第十話 規格外
「――ドロテアさん、まだいますか!?」
俺は冒険者ギルドの扉を勢いよく開き、中へと入る。
幸い、閑散とした建物の中にはまだ彼女の姿があった。
「うわひゃあ!? シュ、シュリオさん!? どうしたんですか……!?」
「ああよかった、まだいた。すみませんが巨像討伐依頼に関する情報、全部見せてもらえますか?」
「コ、巨像の……?」
なんで?とでも言いたげに目をパチパチとするドロテアさん。
そんな彼女に向かって、俺はすぅっと息を吸い――
「俺が巨像を倒してきます。そのために、できるだけ色々なことを知っておきたい」
「っ!? 巨像を倒すって……! そんなの無理です! Sランクパーティも含めて何百人もの冒険者が挑んだんですよ!? それをたった一人でなんて――っ!」
「やってみなきゃわかりませんよ。――ドロテアさんは鑑定士の資格を持ってますか?」
「え? ええ、まあ一応は……」
「俺のステータス表を描いてみてください。そうすれば、俺がこんな馬鹿げたことを言う根拠がわかるはずだ」
なんとも腑に落ちない表情をしつつも、彼女は俺を鑑定席まで案内する。
そこはテーブルの上に大きな水晶と一枚の羊皮紙が置かれ、冒険者と鑑定士が対面して座れるように出来ていた。
「それでは……これより、シュリオ・グレン様のステータスを具現化致します」
ドロテアさんが水晶に両手をかざすと――その中に俺の姿が映り込む。
同時に水晶が発光を始め、それと連携するように羊皮紙に文字が描写され始めた。
描写はすぐに終わり、完璧なステータス表となった羊皮紙を一目見たドロテアさんは――驚愕で目を見開く。
「なっ……職業〔支援職〕で、レベル313……!? そ、それだけじゃない、使えるスキルの数がこんなに……他職業のスキルまで……! こ、これってなにかの間違いじゃ……!」
「いえ、それが俺のレベルで間違いありません。納得してもらえました?」
「あ、あり得ません! だってどんなに実力のあるSランク冒険者でも、レベル99を超えることは滅多にないのに……! ましてや〔支援職〕でなんて……!」
「まあ、そう思いますよねぇ……普通は……」
俺も最初はめっちゃビビったもん。
でも事実は事実なんだよな。
「俺には【経験値奪取】っていう特殊なスキルがあるんです。それで〝経験値〟をブーストして強くなることができた。――で、どうでしょう? ドロテアさんから見て……このレベルなら巨像と戦えそうですか?」
「…………」
しばし唖然とした表情をするドロテアさんだったが――数秒後、意を決したような目つきに変わる。
「……正直に言うと、わかりません。巨像もシュリオさんも規格外の存在すぎて、私のような凡人では予想すらできません」
「……」
「ですが……間違いなく、シュリオ様はこの町に残された最後の希望です。本当に、本当にラバノのために戦ってくださると言うのなら――巨像に関する情報を、包み隠さず全てご提供致します」
「! ありがとうございます! ぜひお願いします!」
随分と悩んだ様子だったが、ドロテアさんは協力を約束してくれた。
そして彼女は、巨像に関するあらゆる資料を引っ張り出してきてくれる。
俺はそれら資料にひと通り目を通し――まずわかったことが、一つ。
巨像……マジもんの化物だわ。
先の討伐隊の記録によれば、巨像にはあらゆる物理攻撃・魔術・状態異常などが通用せず、どれほど協力な攻撃手段を以てしても、岩で出来た身体の表面をちょっと削るくらいのダメージしか与えられなかったとのこと。
足を止めるためのトラップも全て無意味に終わり、なによりその巨体を動かせるほどの馬鹿力で障害物の類はあっという間に破壊されてしまったそうな。
資料を見れば見るほど「こいつ、どうやって戦えばいいん?」って気持ちになってくる。
最初に戦った討伐隊の苦労がよくわかるな……。
まったくもって絶望的な気持ちになってくるが――同時に、あることも確信する。
巨像には――――【経験値奪取】が有効であると。
攻撃が通らないということは、恐らく巨像は途方もなくレベルが高いはず。
ならば【経験値奪取】で〝経験値〟を奪って弱体化させ、攻撃が有効になる状態まで持っていく。
その後は〔前衛職〕のスキルで仕留めるなり〔狙撃職〕のスキルで仕留めるなり、出たとこ勝負ってことで。
「よし……ありがとうございました、ドロテアさん。俺、行ってきます」
使えるであろうアイテムやら小型武器やらを調達した俺は、冒険者ギルドの前でドロテアさんに見送られる。
彼女は最後まで不安そうな表情で、
「はい……どうかご無事で」
「そんな心配しないでください。こう見えて丈夫なのが取り柄ですから」
「ちゃんと帰ってきてくださいね。シュリオ様は……私のヒーローなんですから……」
可愛らしい顔を赤らめるドロテアさん。
な、なんかそんな言われ方をすると照れるな……。
あとなんか縁起でもないような気が……いややっぱ考えるのをやめよう。
雑念退散、雑念退散……。
「さて、そんじゃ行くか」
「はい、行きましょう、です」
「……ん?」
――横を見る。
すると、そこには何故かエルヴィの姿が。
しかもいつの間にかちゃっかり冒険者っぽい服装に着替えている。
「……エルヴィ? なんでここにいるの?」
「それは勿論、シュリオ様と一緒に巨像と戦うため、です!」
「えっと、シュリオ様、その森人さんは……」
「ああ、この子はエルヴィと言って、俺がこの前ダンジョンで助けた子なんですよ」
「シュリオ様は、私の命の恩人。私はシュリオ様の物、です!」
だきっと俺に抱き着いてくるエルヴィ。
おい待て、いつからキミは俺の物になったんだ……?
そんな彼女の行動を見て、ドロテアさんの眉がひくっと動いた。
「そ、そうなんだぁ~……シュリオ様ってば、モテモテなんですねぇ~……ウフフフ」
「い、いや、そういうワケじゃ、アハハ……行ってきます!」
何故か背筋に寒気を覚えた俺は、ダッシュでその場から去る。
そんな俺に引っ付いたままのエルヴィ。
巨像の下へ向かう途中何度も彼女を帰らせようとしたが、絶対にお役に立つと言ってエルヴィは俺から離れなかった。
ここまで来ると義理堅さも執念になるな……。
危険な戦いになるはずだが、とはいえ彼女も〔人形職〕ではある。
無茶な真似はしないという約束の下、俺たちは二人で巨像討伐へ挑むことにした。
で、俺たちは討伐対象である巨像の近くまでやって来た……のだが……。
――――ズシーン――――ズシーン――――
いざその姿を目の当たりにした俺の第一声は、これだった。
「…………デカ過ぎんだろ……」
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