第六話 新たな旅立ち
「……なんとか、無事洞穴から出られたな」
――エルヴィを助けた後、彼女に案内された俺は洞穴からの脱出に成功する。
どうやら周囲にゴブリンの姿はなく、巣穴で駆逐したのが群れの全てだったようだ。
しばらくぶりに浴びる日の光。
なんだか感慨深くすらなるな。
地底湖に落とされた時はどうなるものかと思ったが……。
さて、生還したはいいが……これからどうしよう?
『白金の刃』がいる街に戻るのは気まずい、というかもうアイツらの顔など見たくもない。
それにせっかくソロでやっていける能力を獲得したんだし、新天地を目指してみるのも悪くないかもな。
「エルヴィ、キミはこれからどうする?」
「わ、私は、ラバノの町へ向かう、です。そこに知り合いがいるので……」
ラバノか、ここからだいぶ離れるな。
少なくとも三~四日は歩く距離になるなるはずだ。
そうなると道中エルヴィの身が心配でもあるし……。
「どうだろう、俺もそこまで一緒に行ってもいいかな?」
「! も、勿論、です! それにシュリオ様は命の恩人、ぜひお礼をさせてください、です」
「お礼なんて、そんな気にしないでくれよ」
「いいえ、我々森人は受けた恩を忘れません。ご恩は、必ずお返しします、です」
――森人は、本来狭いコミュニティの中で生きる少数民族。
だからこそ助け合いの精神が強く、義理堅いのかもしれない。
であるならば、気持ちを無下にするのはよくない……よな。
「……わかった。気持ちはありがたく頂くよ。それじゃしばらくの間よろしく、エルヴィ」
「はい! よろしくお願いします、です!」
こうして、俺とエルヴィは共にラバノの町を目指す。
俺の新たな旅立ちは、ここから始まったのだった。
◈ ◈ ◈
――『白金の刃』がシュリオを追放し、数日が経過した頃。
「ちょっとゲイツ、いい加減どんな奴が新しく入るのか教えなさいよ」
酒場の席に座り、プカプカと煙管を吹かしながら〔回復職〕のチェルースがゲイツに向けて言う。
シュリオを追放してから、ゲイツはすぐに新メンバー探しを始めていた。
と言ってもとっくに目星はつけていたらしく、彼らがSランクパーティということもあってすぐに加入者が決まる。
ゲイツはぐっと麦酒を煽り、
「なぁに、もうすぐわかる。楽しみにしとけ」
「今度はどんなスキルを持った奴なんだ? またシュリオみたいに利用したら使い捨てるのか?」
〔狙撃職〕のエーヴィンが明け透けに尋ねる。
それに対し、ゲイツはゲイツはチッチッチと自慢気に指を振った。
「いんや、次のはそういう類じゃねえよ。なんなら、お前らより役に立つかもしれねぇ凄腕さ。ククク……」
「あぁ? なんだとゲイツ、あんまり舐めたこと言うなよ?」
〔防衛職〕のボルドがカチンときた様子で椅子から立ち上がる。
そんな彼を見てもゲイツは動じず、上機嫌なまま。
「まーまー、会ってみりゃわかる。黙って待っとけ」
「…………おい、『白金の刃』というSランクパーティはお前らで相違ないか?」
まさにその時、一人の小柄な人物がゲイツたちの席を訪れる。
黒色のローブと極端に大きな魔女帽子を身に着け、魔石の付いた杖を持った女性冒険者。
一見して〔魔術職〕とわかるその風貌は、どことなく凄みが溢れている。
「よう、待ちくたびれたぜ! なにか飲むか?」
「いや、いい。酒は好かん」
ぶっきらぼうにその〔魔術職〕は答えると、椅子に腰掛ける。
さらりとした長い銀髪と特徴的な紫色の瞳。それとありていに言って美人な顔つきをした彼女は、服装とも相まってミステリアスな雰囲気を醸し出している。
だが表情は固いというか、なんだか眠そうで退屈そうな感じのため印象はよくない。
〔魔術職〕は『白金の刃』のメンバーを流し見ると、
「……彼の姿が見えないようだが?」
「あぁ、待て待て。それについては後で俺から話す。ちょいとワケありになっちまったんだ。とりあえず、皆に紹介だけさせてくれ」
「……」
〔魔術職〕は不服そうにするが、とりあえず黙ることにした。
ゲイツは仕切り直すように咳き込むと、
「待たせたな、んじゃ改めてテメーらに紹介するぜ! 彼女はヘルミナ・ラハヤ。人呼んで〝大賢者ヘルミナ〟! 名前くらいは聞いたことあるだろ?」
「「「!」」」
大賢者ヘルミナ――その通り名を聞いた瞬間、『白金の刃』のメンバーは全員驚きを露わにした。
「だ、大賢者ヘルミナって……魔術史上最年少で賢者の称号を獲得し、単騎で暗黒龍まで討伐したっていう、あの……!?」
「そうだ! 打ち立てた数々の伝説から、最高難度ダンジョンへの自由な出入りを許可されている世界有数の〔魔術職〕。そんなスゲー人が仲間になってくれるんだ。お前ら不満なんてないだろ?」
「も、勿論だ! 俺は〔防衛職〕のボルド! よろしく頼む!」
「……」
ボルドが差し出してきた手を、完璧に無視するヘルミナ。
その気怠そうな瞳には、彼のことなど映っていないようだった。
「……彼がいないなら帰るぞ。必要になったらまた呼べ」
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