第4話
「でも、お兄ちゃん、ミクルを『ちゃん』付けで呼ぶなんてどうしたの? いつもだったらミクルって呼び捨てで呼んでくれるのに…。」
クッ…やはり来たか。
どうやら彼女ワールドではオレはミクルちゃんを呼び捨てにするのが常道の掟らしい。
ミクルちゃんが、気遣わしげで、それでいて猜疑を孕んだ瞳でオレを窺って来る。
彼女を許容し攻略対象と定めた矢先の相手からの威嚇射撃。
これからボロを出す毎に彼女の攻めは激しくなり、その先には撃沈の運命が待っている。
だが、この手の危ういタイトロープを渡るのに、一つのボロも出さずに攻略するのは不可能であろう。
しかし…オレは果たして地べたで無慈悲な絨毯爆撃を受けるだけの敗残兵なのか?
否! オレは今、相手の更に風上に立っている‼
「ああ…すまないミクル…。どうもオレは尖兵達にアルマティファンされた影響で大部分の記憶に障害が起きている様だ。そのせいで、オマエとエンゲージする為に必要なデュラキュティルが欠如してしまっている。この分では明日にリゾナンスアクトに耐えられるか分からない。しかし、こんな事に絶望はするな! ここでオマエが諦めてしまえば、それこそ奴らの思う壺だ! まずは、オレの失われたデュラキュティルを取り戻す為にもミクルのデータが必要だ。ミクルのデータを視聴認識すれば、オレのラティアルドライブを通じて、ブレインアラートが刺激され、オレ達は再びエンゲージを果たし、リゾナンスアクトに耐えられるかもしれない!」
常識的な攻防で競えるのは常識の範疇の相手だけだ。
だが、この相手は『違う!』
故に…こちらも初手から常識という汎用兵器を捨てる!
言ってしまえば、全くの新理論で作られた試作兵器を、性能テストを一切せず、いきなり実践投入して、暴発の危険性を顧みないで乱射する様なものだ。
正攻法では、どうあっても凌げないというのなら、自分でも結果が予測できない攻撃で対抗する!
しかも、自分でも耳を疑う不思議ワードの羅列っぷりはともかく、ストレートにミクルちゃんのデータを聞き出す誘導尋問。
結果は予測できないが、ミサイルの指向性はオレにも操れる!
「え…ッ⁉ 何…ッ⁉ お兄ちゃんッ⁉ ミクルの知らない言葉ばっかりだよッ⁉ お兄ちゃんが何を言っているのか分からないよッ⁉」
なるほど、初弾は、こういう効果が出たか。
不思議単語を散りばめれば何でも会話を合わせて来るモノかとも思ったが、電波を体現した彼女ワールドでも一応は何らかの法則性が有った様だ。
ミクルちゃんは、オレの羅列した即席不思議単語に、”彼女世界法則”での整合性が取れないと、驚きつつも、更にオレへの猜疑の目を強めていく。
だが、オレは、この展開を全面的に『良し』とする‼
フッ…ミクルちゃん…。君の様な常識で測れない相手との一戦は始めてだが、オレも伊達に一〇七回もの失恋を経験してはいない!
”失恋回数”から導き出された”恋愛体験度”ではオレに分が有る!
さぁ! ずっとオレのターンの始まりだ‼