留学したら婚約破棄されて人生が変わりました
二年間の留学を終えて帰国したミリアムは困惑していた。
自宅の玄関ホールで婚約者と従妹に出会したのだが、どうも出迎えにしてはおかしな雰囲気だ。
婚約者のルミール・コランダは腕組みをして不機嫌そうに睨んでくるし、一つ下の従妹ダニエラ・ベルガは両手を組んでうるうるとした涙目で見あげてくる。
ーー何かあったのかしら? と首を傾げつつ、ミリアムはとりあえず挨拶することにした。
「ただいま、戻りました。お久しぶりです、ルミール様。ダニエラも・・・、元気かしら?」
「はあっ⁈ 貴様はよくもそんなことが言えたものだな!」
ミリアムは怒鳴りつけられて、目をぱちくりとさせた。
彼女はのんびりしたところのあるおっとりとした少女だ。ハキハキと自己主張する相手には侮られることがあるが、決して内向的な性格ではない。いきなり怒られて理不尽さに首を傾げるばかりである。
「あの、何を怒られているのでしょうか? もしかして、わたくしの留学が延びたせいですか?」
「そんなことではない!」
留学前の婚約者はまだ少年らしさが抜けていなかったが、もうすっかり成人した青年になっていた。体格もがっしりとしていて、大声をだされると威圧感がある。
ミリアムは『どうして使用人は誰も止めに来ないのかしら?』と不安に思った。玄関ホールには出迎えの使用人が一人も現れないのだ。伯爵家の跡取り娘の帰国なのにあり得ない行動だ。
留学には本当はルミールが行くはずだった。
貴族学院での研究論文が隣国の教授の目に留まり、招待されたのだ。友好国の高名な教授からのご指名で、公費での留学だ。しかし、ルミールは出発直前にタチの悪い流行病にかかった。
熱はすぐに下がるものの、後遺症が厄介な病気だった。ひどい倦怠感に襲われて終始ダルかったり、嗅覚や味覚に異常がでて、数カ月から一年ほど続くのだ。慣れない隣国の気候で悪化する恐れがあってルミールの留学は難しくなった。
そこで共同研究者だったミリアムに代理の指名がきた。どちらかと言うと、ミリアムのほうがのり気の研究だったから、彼女は嬉々として留学した。最初は一年間の予定だったが、教授や他国の留学生との共同研究が熱を帯び、もう一年留学が延びた。結局、卒業間際までだ。
留学の研究成果を先に実家に宅配で送り、ミリアムは友人の馬車に同乗させてもらって帰国したのだが、怒られる理由に心当たりは全くない。
ミリアムはダニエラに視線を向けた。
留学中に文通していた従妹なら何か教えてくれるのではと期待したのだが、ダニエラはうるうるするだけでさっぱりわけがわからない。
「あのう、どうかなさったのでしょうか?」
「しらばっくれるのもいい加減にしろっ! 貴様はこの僕の代理留学のくせに、男漁りで遊んでいただろう⁈」
「はあっ?」
ミリアムは淑女らしからぬ間抜け声で口をあんぐりと開けた。
ーーこの男は一体何を言いだしやがる⁈ と、心の中で絶賛阿鼻叫喚中だ。
従妹や友人よりも頻度は少ないが、婚約者とだって文通をしていた。ルミールの代理留学なので、研究の守秘義務に触れない大枠の内容くらいは手紙に書いていた。遊ぶ時間はなかったとわかっているはず。
「研究が長引いたとか嘘をついて遊びほうけた挙句に、殿下やユスティーナ様の悪口を募らせていたそうだな。不敬罪にも程があるぞ」
「・・・あのう、ルミール様。何を仰ってるのか、さっぱり意味不明なのですが?」
「いい加減にしろっ、証拠はあがってるんだ!」
「きゃっ」
ルミールが紙束を取りだして投げつけてきた。ミリアムは両手をあげて顔を庇った。バサバサと舞い落ちる音がして、ダニエラが大声をあげた。
「ミリアム、お願いだから、罪を認めてちょうだい。わたし、やっぱり黙っているわけにはいかなくて、ルミール様にご相談したのよ。
ミリアムがおじ様とおば様を失って悲しいのはわかるけど、こんなことはいけないわ」
ダニエラは上品に真珠のような涙をぽろりとこぼして見せた。
ミリアムの両親は三年前、学院入学直前に事故で亡くなっている。学生のミリアムに領地経営は難しかろうと叔母が後見人についた。
叔母は伯爵家を継いだ父の妹で、一代限りの士爵位を持つ騎士に嫁いでいた。一人娘のダニエラとは幼い頃によく遊んだが、入学が近くなると、家庭教師からの課題が増えて遊ぶ暇がなくなった。ミリアムのハリーク家は伯爵家で、学院入学後の人脈作りのためにお茶会を開いたり招待されたりと、他の令嬢との付き合いも増えたからだ。
会う機会が減り疎遠になっていたダニエラだが、両親を亡くしたばかりのミリアムを気遣って一緒にいてくれるようになった。
叔母夫婦は領地住まいで領内を治めてくれていたが、ダニエラはミリアムと一緒に王都のタウンハウスで暮らしていた。一つ下のダニエラはミリアムの留学と入れ替えに学院に通っていた。ルミールとミリアムはもうすぐ卒業で、ダニエラにはもう一年学生生活が残っている。
ダニエラは留学中の学院の様子やミリアムを通じて友人になった令嬢達との話を手紙で教えてくれていた。留学が延びた昨年からダニエラの手紙は不平不満や人の悪口が多くなり、窘めるのが憂鬱になって手紙は途絶えがちだった。最近の様子は全く把握していない。
そんな状態での従妹の言い分はまるっきり意味不明だった。
「・・・二人とも、何を言いたいのか、わからないのだけど?」
「ミリアム。留学で寂しい思いをしたのはわかるけど、だからと言って、友人の悪口はいけないわ。わたし、貴女からの手紙を読むのが苦痛で仕方なかったの。
仲のよいわたしになら何を言ってもいいと思ったのでしょうけど、黙っていられなくて・・・」
「そうだ、お前のような性悪に付き合わされて、ダニエラが可哀想だった。
そんなに不満があるなら、本人に直接伝えればいいだろう。僕にだって、代理で留学させられた恨みつらみをぶつければいいのに、ダニエラに愚痴るとは卑怯だぞ」
「え、不満って・・・」
ミリアムは何のことだがさっぱりわからなかったが、先ほどルミールがばら撒いた紙が目に入った。
ーー証拠と言っていたけど? と、疑問符を思い浮かべながら拾ってみた。
「あら、なにこれ・・・」
ミリアムはざっと読むと、すぐに次を拾った。次々に目を通して、驚きで固まってしまった。
ミリアムの手跡でルミールや親しい友人たちの悪口が書き連ねてあった。だが、もちろん、彼女には書いた記憶はない。それでも、内容には大いに見覚えがある。
ダニエラが送ってきた手紙と同じ内容なのだ。ミリアムはそれを窘める手紙を送っただけだ。ダニエラの内容には一言も同意していない。
「待ってちょうだい。わたくしの字みたいだけど、わたくしはこんな手紙は書いていないわ。むしろ、ダニエラが書いてきた内容よ。わたくしは窘めていたの」
「白々しい。貴女の字をわたくしがわからないわけないじゃない」
第三者の声が割って入った。
豪奢な金の巻き毛の美女が同じく金髪のイケメンにエスコートされて現れた。
ミリアムの親友で侯爵令嬢のユスティーナ・フロリアンだ。エスコートしているのは婚約者の第三王子エリアスで、彼らもまた険しい顔でミリアムを睨みつけてくる。
「まあ、まさかティーナまで、そんな事を言うの?」
「馴れ馴れしく呼ばないで。貴女みたいな嘘つきを親友だと思っていたなんて、虫唾が走るわ」
「そうだ。ティーナを愛称で呼ぶな。貴様はティーナの美貌に嫉妬していたのだろう?
