彼女と電話と課題図書
「えっと、私に違う世界を教えてくれるから・・・。本を好きにしてくれたっていうか、本ってこんなにおもしろいものなんだなって気づかせてくれたし・・・」
熱い告白も元をただせば、自分が読んでおもしろかった本を紹介しただけのこと。
まさか、それがこんな形になるとは思わなかった。もちろん、多少は期待していた部分があるのは認めるが。
感動したものを教えてあげたい。そして、その話について語り合いたい、そんな気持ちが僕から彼女への「本の紹介」になり、彼女はその「課題図書」を待ち望むようになっていた。
森瑤子の「彼と彼女」に始まり、シドニー・シェルダンの「ゲームの達人」、ロバート・A・ハインラインの「リプレイ」、そして筒井康隆の「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」の七瀬三部作を彼女は順調に読みこなした。
和洋折衷、ジャンルもバラバラだけど、どれも男女の恋愛・性がストーリーを膨らませ、時には素敵に、時には醜く演出してくれる。
読後の感想はいつも500Kmを超える遠距離電話。
「女性はこういう場合、こんな風であって欲しいな」
「私、ケイトの気持ちがよくわかるわ」
など、2人の価値観、考え方を深めていく。
この3年間で彼女は本当に「いい女」に成長した。
多くの本との出会いが、彼女を知的で深みのある女性へと変貌させたのだ。
その変化に思わず微笑んでしまう僕に向かって彼女はこうも言った。
「しばらく会えなくても、教えてもらった本を読んでいると、一緒にいるような気がするの。そうするとすごく安心できるの・・・」
さて、今回の課題図書はロバート・ジェームズ・ウォラーの「マディソン郡の橋」。
彼女はキンケイドやフランチェスカをどう思うだろうか?
そして、不倫や純愛にどう反応するだろうか。
次の電話が待ち遠しくなってきた。