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「ヒトツダケ」
天からも地からも見放されてから永い年月が経った
光が注ぐことのない森を彷徨い続けている私は殆どの記憶を失ってしまった
こんな環境に長く居たために欲求も湧かなくなってしまった
空の器となった私は、今日も深い森を行く
そんな私という器に、唯一残る記憶
そう、覚えていることは、ヒトツダケ
北半球ならびに北緯35度以上の地域であり尚且つ
山奥や洞窟などの日差しが届かない地帯において
夜間のみ発生し得る希少価値の高いキノコである
最後に残された記憶は、幸か不幸か
私をこの世に紐づける希望であり、鎖にもなった
欲求が0に還った筈の私でも
欲しくなってしまったものが、一つある
欲しいのは、ヒトツダケ
毒性を持ち、そのまま食した場合は死に至る可能性もあるが
充分な加熱を行うことでヒトには無害な食材と化し
赤道直下の一部の国では高級食材として扱われているキノコである
私は鎖に繋がれたまま、希望を抱く
殻となった筈の私が未だに覚えていること
それは、ヒトツダケ
空となっても尚欲しいものは
ただ、ヒトツダケ
言っておくけど、フィクションだからな?