傲慢でケバい令嬢らしからぬ女だと愚痴っていたらしいな」
「それに、わたくしの大事な婚約者を顔だけ王子の無能者と皮肉ってもいたわね」
「はっ、王族のくせに臣下に婿入りするからと見下していたのか。おとなしそうな顔をしていて、なんて性悪な悪女なんだ!」
ユスティーナに続いてエリアスにも罵倒されて、ミリアムは絶句した。
金髪金眼と目立つ容姿のユスティーナに比べて、ミリアムは茶髪茶目とありふれた色合いだ。彼女と一緒にいるとまるでお嬢様と侍女のようだと嘲られたことがあるが、ユスティーナは『気にしてはダメよ。侯爵令嬢のわたくしの友人である貴女を妬んでいるだけだから』と慰めてくれたのに。
ユスティーナとはお互いの母親が親友の縁で親しくしていた。ミリアムの両親が亡くなった時にはユスティーナも侯爵夫人も力になってくれて、ミリアムの叔母が後見人になれたのは彼女らのおかげだ。叔母は一代限りの騎士に嫁いだ士爵夫人だったから、貴族間での序列は一番下位だった。伯爵家の親戚一同から見下される可能性があったが、フロリアン侯爵家が認めてくれたから、揉め事も起こらずに後見人になれたのだ。
ミリアムはゆるゆると首を横に振った。
「待ってください、殿下。わたくしの字に似てますが、本当にわたくしはこんな手紙は書いていないのです。
書かれている内容だって、こんなことは一切思ったことはありません。わたくしは」
「黙れ! 私の愛するティーナを傷つけておいて白々しい言い訳などするな。友人のルミールの顔を立てて穏便に済ませてやろうと思ったが、貴様の太々しさと図々しさには嫌悪しかない」
「本当にわたくしではないのです」
「わたくしに届いた手紙と同じ筆跡で、誰が見ても貴女の手蹟だわ」
ユスティーナが侮蔑感たっぷりに吐き捨てた。見るも穢らわしいというようにミリアムからは視線を逸らしている。
ミリアムは言葉に詰まりそうになったが、何とか声を搾りだした。
「そんな・・・。本当にわたくしの書いた手紙ではないの。わたくしはその手紙をダニエラに出してはいないわ。ちゃんと証明できるわ。少し時間がかかるけど、隣国へ問い合わせしてもらえば」
「うるさい! 自慢も大概にしろっ。
たかが、僕の代理のくせに、そんなに留学したのが偉いとでも言うのか。お前は国の重要人物にでもなったつもりか?」
「そうよ、ミリアムは留学先で変わってしまったわ。他人の悪口なんて言う人ではなかったのに。
アレクなんて男友達と親密になって、彼に毒されてしまったのね」
怒鳴るルミールに寄り添うようにダニエラが涙ぐんでいた。
ミリアムはあまりなセリフにドクドクと心臓が嫌な音を立てていた。従妹が何を言いだしたのか、完全に理解不能だ。
「アレクって、アレックスのこと? アレクは友人よ? メイエルス国からの留学生でディターレ教授の元で一緒に研究した仲間だわ」
「はっ、たかが平民とずいぶんと親しくしていたようだな。留学先での男遊びならバレないとでも思っていたのか。浅はかなことだ」
「ええ、貴女は変わってしまったのね。愚かなミリアム。ルミールという婚約者がいながら他の男性を愛称呼びするなんて」
エリアスやユスティーナにも非難されて、ミリアムは思わず周囲を見渡した。
相変わらず、自宅だというのに、使用人は誰もでてこない。ミリアムは孤独で徹底抗戦を強いられていた。
婚約者に従妹に親友にと、これまで親しくしていた人々は誰もミリアムの言葉を聞いてくれない。第三王子のエリアスは婚約者ユスティーナにベタ惚れで、彼女が白と言えば、黒でも白と言い張る人物だ。
ミリアムは拾った手紙をぎゅうっと握りしめた。喘ぐように言葉を発する。
「ま、待ってください、アレクは男友達ではありません。わたくしと同じじょ」
「いい加減にしろっ! アレク、アレクとそんなに他の男がいいのなら、そいつと添い遂げればいいだろう。僕はお前みたいな浮気者は御免だ、婚約破棄してやる!」
「な、何を言うの。ルミール様、わたくしは」
「それはいい。婚約破棄手続きは私の権限で最大最速で完了させてやろう」
「まあ、エリアス様。さすが、お仕事のできる男性は違いますわね」
ミリアムは信じられない思いで婚約者と親友を見つめた。呆然とする彼女を置き去りにしてダニエラが悲しげに首を傾げた。
「ルミール様はハリーク伯爵家に婿入りでしたのに、破棄して大丈夫なのですか? コランダ子爵家ではお困りになられるのでは・・・」
「なあに、僕とミリアムとは政略結婚だ。ハリーク家の血筋と婚姻すればいいのだから、従妹の君と新たに婚約すれば丸く収まるよ」
「あら、いい考えね。我がフロリアン家が後押しするわ。ねえ、いいでしょう? エリアス様」
「そうだな。ハリーク家を継ぐのは正義感の強いダニエラ嬢のほうが相応しい。彼女が伯爵家の女当主になれば、侯爵家を継ぐ君も心強いだろう。ベルガ夫人を後見人から当主代理に任じよう。
ダニエラ嬢が跡を継いでルミールがハリーク伯爵になるから結果は同じことだ」
ミリアム抜きで勝手にハリーク家の当主交代が決まってしまった。
「そんな・・・」
「大人しくしろ!」
ミリアムは抗議しかけて、いつの間に近づいたのか、第三王子の護衛騎士に捕らわれてしまった。後ろ手に腕を捻られて、無理矢理膝をつかされる。エリアスがゴミでも見る目を向けてきた。
「ティーナが親友だからと増長したな。お前の手紙を然るべき筋に通し、公にすれば立派な不敬罪だ。
王族と婚約者の侯爵令嬢への無礼に加えて、公金による留学で不純異性交遊を犯すとはなんと愚かな。ハリーク家が取り潰しになる可能性もあるが、お前の母親とティーナの母上の友情に免じて温情をかけてやる。
ハリーク家は跡取り娘が留学中のストレスで心神喪失状態になったことにしてやろう。貴様は領地で療養生活を送れ。
ハリーク家とコランダ家の婚姻は婚約者交代で継続する。ダニエラ嬢がルミールの婚約者になるんだ」
「そんなことはお家の乗っ取りではありませんか!」
「まあ、大袈裟ね。本家の血統が絶えそうになって、分家が継ぐのは普通のことよ?」
ユスティーナはどこがおかしいのかと本気で首を捻っていた。ミリアムは親友と思っていた相手の言い草に開いた口が塞がらない。
ミリアムが唖然としている間に腕をとられて、外へ連れ出された。ミリアムは二年振りに帰郷した我が家から閉めだされてしまった。
親友の厚意で体調不良のハリーク伯爵令嬢は王家の紋入りの馬車で、一刻も早く領地へ送りだされた。
卒業記念パーティーでダニエラはルミールにエスコートされた。卒業生たちはルミールの婚約者ミリアムが留学先から体調を崩して帰国し、領地で静養中と聞いていたから、ミリアムの代理だろうと納得していた。
ダンス後のユスティーナとエリアスからテラスへ涼みに誘われて、ルミールたちは承諾した。ちょうど、ダンスタイムも佳境で室内が暑くなってきていた。
第三王子と連れが現れたテラスへ足を踏み入れる不調法者は学院にはいなかった。それでも、ルミールたちは笑顔をキープしつつ、小声でヒソヒソ話だ。
「ルミール、元婚約者は見つかったのか?」
「いえ、手を尽くしていますが、まだ・・・」
「運悪く、崖から落ちてしまったかもしれなくて」
ルミールとダニエラが俯いて報告すると、ユスティーナが冷ややかな声をだした。
「ねえ、本当にちゃんと探しているの? もしかして、ミリアムがゴネて邪魔になるから、このままいなくなって良かったと思っているのではなくて?」
「まさか、そんな!」
「お、恐ろしいことを仰らないでください。ユスティーナ様」
ルミールとダニエラはびくりと身体を震わせた。
高位貴族らしく表情にはださないものの、ユスティーナは好悪の振り幅が大きく、感情的なところがある。親友のミリアムに裏切られたとご立腹で、些細なことで不機嫌になりやすかった。嫌悪を感じた途端に親友でさえも簡単に切り捨てる酷薄さにご機嫌伺いも大変だった。
先日、帰国したばかりのミリアムを領地送りにしたが、道中半ばで休憩中にミリアムの姿が消えてしまった。用を足したいと言いだされて、男性ばかりの騎士たちが目を離した隙にいなくなった。
宿場町の宿に立ち寄った際で、ご不浄近くの裏口のドアには鍵がかかっていなかった。
崖のほうで足跡が発見されたが、ミリアムのものかはわからない。裏口は宿の従業員や出入りの業者用に使われていて、早朝から夕刻までは人の出入りがあった。
宿場町では旅人が立ち寄るのが日常の光景だ。帰国した直後で旅装姿のままのミリアムが出歩いても目立たないが、近くで見れば上等の生地で上流階級の人間とわかる。もしかしたら、攫われた可能性もあって、慎重に捜索は続いていた。
何しろ、領地の叔母夫婦に王命と誤解させるためにわざわざ王家の紋入りの馬車を使用したのだ。御者や護衛だってエリアスの手の者で、ミリアムに同情して逃走を手助けするはずがない。それなのに、ミリアムはいなくなってしまった。
ルミールは心密かにエリアスを役立たずの顔だけ王子めと罵っていたが、もちろん顔にはださない。エリアスの不手際を不満に思っても堪えるしかないのだ。
すでに書面上では婚約者交代を済ませているが、ミリアムが行方不明のままでは発表のタイミングが難しかった。下手をすれば、後から逃走したミリアムが現れて苦情を申し立てるかもしれないのだ。そうなったら、法廷での争いになるが、証拠の手紙があっても時間も費用もかかる裁判はやりたくない。醜聞にもなるから、しばらくは社交界にもでられなくなる。
エリアス配下がミリアムを確実に領地送りにしてくれれば・・・と恨まずにはいられないが、ルミールもダニエラも神妙にしていた。
ユスティーナがふうと息を吐きだした。
「まあ、いいわ。ミリアムが静養中と公にはできたのだから。
後は折りをみて、回復の兆しがなくてやむを得ずに婚約者交代と噂を流せばいいもの。もともと、不貞を働いて無礼な手紙をしたためたミリアムが悪いのだから、自業自得ね」
「そうだな」
エリアスが頷いて、ルミールたちはほっとした。
ダニエラがルミールの背中を突ついて、ルミールが勇気をだしてエリアスに申し出た。
「あの、殿下。殿下のお役に立てるかと思い、研究の試作品をお見せしたいのですが、お時間をいただけませんでしょうか?」
「なんだ、今すぐにか?」
「いえ、ハリーク家にお越しいただけないかと。ミリアムの置き土産から開発した装置がありまして。さすが、隣国の教授指導の賜物です。ミリアムが遊び呆けていても、それなりに型ができていた物を仕上げてみたのです」
