第十三話 巨像には〇〇をぶつけんだよ
――エルヴィの身体が金色に光り出す。
〝経験値〟の付与でレベルが一気に上がった証拠だ。
「よし――エルヴィ、〝経験値〟を戻すぞ! いいな!?」
「は、はい、です!」
「エルヴィとパーティを解散! スキル【カムバック】発動!」
『返答。パーティからの脱退を確認しました。仲間に付与していた〝経験値〟がスキル使用者に返還。【カムバック】により〔人形職〕のスキルが一部解除されます』
天の声の返答と共にエルヴィから〝経験値〟が返還され、今度は俺の身体が金色に光る。
これで〔人形職〕スキル共有はOKだ。
「新たに解除したスキルを無意識下にフィードバック!」
『返答。取得したスキルを全て使えるよう、無意識下にフィードバックします』
頭の中に流れ込んでくるスキルの情報。
そして、その中に――
「――あった! これが巨像を操るスキ……ル……?」
確かに存在した。
巨像を操作する〔人形職〕スキルが。
しかしそれは――俺が想像していたものとは、少しばかり違うものだった。
「や、やりましたね、です! これであの巨像を操って、町から離せば……!」
「あ~……いや、どうやらこのスキルじゃ、あの巨像を操ることはできないみたいだ」
「え……? そ、そんな! それじゃどうすれば……!」
「大丈夫、問題はない。むしろ――好都合かもな」
俺は新たに会得した〔人形職〕スキルを発動するため、右手をかざして魔法陣を展開する。
「エルヴィ、俺の傍から離れるなよ……」
左手でグッと彼女を引き寄せた俺は――
「〔人形職〕スキル――【巨像召喚】ッ!!!」
そのスキルを叫んだ。
刹那――ゴゴゴゴと地面が揺れ始め、それはどんどん大きくなっていく。
揺れが頂点に達し、もう立っていられない――そう感じた瞬間、足元から巨大な岩の塊が隆起する。
姿を現した岩の塊は途方もなくデカく、二つの腕が生え、二つの足があり、全高は――おそらく30メートルはあるだろう。
目の前の巨像よりもさらに一回りもデカいそいつの正体は――〝巨像〟。
そう、俺は〔人形職〕スキルによって巨像を召喚したのだ。
エルヴィが語った一族の言い伝えとは巨像を操るだけではなく、巨像を召喚する技のことだったのである。
「わ……あ……です……!」
「ハハ……こりゃ、壮観だな……」
召喚した巨像の頭上に立ち、地上30メートルからの景色を堪能する俺たち。
さっき張り付いていた巨像を見下ろすほどの光景は、思わず圧倒されてしまうほど。
俺は指から伸びる魔術糸を操作し、
「それじゃ…………一撃で決める」
召喚した巨像の巨腕を振り被らせる。
超巨大な岩の腕は、信じられないほどの怪力でパンチを繰り出し――相手の巨像の胴体に直撃。
その一撃は全高20メートルもある奴の巨体を吹っ飛ばして――凄まじい轟音と衝撃を発生させながら、一発でノックダウンさせた。
◈ ◈ ◈
「やれやれ、一時はどうなることかと思ったが……なんとか巨像の侵攻を抑えられたな」
地面に大の字になって横たわる20メートルの巨像を前に、俺は安堵の息を吐く。
一撃でノックダウンされた巨像は以後動き出す気配はなく、とりあえずは一段落というところだろう。
「流石はシュリオ様、あんな大きな巨像を召喚しちゃうなんてすごい、です!」
「いや、元々はエルヴィのスキルなんだけどね……? それにしてもコイツ、これからどうしたもんかな……」
町の前でこんなデカブツに寝ていられると、それはそれで邪魔。
それにまたいつ動き出すかもしれないとなると、町の人々は怯えてしまうだろう。
俺が処理の方法を悩んでいると、
『――ドウシテ……』
「え?」
『ドウシテ……ジャマ……スル……?』
「! コイツ、喋っ……!?」
「? どうしたの、です? シュリオ様?」
「エルヴィ、キミはコイツの声が聞こえないのか?」
「い、いえ、なにも……」
巨像は声を発する。
しかしどうにもエルヴィには聞こえていないようで、俺だけが聞こえるようだ。
どうやらこれも高レベル〔人形職〕スキルの恩恵らしい。
『ジャマ、スルナ……。オレ……山ニ、イキタイダケ……トオイ、トオイ……山ニ……』
「聞いてくれ巨像! お前が横切ろうとした場所には町があって、そこには大勢の人が住んでる! 俺もお前と同じで、町を守りたいだけなんだ! もしお前が町を避けて行ってくれるなら、俺たちはもう邪魔しない!」
『……ワカッタ……マッスグ、ススマナイ……マチ、ヨケテイク……』
俺の説得を聞いてくれた巨像はむくりと起き上がり、ラバノの町を大きく迂回するように歩き出す。
そして結果的にラバノの町は無傷となり、巨像は森の向こうへと消えていった。
「ふぅ……話のわかってくれる奴でよかった」
「それじゃ、帰りましょう、です。これでヤーコブ叔父さんも、喜んでくれますよ、です!」
俺とエルヴィは、二人一緒にラバノの町へと戻る。
この後、俺は巨像の一件をドロテアさんに報告。
町の危機は去ったと伝える。
後日――「たった一人の冒険者が巨像を撃退!」という話が冒険者ギルド全体で流布されるようになり、噂が巡り巡って俺は〝巨像殺し〟なんて異名で呼ばれていくことになるのだが、それはまた別のお話。
いや、俺は巨像を別に殺してないけどな?
◈ ◈ ◈
――シュリオが巨像を撃退し終えた、丁度同じ頃。
「ヘヘヘ……『白金の刃』、一世一代の大勝負だ。テメーら気合入れていけよ!」
Sランクパーティ『白金の刃』を率いるゲイツは、超高難易度クエストへ挑もうとしていた。
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