第八話 ゴーストタウン
「えっと……それではシュリオ様は、他の町から来られたばかりなのですね?」
こくりと頷く俺。
可愛らしい受付嬢はドロテアさんというらしく、今この冒険者ギルドに残っているのは彼女だけだという。
「そうなんだ。だから色々と聞きたいことは多いんだけど、まずは――」
「どうして町に人がいないのか、ですよね……」
彼女は察した様子で、ため息を交えて言う。
やはりドロテアさんにとっても、この状態は異常らしい。
「ええ、あまりにも人が少なすぎる。特に冒険者がいないっていうのは奇妙だ」
小さいとはいえ交易都市ともなれば、普通どんな町でも大勢冒険者はいる。
それだけ仕事があるということだし、実際よく見渡せばこの場所にも少し前まで多くの人がいたような痕跡が見受けられるのだが……。
ドロテアさんはしゅんと寂しそうな顔になり、
「ふぅ……つい一ヵ月くらい前までは、ここも毎日賑わっていたのに」
「一ヵ月前って……なにかあったんですか?」
「……シュリオ様は、〝巨像〟というモンスターをご存知ですか?」
「巨像って、あの土人形の上位存在の?」
「そうです。ただ、その脅威度は土人形と比較になりません」
一応、俺にも知識はある。
――巨像とは端的に言ってしまえば、身体が土と岩で出来ているモンスターだ。
主に二腕二足で人間に近い形をしており、鈍重だが怪力。
力任せに腕を振るわれれば、人間など簡単にペシャンコにされてしまう。
その姿形や特徴はダンジョンの中などに出没する土人形とかなり類似しているため、一般的には土人形の上位存在として認知されている。
だが、巨像と土人形ではたった一つ明確に違う部分がある。
その――大きさだ。
通常土人形は全長2~3メートル程度の個体が多いのだが、巨像は全長10メートルを超える個体がほとんど。
これまで観測された中には20メートルを超えた個体もいたらしく、襲われた町が壊滅したという話も幾つか残っている。
幸いにも巨像は絶対的な数が少なく、また基本的には山奥などで何百年もじっとしていることが多いため、滅多に人的被害が出ることはない。
それでも――ごく稀に、町の付近までやって来ることがあるという。
「……つい一ヵ月前、このラバノからそう離れていない山中で移動する巨像が見つかったんです。しかもその個体は全高20メートルを超えるほどの超大型で、真っ直ぐラバノに向かってきているということでした」
「! ラバノに!? そんな、どうして……!」
「わかりませんが、おそらく理由などないのでしょう。巨像にとってはこの町など、単なる通り道に過ぎないのかもしれません」
「そんな……。で、でもそれなら冒険者たちに討伐依頼を――!」
「勿論、依頼を出しました。町は巨額の費用を用意し、この町全ての冒険者を招集。巨像撃退に向かわせたのですが……」
「……失敗、したのか」
ドロテアさんはこくりと頷く。
「彼らは考え得る限りの手を尽くしてくれました。高名なSランクパーティまで交えての一大作戦だったのに、結果は失敗。万策尽きたとして……ラバノからは避難勧告が出たのです」
「そうか、それで町から人が……」
「打つ手なしとなった段階で、冒険者の方々は我先に出て行ってしまいました。それに続くようにギルド職員にも異動辞令が出て……最後に残ったのは私だけです。あとはさっきのガスさん」
なるほど、あいつはドロテアさんの追っかけをしてたから残ってたんだな。
情熱的と言えばいいのか、はた迷惑な奴と言えばいいのか……。
「おそらく、もうすぐ私にも異動辞令が届くと思います。それと同時に、この冒険者ギルドは閉鎖されるでしょう」
「そんな……」
「せっかく来て頂いたのに、こんなお話しかできず申し訳ありません。で、ですが私がまだこの町にいる間は、出来る限りお力になります! 助けて頂いたご恩もありますし、なんなりとお申し付けください!」
「そ、そう? それじゃまたなにかわからないことができたら、聞きに来るよ」
「はい! お待ちしております! さっきは本当にありがとうございました! すごいスカッとしました!」
キラキラと目を輝かせるドロテアさん。
やっぱり絡まれまくって、ストレス溜まってたんだろうなぁ……。
そんなこんなで冒険者ギルドから出た俺は、エルヴィと合流すべく目的地へと足を向ける。
確か『ヤーコブ人形店』って言ったかな?
俺は教えられた情報を元に町を歩き、無事その看板を見つけることができた。
ここで間違いないよな~と思いつつその店に入ると、
「いらっしゃいませ。どうぞご自由に――」
「! シュリオ様! お待ちしてました、です!」
店の中には一人の森人の男性、そしてエルヴィの姿があった。
森人の男性はおそらく店主だろう。
その男性も金髪と翠緑の瞳、そして尖った耳を持つ森人で、どことなくエルヴィと雰囲気が似ている。
店の中には大小たくさんの人形が飾られており、そのどれもが精巧で美しい。
パッと見ただけでも、彼が人形作りのプロであることがわかる。
森人の男性はかけていた丸メガネを動かし、
「エルヴィ、もしかしてそのお方が……」
「そう、私の命の恩人」
「そうでしたか、あなた様が姪の命を。本当にありがとうございました、なんてお礼を言ったらいいのか」
森人の男性はぺこりと頭を下げ、俺を迎え入れてくれる。
やはりとても温厚で紳士的な人のようだ。
「姪……ということは、あなたはエルヴィの叔父さんなんですか?」
「ええ、私はヤーコブ・ハネミエス。この町で〔人形職〕をしております。どうぞ、奥へお上がりください。長旅でお疲れでしょうし、まずは食事でも如何ですか?」
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