「ほう、それは例の研究論文に関する物か?」
エリアスが興味を持って目を輝かせた。
留学のきっかけは各国間を繋ぐ緊急連絡装置・連絡鏡の改良に関しての論文だった。
連絡鏡は魔水晶石で作られた鏡に一定量の魔力を流すと、鏡に映った者同士で会話ができる緊急連絡システムだ。30年ほど前に大国フォルスターの学者ディターレ教授の父が開発した。教授が跡を引き継いで改良を加えた結果、現在では国を跨ぐほどの遠距離でも使用でき、最大で5箇所の連絡鏡と繋がり同時使用可能になった。
それまで国同士の連絡は使者に書簡を持たせて行き来する方法しかなかったが、連絡鏡のおかげでほぼノータイムでやり取りできるようになった。
国同士での話し合いが容易になり、誤解やすれ違いなどの揉め事が減った。各国の交流が盛んになって、今ではどの国でも手放せない重要装置だ。
何しろ、侵略戦争を起こそうものなら、瞬時に全世界に筒抜けになり、援軍が駆けつけやすくなった。下手をすると、相手の同盟国や友好国から非難されるだけでなく、加害者国は攻め込まれる。事前の根回しで横槍を防いでも戦況はリアルタイムで全世界に情報発信されるのだ。戦争が長引けば、漁夫の利を得ようと画策する国だって出てくるだろう。
連絡鏡の影響で武力がモノを言う世界ではなくなった。
各国とも情報戦に力を入れ、内政を充実させて経済を発展させた。貿易の利害関係で上に立とうとする世の中になってきたのだ。
現在の連絡鏡は姿見ほどの鏡に対して、送受信装置が馬車くらいの大きさで設置場所をとるし、メンテナンスや警備上の問題などで王城でしか扱えない。それをより軽量簡素化にして使い勝手をよくする方法をミリアムとルミールは研究課題にしていた。
ディターレ教授には子供がいなかった。研究を引き継いでくれる後継がいないので、連絡鏡の設計書を全て公開していた。今後の改良は各国の研究者に委任すると声明が発表されたが、独自に研究開発するのはやはりまだ難しい。そこで、教授が見込んだ相手を招待して共同研究する方法が取られていた。教授に招かれるのは名誉なことで、帰国後の地位は保障されたようなものだ。
ルミールは留学ができなくなって落ち込んだものの、婚約者のミリアムが代理となったので、自分も研究に携われると思っていた。ミリアムに手紙で色々と質問したのに、開発中は守秘義務があるとかで大した情報は教えてもらえなかった。それを不満に思っていたところに、ダニエラから不穏な相談だ。ミリアムが婚約者や友人の悪口を手紙に書いてくると聞かされて、実際に見せてもらって愕然とした。
まさか、ミリアムが代理留学を自慢して鼻高々と傲慢な振る舞いをするようになるなんて。しかも、アレクと愛称呼びするほど親しい友人もできたとか。
婚約者として許せるものではなかった。
ミリアムが先に荷物だけ送ってきて、ダニエラがまた罵詈雑言の手紙があるかもしれないから一緒に中身を改めて欲しいと言ってきた。
勝手に荷物を漁るのは気が引けたが、第三王子の悪口も書いてくるのだ。確認しておかないとマズイと思って中を見てみれば、留学中の研究の集大成の連絡鏡があった。王家の通信システムと繋げてもらわねば使用できないが、組み立ててみれば肝心の基盤がなかった。まだ未完成なのかと資料を漁って設計書を見つけた。その通りに基盤を試作してみたのだ。後は実際に稼働してみるだけだ。
エリアスは話を聞いて興奮した。
侯爵家に婿入りで立場が弱かったが、この功績があれば父から公爵位を授けられる可能性だってある。ルミールはエリアスに貴族らしい笑みを向けた。
「もちろん、私の研究には殿下がスポンサーについてくださったと公言致します」
「ああ、よくわかっているな、君は。そういうことならば、私も全面的に協力するのにやぶさかではないよ」
男二人は紳士らしく握手を交わしながら、腹黒い笑みを浮かべていた。
~~~ 二年後 ~~~
カラーンカラーンと大聖堂の鐘が祝福の音を響かせた。
王族しか使用できない大聖堂で婚姻の儀をあげたのは、国で一番の有名人だった。
亡き婚約者の未完成の研究を引き継ぎ、この二年の間に最も国に貢献したルミール・コランダと彼をずっと励まして支えていた亡き婚約者の従妹ダニエラ・ベルガだ。この婚姻により、ダニエラはハリーク家を継ぐことになり、ハリーク伯爵夫妻の誕生だった。
ルミールが完成させた研究は王城にだけ設置されている連絡鏡の次世代機だった。
連絡鏡は従来の物より小型軽量化に成功して、王城だけでなく上流階級に広く普及した。今ではドレッサー型の連絡鏡を所有するのが上流階級の証となっている。
ルミールはフロリアン侯爵家に婿入りした第三王子エリアスの友人でもあり、連絡鏡の普及に尽力した功労者として大聖堂での挙式を許された。
純白のタキシードとドレス姿で大聖堂から現れたルミールとダニエラに祝福の声と花吹雪がかけられる。
笑顔で周囲に応じている二人に近づくのはユスティーナと昨年婚姻したエリアスだ。ユスティーナは身重な身体で大事をとって、式には参加していない。
「やあ、二人ともおめでとう。君たちを応援していた私もこのよき日を迎えられて感無量だよ」
「エリアス様、ありがとうございます。エリアス様のおかげでこのような素晴らしい式を挙げることができました」
「ええ、エリアス様。ご尽力してくださり、ありがとうございます」
「なあに、君の功績は大聖堂で祝福されるほど価値があるものだ。当然のことだよ。君をずっと支えていたダニエラ嬢、いや、もうハリーク夫人か。夫人にも喜んでもらえて何よりだ」
エリアスはにこりと微笑んだ。
ミリアムは結局見つからず、行方不明のままだったが、卒業の三カ月後には事故死と発表していた。伯爵家の親戚一同をいつまでも牽制しておくのが難しかったので手っ取り早く存在を抹消したのだ。
ミリアムは領地静養中に回復に向かったものの、散歩中に足を滑らせて川に落ちてしまった。生憎と大雨後で増水した川の流れで遺体発見は困難だったとしたのだ。
叔母のベルガ夫人は反対したものの、ミリアムの不敬罪でハリーク家を取り潰すと言われれば服従するしかなかった。
夫人は当主代理としてずっと領地経営に携わっていたが、娘がハリーク家を継ぐことには未だに反対していた。体調不良を言い訳に今日の式には欠席だ。夫も妻に倣ってこの場にはいない。
ルミールは娘の晴れ舞台になんと酷い仕打ちをと憤っていたが、ダニエラは気にしていなかった。むしろ、うるさい親がいなくてセイセイしていた。
ダニエラは士爵令嬢で平民と変わらない生活をしていたから、伯爵家を継ぐのはムリだと母親に言われてムカついた。母親は親戚内から養子をとって継がせるべきだと言っていたのをエリアスやユスティーナの口添えで黙らせてやった。
ダニエラは親のくせに娘の幸せを願わないなんてと憤慨していたが、母親は幸せを願うからこそ伯爵家を継がせるつもりはなかった。
ダニエラの希望で貴族学院に通わせたものの、マナー講座は及第点ギリギリだった。とても女当主として伯爵家を継ぐには相応しくない。後々、社交界で苦労するのは目に見えている。それなのに、ダニエラは婚姻でルミールが伯爵になるのだから彼に当主の仕事をしてもらえば大丈夫だと母の言い分を聞かなかったのだ。
ダニエラは新婦の両親が揃って欠席という異例の事態に涙ぐんでみせた。
『まだ、両親はミリアムを諦められていないから仕方ないわ』と理解を示すフリで健気さをアピールしている。その方が出席者にウケがいいからだ。
エリアスにしてみればお笑い種だった。
亡き婚約者の喪に一年服していたが、喪明け後すぐの婚約発表で、挙式まで半年くらいしか時間をかけなかった。普通、貴族の婚姻準備に一年はかかるものだ。聡い者には早める理由があったのかと勘繰られるだろう。痛い腹を探られては困る身だろうに、浅はかさに失笑するしかない。
醜聞の元になりかねなかったので、連絡鏡普及の功労者として大聖堂の使用を可能にしてやったのだ。大聖堂側の都合で早めの挙式と匂わせれば醜聞回避できるはずだった。
エリアスは後でこの恩は十二分に取り立ててやろうと腹黒い内心は笑顔に隠していた。
「ところで、ハリーク夫人。その見事な青真珠は先祖代々の品かい?」
エリアスはダニエラの装飾品に目を止めて尋ねた。
ダニエラは大粒の青みがかった真珠のネックレスとイヤリングを身につけていた。南方のメイエルス国産の物だろう。養殖でこの色の真珠はとれず、天然物しかないと言われている超高級品だ。
十年ほど前の大型ハリケーンで青真珠の産地は壊滅的な被害をうけた。青真珠の国外への輸出は禁じられて復興に力を尽くしていた。ようやく、国内での取引ができるようになったと聞く。青真珠が欲しければ、メイエルス国まで出向くしかないが、婚姻準備期間が通常よりも短かったダニエラたちでは手に入れるのは無理だ。
ダニエラは満面の笑みで頷いた。
「ええ、母から受け継いだものですわ」
「嘘仰い! 盗人猛々しいとはよく言ったものだこと」
刺々しい声が割って入り、発言者を見咎めたダニエラは思いきり顔を歪めた。
「ドランスキー様、貴女を招待した覚えはなくてよ。どうやって、ここに入ったのかしら?」
「貴女のお母様、ベルガ夫人がご招待してくださったわ」
鼻息荒く言い返したのはミリアムの母方の従妹であるナターリエ・ドランスキーだ。
大聖堂前の大広場では新郎新婦と挨拶を交わそうと招待客が集っており、ちょっとした社交場のようになっていた。ルミールやダニエラの友人知人だけでなく、エリアスの縁で連絡鏡普及に加わった高位貴族も幾人かいて皆遠巻きに様子を窺っていた。
周囲を気にしてエリアスが声を低くした。
「ドランスキー嬢、祝いの場に相応しくない態度ではないか? 込み入った話は後で控え室に下がった時にでも・・・」
「それでは意味がありませんわ。この盗人の罪を公の場ではっきりさせませんと、また言い逃れされてしまいますもの」
「ドランスキー伯爵令嬢。我が妻を盗人呼ばわりとはずいぶんと失礼ではありませんか」
ルミールが険しい顔をして言い放った。婚姻によりハリーク伯爵となったルミールは伯爵令嬢のナターリエよりも上の立場だ。しかし、ナターリエはルミールにも侮蔑の視線を向けた。
「まあ、そのように仰るならば、当然奥方の行動は把握しておりますわね?
