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順応性バツグン! 元宇宙人のほのぼの探偵物語  作者: ミケユーリ
頂上決戦
44/55

お嬢様とマダム

 もう電車はこりごりだ。アヤの運転手に連絡して迎えに来てもらう。

 車に乗り込み、アヤとふたりはあ、と息をつく。

「でも、電車も新鮮で楽しかったですね」

 アヤががんばってひきつった笑顔を作るが、でもって入りからして楽しくない要素の方が多大だったと物語っている。


「腹が減った」

「そうですね、かなり疲れましたね。事務所に戻ったらお食事にしましょう」

「疲れているなら何か買って帰ればいい」

 金を出すのはアヤだしな。


「いえ、もやしは日持ちしないので使い切ってしまいたくて」

「もやし?! もやし炒めがいい! もやし炒めが久々に食いたい!」

「久々って、おととい食べましたよ」

「久しぶりだなあ、もやし炒め」


 もやし炒めに思いをはせる俺をアヤが笑って見ている。金持ちの余裕だろうか、よく笑う娘だ。


 家に帰ると、玄関ドアの鍵が開いている。

「あれ? 鍵かけるのを忘れていたようだ」

「不用心ですね、淀臣さん。いくら聖天坂の治安が良くても鍵くらいはかけた方がいいですよ」


 いや、違う。

 玄関に赤いハイヒールと黒い革靴がある。侵入者だ。


 アヤも靴に気付き、緊張が走る。

 強盗だろうか。男女の強盗とは、なんだかドラマチックではある。


 アヤにここにいろ、と手で示し音を立てないようにそおーっと部屋に入って行くと、ひょこっと嘉純(かすみ)さんが顔を出した。

「嘉純さん! びっくりしたー、泥棒かと思いました」

「似たようなものね。この岩城(いわき)は元コソ泥でピッキングが得意なの。このマンションの鍵は古い型だから5秒ほどで開いたわ。鍵を取り換えないとね」


 サングラスに黒マスクでほとんど顔が見えないが、勝ち誇ったような笑顔を口元にたたえ、背が高く屈強な肉体を持つ嘉純さんのSPが90度上体を倒す。


 堂々たるものだが、やってることは泥棒だから。空き巣だから。


 アヤも部屋に入って来た。嘉純さんの姿を見て驚きを隠さない。

白鷺(しらさぎ)の奥様……ごきげんよう、お久しぶりです」

「お久しぶりね、綾さん。ハタチになられたんですってね。早いものね。おめでとう」

「ありがとうございます。バースデーパーティにはご主人様にご列席いただきありがとうございました」

「あ、知り合いだったんですか? 嘉純さん」

「家族も参加するようなパーティではよく顔を合わせるわ。春には首相官邸での梅を愛でる会でお会いしたわね」

「そうですね。あの時以来でしょうか」


 金持ちネットワークは首相にまでつながっているのか。さすがは日本一地価の高い聖天坂でも1・2を争うツートップの男たちの妻と娘だ。


「あ、失礼しました。奥様がおいでとは思わなかったものですから。では、私は失礼いたします」

 慌てた様子でアヤが嘉純さんと俺に次々に頭を下げる。

「あら、いいのよ。私は飼い主として飼育環境を確認に来ただけだから。もう帰るわ」

「飼育環境?」

「じゃあね、淀臣」

「はい、嘉純さん」

「ごきげんよう、綾さん」

「あ……はい。ごきげんよう」

 嘉純さんがSPの岩城さんを伴って部屋を出て行く。


「早くメシを作ってくれ、アヤ」

「え……いいんですか」

「何が」

「あの、奥様をお引き留めした方がいいんじゃないですか、淀臣さん」

「なぜ引き留める」

「帰ると言えば引き留めてもらいたいのが女心です。わざわざいらしたということは、淀臣さんのことを気にされているんでしょうから」

「俺は腹が減っている」

「でも、飼い主って、淀臣さん白鷺の奥様のヒモだったってことですよね? 機嫌を損ねてしまっては困るのでは?」

「俺はアヤに帰られる方がよっぽど困る」

「ええっ……」


 アヤが真っ赤になって両手を頬に当てる。

 もー、また……俺は言葉足らずが過ぎる!


「奥様よりも私を選ぶとおっしゃるんですか、淀臣さん」

「もちろんだ」


 ――嘉純さんは食材は送ってくれるが料理はできない。

 俺は買い物ならまだがんばればできそうな気がするが料理はやる気がない。


「アヤの方が重要だ」

「そんな……私にはすでに婚約者が……」

「俺が今アヤを手放すと思うのか」

「淀臣さん、いつの間にそんなに私のことを……」

「俺にはお前が必要なんだ。分かってくれ、アヤ」


 ――俺は腹が減って腹が減って死にそうなんだ。早くメシを作ってくれ、アヤ。


「ご……ごめんなさい、私やっぱり帰ります」

「帰さない」


 小さなブランドバッグを手に取り帰ろうとするアヤの手首をつかむ。

「メシを作ってくれ、アヤ。おしゃべりはもうおしまいだ。その口をふさぎたくなってくる」


 アヤが絶句し、真っ赤になって俺を見る。


「わ……分かりました、お食事なら作りますから、お食事で口をふさいでください!」

「あい、分かった」


 早くもダイニングテーブルに座ってスタンバイする俺から手首が自由になり、アヤがキッチンへと赤面したまま走っていく。


 あーあ……。

 あの恋愛脳のお嬢様のことだ。「その口をふさぎたくなってくる。俺の唇で」とでも脳内補完されてしまっているのだろう。


 完全に誤解が生まれてるよ。

 まず会話が微妙にかみ合っていないのにどういうわけだが両者とも疑問を持たない。

 恋愛脳と恋愛感情を持たないアウストラレレント星人だからかみ合わないのは仕方がないが、かみ合っていないのになぜか歯車が合ってしまうから世界線が狂う!

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