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順応性バツグン! 元宇宙人のほのぼの探偵物語  作者: ミケユーリ
頂上決戦
53/55

元宇宙人探偵の感謝

 アヤの運転手付き高級車に乗り込み、やっとホッと息をつく。

 この大学の端っこの研究棟の脇にも通用門があるのを見付け、こちらにはマスコミがいないから車を回してもらった。


「私、お父様ともう一度きちんと話をしてみます。今度は、逃げだしたりせずに」

「ほお。許せるのか。サプライズの婚約発表を」

「それは、話し合いの内容次第でしょうか。きちんと対応してくれるなら、もしかしたら……でも、私はもう父の意向に添う気はありません」


 笑みをたたえながらも、その目は強く前を見据えている。いつものお嬢様らしく余裕たっぷりのフワフワした笑顔とはまた違って見える。


「私は自分の意志で、私が一生おそばにいたいと思える方を選びたいと思います」

「それがいいだろう。アヤももうハタチ。大人なのだから」


 偉そうに言っているが、俺だってこの地で暮らしてアヤと同じく20年。戸籍上は16歳も上でも実質同級生である。


「また明日参ります。ごきげんよう、淀臣さん」

「ああ。待っている」


 車から降り、天外法律事務所兼自宅に入る。

 見慣れた赤いハイヒールと革靴が玄関にある。


「嘉純さん!」

 部屋の中へと入って行くと、嘉純さんがひょこっと顔を出した。


「また空き巣に入ったんですね」

「岩城がまた腕を上げたわ。今回は2秒で開いたもの」


 嘉純さんのSPがその屈強な体でお辞儀をしながら笑ったように見えた。サングラスと黒いマスクで表情などほとんど見えないのだが。


「……悪かったわね、淀臣」

「謝らないでください、嘉純さん。嘉純さんのおかげで、俺は探偵を続けられます」


 そうですよ、嘉純さん! 嘉純さんは白鷺達央に情報を流しはしたものの、俺のことは守ってくれた! 感謝しかありません! 今日もお美しいです、嘉純さん!


 嘉純さんがその美しい顔で悲しげに微笑む。


「この部屋はじきに解約されるわ。私はもう、あなたの飼い主ではいられない」

「……嘉純さん……」

「楽しかったわ、淀臣。あなたは立派にペットの役割を果たしてくれた。ありがとう」

「こちらこそ……長い間、本当にありがとうございました!」


 精一杯の感謝と誠意を込めて、頭を下げる。俺の髪を、ひざ枕をしながらそうしたように嘉純さんがなでた。


 顔を上げたら、嘉純さんは寂しさを消し吹っ切ったように笑った。

「もう会うこともないでしょうけど、これからもがんばってね、探偵さん」

「はい! 何かあれば、いつでも天外探偵事務所へどうぞ! ご依頼をお待ちしております!」

「ふふっ。その時は、よろしくね」

「はい!」


 SPに先導され、嘉純さんが部屋を出て行く。

 廊下を歩いて行き、エレベーターが来ると、笑って手を振って、嘉純さんの姿は見えなくなった。


 俺は笑顔で振っていた手を止め、表情を引き締め、改めて、深々と礼をする。


 ……俺よ、その頬をつたう雫は何だ。その言葉にならない感情は何だ。嘉純さんをただの金づるだと思っていたんじゃなかったのか。

 大切なものを失い、心にポッカリと穴の開いたような……そうだ、これは資料にあった喪失感。だが、それだけじゃない。資料にもなかったアウストラレレント星人には知り得ない、この地の人間にしか分からない気持ち。


 これではまるで、情緒面は完全に地球人じゃないか。


 ――俺もこの地に暮らして20年。アヤと同じハタチだ。

 もう俺は嘉純さんのペットではない。俺も大人だ。

 自分で決めて、ひとりで生きていかねば。

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