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順応性バツグン! 元宇宙人のほのぼの探偵物語  作者: ミケユーリ
マジックとトリック
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元宇宙人とマジック

 依頼主が帰るとすぐさまアヤにメシを作ってもらい、腹がいっぱいでごきげんにハムスターのゲージを持って応接セットでくつろぐ。


 ――かわいいな~。おっと、ずっとこのハム二朗を見ていたいところだが、明日依頼主の家を訪問するまでにマジックについて知識を深めておくか。


 洗い物を終えてやって来たアヤに、

「マジックとは何だ」

 と端的な質問を投げる。


「マジックを知らずにレッドマジック団の方と話していたんですか? 道理でマジックをやってほしいってお願いしないはずですね。私お願いしたくてしたくてうずうずしていました」

「ほお。アヤはマジックに詳しいのか」

「詳しいというほどではありませんが、私もひとつだけできますよ。披露させていただいてもよろしいですか?」

「構わん」

 教えを乞う立場でありながら態度がデカい。


 アヤが3枚の硬貨を取り出して、テーブルに並べる。

「私には淀臣さんがこれからどういう選択をするかが分かっているので、すでにこの右手の中に1枚だけ硬貨を握っています。さて淀臣さん、この10円玉、100円玉、500円玉を好きな組み合わせでふたつのグループに分けてください」

「1枚と2枚のグループに分ければいいのか?」

「そうです」


 何も考えず、10円玉と100円玉のグループ、500円玉だけのグループを作る。

「この500円玉はもういりません。では淀臣さん、残っている10円玉と100円玉のうち、好きな方を手に握ってください」

 100円玉を左手の中に握る。

 アヤが笑って自分の右手を開いて中を俺に見せる。


「ほら、私には淀臣さんが100円玉を選ぶことが分かっていました」

「あ! 俺の100円玉!」

「え? 違います、これは私が初めから握っていた100円玉です。淀臣さん、100円玉失くしちゃったんですか?」

「アヤが俺の手の中から100円玉を取ったんだろう!」

「それこそ消失マジックじゃないですか! 私そのマジックのトリックは知りませんよ。私が今やったのは、マジシャンズセレクトというトリックです」

「トリック?」


「マジックのタネです。今のマジックのタネを明かすと、まず私は最初っから100円玉を握っています。そして、淀臣さんにグループ分けしてもらう。ここで淀臣さんが100円玉だけのグループを作ったら、その時点で私はあなたが100円玉を仲間はずれにするのは分かっていました、と手の中の100円玉を見せます」

「俺はどうしたんだっけ」

「10円玉と100円玉のグループを作りました。そこで私は、どちらかを選んでくださいと言いました。淀臣さんが100円玉を選んだので、私は淀臣さんが100円玉を選ぶのは分かっていました、と手の中の100円玉を見せました」

「俺が10円玉を選んでいたら?」

「淀臣さんが100円玉をテーブルに残すことは分かっていました、と言って手の中の100円玉を見せます」

「結局、俺がどうグループを作ろうとどれを選ぼうと」

「私が持っている100円玉にこじつけ、タイミングと言葉を変えて手の中の100円玉を見せることで私は淀臣さんの行動を予言していた、と淀臣さんに思い込ませるワケです」


「インチキじゃないか!」

「インチキではありません! 予言マジックです!」

「あ、100円玉、右手じゃなくて左手に握ってた」

「なんだー、ただの勘違いじゃないですか」

「俺に勘違いさせるのにはどんなトリックが使われたんだ」

「何のトリックも使っていませんよ。淀臣さんが勝手に勘違いしただけです」

「いや、きっと何かしらのトリックが」

「ありません」


 ――すごいな、マジック! おもしろい!

 俺もレッドマジック団のショーを見たいって嘉純さんにお願いしてみよう!

 いや、見るだけでは飽き足りない! 俺もマジックをやってみたい! 他にはどんなトリックがあるんだろう?


 今度はマジックについて調べ出したな。

 ずーっと20年もの間名探偵アニメにしか興味を示さなかったのに、最近の俺はいろんなものに興味津々だな。これも順応化のひとつなのだろうか。この地の人間は我がアウストラレレント星人よりも多種多様な事象に興味を持つ。


「では、淀臣さん。私はそろそろ失礼しますね」

 アヤが微笑んでハムスターのゲージを手にする。

「あ! ハム二朗!」

「ごめんなさい、預かった以上は責任を持ちたいので……また明日、ハム二朗も連れてきますから。ハム二朗も一緒にレッドマジック団の自宅に行きましょうか?」

「うーん……そうしたいところだが、あのデカい犬に食われないか心配だ」

「すごくよだれを流していましたものね……」

「ハム二朗の安全第一だ。いたしかたない、ハム二朗はここに置いて行こう」

「分かりました、ここには連れて来ますね」

「そうしてくれ」


 ――ああ、ばいばい、ハム二朗……。


 悲し気にハムスターの残像をむさぼるんじゃない、俺よ。

 再びハムスターについて調べ始めた俺は、明日マジシャンたちの巣窟に乗り込むというのにマジックのことはもうすっかり頭からなくなっている。宇宙的にも頭のいいアウストラレレント星人とは思えぬ小動物ほどの脳みそっぷりだ。

 大丈夫なのか。様々なトリックを操る日本一のマジック団相手にそんな丸腰で。俺の声が届くならば、強制的にもっと予習させるのに!

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