第十二話 想像を超えていた
「は……あ……?」
一瞬――俺の頭は、その数値を理解できなかった。
……レベル、5486だって?
なんだよ、それ。俺のレベルの十倍以上じゃねーか。
そんな化物いていいのか?
いくら【経験値奪取】で〝経験値〟を奪えるったって、それじゃ時間がいくらあっても――!
額から冷や汗が流れる。
あまりにも、あまりにも巨像のレベルは想像を超えていた。
どうすればいい――と考えながら、不意に視線を巨像の進行方向へと向ける。
すると、気付けばラバノの町がもう目前に迫っていた。
巨像は動きこそ緩慢に見えるが、その歩幅は尋常ではなく広い。
この移動速度だと、あっという間に町に踏み込むだろう。
もう時間がない――なにか手は、手はないのか――!?
「クソッタレ、〔前衛職〕スキル――【装甲砕き】ッ!!!」
こうなりゃもう手数で勝負!
俺は同じ個所に何度も【装甲砕き】を打ち込み、岩を掘り進んでいく。
だが、それでも一向に有効打になっている気配はない。
『――――』
流石に連続の【装甲砕き】はかゆかったのか、巨像は身体を大きく揺さぶり始める。
それによって――俺は巨像の身体から投げ飛ばされてしまった。
「うわッ――!」
宙に放り出される俺。
【空踏み】で姿勢を保ち、なんとか地面に着地する。
「シュリオ様! 大丈夫ですか、です!」
「ああ、大丈夫だ……。でもヤバいぞ、巨像のレベルが高すぎてダメージが通らない……! 一体どうしたら……っ!」
駆け寄ってきてくれたエルヴィに対し、思わず弱音が漏れる俺。
そんな俺を見た彼女は――
「…………っ!」
巨像の方へ振り向き、奴に向かって指から魔術糸を飛ばす。
それは、さっき魔術人形を操った時に出したのと同じものらしい。
「エルヴィ、なにを……?」
「私たち一族の言い伝えに、太古の〔人形職〕は巨像を操った、という伝承がある、です。もしかしたら、私にも操れるかも……!」
エルヴィはそう言って、必死に魔術糸を投げ付ける。
だが彼女の魔術糸は巨像に当たった瞬間に消えてしまう。
……〔人形職〕が、巨像を操った?
そんなことが可能なのか?
――いや、あり得ないとは言い切れない。
それに彼女の一族は森人だ。
レベルによっては特殊なスキルを獲得する可能性も――
………レベル?
レベルが上がれば、巨像を操れるかもしれない?
だったら俺の【経験値奪取】で〝経験値〟を分ければ――!
――そう考えた瞬間、再び『白金の刃』が脳裏にフラッシュバックする。
裏切られた、あの時の光景が。
俺が〝経験値〟を分け与える条件として、対象者とパーティを組まなければならない。
さらに巨像を操れるほどのスキルともなれば、おそらく途方もないレベルが必要になるはずだ。
俺の持つ〝経験値〟を全て譲渡して解除できるかどうか、って賭けになるだろう。
つまりエルヴィに〝経験値〟を分けた瞬間、俺は完全な無防備になる。
もし――もしその瞬間に彼女が欲望に呑まれ、俺を襲おうものなら――
いや――違う――。
エルヴィは、アイツらなんかとは違う――!
信じるんだ――この子を――ッ!
「――エルヴィ!」
「は、はい!? どうしました、です!?」
「いいか、俺の言うことをよく聞いてくれ!」
もう迷ってる暇はない。
俺は彼女の両肩をがしっと掴む。
「今から【経験値奪取】を使って、キミに俺の〝経験値〟を全て注ぎ込む。そうすれば巨像を操る〔人形職〕スキルを解除できるかもしれない。あくまで、可能性の話だが」
「私に……シュリオ様の……?」
「そうだ。だから――俺とパーティを組んでほしい」
俺がエルヴィの瞳を見つめて言うと、彼女はとても驚いた様子だった。
しかし――すぐに彼女も真剣な表情になる。
「……わかりました。でも、ひとつだけ確認をしたい、です」
「? なんだ?」
「私が頂く〝経験値〟は、ちゃんとシュリオ様にお戻しできる、ですか?」
「あ……ああ、できる」
「それなら、私がスキルを解除できたら、すぐに私から〝経験値〟を取り戻してください、です。確かそうすれば、シュリオ様は私のスキルを使える、ですよね?」
「! で、でもそれじゃ、キミ自身はスキルを……!」
「いい、です。私はシュリオ様の物……私の力を使ってもらえるなら、私は幸せ、です」
「エルヴィ……!」
キミは――キミはそこまで、俺を信じてくれるのか――
俺は一瞬でも彼女を疑ってしまった己を恥じ、同時に彼女の覚悟をしっかりと受け止める。
「……わかった。それじゃあ――聞こえるか、天の声! シュリオ・グレンはエルヴィ・ハネミエスとパーティを結成! 彼女に、俺の持つ全ての〝経験値〟を注ぎ込め!」
『返答。了解しました。パーティメンバー、エルヴィ・ハネミエスに――全ての〝経験値〟を付与します』
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