今、貴方の奥方が身につけている青真珠はわたくしの曽祖母がメイエルスより嫁いだ際の花嫁道具でした。メイエルスでは代々母から娘へ受け継がれる物だと言われています。曽祖母から祖母へ、そして伯母がハリーク家に嫁ぐ際に受け継がれましたが、伯母の婚姻時の契約では伯母が女児に恵まれなかった場合、または伯母の直系が絶えた場合は我が家へ返還されることになっておりました。
ミリアムが亡くなった際に返還要求しましたが、形見分けしたから無理だと言われましたの。再三、返還を促しておりましたが、悉く無視されております」
「・・・それは確かですか?」
「ええ、もちろん。この通り、契約書をご覧くださいな」
ナターリエは手元のポーチから厳重に括られた契約書を取りだした。止めのごとく、契約書を聖職者に精査してもらって正式な契約だと確認済みと付け加える。
ルミールは顔をしかめた。
「しかし、もう何十年も前の契約でしょう。今では時効なのでは?」
「時効は定めていませんもの、有効ですわよ。それも再三に渡って忠告してきたのに、まあったく気になさいませんでしたのよ、貴方の奥様は?
しかも、ベルガ夫人からもらったなどと大嘘をよくもまあ恥ずかしげもなく言えたこと。ベルガ夫人は返還に同意なさったのに」
「こ、これは、わたくしの祖母からもらった物です!」
「ならば、刻印を確認させてくださいな」
「え、刻印?」
ダニエラは首を傾げた。ふっとナターリエが鼻で嘲笑った。
「まあ、ご存知ないの? メイエルスでは特産品の真珠をただ売るだけではないのよ、きちんとアフターサービスも万全なの。修理やリメイクに応じてくれるのよ。そのために留め具に製造ナンバーを刻印していて、メイエルス産の真珠で購入者不明な物は違法なのよ」
「え・・・」
ダニエラは青ざめた。青真珠はメイエルスでのみ採れる天然真珠だ。刻印されていない違法物が出回るわけがない。
ナターリエは手にした契約書を後ろに付き従っていた男女に見せた。
「ねえ、そうよね。クライン男爵ご兄妹?」
「ええ、我が商会の名誉にかけて断言いたします」
ナターリエの連れの男女は整った顔立ちの上に黒髪に朱色の瞳で人目を惹いた。少々、浅黒い肌はメイエルス国民の特徴だ。兄は精悍さを、妹は溌剌さを感じさせるつり目で、二人は揃って優美な礼をとった。
「もしや、メイエルスで評判のクライン商会か? 昨年、男爵家に叙されたと噂で聞いたが・・・」
エリアスが兄妹をしげしげと眺めた。
「確か、メイエルスで大流行した伝染病の特効薬の功績で平民から成り上がったはず?」
「ええ、その通りですわ。わたくしの留学中に兄が大奮闘いたしまして」
「本来なら私が留学するはずだったのですが、生憎と罹患してしまいまして。私の代理留学となった妹に負けまいと奮起せざるを得なかったのですよ」
妹が優雅な笑みを浮かべると、兄がため息混じりに肩をすくめる。
「さて、ストレイツ国への花嫁道具になった青真珠の装飾品と言えば、ゼーマン侯爵家からの特注品しか覚えがありませんが・・・」
「ええ、曽祖母の旧姓はゼーマンよ」
「ならば、刻印は『Z026』のはず」
青年が顧客名簿らしき帳簿を取りだして告げると、ダニエラがじりっと後退った。
「わ、わたくしに触れるというの? とても紳士のなさることではなくてよ!」
「はっ、頼まれてもそんな真似はごめんだね」
「そうよ、兄を不埒者呼ばわりする気? 女性神官様にお願いしてあるわよ」
兄妹が嫌悪感たっぷりに吐き捨てると、女性神官が進みでてきた。片手をあげて虚偽の報告をしないと宣誓する。神官が誓いを破ると聖力が衰えるしっぺ返しが起きるので、公平さは万人が認めるところだ。
「ハリーク夫人、ネックレスを外して確認させていただきます」
「い、いやよ! これはわたくしの物だわ」
ダニエラが激しく首を振って嫌がるが、女性神官は気にもとめない。付き添いの見習い神官にダニエラを拘束するよう命じている。
ルミールが見かねて間に入った。
「待ってください。嫌がるのを無理にとはひどいだろう」
「まあ、正気で仰ってますの? 疚しいことがなければ確認させても構わないでしょう。嫌がっているのは盗人だからよ」
ナターリエが冷ややかに言い捨てた。
「貴方の奥方は契約違反を再三警告されてもまるっきり無視して、青真珠を我が物顔で挙式で身につけたわ。
メイエルスの習慣かのごとく、母からもらったなどと嘯き、所有権を主張するなんて図々しいったら。この後、正当な主張でわたくしが取り戻しても、言いがかりをつけられたなどと方々に触れ回って被害者面するのでしょうね。なんて悪辣なのかしら。
神官様立会いのもとで確認してもらえば、虚言など口にできなくなるわ。奥方の罪を重くしたくなければ邪魔はなさらないで」
「な、そ、それは・・・」
ルミールが反論できない間に女性神官がネックレスを外して留め具にルーペをあてていた。女性神官は大きく頷いて、周囲を見渡した。
「Z026です。視力のよい方なら肉眼でも確認できるでしょう」
「ええ、確かに」
ナターリエたちも同意して周囲からどよめきがあがる。エリアスが渋面で周りを見渡した。
「何もこのような祝いの場で改めずとも・・・」
「責任転嫁なさらないで。返還要求を無視し、この場につけてきた夫人の罪でしょう」
ナターリエがピシャリと言い返して、クライン兄妹がくすくすと嘲笑った。
「さすが、似た者夫婦だな」
「ええ、元婚約者の研究成果を横取りした方の奥様ですもの。まともな神経をしていないのでしょうよ」
「夫も大概だがな。元婚約者の完成品を未完成と偽って、自分の功績にしてしまうとは、図々しすぎて呆れるしかないが」
「横取りなんてしていない! おかしな言いがかりはやめろっ」
ルミールが顔をひきつらせて怒鳴ったが、周囲の視線は険しく冷ややかなものだ。ダニエラのやらかし発覚後なだけあって、ルミールのことも疑いの目で見てくる者多数だ。
ルミールが助けを求めるようにエリアスを見やった。エリアスが注意を引こうと軽く咳払いをする。
「夫人は何か勘違いでもしていたのだろう。ルミールを責めるのは気の毒だ。
それに、男爵ご兄妹は何か誤解しておられるようだが、元婚約者の研究が未完成だったのは私が確認しています。重要基盤を完成させたのはルミールのお手柄ですよ」
「はっ、何をほざいているのだ。
フォルスター大国が未完成品を国外に出すわけがないだろう。
かの国へ招待された研究者は最初に機密保持の誓いを交わす。違反者は多額の賠償金請求に加えて十年間の懲罰労働に科せられるのだから、まあ、違反者がでることはまずないが。
外部との連絡手段の対策も完璧なものだ。研究施設外への連絡手段には全て検閲が入って記録されるし、研究所への出入りだって御用達の業者さえも毎回身体検査と身分証の確認、事前登録者か否かの面通しと厳重にチェックされると言うぞ。それで、どうやって未完成品を国外へ持ち出せるというのだ」
「ええ、わたくしたち留学生だって、同じ扱いでした。完成するまでは帰国さえできませんでしたわ。ミリーだって同じこと。それなのに、彼女との共同研究が未完成品だなんて! 戯言はいい加減にしてほしいわ」
「はっ⁈ ミリーってミリアムのことか?」
「ええ、貴方の元婚約者ミリアム・ハリーク伯爵令嬢よ。彼女とわたくしは留学生の中で二人きりの女子学生だったから、とても親しくしていたわ。彼女は身分差なんて気にしなかった。わたくしたちはお互いに愛称でミリーにアレクと呼びあっていたわ」
「・・・アレク?」
ルミールが訝しげな顔をしたので、男爵令嬢はぱんと手を打ってから見事なカーテシーを披露した。
