人として好き
「うーん、そうですね……そうしたいのは山々なんですが──」
「だ、だったら……っ、」
だったらこのまま一緒に暮らしていきましょうと、続けたかったのだが、新谷さんの目を見ると彼の決意が硬い事が伝わってきた為、思わず続く言葉は思わず飲み込んでしまう。
「それは流石にダメです。 何も理由もなくどちらかが支えられて、どちらかが支えているような関係はいずれ破綻してしまうと、俺は思っているんですよ。 もし俺と朝霧さんが結婚して、子供ができたりという状況であれば朝霧さんが仕事で稼いで俺が家で家事全般をするというのもあるだとは思うんですけれども、今の俺たちの関係は、俺は朝霧さんに拾われて住む所を間借りして頂いている関係なんですよね。 この関係では対等とは言えないでしょう? それにこの関係はお互いに話し合って納得した関係でもない。 そのような関係はいずれ破綻すると俺は思っているんですよ。 俺みたいに話し合ったはずなのに裏切られて破綻してしまう事もありますしね」
そう新谷さんは話すと、少しだけ寂しそうに笑う。
「そ、そんな事……、未来の事なんか実際に住んで、暮らしてみないと分からないじゃないですか……っ」
そして、柄にもなく聞き分けのない子供のように私は新谷さんに反論してしまう。
そんな私をみて新谷さんは悲しそうに、でも諭すように話しかける。
「それで失敗して、もう二度と大切な人を失いたくないんです……」
「そ、それって……もしかして……っ!?」
新谷さんも、私の事が好きだという事なのだろうか?
「に、新谷さんは私の事を……、その、す、好きって事で、良いのかな?」
だったら両想いではないか。
お互いに愛し合っているのならば離れる理由も無くなるのでは?
彼氏彼女として将来を見据えての同棲という事にすれば良いのでは?
「はい、人として好きですよ?」
「そ、そうではなくてっ」
「さぁ、そんな事よりも早く大型スーパーへと行きましょうっ」
「も、もうっ! はぐらかさないでくださいよっ!!」
「はっはっはっ。 一体なんの事でしょうか?」
「分かっているくせにっ!! もーっ!!」
そして、しんみりした空気はいつの間にか新谷さんのおかげで吹き飛んでいたのだが、私の心の中に二つのしこりが残るのであった。
◆
「新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん新谷さん」
「堀田っ!!」




