抱き付いて良いのは
そして二人して各々好き勝手言い始めるではないか。
そもそも何故団地妻がエロいのか皆目見当もつかない。
「もうっ! 揶揄わないでよっ!
「ごめんごめん」
「すまんすまん」
「それで、何で団地妻がエロいってなるのよ?」
「あら? あらあら? 聞きました、奥さん?」
「えぇえぇ。 聞きましたとも奥さん。 このまま相変わらず純粋無垢なのですねぇ」
「このまま変わらないでいて欲しいわぁー」
「全くですねぇ」
「だから教えなさいよっ!!」
「お母さんが怒ったーっ」
「お母さん怖いーっ」
そして、なんだかんだで今日も一日学校はいつもと変わらない日常、平常運転であった。
しかしながらこの時思った事『新谷さんがいなくなる日はいつかはわからないのだが確実に近づいているのは確か』という事と『なんだかんだで新谷さんは私が拾ったんだから、捨て猫理論で私が飼い主で新谷さんは私とペット理論によりそれを阻止できないのか?』という事を一日中考えていた。
そもそも人を、それを大人の男性をペットとするのはいささか自分でもどうかと思うのだが、しかし今の私が新谷さんを引き止める事ができる事といえば、現在の学生の立場ではその程度の事しかないのもまた事実であり、私は新谷さんペット理論に縋るしかないのだ。
もし、私が自立でいている大人の女性であるのならば、結婚して専業夫にさせるという選択肢もあるのかもしれない。
そこまで考えた時、私は一つの希望を見出せた。
これは、私は天才ではなかろうかと自画自賛してしまうレベルである。
そう、私が自立するまで新谷さんをペットとして飼って、自立して軌道に乗れば結婚して専業主夫として迎え入れれば良いのでは?
そうだ。
そうすればいい。
簡単な事ではないか。
そんな事を考えながら一日を過ごし、放課後。
帰宅している途中にて電信柱にしがみ付いている新谷さんと、それを揶揄う女子小学生二人がいるではないか。
「新谷さん……一体ここで何をしているんですか?」
とりあえず、新谷さんに今現在何をしているのかを聞かなければならない。
私という者がいながら他の女の子にうつつを抜かしているという事はないとは思うが万が一という事もあるのだ。
思い込みで判断するのは失敗の元である。
「あ、朝霧さん……見て分からないですかね? 子、ども達と遊んでいるのですよ……っ」
「遊んでいると言いますか、遊ばれているようにしか見えなかったのですが……?」
「き、気のせいです。 さすがの俺でも女子小学生如きに遊ばれるわけがないでしょう? あははははは」
しかしながら新谷さんかの口から出た言葉はまさかの『女の子達と遊んでいる』という言葉だったのだが、その遊んでいるという女の子相手に明らかに怯えきっているのが分かる。
恐らく私を心配させまいという新谷さんなりの強がりであるのがバレバレであると共に、やはり新谷さんとまともに相手できる異性は私だけなのだという優越感を感じてしまう。
そう優越感に浸っていたその時、あろうことか女子小学生二人は「えいっ!」という声とともに新谷さんに飛び込み、しかもあろうことか女子小学生達は新谷さんに抱きついている。
抱きついて良いのは飼い主である私だけなのにっ!!
「こらーっ! お兄さんが怖がっているでしょうっ!? 君たち、やめなさいっ! それにここは交通量こそ少ないものの道路なんだから、道路でそんな事をしてちゃ危ないでしょうっ!?」
しかしながらここで怒ってはいけない。
ここで怒ってしまっては間違いなくこの女子小学生達の思う壺であり、新谷さんから『子供相手にそんなに向きにならなくても……』と引かれてしまう可能性だってあるのだ。
ここはこの女子小学生達に大人のお姉さんというのを見せてあげるべきだろう。
「えぇーっ!?」
「怖がってないもんっ!」
「というか、おばさんこそ誰よっ!? お兄さんの何なのっ!?」
「おばっ……が、我慢我慢。 相手は小学生。 所詮は子供の言う事」
「お兄さんもおばさんと遊ぶよりも、私たちと遊ぶ方が良いいよねっ!」
「おばさんと違ってピチピチだよっ!」
「おばさんはあっち行っててっ!」
言わせておけばこのクソガk……女子小学生達はっ!!
そう思った瞬間には女子小学生二人を押しのけて新谷さんに抱きついていた。
ど、どどどどど、どうしようっ!!
突発的に抱きついてしまったのだがどう言い訳すれば良いのかまるで思いつかない。
まさか、私の内なる独占欲が暴走して抱きついてしまいましたと言うわけにもいかないし、もしそれを馬鹿正直に言ってしまったらきっと新谷さんには引かれてしまうのは間違い無いだろう。