「まあ! わたくしとしたことが、正式な名乗りがまだでしたわね。失礼致しましたわ。
この度、メイエルス国が貴族末席に連なりましたアレックス・クラインと申します。以後、お見知り置きを」
「あ、あれっくす? 貴女の名前が?」
「失礼だが、妹を呼び捨てにしないでください。婚約者がいる身ですので、あらぬ疑いをかけられては困ります。何しろ、貴殿は女性同士の愛称呼びを不貞行為と認定して婚約破棄なさるお方だ。不当に妹を貶められたくない」
兄が妹アレックスを庇うように前にでて、周囲は大きくざわめいた。
「まあ、婚約破棄ですって!」
「ハリーク伯爵令嬢がお亡くなりになったから、従妹のダニエラ嬢との婚姻になったのでは?」
「ねえ、女性同士の愛称呼びで不貞行為って・・・」
「言いがかりも甚だしいわ。ちょっとおかしいのではなくて?」
ヒソヒソと奇異なモノを見る視線が集中する。ルミールは赤くなったり青くなったりと忙しく顔色を変えていた。寄り添ったダニエラがぎゅうっと腕にしがみついてきて、ルミールは我に返った。アレックスが女性名だったなんて初耳だが、それよりも今は横取り疑惑を放置しておけない。ルミールは声をはりあげた。
「ミリアムの研究は本当に未完成だった! 重要基盤が抜けていたのだ。私が完成させたのはエリアス様が証言してくださる」
「ああ、そうだ。基盤作成のために黒金石を大量に手配したのだから間違いない」
エリアスが頷くと、アレックスは朱色の瞳を細めた。
「教授の伝手で貴方が完成させた基盤を見せてもらいましたが、なぜ黒金石を使用されたのです?」
「魔力伝導率が一番高く、我が国でも採取できる鉱物だ。コスト的にも最適と判断したのだ」
「そうですか。耐久性や互換率はテストしませんでしたの? 総合的に判断すれば黒金石は最適とは言えないわ。
もっと効率のよい鉱物があったでしょうに」
ルミールはアレックスの指摘に渋い顔になった。さすがに教授の元で研究に励んでいただけある。一般人のようにケムに巻くのは無理だ。
ルミールはミリアムの残した設計書を思い浮かべた。北方諸国でよく採れる結晶鉱石を使っていたはずだ。
「その、結晶鉱石ではコスト高になってしまうし、我が国にはあまり輸入されないので候補から外したのだ」
「ほう、数ある鉱物の中から一番に結晶鉱石をあげるのか。それこそ、アレクの研究成果と完全に一致するな」
兄が妹とよく似た朱色の瞳に侮蔑を露わにして嘲った。
「な、部外者は引っ込んでいろ!」
「実に残念な頭の御仁だな、妹もハリーク嬢同様に代理留学と言ったのをもう忘れたのか? 本来ならば、私が留学するはずだった。部外者なわけないだろう。
私はアレクが持ち帰った研究内容に目を通したが、結晶鉱石を他の物と変えようとは思わなかったぞ? 結晶鉱石でなければ、国外の連絡鏡と通信するのは無理だ。将来的に他国との繋がりを見据えていればよく理解できたはずだが」
「・・・それはどういうことだ?」
エリアスが若干顔色を悪くして問いかけた。男爵が軽く肩をすくめる。
「なに、この国で普及した連絡鏡は国内でしかやり取りできないということだ。この国の周辺諸国では他国ともやり取りできる結晶鉱石を使用した連絡鏡が標準装備だというのに、ストレイツ国だけが省かれている。
貿易関係者には大いに痛手だろうな。この国だけ情報戦で遅れをとるのだ」
「そうねえ、共同研究者の間で結晶鉱石の販売ルートに関する契約はまとまっていたのに。結晶鉱石を使用しないだなんて、他国と交流する気はないのねえ。
まあ、仕方ないかしら。ミリーを邪魔者扱いするから、必要な情報が手に入らなかったのよ。
ミリーは基盤を慎重に運ぶために帰国時の手荷物に入れておいたのに忘れてしまって。我が家の馬車で送ったから忘れ物に気がついて慌てたわ。すぐに届けに行ったら、ミリーが罪人のように王家の紋付きの馬車に乗せられたのよ! 目撃して、もう、びっくりしてしまったわ。
何がおこったのか見極めようと後を追いかけたら、宿でミリーが逃げだしてきて保護したのよ。話を聞けば、濡れ衣を着せられて幽閉されると言うじゃないの! しかも、ハリーク家の跡取りの座を従妹に奪われたと言うし。
公費の留学を不純異性交遊で遊び呆けた上に、手紙で王族とその婚約者を悪様に罵った不敬罪とか。ああ、もう絶句ものだったわ。不貞相手のアレクって、わたくしのことだもの。
ねえ、お兄様。わたくしの手紙をまともに読んでいれば、遊び呆けるヒマなどないとわかったでしょう?」
「もちろんだ。『検閲が入って記録される』連絡手段で、他者に読まれて都合の悪い内容を綴る阿呆などいないしな」
揃って呆れた顔をする男爵兄妹の発言にその場は静まり返った。一気に重大な情報が暴露されて、誰もがしばし脳内処理に取りかかっていた。情報整理された途端に、大きなどよめきが起こった。
「ええええー、ハリーク伯爵令嬢を保護? 亡くなったのではないの?」
「まあ、幽閉ですって! どういうことなの」
「・・・王家の紋付き馬車って・・・? まさか、元殿下が」
「ミリアム様は本当に完成させていたのね」
「婚約者を幽閉して研究を横取りしたとはなんと恥知らずな!」
「それだけじゃないわ。正当な跡取りのミリアム様を幽閉なんて、お家乗っ取りじゃない!」
ルミールは口をパクパクさせたが、何も言葉がでなかった。ダニエラは蒼白になってルミールの背後に隠れ込む。
エリアスはじりじりと後ずさっていたが、目ざとくナターリエが声をかけた。
「まあ、フロリアン侯爵様。どちらへ行かれますの? まだ、話は終わりではございませんのよ。ミリーを王家の紋付き馬車に乗せたのは侯爵様、いえ、当時は第三王子殿下でしょう。
一体、どういうことかしら?」
「わ、私はルミールに未完成品を見せられたのだ。ルミールが未完成だというから、信じただけだ。ルミールが研究を横取りしたとは思わなかった。私の知ったことではない」
「ほう、元第三王子殿下はこの件には無関係だと仰るのか? ずいぶんと権力濫用がお得意のようだが?」
クライン男爵の追求に周囲からエリアスへ非難の視線の集中砲火だ。
「き、貴様、たかが男爵ごときが無礼だぞ!」
エリアスがキレ気味に叫ぶが、周囲の反応は悪くなるばかりだ。高位貴族でさえも嫌悪を浮かべて顔をしかめている。
盗人容疑のダニエラに研究横取りのルミール、そして、権力濫用のエリアス。主役と主賓のはずの三人が周囲の視線からおびえたように身をすくめていた。
クライン男爵が彼らを皮肉げに見やって、人々をかき分けるように近づく一団に目を向けた。
「ああ、どうやら、当事者がいらしたようだ。真偽のほどはすぐに明らかになるだろう。
ディターレ教授との共同研究開発には各国の留学生も関わっていたから、ストレイツ国の有り様はおかしいと各国で声があがっていたのだ。そうですよね、教授?」
「ああ、その通りだ。この国に来てみて異常さがよくわかったよ」
男爵の声に答えたのは銀髪に黒縁メガネの初老の男性だ。同じメガネをかけた茶髪の女性に付き添われている妊婦にエリアスが血相を変えて近づいた。
「ティーナ! なぜ、ここに? 大事な身体なんだ。家で大人しくしていなきゃダメじゃないか。
貴様たち、無理やりティーナを連れてきてどういうつもりだ!」
「いいえ、エリアス様。わたくしは自分の意思でここに来たのよ」
黒縁メガネの男女を怒鳴りつけたエリアスをユスティーナが宥めた。強張った顔をして、ルミールたちを見やる。
「ぜひとも、わたくしの目で確かめねばならないと思って、ここに来たの。
ねえ、ダニエラ。貴女、本当はミリアムがわたくしたちを馬鹿にして見下していると言ったわね?
