第一話 これまで皆のために……
「シュリオ、お前今日でパーティから追放だ」
俺が所属するSランク冒険者パーティ『白金の刃』。
そのリーダーであるゲイツ・ブッチは、唐突に言い放った。
「……は? な、なんだって?」
俺ことシュリオ・グレンは、自分の耳を疑う。
今、俺たち『白金の刃』はダンジョン攻略の真っ最中だ。
ここは危険度が高いことで有名な地下洞窟ダンジョンで、しかも現在地はその最奥にある地底湖へ繋がる崖の目の前。
いきなり「話がある」と言うから、なんだと思えば……。
「俺が追放って、どういうことだよ!?」
「だからさぁ、もうお前はパーティの邪魔なんだよ! この役立たずが!」
ゲイツの怒声が洞窟内に響き渡る。
あまりに突然すぎる出来事に、俺の頭は真っ白になる。
「役立たずって……俺はこれまで、充分パーティに貢献してきただろ!?」
「へぇ~え、貢献ねえ? なら聞くが、『白金の刃』におけるお前の職業はなんだ?」
「……〔支援職〕、だけど」
「〔前衛職〕であるこのゲイツ様に、〔防衛職〕のボルド、〔狙撃職〕のエーヴィン、〔回復職〕のチェルース……。戦闘で命張ってるのは俺たちだけじゃねーか。舐めてんのかお前?」
「全くだ。シュリオは邪魔でしかない」
「これまで我慢してきたけどさぁ、ウザいのよね正直」
「キミが戦闘で敵を仕留めたのって、どれくらい前だっけ? 僕思い出せないよ」
ボルド、エーヴィン、チェルースの三人もゲイツに賛同する。
どうやら、この場で俺に味方してくれる者は誰もいないらしい。
「た、確かに俺は戦闘力は高くないけど、そもそも〔支援職〕はあくまで仲間の補助が役割だ! その役目は全うしてるし、俺が抜けたら誰が――!」
「斥候、道案内、アイテムの使用・管理、戦闘中のバフ・デバフは誰がやるのかって? ……あのさぁ、俺たちは初心者パーティじゃねえんだよ。そんなのもう必要ねぇんだっつーの!」
「うっ……」
俺は返答に詰まる。
パーティにおける〔支援職〕の役割とは、簡単に言うと〝他職業が自らの役割に集中できるようにすること〟だ。
〔前衛職〕の攻撃がより有効になるよう敵に弱体化をかけ――
〔防衛職〕がより敵の攻撃を弾けるように防御力強化を使い――
〔狙撃職〕が敵を仕留める隙を作るためにヘイト集めの陽動を行い――
〔回復職〕が仲間のダメージ治癒に注力するため毒・麻痺など状態異常を治す回復アイテムを使用する――
相互の連携をより円滑にするため、戦場の引き立て役に徹するのが〔支援職〕の仕事と言っていい。
これは地味だが重要な役割なのだ。
だがしかし――パーティ全体の能力が上がってくればくるほど〔支援職〕の重要性が下がってくるのは、事実でもある。
「俺の剣はもうどんな敵にもダメージが通るし、ボルドの盾はこの間ドラゴンのファイヤーブレスを防いで、エーヴィンは【隠匿】のスキルを獲得、チェルースは全体回復と全体状態異常回復の魔術を覚えた。……お前がいる意味なんて、もうねぇんだよ!」
「っ……、それは確かに皆強くなったけど……そもそも『白金の刃』がこんなに強くなれたのは、俺のスキルがあったからじゃないか!」
「……そりゃ、【経験値奪取】のことか?」
「そうだ! 敵から奪った〝経験値〟をお前たち全員に振り分けて、少しずつ強化してきた! 仮に〔支援職〕が要らなくたって、このスキルがあればまだ皆の役に立てるだろ!?」
――俺には、特殊なスキルがある。
【経験値奪取】――攻撃を当てることで対象から〝経験値〟を奪い、それを自分や仲間に付与することができる。
この世界に生きる生物には、全てレベルがある。
モンスターにも、動物にも、虫にも、当然人間にだって。
そして生物はあらゆる行動に〝経験値〟が発生し、知らず知らずの内にレベルが上がっているのだ。
〝経験値〟を取得すればするほど、その個体は強力な存在となっていく。
例えば〔狙撃職〕が戦いで〝経験値〟を稼げば、いずれ【隠匿】のスキルが解除される――そんな感じで。
俺は、そんな〝経験値〟を奪えるのだ。
それによって敵の弱体化と自分たちの強化を同時に行えるし、戦闘に勝利すれば普通じゃ考えられないくらいの〝経験値〟を一気に取得できる。
勿論敵に攻撃を当てなきゃならないから接近のリスクはあるけど、仲間との連携があれば不可能ではなかった。
このスキルのお陰で、『白金の刃』はたった三年でSランクパーティにまでなれたのだ。
「あぁ……そうだな、確かにお前の【経験値奪取】は有用なスキルだわ」
「ならなんで――!」
「ところでシュリオ、今俺たちのレベルはどれくらいだ?」
ゲイツが聞いてくる。
冒険者のレベルは、通常ギルドの鑑定士にステータス表を描いてもらわないと見ることはできない。
しかし俺はこのスキルがあるからなのか、他者のレベルを視認することができた。
「えっと……ゲイツがレベル98、ボルドがレベル93、エーヴィンがレベル89、チェルースがレベル87……だけど」
「で、お前のレベルは?」
「レ、レベル56……。でもそれは、戦闘職業を優先して強くしていこうってゲイツが言ったから――!」
「ああそうだな。お前のスキルは十分、利用価値があったよ」
「は……?」
ゲイツがニィっと、下卑た笑みを浮かべる。
「お前のお陰で、俺たちは負け知らずになった。で、そこまで強くなれたなら……尚更、もうお前必要ないと思わねぇか?」
「ま、まさか……これまで、ずっと俺を騙してきたのか……? 俺のスキルを利用するためだけに……!?」
「ク……ククク……本当に、今まで気付いてなかったのかよ。そんなだからお前は無能なんだ、バーカ!」
そん、な……。
俺はこれまで、皆のために……!
ゲイツは俺の胸倉を掴むと、崖の淵まで押し出してくる。
「ついでに言うとよ、俺たち『白金の刃』はもうSランクパーティで、世間体ってものがあんだわ。それなのに〝あそこは【経験値奪取】のお陰で強くなれた〟なんて言われちゃ堪んねぇんだよ」
「そんな、つまらないプライドのために……!」
俺は手足をバタバタと動かし、必死で抵抗する。
だがゲイツの腕力にはとても叶わず、成すがままになるしかなかった。
「ゲイツ! 俺は、皆のことを本当の仲間だと――!」
「そう思ってたのはお前だけなんだよ!」
そう叫んで、ゲイツは俺のことを崖から突き飛ばす。
「う――うわああああああああッ!」
「お前のことは、ギルドには内緒にしててやる! だから安心してくたばれよ、ギャハハハ!」
ゲイツの高笑いが木霊する。
崖から落とされ、段々とゲイツの顔が見えなくなっていき――水の中に落ちたと思った瞬間、俺の意識は途絶えたのだった。
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