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ファンタジーは突然に 軽量版   作者: 皆木 亮
第2章
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第10話

 運ばれて来た水を飲んで一息付いてから、店員さんに黒毛和牛一〇〇%のハンバーグステーキをコースで二つ頼む。


 しばらくしてオードブルサラダとスープが運ばれて来た。





「うわぁ、すっごい! これ、本当に食べて良いの、お兄ちゃん?」


「ああ、背が伸びる様にイッパイ食って栄養分を補給しろよ?」


「わぁ~い! じゃあ、いただきま~す!」





 ミクルちゃんが意気込んでサラダに手を付けようとする。


 しかし、(じょう)(かい)を続けている(ため)に、片手が(ふさ)がっている(ため)に、もう片方の手だけで補給(ほきゅう)活動(かつどう)を処理しようとする所為(せい)で上手く目標を捕らえられない様子だ。





「ありゃ? う~ん…。 とりゃ! あぅぅ…。」


 (つたな)得物(えもの)(さば)(かた)所為(せい)で、目標を上手く(とら)えられないどころか皿が動き出す始末。



 (じょう)解中(かいちゅう)の手の位置的に利き手の方が(ふさ)がっているのが一番の敗因(はいいん)だろう。





 仕方ない、此処(ここ)は助け舟を出すか。


「ミクル、オレが口に料理を運んでやるから、アーンしてろ。心配しなくても熱いのはフーフーしてやるから、火傷させたりはしないからさ。」


「え…でも…それってちょっと恥ずかしいよ…。」


「ミクルの片手が(ふさ)がっているのはオレの所為(せい)なんだから、オレが自分の不出来(ふでき)()尻拭(しりぬぐ)いをしないと帳尻(ちょうじり)が合わないんだ。是非(ぜひ)やらせて欲しい。役得(やくとく)だと思って()(まか)せてくれよ。」


「う~ん…じゃあ、お願いね、お兄ちゃん。」


「よし、キッチリ(まか)されたぞ。」





 手始めにサラダを口に運んでやる。


 口内(こうない)に入って来たフォークから料理をミクルちゃんが(くわ)えて取ったのを見て得物(えもの)を引き抜く。


 もきゅもきゅと、ハムスターの様に、ほっぺを(ふく)らませて幸せそうに()()める姿を見て、自分の方が役得だなコリャと思ってしまう。





 続けてスープ。


 これは流石に熱いので、言った通りにフーフーしてミクルちゃんの口に運んでやる。


 ツルンと飲み込んでニコニコ笑顔で此方(こちら)を見て、親鳥の(つか)まえたエサを求める雛鳥(ひなどり)の様に、またアーンと口を開く。





 やべぇ! 本気で可愛いぞ、この()


 この()小動物(しょうどうぶつ)仕種(しぐさ)に気分が高揚(こうよう)して()嬉々(きき)として(しば)し補給を手伝い続ける。





 何度目かの皿とミクルちゃんの口との(あいだ)の往復をこなしている(うち)に、店内の(ざわ)つく雰囲気を感じた。


 少し周りを見回すと、店内の(おとこ)連中(れんちゅう)が少々殺気立った(よう)(ふう)に、この補給(ほきゅう)作業(さぎょう)を見ているのに気付く。





 電波(でんぱ)さえ()ければミクルちゃんは、子役タレントとかしていてもオカシク()いクラスだもんなぁ。


 よくよく考えればオレがこの()とこうしているのは、ある種のファンタジーと言える(くらい)の奇跡かもしれない。





 客観的に考えて釣り合いの取れているカップルだとは自分でも思えないが、ギュッとオレの腕を抱きながら嬉しそうに口を開けて補給(ほきゅう)物資(ぶっし)を求める姿は、仲睦(なかむつ)まじい関係にしか見えないワケで…。





 周囲の野郎共(やろうども)羨望(せんぼう)眼差(まなざ)しに(ほの)かな優越感(ゆうえつかん)を感じて、ちょっとイジワルをしてみたくなった。





 オードブルが片付(かたづ)いて、本命のハンバーグステーキが置かれたところで、ミクルちゃんの目はランランと輝く。


『早く、早く!』と言わんばかりに、口を開けてハンバーグの投下を待っている。





 一口サイズに切ったハンバーグをフォークに()し、さっきまでと(おな)(よう)にフーフーして熱を取ってからミクルちゃんの口元(くちもと)に運び、直前(ちょくぜん)方向(ほうこう)転換(てんかん)して自分の口に運び、唖然(あぜん)としている目の前で美味(おい)しく(いただ)いてみる。





「う~む、美味(びみ)美味(びみ)。やっぱし黒毛和牛一〇〇%ってのは美味(うま)いもんだなぁ。」


「うわぁッ⁉ ミクルのハンバーグがぁッ⁉」


「ハハハ、ミクルがあんまりにも無防備に(くち)()けて待っているから、ちょっとイジワルしたくなってね。あ~でも、これ本気で美味(うま)いからオレが(ひと)()めしちゃおうかなぁ?」


「うわ~ん! ダメだよ! ミクルもハンバーグ食べたいよぉッ‼」





 お(あず)けどころか()扶持(ぶち)()くなると聞いてミクルちゃんは必死だ。


 流石(さすが)可哀想(かわいそう)だから、そろそろ(ゆず)ってやるか。





「ウソだよ、ウソ。ちゃんとミクルにも食わせてやるから、もう一度アーンしてな。」


「うん。アーンするから絶対だよ?」





『ちゃんと運んでくれるかなぁ?』と、不安そうにしながら、再度アーンと口を開ける。


 今度こそ運んでやってフォークを引き抜く。


 美味(おい)しそうにモキュモキュと(ほお)(ぶくろ)を動かして幸せそうに安堵(あんど)しているところで、(さら)にもう一つ用意していたイジワルという爆弾を投下してみる(こと)にする。





「いやぁ、これで間接キッスが成立したワケだ。ミクルの口に運んだフォークでオレが食って、またミクルの口に運んだからなぁ。間接キッスだけど、これはかなりディープだよね?」


「ゴホッ、ゴホッ!」



 ハハハ、(おどろ)いてむせちゃっているよ。


 いやぁ、役得(やくとく)役得(やくとく)


 周りの野郎共(やろうども)の視線も(さら)に強くなって来ていますな。





「ちょ…フォーク! フォーク()えてもらぅ~!」


「まぁまぁ、そんな慌てんなよ。それとも何か? そんなにオレと間接キッスになったのが嫌だったのか?」


「え…その…そんな嫌っていうワケじゃないけど…ただ…恥ずかしくて…。」





 周りからの視線(しせん)は、殺気立(さっきだ)つどころか『視線(しせん)射殺(いころ)す!』と言わんばかりに強くなる。


 この(へん)()めとくか。一人で路地(ろじ)(うら)とか歩いている時に知らない野郎に撲殺(ぼくさつ)とかされたくないしな。





「仕方ない。新しいフォークを(もら)ってやるよ。」


 店員さんに新しいフォークを用意して(もら)い、補給(ほきゅう)活動(かつどう)(すみ)やかに再開された。


 ここに来て思う。やっぱしこの()電波(でんぱ)さえ封印しちゃえば最高だと。

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