手紙に書いてあったと見せてくれたけど、内容は貴女がミリアムにだしたものだったわ。どうして、ミリアムの手跡を真似た偽の手紙をわたくしたちに見せたの? 貴女、そんなにミリアムが憎たらしかったのかしら?」
「な、何を仰るのですか、ユスティーナ様!」
ダニエラがぎょっとして叫んだ。ユスティーナは悲しそうに顔を歪めた。
「わたくし、親友に裏切られたと思い込んでしまって、ミリーの言うことをまともに受け止めなかったわ。彼女はそんな手紙は書いていない、証明できると言ったのに無視してしまって。なんて、ひどいことをしてしまったのかしら・・・」
「ティーナ、どうしたんだい? 何かあやつらにおかしなことを吹き込まれたのか」
エリアスがユスティーナを守るように背後に隠した。黒縁メガネの男女を睨みつけると、ナターリエが女性に近づいた。そして、ダニエラから取りあげた青真珠のネックレスとイヤリングを茶髪の女性に渡した。
「ミリー、貴女のお母様の形見をようやく取り戻せたわ」
「ナターリエ、ありがとう。とても心残りだったのよ。もしかしたら、ダニエラに売られてしまうかもしれないと不安だったわ」
「その心配がないように、再三返還要求をだしてやったのよ。超高級品で今では滅多に手に入らないと吹き込んでやれば、見栄っ張りな貴女の従妹は必ず結婚式で身につけると思ったの。わたくしの読み通りだったわよ」
ナターリエが得意げに胸を逸らしていた。
ルミールとダニエラはハッとして女性を凝視した。まさか、と見つめる先で茶髪の女性はメガネを外して涙ぐんだ目元にハンカチをあてている。
男爵兄妹もそばによって女性を慰めていた。
「もう大丈夫だ。君の名誉は必ず回復させる。安心してくれ」
「そうよ、お兄様に任せてちょうだい。愛おしい婚約者のために、大奮闘してくださるから」
「アレクにもヒュー様にもよくしていただいて、なんとお礼を言ったらいいか・・・」
「お義姉様になる貴女のためですもの。大したことではないわ」
「ああ、そうだ。君のためならば、私はなんだってできる。遠慮は無用だ」
男爵が女性の手をとり、そっと指先に口付けた。きゃあと女性客から黄色い悲鳴があがる。
赤くなった女性の顔を見たダニエラは嫉妬に駆られて顔を歪めた。ナターリエとの会話から予想していたが、従姉のミリアムだ。てっきり、逃げだした先で野垂れ死でもしたのかと思ったのに。引導を渡してやったと思った相手に人生の晴れ舞台を台無しにされるなんて屈辱以外の何物でもない。
一方、ルミールは呆けたように元婚約者を見つめていた。ヤボったい黒縁メガネを外せば、以前より大人びて綺麗になったミリアムだ。愛嬌のある大きな瞳で涙ぐむ様は可憐で、目立たない茶色の瞳も溶けかけたチョコレートのようで愛らしい。茜色の華やかなドレスで婚姻の場に相応しい格好だが、こんなミリアムは初めて見る。彼女はいつももっと落ちついた地味なドレスばかりだった。
「・・・まさか、ミリアム・ハリークか? 貴様、今までどこに・・・」
呆然としたつぶやきはエリアスだ。ユスティーナが顔色の悪くなった夫に寄り添った。
「エリアス様。ダニエラがわたくしたちに見せた手紙は偽造したものでした。ディターレ教授が証明してくださいましたわ。ミリアムとの手紙のやり取りは機密保持のため、全て検閲されて記録を残してあるそうよ」
「な、なんだと?」
顔を険しくしたエリアスの前に進んだ初老の男性が礼をとった。
「只今、奥方よりご紹介されました。ブルーノ・ディターレと申します。フォルスターでしがない研究者をしておりましてな。この度、養子にしたかつての教え子ミリアムの名誉回復に参りました」
「教授がミリアム・ハリークを養子に?」
「さよう。彼女の優秀さは留学中によくわかっておりましたから、私の後継者として申し分ない。連絡鏡の開発は幅広く門戸を広げましたが、私の研究は他にもまだある。無事に後継ができて嬉しい限りです。さて、その私の後継者を罠に嵌めて研究成果を乗っ取った恥知らずはどちらにおられるのかな?」
教授は黒縁メガネを押しあげて皮肉げにルミールを見やった。かあっとルミールの頬が朱に染まるのをゴミでも見るかのように目を細める。
「きょ、教授。誤解です。私は横取りしたわけでは・・・。ミリアムが送ってきた中身には基盤がなかったから、まだ未完成なのだと思って」
「当然でしょう。運搬時の衝撃などで壊れてしまっては困るから、ミリアムは宅配はやめて手荷物で運んだのだ。
ところで、君は帰宅した彼女をそのままアリもしない不貞行為で婚約破棄し、捏造した不敬罪で領地へ幽閉送りにしたとか。ミリアムは着の身着のまま追い出されたと言う。なぜ、彼女の荷物を君が勝手に漁っている? いくら、婚約者でもあり得ない行動だが」
「なんてひどい!」
「紳士の行動じゃないだろう」
「横取りするために言いがかりをつけて幽閉? まさか・・・」
「ミリアム様が逃げだすのは当たり前よ。幽閉後に口封じされたかもしれないもの」
ざわざわと大きすぎる声で招待客たちが口々に推論し始めた。ルミールが蒼白になって喚きだした。
「ち、違う! 誤解だ! 私はミリアムが浮気して遊んでいると聞かされて・・・。
そうだ、ダニエラだ! 彼女が言いだしたんだ。手紙だって、ミリアムがエリアス様やユスティーナ様の悪口を書いてくると見せてきて。私はダニエラに騙されたのだ!
研究成果だって、ダニエラが中身を改めたほうがいいと言いだして。私は嵌められたのだ」
「な、何を言うの、ルミール様! ひどいわ、代理留学でミリアムが傲慢になったと言いだしたのはルミール様ではありませんか!」
「それはお前の言い分を信じたからだ! まさか、騙されたとは思いもしなかった」
「ミリアムの研究を未完成だと言いだしたのはルミール様だわ。基盤だって、設計書を見つけてその通りに作っただけじゃない! それを自分が完成させたとか言ったくせに!
ミリアムの研究を横取りしたのはルミール様なのに、わたくしのせいにするつもり⁈」
ルミールとダニエラは激しくお互いを罵り始めた。両方とも相手のせいにしているが、周囲の者は皆嫌悪と呆れ顔で眺めるばかりだ。どっちもどっちだ、とヒートアップする二人に冷笑を向けていた。
見苦しくも怒鳴りあう伯爵夫妻を尻目にミリアムは優雅な物腰で侯爵夫妻に対峙していた。
「お久しぶりでございます、殿下。いえ、今では侯爵位を継がれたのでしたね、フロリアン侯爵様。遅くなりましたが、ご婚姻おめでとうございます。ミリアム・ハリーク改めミリアム・ディターレでございます」
「そして、ミリアムの婚約者、ヒューベルト・クラインと申します」
さりげなくクライン男爵がミリアムに寄り添い、同時に礼をとった。
エリアスは驚いて二人を交互に見やった。
「婚約者⁈ まさか、いつの間に・・・」
「殿下がすぐにわたくしとコランダ様との婚約破棄の手続きを行なってくださったおかげですわねえ」
ミリアムがにこりと優美な笑みを浮かべたが、目は全く笑っていない。エリアスは内心で苦々しい思いを抱いていた。
ミリアムは地味な容姿だが、所作は美しく貴族令嬢のマナーは完璧だ。幼い頃から母に連れられてフロリアン侯爵家を訪れていたから、侯爵家の家人の振る舞いを見て学び吸収していた。ユスティーナと並ぶと侍女のようだと陰口を叩かれていたが、それは容姿さえもう少し華やかだったら侯爵令嬢と勝るとも劣らないという評価の裏返しだった。
ユスティーナにベタ惚れしていたエリアスにはおもしろくなかった。たかが伯爵令嬢が彼の最愛と並び立つなんて。ミリアムはユスティーナと同じく跡取り娘で爵位を継いだ後も何かと比較されるのは想像がつく。
ルミールから相談を受けた時にはちょうどいいと思ってしまった。これでミリアムを貶めればユスティーナの評判が脅かされることはないのだと。
だから、アレクという男友達を不貞相手ではないかとルミールに吹きこんでやった。公費留学でルミールの代理のくせに不純異性交遊しているに違いないと。
ルミールは代理留学に不満を抱いていたからロクに調べもせずに簡単に信じこんだのだ。
「横暴な権力濫用など褒められたものではありませんが、婚約破棄を迅速に済ませてくださったことだけは感謝いたします。おかげさまで私は妹の手紙で興味を抱いていた相手と婚約できました」
ヒューベルトがふっと口角をあげた皮肉な笑みを浮かべる。そこへダニエラが突撃してきた。
「やっぱり、ミリアムは浮気していたんじゃないっ! 不貞行為は本当のことだったわ」
「馬鹿か、貴様。気は確かか⁈」
ヒューベルトが心底呆れ果てたというように吐き捨てた。
「留学期間中に私とミリーが会うことはなかった。彼女が逃げ出した時にはもう婚約破棄が成立していたのだ。その後にミリーが誰と縁を結ぼうと貴様らには関係ないだろう」
「さよう、ミリーは私と養子縁組してディターレ家の籍に入っておりますしな」
ディターレ教授も大きく頷いて援護射撃に入る。
「それよりも驚きましたぞ。我が国で特許を得た新型連絡鏡とほぼ同じ物がこの国の特許申請を通るとは・・・。
重要基盤に黒金石を用いた劣化版で国外への通信機能がないものではありますが。いやはや、随分とこの国での特許申請はゆるいようだ」
ほっほっほ、と教授は好々爺の笑みだが、彼もまたメガネの奥の瞳は冷ややかだ。
「まあ、何はともあれ。めでたい祝いの場ですからなあ。詳しい今後のお話し合いは法務官を交えてのほうがよろしいでしょう。我らはミリーの名誉回復がなされれば満足ですから」
「ええ、きっと叶うことと思っていますわ。わたくしの事故死発表は誤報だったのですから。ねえ、侯爵夫人?」
ミリアムが念押しすると、ユスティーナがびくりと肩を揺らした。
「え、ええ、そうね。本当にその通りだわ。貴女がわたくしを嫌うわけなかったのに・・・」
「ええ、以前はそうでしたわね。わたくしは烏滸がましくも貴女を友人だと思っていましたので」
ミリアムは含みのある返答をすると、エリアスに視線を向けた。
「誤解や勘違いなど過ちは誰にでもあると思いますが、一方的に片方の言い分のみを鵜呑みにするのは人の上に立つ者としてはいかがなものかと・・・。
わたくしの幽閉未遂には元殿下のお力が働いております。正式に厳重抗議させていただきますわ」
「・・・全面的に非を認める。正式に謝罪しよう。偽手紙に惑わされて裏付けもとらずに誤解してすまなかった。慰謝料などの話し合いにも応じるが、一旦場所を改めさせてほしい」
エリアスは潔く頭を下げた。高位貴族としては褒められた姿ではないが、すでにユスティーナが非を認めているのだ。下手な言い訳や釈明は周囲の心象を悪くする。
ミリアムが養子に入ったディターレ家は伯爵家で、婚約者のクライン家は男爵家だ。他国の貴族からの非難もあり、国際問題に発展するかもしれないと思うと、できるだけ早急に問題解決し、これ以上の醜聞を抑えねばならなかった。
「な、なんでこんなことになるのよ・・・。ひどいわ、いつもミリアムだけ幸せになって!」
ダニエラがワナワナと震えながら金切り声で叫んだ。すっかり素の話し方になっている。
「わたしだって、ミリーと同じ伯爵家の血をひいているのよ? それなのに、わたしは平民と変わらない暮らしで、ミリーだけ伯爵令嬢だなんておかしいわよ、ミリーだけいつもいつもずるいわ!
