根拠のない自信
そういう根拠も何もない感情だという事は分かっているのだが、今この時を逃せばいつ『行けるかも』と思えるのか分からないので、例え根拠があろうが無かろうが行けると思ったのならば行って見てから考える、というのが正しいだろうと俺は思う。
時間的にはあち二時間くらいで朝霧さんが戻ってくる時間帯なので、それまでには大型スーパーへ行って来て朝霧さんを驚かしてやろう。
そう思うと根拠のない自信に加えてワクワクする感情も湧き起こってくる。
誰かを想って行動に移すという事はいつぶりであろうか?
そんな事を思いながら俺は財布を握りしめて外へ向かう。
アパートから出て、道路を歩く。
以前であればたったこれだけの事で何故だか知らないのだが人があまりにも怖くてできなかった。
それが朝霧さんと出会ってから少しずついける範囲が増えて来ている。
今ではあんなに怖かった人間が、そこまで怖いと思わなくなっているのだから我ながら大した進歩だと自画自賛する。
それでもやはり怖いものは怖いのでトラウマというのはそう簡単には治るものではないと再確認する。
「ひっ!?」
なので、ランドセルを背負った女子小学生(恐らく低学年)の集団三名(今の俺からすれば二人以上は集団である)が十字路ですれ違っただけで小さな悲鳴が出てしまうのは致し方ないことなのである。
そして電信柱に隠れて女子小学生の集団がこの場を去るのを待ってから、左右の安全を確認して大型スーパーへと歩みを再開する。
「ねぇねぇ、おじちゃん何してるのっ!? かくれんぼっ!? 私たちも参加していいっ!?」
「ひぃいぃいっ!?」
なんたる不覚か。
女子小学生の集団に俺の完璧な隠密が見つかってしまい、取り囲まれてしまったではないかっ!
そもそも何でこんな俺如きに子供が興味を持つのだっ! 少しばか電柱にしがみ付いていただけではないかっ!
「何それっ!? 新しい遊びっ!? どういうルールなのっ!?」
「ひぃぃいいーーーっ!! ひぃーーーっ!! あははっ! 面白いねこれっ!!」
「ひぃぃいいーーーー!! あはははっ! 本当だっ!! ひぃーーーっ! ひぃーーーつ!」
「ちょっ! やめっ! やめなさいっ! お願いっ! ひぃっ!?」
子供は残酷だとは良く言ったものである。
その言葉は正しかったのだと思い知らされる。
どれほどの時間女子小学生にからかわれていただろうか?
「新谷さん……一体ここで何をしているんですか?」
どうやら既に朝霧さんの帰宅時間になっていたらしい。
「あ、朝霧さん……見て分からないですかね? 子、ども達と遊んでいるのですよ……っ」




