第3話
そんな益体も無い事を考えて、少しニヤけながら店内に入ろうとする、その瞬間に…。
「そっちはダメだよ。ホラ、こっち。」
何だか分からない内に謎の人物に手を引っ張られて軌道修正させられるオレ。
中々の勢いで引っ張られ、あれよあれよと言う間にピエロさんの店からズンズン離れていく。
「ふぅ~~。ここまで来れば安心だね。」
やっと牽引が終了した頃には、二筋ほど離れた場所に移動させられていた。
呆然としながら謎の行動をした相手を見やったオレは更に呆然とする事となる。
いや、相手がオレの既知の相手じゃなかったのは、まあ良いんだ。
勢いで引っ張ったら人違いでした、なんて結構ある事だし。
それよりもですね、この娘、めちゃくちゃカワイイんですよ。
なんていうの? 妖精って感じ? 中学入り立てのチャイドル…みたいな?
オレは此の方、中学生以下の少女にはトキメキ回路の動力が働かなかったノーマル仕様機だったワケだけど…。
これは…その…ヤラれちゃいました…。
オーケー‼ 年齢なんて国境は越えて進軍しちゃいましょう‼
兵士は時に蛮勇を持って世界地図を変えちゃうモノです‼
「ねぇ、君は…、」
「良かった、お兄ちゃん、無事みたいだね。危ない所だったよね。あのままだと奴らの尖兵がお兄ちゃんを捕らえて、ネクロフィマティーの果てに邪神のスティグマを植え付けられて、ヨグソトースの門を開ける為のミクルとお兄ちゃんのアルマを引き裂かれていたよ。」
前言撤回。
君子危うきに近寄らず。
兵士は時に、勇気ある撤退も行なわなければいけません。
見た目の戦闘力よりも内から溢れ出る破壊力の方が危険ですよ、この娘!
「あ、いや、済まないけど人違いだと思うよ。あ、そうそう、オレは、ちょっと拠所無い用事で直ぐに行かなければいけない所があるんだ。いや、さっきのジャンクフード店に入ろうとしたのは、ついうっかりで、それを失念していただけで…あそこが行かないといけない場所なワケでも無くて、そういう事で時間が無いんだ。という事で、アデュ~~。」
さっと身を離し、反転。
そのままスタスタと早歩きで、その場から離れ、数メートル進んだ地点で真横に猛ダッシュ!
ガシッ‼
ガシッ⁉ 掴まれましたか、オレ? 掴まれましたね、オレ!
あまり見たくないが、オレの腕を掴んだ人物を見る。
はい、まごう事なくさっきの電波ちゃんです!
このロリポップな外見に反して結構な力が有るのは、さっき引っ張り廻された時点で分かっている。
さて、どうやって振り解いたものか…。
「ダメだよ、お兄ちゃん! ミクルを置いて何処かに行っちゃ、益々、奴らの謀略の渦中に呑まれるよ!」
どうも、ミクルというのが、この娘の名前であるらしい。
さっきは、ぶっ飛んだセリフを吐いてくれたお陰で、ミクルというのも脳内電波ワールドの単語の一つだと思っていたが…。
「いや、あのね…」
「ハッ⁉ お兄ちゃん! もう尖兵達にアルマティファンされちゃったのね! ううん…下手をすればガンダルヴァシヴティムかも⁉ これは浄解を施さないとダメね!」
こちらが説得を試みるのを遮る様に怒涛の如く押し寄せる電波。
ヤバイです! ヤバイですよ! 超級デンジャラスですよ、この方‼
何とか隙を窺って離れないと、どんな電波理論で死地に追い遣られるか分かったもんじゃありません!
電波なだけじゃなくて、もし『病んデレ』とかの属性も入っていたら、超ド級に危険です!
そんな感じで脳がエマージェンシーコールをけたたましく鳴らしていると、左腕に妙な柔らか感触が発生する。
「浄解を施しているから、今日の間は、ミクルから離れちゃダメだよ、お兄ちゃん。」
その浄解なるモノが何かは分からんし分かろうとも思わないが…。
この左腕に感じる感触は、それを実践した結果らしく…。
彼女のプチ柔らかな胸が押し付けられているワケで…。
良いじゃん、浄解!
しかも、ミクルちゃんの言だと、今日一杯この状況が続くらしいですよ、奥さん!
「どうかな? 少しは楽になってきたかな、お兄ちゃん?」
心配そうにオレを見上げて来るミクルちゃん。
つぶらな瞳が真っ直ぐにオレを見つめる。
しかも、さっきよりもギュッと、その胸をオレの左腕に押し当てております!
これは……これは……これは………これはッ‼
現実時間にして十秒程。脳内時間にして小一時間程の間を持って行われたオレ脳内サミットの結果、『これはアリ!』という条約が、見事に満場一致で可決されました‼
「うん、ミクルちゃんのお陰で、少し楽になったよ。」
「良かった…ガンダルヴァシヴティムだったらミクルでも大変だったけど、やっぱりアルマティファンだったみたいだから、何とかミクルのエナジーウェーブが浸透して行っているのね。この調子なら明日には浄解を解いてもシンメトリカルがオーバーゲージに達してリゾナンスアクトにも耐えられるわ。」
エナジーウェーブだか何だかは良く分からないが、プチ柔らかな感触がオレに浸透しているのは確かだ。
できれば明日以降も浄解しっぱなしで居て欲しいところです。