ようやく、わたしが幸せになれるはずだったのに・・・。
せっかく、排除したのに、わたしの邪魔をするなんてひどい!
ミリアムなんて、死人のままでいればよかったのよ!」
「な、ダニエラ・・・」
ルミールは信じられないという顔で永遠の愛を誓ったばかりの相手を見つめた。
ミリアムが行方知れずになったからこそ事故死としたのだ。本当に葬るつもりはなく、ただ邪魔さえしなければ十分でハリーク家を継ぐのに口を挟ませないための措置だった。それを死人でいろとは幽閉後に抹殺するつもりだったと捉えられても仕方のない言い分だ。
アレックスが呆れたようにため息をついた。
「まあ、イヤだわ。平民よりも豊かで贅沢な暮らしができれば幸せなの? 貴女の幸せって、ずいぶんと浅はかで軽薄なのね。
貴族学院卒とお伺いしましたのに、一体何を学んだのかしら?
身分には伴う責務も生じるのよ。貴女のように爵位を継いでも、夫に伯爵業務を丸投げなんて無責任なことは普通は有り得ないわ。
ミリーは伯爵家の跡取りとして幼い頃から教育を受けてきた。婚姻と同時に伯爵位を継ぐ予定だったから、学生の間だけは好きなことをしていいと後見人、貴女のお母様に言われていたそうよ。
だから、ミリーは留学期間を伸ばしてまで研究に打ち込んでいたの。その間、貴女は何をしていたのかしら?
箔付けのためだけに貴族学院に通う裕福な平民もいるわ。貴族との縁組を望んでいる者にはお相手を見つけるのに最適な場だし、それが悪いとは言わないけれど、皆向上心は高いのよ?
少しでも好成績で自分を売り込もうと磨きをかけるものだというのに、貴女の成績は落第スレスレで勉学そっちのけだったと聞いたわ。加齢と共に衰える容姿のみで貴族と縁づこうとするなんて、愛人枠狙いと思われるわよ。
貴女は努力も何もしないでただミリーを貶めてなり代わっただけじゃない。それを逆恨みで罵るなんて、ひどいのはどちらかしら?」
ナターリエがうんうんと頷いているところを見るに、ダニエラの学生時代を教えたのは彼女なのだろう。ヒューベルトも冷ややかな眼差しでダニエラを睨んだ。
「アレクは平民ながら伯爵令息に望まれていたから、留学中に貴族の立ち居振る舞いを学ぶ目的もあった。幸いなことに親しくしてくれたミリーが色々と教授してくれて伯爵家に嫁ぐのに見劣りしないくらいにはなったのだ。それに比べて、君の態度はあんまりではないかと思うが?」
ミリアムの父とダニエラの母は兄妹だが、ダニエラの母は相思相愛の仲の騎士に嫁いだ。一代限りの士爵位だ。ダニエラが受け継ぐ爵位はない。貴族の跡取りと婚姻しなければ平民となるのは常識である。
ダニエラには婚約者がいなかったのだから、両親は貴族に嫁がせるつもりはなかったのだろう。だからこそ平民と変わらぬ暮らしだった。
貴族の暮らしを望むならば相応の努力とマナーの向上が必要で、ダニエラとアレックスはほぼ同じ立場だ。貴族令息に望まれて努力したアレックスから見れば見苦しく叫ぶダニエラは甘ったれた幼児のようにしか思えない。
「何よ! 部外者が口を挟むんじゃないわよっ」
「部外者じゃないわよ、ミリーはわたくしのお義姉様になるのだから」
「そうだ、私が婚約者を守るのは当然だろう」
クライン兄妹が反撃してきて、ダニエラはますます激高した。悪鬼の如く顔を歪めて怒鳴り声をあげようとしたが、ルミールに取り押さえられた。
「ダニエラ、落ち着くんだ。お願いだから、やめてくれ。これ以上、恥を晒さないでくれ」
ルミールは今更ながらに周囲の目に気づいて青ざめていた。
ミリアムを糾弾した手紙が偽物だったと証明されたところにダニエラの『死人でいろ』発言だ。ミリアム抹殺疑惑が浮上しているのにこれ以上騒ぎ立てるのは悪手だ。
それなのに、ダニエラは大人しくせずに暴れるばかりだった。
ルミールは口を塞いだ手に噛みつかれて、ダニエラにハンカチで猿轡をして黙らせるしかなかった。
栄えある大聖堂での挙式は新郎が新婦を取り押さえるという誰もが予想外の出来事で幕を閉じた。
ミリアムは宿泊先のホテルでほうと大きく息を吐いた。
領地から出てきた叔母との話し合いを終えたところだ。叔母はお家断絶されるよりはとエリアスの言い分を呑み込んだものの、ミリアムのことは心配して密かに探してくれていた。
叔母は涙ながらにダニエラがやらかしたことを詫びて、土下座せんばかりの勢いだったが、ミリアムは叔母を恨んではいなかった。
叔母夫婦が領地を治めてくれたからミリアムはなんの憂いもなく学院に通って研究に打ち込むことができたのだ。
ダニエラだって、両親が亡くなった直後にはよくしてくれて、彼女の励ましのおかげでミリアムは立ち直れた。
今回の冤罪は信じられなかったし残念だったが、伯爵家の暮らしに馴染んだダニエラが元の暮らしに戻りたくなくてミリアムの立場を欲したと言われれば、ミリアムには何も言えなかった。
平民と変わらぬ暮らしの従妹を贅沢に慣れさせてしまったのはミリアムの責任だ。いくら、両親を亡くして一人になってしまったからといって、ダニエラを伯爵家のタウンハウスに引きとめるのではなかった。叔母は領地暮らしでダニエラを学院入学後は寮に入れる予定だったのだから、その通りにすればよかった。
ミリアムの留学と入れ違いで学院に入学したダニエラは伯爵家のタウンハウスで我が物顔で暮らしていた。長年支えてくれていた使用人を総入れ替えしたり、気に入らない者は紹介状なしで解雇したりと好き勝手やらかしていたそうだ。
ミリアムはただ一人残った執事から全てを知らされて呆然となった。道理でミリアムの帰国時に誰も使用人が出迎えなかったわけだ。
憂い顔のミリアムの前に湯気のたったティーカップが差しだされた。顔をあげると、朱の瞳が心配そうに細められている。
「あまり、思い詰めるのはよくないな」
「ヒューベルト様、ありがとうございます」
ミリアムはカップを受け取って頬を緩めた。
クライン家では男爵位を得てからも商人の暮らしが抜けていなかった。身の回りの世話は自分でやった方が早く、お茶を淹れるくらいは侍女を呼ばなくてもできる。ミリアムの好み通りのミルクティーを淹れるのはヒューベルトの特技になっていた。
ヒューベルトはミリアムの隣に腰掛けると、自身の好みのストレートティーを口にした。
「従妹の言い分を真に受けてはダメだ。伯爵令嬢の暮らしに目が眩んだからといって、君を貶めてなりかわろうなんて、性根が悪すぎる。身分詐称にお家乗っ取りと犯罪行為には違いないのだから、従妹の言い分は間違っている。
君の従妹はアレクが功績をあげて伯爵令息に認められたように自身の力で成し遂げるべきだったんだ」
アレックスは自国の伯爵家へ嫁ぐことになっていた。クライン家が男爵家に叙されたのはアレックスを見初めた令息が後押ししたおかげでもあった。それでも、男爵家と伯爵家の縁組は家格差があるが、アレックスの留学の功績でもって十分な縁だと思われていた。
「・・・ヒューベルト様、ありがとうございます。今回のことでは、アレクにもヒューベルト様にも本当にお世話になって」
ミリアムはヒューベルトの慰めにほっと身体の力が抜けるのを感じた。
ミリアムはアレックスに保護されてクライン家に匿われている間にディターレ教授や留学生仲間と連絡を取り合っていた。第三王子エリアスが敵に回ったのだ。十分な後ろ盾を得て、根回しも確実にしてからでないと冤罪を主張しても闇に葬られる危険性があった。
教授が養子縁組を申し出てくれて、その手続き中にミリアムの死亡発表があって愕然となった。行方不明扱いならともかくそこまでするかと、王家そのものの介入を疑った。教授や留学生仲間の尽力の情報収集でエリアス個人の暴走と判明してからはエリアスを後ろ盾にしたルミールとダニエラが主犯だろうと確信した。
叔母にはミリアム開発の新型連絡鏡を贈って連絡を取りあっていた。叔母は娘のやらかしを知ると、すぐにダニエラを修道院に放り込もうとしたが、ミリアムが名誉回復のために協力を仰ぐと了承してくれた。
ミリアムたちは大聖堂での挙式が決まった時点で式に乗り込んで招待客の前で全てを暴露することにしたのだ。
栄えある大聖堂での挙式で世間の注目を浴びている。これ以上ないくらいの醜聞になるのは必至だった。ミリアムの姿を衆人環視の前に現せば、抹殺は悪手となる。闇に葬られる危険を減らすためと効果的な名誉回復を狙ってのことだ。
エリアス対策で先にユスティーナを説得しておくのも王家の介入を防ぐためだった。
第三王子時代のエリアスのやらかしで王家自体は関わっていなかったが、権力濫用の観点から王家からも非公式の謝罪があり、多額の慰謝料も支払われることになった。
フロリアン家はお家乗っ取りの片棒を担いだ責任をとり、爵位を伯爵に落とし、領地の半分を王家に返上した。ミリアムへの慰謝料も言い値で了承したので伯爵家の体裁を保つのはかなり厳しくなるようだ。
