽くんだよねえ。

 お金さえ払えば何でもしてくれるっていう。」


コクリ と1度、静かに頷く


「君の能力は、見た感じ、“破壊”かなあ?」


(俺の能力はまだバレてないのか…?)

敢えて首を縦に振ってみる。


「そうか。それはそれは。

 幼少期に大分苦労したんじゃあないかなあ?

 ()()どうやら本当に恵まれているんだねえ。」


直後、右足に一発の銃弾。

「……………………!」

「痛い?痛いねえ。辛いねえ。

 残念だけど、私は君が嫌いなようだ。」


(殺される………!)

咄嗟(とっさ)に左足で大地を蹴る。

今はまだ()()()()()()()()()

つまり、まだ“破壊”の能力を扱える。

触れば 勝ち確定 だ!


「抗うんだねえ。見苦しいねえ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

でも、その覚悟、とても()()()

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

直後、意識が途切れた。

気付いた時には、白い部屋の中にいた。


「ここは…?」

「目覚めたか、ヒーロー。」


俺はベッドに寝かされていた。

側には輪郭が不明瞭な、「黒い男」が佇んでいた。


「誰だお前。あのイカレポンチの仲間か?」

「…………ううん、違う。俺はカシ。

 “ある取り引き”をするため、君をここに呼んだ。」

「取り引き?」

「ああ。突然だが、君は死んだ。」

「直球すぎるわ。もっとオブラートに包めよ。」

「君はオブラートに包まれて死んだ。」

「違う、そうじゃない。

 まあでも、なんとなく死んだってのは分かる

 肺を貫かれたはずなのに喋れてるし。」

「御名答。ここは君の精神世界。

 外の時間は止まっている。ゆっくりしていってね。」

「ところで、その取り引きって何だ?

 変な内容だったら即刻帰るぞ。」


カシと名乗る男は一息おいて、はっきりと言った。


「君を生き返らせてやる。だから君の肉体をよこせ」

「やだ!!!!!」


即答。だがそれも当然。

肉体をよこせ…?絶対悪用されるに決まってる。


「このまま君が死ぬと、大勢の人が亡くなるよ?」

「………は? 爆弾は解除したろ。

 少なくともアズマシティは大丈夫なはずだ。」


俺はカシを睨む。カシは呆れた顔をする。


「君、何故死んだか分かってる?」

「出血多量じゃねぇの?」

「まあ気づかないのも無理はない。

 彼の能力は“爆破”。しかも、超特殊な、ね。」

「特殊?」

「そう。彼は“自身が美しいと思うもの”しか

 爆破することが出来ないのさ。」

「使いづれ〜能力だな。そりゃ。」


そこで、恐ろしいことに気付いた。


「……アズマ展望塔“そのもの”が爆弾。

 とか、フザけたことを言うわけじゃねえよな?」

「ご想像にお任せするよ。」


もし、もしもだ。これが事実だとしたら?

恐らく、JECも、誰もこれを知らない。


“全世界同時爆破”


この能力なら、それが可能かもしれない。


「それ、信じていいんだよな?」

「……ああ、いいよ。好きにすればいい。」

「100歩譲って取り引きをして、

 無事に生き返ったとしても、

 アイツに勝てる気がしないんだが。」

「大丈夫。俺がいる。絶対に死なない。

 彼の野望は防がれるだろう。君次第だがね。」

「お前、ほんとズルいやつだな。

 はなから拒否権なんてないようなもんじゃん。」


「と、いうことは?はっきり言えよ。」

「取り引きするっつってんだ!力を貸せ!カシ!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

仰せのままに。マイヒーロー・(らく)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

爆破まであと1時間―――。地上にて。


「大人しく降りてこい!

 アズマ展望塔は我らJECが取り囲んでいる。

 周辺住民も本部のシェルターに避難している。」

『降りませんよ。私は目標を完遂します。

 そこで黙ってみているがいいです。』


(らく)……。クソっ。繋がらねえ。」

「恐らく、もう死んでいるのだろう。

 無駄な希望は捨てたほうがいい。」

天馬(てんま)くん…だっけか。もし(らく)が死んでたりしたら、

 その時はお前を殺す。覚悟しとけ。」

「…貴方にとって、彼はそこまで大切ですか?

 貴方がそこまで感情的な姿、初めて見ました。」

「………まあな。」


〜アズマ展望塔・展望台〜

「あと1時間……嗚呼、なんと待ち遠しい…。」

『油断はするなよ、繁芸獏(しげきばく)

 君の物語はまだ始まったばかりなんだから。』

「分かっているさ。(わたる)。」


『……なあ、(ばく)。落ち着いて聞いてほしい。』

「なんだい?JECが攻め込んできたかい?」

『君が“爆破”した人間が生きている。』

「…………え?」


振り向くとそこには、

飛び散った血肉や内臓が群がり、

人型のナニカを形成していた。


「なん……だ…これは…。」

『気をつけろ!怖いのは分かるが、

 落ち着いてもう1度爆破を………!』

「怖い?これが?いいや、違う。

 私は感嘆しているんだ!

