第8話
「ミクルの真の名前とかじゃなくて、学校とかで呼ばれている仮の名前とかで良いんだ。数値単位とかも、この世界で良く使われているので言ってくれ。その方がブレインアラートが刺激され易いんだ。」
「は~い。じゃあ言うね。春日野 未来、十二歳、上から六十七・五十三・六十八だよ。」
「そうそう、そういうので良いんだ。お陰でデュラクティルが多少上昇してきた。この調子で頼むぞ、ミクル。」
「うん、どんどん行くから、早くリゾナンスアクトできるまで回復しちゃおう‼」
そこからは割りとすんなりと事が運んだ。
新たな電子戦用兵装を導入する必要も無く、静観するだけで情報戦は高い戦果を上げた。
ぶっ飛んだ”電波語”を体得しているだけで、装甲を剥げば至ってノーマルな内装だった為に、逆に驚いたくらいだ。
家も、何処かの星雲とかにあるワケでも無く直ぐ近くの場所で、家族にリトルグレイなどが居るワケでも無かった。
「う~んと…こんなモノかな? どう、お兄ちゃん? だいぶ回復できた?」
一通りの給油燃料は流したが、補給状況は、どのくらい進んだかと訴えて来る。
情報戦を制したお陰で彼我戦力は大体把握できたが、このままランデブーを決め込むには相手の装甲は非常に目立つ。
戦場に金ぴかに塗装した機体を伴って侵入するなど入隊したばかりの新兵でもすまい。
ステルスとは言わないが、迷彩色を施すくらいはしないとマズイなこりゃ、というのがオレの結論だ。
だから新たな戦術を発動する。
「ああ、かなりデュラキュティルは上昇してきた。だけど、一押し足りない感じだ。かといってこれ以上ミクルのデータに触れても効果は薄いと思う。そこで、イニシエーションを行って強制的にデュラキュティルを上昇させようと思う。」
「イニシエーション? それってどんな事? エクネシャービェをライアルドペイする様な感じ?」
相変わらず彼女ワールドの用語はレーダーでは識別不明だが、今からそんな事は瑣末事に変わる。
「いや、そうじゃない。イニシエーションは、苦行を行う事でオレ達の能力を向上させる儀式なんだ。これにより、強引にデュラキュティルを高める事が出来るんだ。」
「すご~い! じゃあ、直ぐにイニシエーションして、リゾナンスアクトできる様にしようよ!」
わ~い、という感じで、にぱ~と笑うミクルちゃん。
未だにリゾナンスアクトが何かは分からないし聞く気も無いが、彼女ワールドでは重要な何からしい。
だが、そんな用途不明の兵装は『不要』だ!
「それだ!」
「えっ?」
何がそれなのか、と首を傾げる小動物。
「良いか、ミクル。さっき言った様にイニシエーションは苦行を行う事でオレ達の能力を上昇させる儀式だ。そしてその苦行とは、リゾナンスアクトなどの言葉を一時封印し、周囲の無知蒙昧なモノたちと同じレベルまで自身を落とす事なんだ。しかも、オレだけじゃなくミクルも一緒に行わないと効果が無い。だから、辛いだろうが、回りの連中と同じ様な行動をしなくてはいけない。その上、デートと呼ばれている一見して益体も無い事をもしなくてはいけないんだ。」
「え…? ミクルたち、世界の真理に至っているのに、それを封印しないといけないの?」
どうやらオレたちは、どこぞの木の股から生まれた偉い人クラスに何かを知っていた様です。
新手の教祖に成れる勢いだな、こりゃ。
だが、そんな偉人になる気は毛頭無い!
「分かってくれ…もう、こうするしかリゾナンスアクトを行えるまで自身を高める方法は無いんだ。オレ達は、この無力なままで指をくわえて奴らを放置するワケには行かないんだ。」
我ながら、何を分かれば良いのか全く持って不明な論法。
果たして、この一押しで戦況は覆るか⁉
「……うん…分かったよ…ミクルやってみる!」
分かってくれましたよ、この娘‼
「分かってくれたか、ミクル!」
今、オレの中の全米が拍手喝采!
オレの”脳内米の国大統領”も『感動した!』と涙を流しております!
ありがとう、”不思議単語”、リゾナンスアクト!
未だに意味は分からないが、君は大いに貢献した!
ありがとう、『奴ら』さんたち!
どこの次元の生命体か知らないが、君たちがミクルちゃんにとって強敵であったからオレは此処まで来られた!
ありがとう! ありがとう‼ サンキュー! 謝々‼