フロリアン家には他国と通信できない劣化版の連絡鏡を普及させた責任も問う声があがっていた。ルミールの連絡鏡は基盤の黒金石以外にももともとの設計から変更箇所があって改良は無理だった。他国と連絡をとりあうには新たに連絡鏡を購入しなければならない。
エリアスやユスティーナの傲慢さもこれまでは高位貴族だから黙認されてきたが、今後はそうはいかない。しばらくは醜聞回避で社交界にもでられない。フロリアン家がこのまま落ちぶれるか、はたまた復興を果たすかは彼らの反省次第だろう。
ダニエラの言い分を信じたルミールは騙されたと主張していたが、フォルスター大国の機密保持をヒューベルトが知っていたのに、何故知らなかったのかと方々から非難があがった。
ルミールとヒューベルトは同じ条件だったのに、代理留学者への配慮や気遣いが欠けていた。研究意欲も大幅に下がっていたから、情報収集が疎かになっていたのだと判断されて被害者とは認められなかった。
むしろ、ミリアムの留守中にダニエラと浮気した結果だと共謀説がでて主犯と疑われた。
ルミールは研究成果横取りで学院の卒業資格取り消しになり、実家からは籍を抜かれて平民となった。コランダ家からミリアムへの慰謝料が支払われて、ルミールはその返済に追われる借金生活になるようだ。
主犯と断定されたダニエラもベルガ家から籍を抜かれて懲罰労働施設で慰謝料を稼ぐハメになった。
ダニエラは街で評判の代筆屋に偽手紙を依頼した。代筆屋はミリアムの筆跡を真似させられた上に内容から不穏さを感じていたのか、かなりふっかけていたが、ダニエラは伯爵家のタウンハウスの維持費を拝借していたらしい。代筆屋はダニエラの依頼で十分稼いだのか、ダニエラの依頼終了後から店を畳んでどこかに姿をくらましていた。二年も前のことで代筆屋を探すのはもう無理だった。
叔母夫婦も娘を諌められずに共犯として罪に問われたが、これまで領地経営でハリーク家を支えてくれていた恩がある。士爵位返上で平民の使用人として領地経営の補佐をしてもらうことになった。
ミリアムはすでにディターレ家に籍があるので、ハリーク家は親戚に譲ることにした。その手続きも終わり、叔母と直接顔を合わせて改めて謝罪されたところである。
ミリアムは力が抜けたせいで横のヒューベルトにうっかりと寄りかかってしまった。はっとして身を起こそうとすると、ヒューベルトに肩を抱かれてがっしりと捕まってしまう。
「ヒュ、ヒューベルト様、申し訳ありません! あ、ああああ、あの・・・」
「気にしないで。私たちは婚約者なのだから、これぐらいは通常のスキンシップじゃないかい?」
「え、でも、ヒューベルト様とは仮の婚約者ですから」
ミリアムがワタワタしていると、ヒューベルトが深く息をついた。
「ひどいな、ミリー。もう、ヒューとは呼んでくれないの?」
「だ、だから、仮の婚約なのですから。愛称呼びは・・・」
「 私たちの婚約は正式なものだよ? 仮だなんて、おかしなことを言わないで」
ヒューベルトがそっと茶色の前髪に口付けを落として、真っ赤になったミリアムはハクハクと口を開閉させた。
ミリアムは教授と養子縁組してもまだ後ろ盾が弱いと仲間内に判断されて婚約者も用意することになった。留学生仲間から立候補がでたが、クライン商会が男爵家に叙されたのでヒューベルトが名乗りでた。留学生仲間は次男三男だが、ヒューベルトは長男で跡取りだ。クライン商会はメイエルス国での知名度は高く、次期商会長夫人の座は強力な武器だ。
アレックスの婚約者の伯爵家からの協力も得られてこれ以上はない後ろ盾だった。
ミリアムは護身のための婚約と思っていたから、仮の婚約で名誉回復が叶ったら解消するものと思っていた。
アレックスは本気で義姉に願っていたが、逃げ出したところを保護してもらってからずっとお世話になった恩がある。
ミリアムは全てが片付いたら恩返しを考えていて、本当の婚約にしようとは思っていなかった。
それを予測していたヒューベルトが微かに口角をあげた。
「婚約申し込みで『君を守らせてほしい』と申し出たのを忘れたのかい? 君は『喜んで』と答えてくれたじゃないか。私は生涯君を守る座を許されたと思っていたのだが?」
「しょ、生涯? え、わたくしの名誉回復までのことではなかったのですか?」
「そんなことは一言も私は言っていないよね」
ヒューベルトが笑顔に圧を込めて断言すると、ミリアムはウロウロと視線を彷徨わせた。肩を抱いていた腕が腰に回って逃さないとばかりに身体を密着させられる。ミリアムがはわはわとしていたら、耳元に心地よい低音で囁かれた。
「それとも、彼に未練があるのかな? 私はまだ彼に敵わないのかい」
「カレ? え、誰のことですか?」
「・・・君の元婚約者だが?」
ミリアムは目をぱちくりとさせた。本当に思い当たりがなかったのだ。元婚約者と言われて、ようやく思いついた。
「ああ、ルミール様でしたか。未練はないですね」
あっさりと答えたミリアムにヒューベルトは拍子抜けしたらしく、いささか戸惑い気味だ。
「安心したけど、本当によかったのかい?
その、アレクに保護された当時はずいぶんとショックを受けていたようだが・・・」
「ええ、わたくしの言い分は何も聞いてもらえず、いきなりのことでしたから。ルミール様とは家族になるのだと言われて、そうなんだと受け止めていました・・・。両親亡き後の唯一の家族に裏切られたと思っていたので」
ミリアムは寂しげに苦笑した。
ルミールとは10歳で婚約したが、彼は成長が遅く小柄で女の子のようだった。妹、もとい弟のように感じていたから、恋をするよりも先に家族愛が芽生えていた。もしも、こんな形ではなくダニエラに心が移ったと相談されていたら、婚約解消していたかもしれない。きっと、弟妹を見守る心地になって彼らの恋路を応援していただろう。
「・・・恋情ではありませんでしたが、確かに情はあったのです。家族愛という気持ちが。
ですが、身分剥奪、研究成果横取り、さらに幽閉ときては口封じの危険性がありましたから。そこまでされて、一片の情もなくなりましたね」
「そうだね。そこまでされて愛想をつかさなかったら、被虐趣味があるのかと疑うよ」
ヒューベルトが肩をすくめて茶色の髪に指を絡めた。
「ならば、もう何の憂いも問題もなく、我が家に嫁げるだろう?
商会長夫人となっても、これまで通り研究生活は続けてくれて構わないよ。研究成果を我が商会に還元してもらうから。君は商売人になるより、教授の研究を引き継ぎたいよね?」
「・・・ええ、できればそうしたいですけれど。ずいぶんと魅力的な提案ですわねえ」
思わず、頷きそうになって、ミリアムは自制心を最大限に働かせた。学生時代に婚姻後は領地経営で研究に関わるヒマはないと覚悟していただけに、ヒューベルトの提案にはすぐに飛びつきたいくらいだ。
「私は君が好きなことに取り組んで目をキラキラさせているのを見るのが好きなんだ」
ヒューベルトは弄んでいた髪にそっと口付けた。ミリアムは挙動不審になって目をウロウロとさせるが、嫌がってはいない。
妹の手紙で興味を抱いた相手だったが、すでに婚約者がいた。諦めていたところに転がってきた好機だ。ヒューベルトは逃すつもりはなかった。
研究にのめり込んで洒落っ気のなかったミリアムにファッションに詳しい侍女をつけて磨かせた。所作の美しいミリアムが着飾れば輝きは倍加されると思っていた。茜色の、彼の瞳を思わせるドレスを着たミリアムは狙い通りに美しく開花した。見惚れていた元婚約者にはいい仕返しになっただろう。
「どうやら、君には私の愛情がちゃんと伝わっていなかったようだね。大いに遺憾だ。これまで以上に伝えさせてもらうことにするよ」
思う存分口説かせてもらうよ、と実に嬉しそうに耳元で囁かれて、真っ赤になったミリアムは早々に降参の旗を掲げた。
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明日の10時に短編『勇者は褒賞を望まない』をヒューマンドラマで投稿します。
あらすじは次のとおりです。
【数十年ごとに現れる魔王級の魔獣を倒した勇者アリスターは褒賞として王女の配偶者、国王の座を与えられるが断った。アリスターには幼い頃からの許嫁がいて、挙式前日に勇者に選ばれたのだ。断ってもしつこく言いよる王女にアリスターがキレて『王都に魔獣を放してやる』と言い放つ。無辜の民の犠牲がでるという神官に魔王討伐の仲間シェリルが結界を張ると言ったら、『まさか、結界術のオルグレン家?』と声があがった。オルグレン家はすでに途絶えたはずの血統だったのだ】
もし、興味がありましたらご覧くださいませ。よろしくお願いします。