第5話
「分からないのは当たり前だ! そも、何故にオレとミクルが別個体として存在していると思う⁉ それはオレ達が別個体である必要性が有ったからだ‼ 全ての情報を共有する存在など、二つに分ける必要がそもそも無い! そんなモノは一個の存在で事足りるのだ! ならば、別個体である必要性とは何か⁉ オレとミクルが別々の存在として分かたれなければならなかった道理とは何なのか⁉ ミクル、答えてみろ!」
明後日の方向に放たれた怒涛の連続威嚇乱射から、いきなりの標的に向けての一点スナイプ。
「えっ…⁉ そ…そんな…分からないのが当たり前って、いま、お兄ちゃんが言ったばかりなのに…そんなの分かるはずがないよ!」
予期せぬピンポイントシュートに、回避も侭ならず、うろたえるミクルちゃん。
そこに、更に総力射撃と言わんばかりに…
「バカ者‼ 全ての理が分からなくても何か一つでも道筋を掴もうとしてみせろ! 初めから全てを擲って諦めるなど言語道断! そんな事で奴らに勝てると思っているのか⁉ ヤル気が無いなら尻尾巻いてとっとと何処へなりと泣きダッシュして失せろ‼ ゲットバックヒアー‼」
理不尽という言の葉が装填された弾奏をフルフラットする銃口。
「えぅ…あぅ…うぅぅ…。」
ワケも分からないまま、一方的な蹂躙の弾痕を刻まれた彼女は、もう涙目だ。
戦意喪失というのもおこがましい、はじめから戦闘にすらなっていない大虐殺。
そこで…
「だが…オレはミクルの兄というパーソナリティーを与えられた存在…。お兄ちゃんとして、可愛い妹に本当に重要な事は丁寧に教えてやらないとな。」
先程までの捲し立てる様な勢いから声音を落として、ポンとミクルちゃんの頭に手を置き、ほんのりと微笑を浮かべて優しく撫でてやる。
「お…お兄ちゃん……。」
少し赤みの差した瞳が、こちらを見上げて来る。
「何飲む? 心にも身体にも潤いがなきゃ難しい話は聞けないだろ? 今のオマエはさ…?」
目尻に薄く滲んでいた水気を親指で掬い、その指で後方に在る自販機を指してやる。
まずは半間休息。
”戦闘”は一つの”戦場”で”ドンパチ”を永遠に繰り返すなんて出来ない。
己か相手の心が死んじまうから”ドンパチ”が続けられなくなる。
だから、永遠の”戦闘”を望むなら、戦意ある心を維持する為に、休息と次の”戦場”が必要なのさ。
相手が例え未知の異国の兵士でも、きっとコレは変わらない。
「う…うん! じゃぁ、ミルクティー‼」
さっきまでのクシャクシャになりかけた顔を弾かせて、ニッコリというよりは『にぱぁ~』という笑顔で、そう告げる。
原爆の投下を強行したせいで、灰も残さず殲滅しちまう危険も有ったが、どうやらこの娘との戦闘は、まだ続行できそうだ。