師匠
「はい、俺は朝霧さんのペットです」
そして、そんな俺たちを女子小学生達は目をキラッキラさせて見つめていた。
「ご、ごめんなさいっ! そんなつもりじゃ──」
「お姉さんすっごいっ!」
「すごいすごいっ! ペットだなんてっ!」
「こ、こんな関係があっただなんて……師匠と呼ばせてくださいっ!!」
もう、先ほどまで朝霧さんの事を『おばさん』と呼び見下す女子小学生はここにはおらず、逆に朝霧さんの事を尊敬するような眼差しで見つめて師匠と慕う存在へと変わっていた。
女性の事は女性が対処するのが一番だと強く実感した瞬間でもあった。
そして、あまりの懐かれ具合に朝霧さん本人も予想外であったらしくあたふたとしながらも女子小学生達をきれいに捌くと、ものの数分で女子小学生たちが俺から離れて帰路についてくれるのであった。
◆
「どうしたのお母さん? 例の好きな男性の事でも考えているの?」
「なになにっ!? 気になる気になるっ!!」
「いや、そういうんじゃない……いや、あるのかなぁ?」
一度友達に、私に気になっている異性がいるという事がバレて以降、こうして私が何か悩んでいるような表情をする度にその気になる男性の事かと聞いてくるようになった。
正直なところ隠していた、というか自分自身、自分の気持ちに気付けていなかっただけなのだが、とにかく自分の気持ちがバレてからはそういう事が多くなった事は確かである。
それは鬱陶しくもあり、そしてどう処理して良いか分からず溜まる一方だった気持ちの吐露できる環境という面では有り難くもあった。
「おっ? 今日はやけに素直じゃないのっ!」
「このお姉さん達に何でも聞いて頂戴っ!!」
因みに千秋と美奈子はそういうと自信満々に胸を張るのだが、私と同様に今まで彼氏ができた事がないので、その自信は一体どこから出てくるのかと一度問いただしてやろうかとも思っている。
「それが、確証はないんだけれども……」
「ほうほう、浮気ですか? どんまい?」
「ふむふむ、浮気されていんじゃないの? お疲れ様?」
「喧嘩売ってんなら買いますよ? そもそもまだ何も言ってないじゃないの」
「ごめんんごめん」
「すまんすまん」
「まったく……」
そして二人の安い謝罪を受け取った私は気を取り直して話し出す。
「その、気になる異性の話なんだけど、ここ最近すごく前向きになったというか、明るくなったというか……それが妙に気になるというか……」
特に今朝の新谷さんに至ってはいつも感じていた暗い雰囲気をまったく感じなかった程である。