 私の“爆破”で死なない“芸術”があることに!!!」


「地獄から舞い戻ったぞ…クソ野郎。」

「Awesome!素晴らしい!

 何ということだ!生き残った!」

『落ち着け変態。』


やがて肉塊は元の人間のカタチを取った。


「なあ、カシだったか?全身が痛いんだが。」

『そりゃあそうだ。

 バラバラになった君の身体を

 “俺”のチカラで何とか機能させているんだ。』


「独り言…?頭花畑になったのかなあ。」

『そりゃ臓物ぶち撒けたんだ。混乱もするさ。』


『ひとまず(らく)。君はアイツを追い払え。

 俺は君の肉体を維持するのに集中する。

 諸々の話は事が済んでからにしよう。』

「合点承知の助。からの…」


「ラックアンラック」

『急に能力使うな阿呆(あほう)が!』


……ん?能力が【不明】ってどういうことだ?

(らく)!右に避けろ!』


顔面スレスレを突き抜ける弾丸。


「うーむ…避けたか。」

『珍しいね。君が狙撃を失敗するなんて。』

「次は当てるさ」

『前見ろ前!!!』


「顔面ストレートパンチ!!!ってあれ?」


「何故だあ?ただの拳なのに…怖い?」

『危ねえな!俺が居なかったら死んでたぞ!』


「アイツ…いつの間に移動したんだ?」

(らく)。恐らく彼と組んでるやつがいる。

 多分“瞬間移動”とかそんなんだろう。』

「それ攻撃当たんなくない?」

「正解」


『ドン』『ドン』『ドン』


「ゼロ距離で脳天に3発撃ったあ。」

『おいおいおい、なんかまだ生きてるぞ。

 不死身かコイツ。キショいッッ!』


「いってえええええええええ!死んだわこれ」

『残念。俺が死なせない。』


『撤退しよう。爆破は離れてても出来るだろ。

 今は“キーパーソン”の君は生き残らないと。』

「うるさいねえ。売られた喧嘩は買わなくちゃあ。」

『おまっ………!』


「おい、聞けよ(らく)。…お前が本当に(らく)かは知らんが。」

「何だこのサイコイカレポンチ。」

「改めて名乗らせてもらう。私は繁芸獏(しげきばく)

 今日のところは撤退するよ。一旦ね。」

「ンだとてめぇ!ぶん殴るから掛かってこい!」

『いいぞ、挑発には乗るな、(ばく)

 ようやく分かってくれたんだな。さあ、早く』


「なので、本日の爆破は止めにする。」

「………は?」『は?』

『はぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁあッ!?!?』


何言ってんだコイツ。マジで。


『待て待て!誰がそこまでしろと言った。

 俺達がここ数ヶ月間準備して、

 ようやく実現した計画をパァにする気か!?

 おま………ゴホッ。君は正気なのか!?!?』

「正気さあ。“壊れなかった”人間は初めてなんだ。

 それに、まだ決着が着いていないというのに、

 逃げまくって勝利するなんて、美しくない。」


なんかアイツの相方が可哀想になってきた…。


「とにかく、そういう訳だから。それじゃあね。

 おい(わたる)。ボサッとするな。はよワープ。」

『畜生ッ!(らく)とか言ったか!?

 末代まで呪ってやる!覚悟しとけよッッッ!!』




爆破予定時刻30分前。繁芸獏(しげきばく)は消失した。

前代未聞の大惨事は未然に防がれ、

後に蝶野楽(ちょうのらく)はJECから感謝状が贈られた。


その晩のことである。


「またか。この白い部屋。」

「後で諸々話すと言っただろう?」

「もう寝たいんだけど。」

「あまりぐだぐだすると読者が飽きる。

 ストレートに行くぞ。

 君には我が野望を手伝ってもらう。」

「野望?身体乗っ取りの件は?」

勿論(もちろん)!最終的に肉体は乗っ取らせてもらう。

 だが今乗っ取ると非常に都合が悪い。」

「都合?まあいい。それで?」

「君は取り引きに応じた以上、俺の所有物だ。

 であれば、好きに使って構わないだろう?」

「悪魔め………!」

「仕方ないね。君に拒否権は無いんだもの。」

「………で、野望って?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カミサマをぶち殺す。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「何言ってんだお前。馬鹿か?

 カミサマなんて居るわけ無いだろ。」

「居るんだよ。」

「大体神を殺すなんて………」

「………………」


その言葉に嘘偽(うそいつわ)りはない。

その瞳が、その声が。全てを物語っていた。


「まあ理由は分かんねぇけど。やるよ。神殺し。」

「いいね。それでこそヒーローだ。」

「……ずっと気になってたんだけど、

 そのヒーローって何なんだ?恥ずいんだが。」


「…………内緒だ。」


⇐to be continued

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