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順応性バツグン! 元宇宙人のほのぼの探偵物語  作者: ミケユーリ
宇宙人、探偵になる
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宇宙人に起きた悲劇

「よし! OK、着陸成功だ」

「おー! お疲れ! さすがに365万年は長かった! 自動探査機から送られてくる資料も飽きるほど読み込んで頭に入ってるし、やることなくなって退屈で仕方なかったよ」


「10億光年離れてるとやっぱり遠いな。俺たちがアウストラレレント星を出た時とは探査地の様子がまるで変ったもんな。あの頃はヒト型の生き物も3種は確認できていたのに、今は1種しか現生していないようだ」

「でも、その分頭いいんだろうな。たった20万年ほどで近所の星くらいなら探索できるようになっている」

「この星はまだ人類誕生からでも40億年しか経ってねえんだろ? がんばり屋さんだな」


 ――どうやったらそんながんばれるのか、探りたいところだな。


 んなこた、どーでもいいんだよ。張り切れよ、俺! あの天敵にギャフンと言わせてやれ!


 ――おー、それニホンだろ。ニホン的な言い回しも完全マスターだな、俺。


「なあ! 早く外出よーぜ!」

「待て! 外に誰もいないのを一応確認してから……」

「大丈夫だろー。現地生物が俺たちの姿を目撃しても何だこれってなモンだよ」

「ふん、あいつ以外ならばな。あの劣等生は何だこれってならねえよ」


 周りの目が俺に向く。

 またか……


「あんな順応性の高さだけで選ばれたような劣等生とこの星の探査なんて、本当に勘弁してもらいたい。足引っ張られるばかりで役に立つとは思えねえ」

「そう言うな。順応性の高さはこれほどに遠くの星の探査となれば何よりも大事なことだ。万が一、この宇宙船や我々に何かあった場合、最悪アウストラレレント星に戻れない可能性だってあるんだ。その場合、探査地で生きていかねばならないんだから順応性は極めて大切な能力だ」


「そうそう。お前は頭はいいが順応性は低いもんな。だからってイジワル言うんじゃねーよ」

「それじゃーまるで俺があいつをねたんでるみたいじゃねーか!」

「俺はねたましいよ。探査地の資料を見てるだけでこんな見事に姿かたちが現地生物そっくりになる探査員なんて初めてだ。大変に優れた能力であると言わざるを得ない」


 ――ありがとう、リーダー。俺別にあんなヤツに何を言われても気にはならないけど、やはり気分は悪くなる。


 何甘いこと言ってやがる! やれ! あいつ蹴れ!


 ――蹴らねえよ。こんな着いたばかりで仲間割れしてどうする。


 仲間?! あんな言われ方して仲間とか、俺はマジで甘い!


「ふん、元々異形に生まれてただけじゃねーか。元からあいつはヒト型だからな。アウストラレレント星では人口の1割にも満たない異形だから大した能力もないんだろ」

「だからってこれほどまでに順応できるのは素晴らしい。この中で誰がこの地で生きていけるかと考えたら間違いなくあいつだ」

「ふん、俺はこの地で生きてなんていく気はない。絶対にこの宇宙船も自分自身も俺の手で守り通して、探査を見事に終えアウストラレレント星に戻って最優秀探査隊員賞をもらい1800歳までに探査隊のトップに立ってやる!」


 あんなヤツをトップになんか立たせてたまるか! デケー口叩いてんじゃねーよって言ってやれ、俺!


 ――もー、俺は本当に好戦的すぎる。わざわざ関係を悪くするメリットがどこにあるんだ。


 お前は計算だけで動きすぎなんだよ! 熱い魂を持て!


 ――お前のは熱い魂とは言わん。


「慎重に周りを調べろ。誰もいないか」

「今なら大丈夫そうだ。思い切って出るか」

「ん?!  なんか、黒いもんが飛来してくるぞ」

「ああ、来てるな。まあ、我がアウストラレレント星の宇宙船があんな小さい物体がぶつかったくらいでどうにかなるとも思えない。ほっとけ」

「それもそうだな」


 その瞬間、シュンッと黒い物体が船内に現れた。


「え?! なんで?!」

 生き物だ。黒くて、バタバタと羽を広げて上下に揺さぶり飛ぶ生き物だ。広い船内をバタバタと飛んでいる。


 これは……資料で見た。鳥と呼ばれている生き物だ。なんて名前だったか?


 ――俺は覚えてるぞ、俺!

「カラスだ!」

「あ、そうだ、カラスだ。現地生物と共生している生き物がなんでこの宇宙船の壁を突き抜けて来たんだ?」

「さあ? 訳が分からない」


 カラスが自動探査機からの調査票が送られて来る送転機に足を付けて羽を下ろす。物珍しさでカラスを取り囲んで見る。

 へえ、漆黒の生き物か。アウストラレレント星には確実にいないな。この星の資料でしか黒なんて見なかったが、これは美しいじゃないか。

 カラスがまた羽をバタバタと飛んだ。


「おい! 溶けてるぞ! 送転機が溶けてる!」

「ええ?!」


 驚いて送転機を見ると、無残なほどにドロッドロに溶けていく。呆然と見ていると、しばらくしたら熔解は止まり送転機の残骸と呼べそうな物体が残った。


「カラスには物体を溶かす能力があるのか?!」

「この星に触れるだけで物を溶かす生き物なんていないはずだ!」

「カラスは?! どこに行った?!」


 なんだ、この物騒な生き物は?! 船内の空気が張り詰める。


「いた!」

 カラスは船底に足を付いている。またみるみるうちに宇宙船が溶けていく!

 溶けた物体は跡形もなく最後にはフワッと浮き上がるように消える。カラスはいつの間にか船内ではなく、この地の地面に立っている。

「地面だ! 地表が現れたぞ!」

「でも、地表は溶けていない。どういうことだ?!」


「そうか! 相性だ!」

 リーダーが大声を出す。

「恐らく、アウストラレレント星の物質とカラスの相性は最悪だ! カラスは溶かすつもりなどない! カラスの意志ではなく、単に物体としての相性が悪いせいで溶けるんだ!」


 なんっじゃそりゃ!

 俺たちにカラスがぶつかってきたりしたらどうなるんだ?! 恐ろしい!


「やられる前にやれ!」

 表の思考が何も判断できていない隙に、裏にいた俺が表に出る。

 資料によると、この星の生き物はもろい。蹴りの一発も入れれば砕け散る!


 カラスの真上に飛び、あとはこの星の重力に任せれば一瞬でカラスを踏みつけられる。

 今は大人しく俺に体を預けてろ! 俺よ!


 ――待て! カラスに人体が触れたらどうなるんだ?! 俺も一瞬にして消え失せたらどうしてくれる!


「あ!」

 そこまで考えが及ばなかった。慌ててバランスを崩してカラスのすぐ横に足を着く。

 あっぶねー。

 カラスと目が合う。おう、なんか超こえーんだけど。


 カラスが大きく羽ばたき、飛び立つ。一瞬羽が足に触れてゾッとしたが、大丈夫そうだ。溶けていくような感覚はない。


「おい! あのカラス錯乱してんじゃねーのか!」

「この劣等生が! いらんことしやがって! マジでいきなり迷惑かけんなよ!」

「危ないぞ! あちこちにぶつかるせいで船が――」


 何が起きたのか、まったく分からないうちに、我らの宇宙船はまばゆい光と共に大破した。

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