月がキレイですね 『日常ドミノ』
物語のあるリボン作家『いろいと』です
私の作るリボンには、1つずつ名前と物語があります
手にとって下さった方が、楽しく笑顔で物語の続きを作っていってもらえるような、わくわくするリボンを作っています
関西を中心に、百貨店や各地マルシェイベントへ出店しております
小説は毎朝6時に投稿いたします
ぜひ、ご覧下さい♡
Instagramで、リボンの紹介や出店情報を載せておりますので、ご覧下さい
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ガタゴトと音を立てて走る電車の中で、次から次へと流れ行く景色を、私は一人楽しんでいた
線路の継ぎ目が来るたび感じる振動に、心地良さを覚える
久しぶりに入る長細く四角い箱の空間は、窓の陽射しに照らされ、気を抜くと眠りについてしまいそう鋭く冷たい空気を感じる季節も終わりに近付き、ぽかぽかと暖かく外へ出るには、いい季節になってきていた
いつもなら車で出掛けるのだが、今日は天気もいいし、雰囲気を変え電車で行くことを決めたのだった
普段乗らない沿線に乗り、遠い目的地へ向かう
各駅停車の電車は、駅に着くたびヒンヤリとした風と共に色んな人を乗せる
『朝も早くからどこへ行くんだろう?』
そう思う私も、きっと誰かに思われているかもしれない
車窓から見える青空は、どこまでも広がり遠く山へと繋がっていく
7.8人程座れる横に長い椅子の左端には、高校生くらいの女の子が、お母さんらしき人と楽しそうに会話をしている
人が一人座れそうな空間をあけ、本を読んでいるのはおじいさん
都会から少し離れてきたからか、人がまばらになってきた
親子はにこやかな笑顔で語り合い
おじいさんは、黙々と本を読む
もう一度左へ目をやると、ドア付近に『月がキレイ』の髪止めを付けた、背の高い女の人が携帯を見ながら立っていた
それぞれが、自分の空間を楽しみ目的地へと移動している
私は、どこかそれが面白く感じてしまいフッと笑ってしまう
もう出逢うことがないであろう人と、同じ空間を過ごしている事が、とても奇妙であり必然的な事なのかもしれないと思ったからだ
しばらくすると親子が立ち上がり、ドア付近へと移動し始めた
どうやら降りるらしい
立ち上がった瞬間、カバンの上に置いていたハンカチをお母さんらしき人が落としてしまう
落とした事に気が付いた、隣のおじいさんが拾う
『ありがとうございます』
そう言って温和そうな女性は軽く頭を下げた
電車は、だんだんとスピードを落としていく
ブレーキがかかってくると大きく揺れる車体に、立っていた人は足を踏ん張らせバランスをとっている
駅に止まる瞬間、ぐらりとバランスを崩し、『月がキレイですね』を付けた背の高い女の人がよろめいた
ちょうど後ろにいた高校生くらいの女の子が受け止める
『大丈夫ですか?』
『すみません、ありがとうございます』
プシューと音を立て電車のドアが開き、何事もなかったかのようにドア付近にいた3人は降りていった
ガタゴトと音を立てて走る電車の中で、次から次へと流れ行く景色を、私は再び一人楽しんでいた
線路の継ぎ目が来るたび感じる振動に、心地良さを覚える
もう出逢うことがない人と同じ空間なはずなのに、どこかの一瞬で繋がる必然は、遠く目的地へ続くレールの上で密かに私を楽しませてくれていた
終
最後まで読んで下さり、ありがとうございます
色々なお話を書いておりますので、どうぞごゆっくりとしていってもらえると嬉しいです
また明日、6時にお会いしましょう♪