流石に気のせいか
そして私は何故か同僚たちの温かい視線を背に会社を後にする。
「しかし、どこから探せばいいのやら……」
上司の前では、まるで私の新谷に対する愛の深さを聞かれているようでついつい大口を叩いてしまったのだが、正直な話もう既にやるべき事は全てやり終えており、その上で見つからないのだから八歩塞がりなのだ。
故に私はここ最近、最悪の事態すら想像するようになった。
そして、その度に新谷さんが私を置いてそんな事をするわけがないとその最悪の事態を否定するというのを繰り返す。
そもそも、被害者である新谷さんがあんな元屑嫁の為に命を捨てて良いわけがない。
むしろ捨てるとすれば元屑嫁の方なのだが、それすらも慰謝料を全て払い終えた上で誰にも迷惑がかからない方法と場所でもってやって欲しい。
それにしても、どこから手をつけて良いものか。
なまじ少しでも可能性がある事は全て手当たり次第探っている為にお手上げ状態なのである。
「まったく、新谷さんは変なところ抜けているんですから。 せめてソウルメイトであり心と心が繋がっている私にくらいは今の居場所を教えてくれてもよかったじゃないですか。 でもこれもそれも全てあの元屑嫁が新谷さっんを人間不信、特に女性不審にしたせいである為、怒るに怒れないし……」
それでも、私は諦めるつもりなんてさらさらない。
むしろ絶対に見つける事ができるという自信すらある。
何故かと聞かれれば、私と新谷さんは心の奥深く、根っこの部分で強く、きつく、硬く、ガッチリと結ばれているからである。
そんな私が新谷さんを見つけれない訳がない。
「全く、世話が焼けるんだから。 ほんと、私がいないとダメな先輩ねっ!!……ん? どこかで嗅いだ事ある香り、そう、これは新谷さんの住んでいる場所に忍び込んで盗んできた洗う前のワイシャツと同じ匂いが……っ!?」
忘れる訳ない。
間違える訳がない。
新谷さんの香り。
「…………そ、そんな訳ないか。 流石にこれで見つかるのは出来過ぎだしね。 きっと新谷さんに開いたすぎて幻覚や幻聴ならぬ幻香りだったのでしょう。 もうっ! 最近新鮮なものを嗅いでないから禁断症状が出始めているじゃないっ!! 早く出てきなさいよねっ! 新谷先輩っ!!」
そして私は雲一つない空に向かって叫ぶのであった。
「あれ? さっき懐かしい声に呼ばれた気がしたんだけど、流石に気のせいか」
◆
私のせいだ。
全て、私のせいだ。
今なら分かる。
この幸せを壊したのも、博文に愛想尽かされて出ていかれたのも、慰謝料の支払いでカツカツの生活をしているのも、不倫相手に逃げられたのも全て自分のせいだ。




