第1章 大学の勉強とは?
9月の終わりはもう寒い。海峡の上を4台の大型バスが走っている。その中には、青村小学校の6年生が修学旅行を楽しみにしている。
「ねぇ森田君!海すごいきれいだよ!ねぇ!」
「え、そう?ふーん。白崎さんってそういうの綺麗だって思うんだ。」
「うーん、修学旅行だからなんでも良く見えるんじゃ無い?」
「いやたかが1泊2日やで?」
これは3組の話。白崎翔子からの話に森田悠矢はそう返したが、彼は全く海を見ていない。
海峡を越えてもバスは海沿いを走る。白崎はまだ海を見ている。ようやく森田が左を見たが、海は全く見えなかった。ただ、森田は内心喜んでいる。
(海を見とる白崎さんもええなぁ…。片思いなんやからいい加減諦めんといけんのに、これじゃあ全然諦められねぇなぁ…。)
(山口、鼻歌してんじゃねぇよ!松っちゃんが寝てんのかもしれんけど、考えろ!)
「おい山口さぁ、鼻歌やめろよ。」
「いやいいじゃん、凛は寝てるし。」
「いや俺らの事も考えろよ。」
「ええー、いいじゃん。だってスマホも音楽プレーヤーも禁止なんだし。」
森田と白崎の一つ後ろの席で鼻歌を歌っている山口順也と、その隣の席の、「松っちゃん」こと松原凛は幼馴染である。山口は、バスに乗る前からずっと電子機器が一切禁止な事に愚痴を森田に言っていた。
「もうほんとなんで駄目なん?」
「まあ我慢しろや。」
「もうさあ、先生だけならバレないけど、なんでバスガイドなんか呼んでんの?」
「まあ我慢しろや、ええやん。松っちゃんが隣なんやし。」
「な、何が言いたいんだよ!」
幼馴染が隣同士というのはもちろん偶然ではなく、男女3人ずつという条件で自由に班を決めたからである。森田はまず仲の良い山口と村上孝成と班になり、山口が誘った松原と、彼女と仲の良い白崎と西岡香保里を誘って班が成立した。
つまり、森田と白崎が隣同士なのは偶然である。
博物館というのは修学旅行の定番にも関わらず、人気が低い。
「なぁ山口。この土偶どう思う?」
「え?けっこうかわいいと思うけど。」
「うそぉ!気持ち悪くない?」
「え?森田、なに?おーい、凛。これかわいいよなあ。」
「うん。かわいいと思うよ。」
「うそぉ!気持ち悪くない?」
「いや悠矢君がずれてるんだって。」
「なあ、やっぱり、森田がおかしいよなあ。」
「なあ森田。次ってどこ行くんだっけ。」
「いやトイレで聞く事か山口?宇宙科学館だろ。」
「いや誰もいないし聞いてもいいじゃん。まあありがとね。」
「そういやぁさぁ。」
「ん?なに、森田?」
「お前いつになったら松っちゃんに告白するんや?」
「な、なに言ってんの、いきなり⁉︎」
「いや、好きやろ?」
「あいつはただの幼馴染で…。その、何を理由に言ってんだよ!」
「だって呼び方変わってるやん。お前いっつも松っちゃんの事『凛』って呼んでるで。」
「あっ…。そ、その…。」
(もう無茶苦茶やな。)
(え、何ここ?宇宙科学館って行ったこと無かったけど、こんな生真面目なん?)
森田は極端な文系脳で、宇宙など全く興味が無い。だが、白崎は真逆であった。
「ねえ、この学者さんって確か1900年代前半の人だよねえ!どうだったっけ?」
「……」
(そもそも誰だよそいつ!白崎さん詳しすぎるやろ!ていうか白崎さん、なんかめっちゃ明るいやん!ほんまに好きなんやろなぁ。)