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順応性バツグン! 元宇宙人のほのぼの探偵物語  作者: ミケユーリ
頂上決戦
46/55

父と娘のコイン勝負

 俺が静かに怒りを燃やしていると、ピーンポーンと来客を知らせる音が響く。

 泣きじゃくっているアヤは出られそうにないので、仕方なく自分でインターホンモニターを確認する。


 ――シマダリョウキチか。ちょうどいい。


 いや、良くないだろ。今まさにアヤがここで泣いているんだが。確実に親子喧嘩に巻き込まれるじゃないか。めんどくさい。


「お久しぶりですな、探偵さん」

「お久しぶりです。どうぞお上がりください」


 嶌田良吉が今日も渋い茶色の和服で上機嫌に入って来る。このタイミングでやって来たということは……。

「いやあ、大した用でもないのだが。今日は依頼を取り下げに……綾! どうして、綾がここに?!」

「お父様?!」


 ――依頼を取り下げに、だと?!

 このおっさん、俺を利用したあげく依頼を取り下げて報酬を支払わないつもりだったのか!

 絶対に思い通りにはさせない!


「依頼人だ。アヤ、お茶を頼む」

「依頼人?」

「いや、あの、何でもないんだ、綾」

「お座りください」


 半ば強引に嶌田良吉を応接セットに座らせる。アヤがお茶の用意をしにキッチンへ行くと、

「探偵さん! 綾には依頼のことは言わないでくださいよ! 守秘義務があるでしょう、探偵ならば!」

「守秘義務……探偵たるもの、もちろん守秘義務は守りますよ。仕方ありませんね」


 アヤが無言でお茶を運んでくる。そして、思いっきり父を睨む。

「そんな怖い顔をしないでおくれ、綾。私は綾のためを思って、河本駿介くんとの結婚話を秘密裏に進めていたんだよ」

「なぜ秘密裏に?」

「いや、あの、サプライズの方が綾が喜ぶかと思って」

「喜ぶわけがないでしょう」

「私が反発するのが分かっているから秘密にしていたんでしょう! 私はすでに婚約している身です! 河本様との結婚はお断りしてください!」


 さっきまで泣くばかりだったアヤが強気に反発している。ニヤニヤと上機嫌な父親を目にしたことで、悲しみよりも腹立たしさが上回ったのだろうか。


「考えてもみなさい、綾。河本くんは42歳と綾より少し年は上だが人気俳優で顔はいいし背は高いし家柄も申し分ない。我が嶌田家のひとり娘との結婚相手として彼以上にふさわしい人物などいないよ」


 ハタチのアヤのダブルスコア以上の年の差を少しとは言わない。

 説得に無理がありすぎるな、この父親。


「私はケイ様以外の方と結婚する気などありません」

「そう言わずに」


 延々と繰り返される説得と反発。ほーら、めんどくさいことになった。嶌田良吉を入れずに居留守でも使えば良かったのに。


 ――何度同じ話を繰り返すんだ。眠たくなってくる。


 テレビ台に飾ってあった外国のコインを持って来る。日本の500円玉くらいの大きさだ。

「話し合いでは平行線で埒が明きません。これで勝負をつけましょう」

 ふたりにコインを見せる。


「このコインを投げ、表が出たらこの婚約報道はフェイクニュースだと発表してください。裏が出たらアヤは首相の息子と結婚する」

「えっ……」


 表と裏を示しながらルール説明をする。ふたりとも言葉を失ったようだ。


 嶌田良吉とアヤがコインを凝視する。

「バカげている! こんな大事なことをそんなコインなんかで」

「いいでしょう。裏が出たら、私は潔くケイ様との婚約を破棄して河本様と結婚します」

「え?!」

 きっぱりと言い切った娘の顔を驚いて父が見る。


「どうですか? 確率は二分の一。アヤは了承しましたよ」

「二分の一……いいだろう。その代わり、私が投げて私がキャッチする。小手先のペテンでも使われてはたまらない」

「そんなことしませんよ。では、どうぞ」


 コインを嶌田良吉に渡す。緊張の面持ちで受け取ったコインを、一度ギュッと握ると指で弾いた。肉付きのいい左手の甲と右手でキャッチする。


 その右手を、ゆっくりと返す。

「表……」

 嶌田良吉がガックリとうなだれた。


「約束は守ってくださいよ」

「ま、待ってくれ!」

「この期に及んでしつこいですよ」


「綾! 河本くんは本当にお前のことを愛しているんだよ。綾が幼い頃から度々首相官邸を訪れる姿を見て河本くんは恋心を募らせていたと言うんだ。そんな彼の思いをまるで知らずに断るのは彼に悪いと思わないのか」


 作戦を変えてきたか。アヤの恋愛脳に訴える作戦は先ほどからの説得より遥かにアヤには効果的だろう。

「アヤが生まれた時点ですでに22歳なんだから、ロリコンの変態じゃないですか」

 俺は的確な感想を述べるが、アヤは困ったように顔をくもらせる。


「彼がほんの22年ほど先に生まれてしまったことは彼のせいではないだろう? 最後にチャンスを与えてやってくれないか、綾。そうだ、もうすぐ綾の大学で学園祭があるだろう。河本くんと一緒に学園祭を回ったらどうだろうか」


 うーん、と考えたアヤが口を開く。

「分かりました。たしかに、ろくにお話もしたことがないのにお断りするのは失礼かもしれません。学園祭を一緒に過ごしてからお断りします」

「決まりだ! 楽しかったらまた別の行事を一緒に楽しんだらいいじゃないか。では、河本くんに日曜日空けておくように連絡しておくよ。じゃあ、私はこれで!」


「ちゃんとフェイクニュースだと発表する準備をしておいてくださいよ!」

「分かってますよ、探偵さん!」


 そそくさと嶌田良吉が帰って行った。

 床に取り残されたコインを拾う。


「ありがとうございました、淀臣さん」

「マジシャン屋敷からくすねておいたのが役に立った。この絶対に表が出るコイン」

「どうしてそんな物をくすねたんですか?」

「見た目がキレイだから金運が上がりそうだと思って」


 ――これで、依頼は継続された。絶っ対に100万はいただく!

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